◆ことばの話2270「レサパン」

週刊誌『アエラ』6月6日号の広告に、こんな文字が躍っていました。
『団塊ジュニアの「レサパン」逆襲』
この中の、
「レサパン」
というのは、もちろん菓子パンの種類ではなく、「レッサーパンダ」の略と思われます。ちょうど千葉の動物園のレッサーパンダ「風太クン」が立ち上がって話題になった頃の話です。
この省略の仕方ですが、「レッサー」の小さい「ッ」を省略して「レサ」、それに「パンダ」の後ろの「ダ」を省略してくっつけています。
これを見て思い出したのは、5月に大阪で開かれた新聞用語懇談会の席で、産経新聞のSさんがおっしゃったことです。Sさんは「ダントツ」という言葉が「断然トップ」の省略である、という辞書の記述に疑問を呈して、
「『断然』を略して『ダン』となるのはわかるが、『トップ』を略して『トツ』となるのは解せない。『トップ』を略したのならば、最後の『ツ』は、小さい『ッ』になるはずである。」
と主張されていたのです。
「ダントツ」が「断然トップ」の略として、この「レサパン」と同じような略し方をすると、
「ダントプ」
になるはずです。逆に「ダントツ」風の略し方だと、「レッサーパンダ」は、
「レツパン」
になりますね。
そうそう、「別冊マーガレット」は略すと「ベツマ」ですが、これはもともと「別」は「べつ」と読めるから、別、ですね。
この「発見」をSさんにメールしたところ、しばらくして返事が来ました。
「たしかに『レサパン』という省略の仕方もヘンですね。『別マ』は、『別』という漢字なので、『べっま』ではなく『べつま』でいいんだと思います」
というような内容でした。
2005/7/30


◆ことばの話2269「ひちや」

関西では「質屋(しちや)」のことを、
「ヒチヤ」
と発音する方がいます。年配の方に多いのですが。そして実際に、看板にはひらがなで、
「ひちや」
と書いてあるものも多いのです。
東京弁では「ひ」が「し」になって、「新幹線ひかり号」
「しんかんせん・シかりごう」
になる、と聞いたことがありますが、関西弁ではその逆に「し」が「ひ」になるのですね。
「しちや」→「ひちや」
これ以外にも同じような変化をするものを見つけました。
「おしたし」→「おひたし」
これも「し」が「ひ」になるケースですね。探せばまだまだありそうな気がします。
お気づきの方、どうぞご一報ください!
2005/8/5
 
(追記)

朝日新聞の福田さんからご指摘をいただきました。
「おしたし」→「おひたし」
ではなく、
「おひたし」→「おしたし」
ではないですか?「お浸し」なんだし。

あああ!間違えたア!!
福田さん、ご指摘ありがとうございます。ホントだぁ、もうどっちがどっちか判らなくなっていました。
でも、そのショックで思い出しました。関西では、シーツやふとんを、
「ひく」
と言います。これは標準語では、
「しく(敷く)」
ですから、
「し」→「ひ」
の例ですよね。
2005/8/8
(追記2)

「しつこい」のことを大阪では、
「ひつこい」
と言うのを思い出しました!
2005/9/9
(追記3)

逆のパターン、東京の下町言葉は、「ひ→し」になりますね。「新幹線ひかり号」が、
「新幹線しかり号」
となったり、「タバコの火」が、
「タバコのし」
になったり。芸能デスクの石川敏男さんは、けっこう「ひ→し」になってますよね。
昔の資料が出てきて、その中に2003年8月31日のテレビで(どこのテレビ局かはわからないんですが)、朝香光代さんが、
「ひんでんず」(心電図)
「ひなない」(死なない)

と言っていた、という記録が出てきました。朝香さんも東京の下町の方ですよね。
2005/10/19
(追記4)

10月23日、たぶん再放送の『お宝鑑定団』を見るともなく見ていたら、「いい仕事してますねぇ」の人が、
「思い出にしたる(浸る)」
と言っていました。
2005/11/18
(追記5)

先週、出張で行った愛媛県の松山の町で見かけた看板。
「ひちや・ふじ屋」
「ひちや・富士宮」

ともに「し→ひ」への変化でした。松山市は西の文化圏だったのですね。
それにしても10分ほど歩いただけで、少し離れた場所に質屋が2軒も見つかったので、驚きました。
2005/11/20
 


◆ことばの話2268「尊父と厳父と岳父、ご母堂様」

訃報などでよくお目にかかる表記である、

「厳父」「尊父」

という表現ですが、これは「実父」と「義父」によって使い分けをしていると聞いたことがあるのですが、国語辞典では確認できません。実際のところどうなんでしょうか?また、「母堂」には、そういった区別があるのでしょうか?そして、「ご母堂様」という表現は、「母堂」が尊敬語だとすると「ご」と「様」が付いて丁寧すぎるような気もしますが、どうなんでしょうか?

今年の3月、このように「ことばについての会議室」に書き込んだところ、畠中敏彦さんから「ご母堂様」に関して、こんな書き込みをいただきました。

『「ご母堂様」は「ご」「様」「母堂」と3つも尊敬語があるにもかかわらず、あまり違和感はない。一方、『様』が過剰な尊敬語(?)である『各位様』『先生様』は、かなり違和感がある。』

またNISHIOさんからは、

『「母堂」の敬意がほとんど薄れているからだろう。「ご母堂」(と言い切りでは)尊大な感じだし「母堂様」は据わりが悪い気もする。だから「お殿様」と同様の構造になったのではないか。あるいは「おみおつけ」の類。(これは尊敬語ではなく丁寧語の重畳ですか)』


という書き込みをいただきました。さらに「厳父・尊父」の使い分けなどに関しても、

『使い分けがあるというのは初耳。職場で回ってくる訃報(同報メール)は、「○○部○○課○○様ご尊父」のような件名で、「ご厳父」は見たことがない。実際には「厳父・慈母」ではなくて「慈父・厳母」かも知れない。近頃は「甘父・干母」も多いようだし。いずれにしても第三者が勝手に決め付ける表現もどうかと思う。』

『実父か義父かの区別については、訃報の本文中に「社員との関係:実父」といった事務的な項目が(発信元部署によっては)あったりするが、かつて、紙の訃報の時代に、「岳父」(妻の父)を一度だけ見たことがある。夫の父は「令舅」と言うようだが、手元の辞書にはなく、実際の訃報でも見たことがない。訃報や年末の喪中葉書の場合は、どちらの親が亡くなったのか明確にしておくほうが良いだろうが、「血縁か・義理の関係か」という主旨の区別は無用だと思う。どちらも「親」であることには違いないので。また、「母堂」にはそういった区別があるか?と言うと、あえて区別するなら「岳母」(妻の母)、「令姑」(夫の母)だろうか。』


そうですね、「岳父」がありましたね。NISHIOさん、ありがとうございます。
2005/8/5
(追記)

奥さんが亡くなった時には、
「ご令室さま」
という表現もありました。
2005/10/20


◆ことばの話2267「波田陽区の『ですから』」

7月のはじめに早稲田の飯間さんご夫妻と、読売新聞の関根さんにお会いした際に、飯間さんから話に出たのですが、
「お笑い芸人の波田陽区さんが、最後に自分をまな板に載せて、
『拙者、〜ですから!残念!!』
と言いますが、あの『ですから』の意味がわからないんですけど・・・。」
「え?そうですか?特に不思議はなく聞いてますけどね。」

と答えた私、改めてあの「ですから」の意味について考えてみました。・・・と言っても、ものの30秒ほどですが。さらに飯間さんは、
「『〜ですから!』と『ですので』は、違うんですかね?」
とおっしゃるので、私は「それは明らかに意味が違うでしょう」と思い、
「女ことばの『知らないから』という時の『から』と同じじゃないですか?『ですので』は『理由説明』ですが、『ですから』は、『それまでえらそうに批判していたけれども、そういう自分も実は大したことがない、こんなマイナス要因を抱えていますよ。だからえらそうに言ったのも所詮、たわごとです、ゴメンね』という意味合いの『エクスキューズ』として『ですから』は使われているのではないですかね。」
と答えたところ、
「ははあ、そうなんですか。あと、なんで波田さんは、最後に『残念!』って言うんでしょうねえ?」
と飯間さんが言うので、こう答えました。
「『残念!』というのも、『ですから』と同じように、ズバリ文句を言った内容を弱めるための『エクスキューズ』に過ぎないと思いますね。言いっぱなしだと『あいつ生意気言いやがって!』という反感を買いますので、『そうは言ったものの、そんな状態にあるあなた、本来はそうではないはず。その状態にあるのを、あなたのことを思っている私にとっては大変残念なことであることよなあ・・・』という意味合いを感じさせようとしているんじゃないですか」
と答えました。同席していた関根さんも、この意見には同意してくれました。
そして今日(8月6日)、子どもにせがまれてアニメの「NARUTO」という映画を、封切り初日の朝一番に見に行ったのですが、主人公のナルトの口癖が、
「〜だってばよ」
というものでした。この「だってば」も、よく女の子が口癖にしているもので、そういう意味では先ほど挙げた「知らないから」の「から」とよく似ているなあと思ったのでした。
2005/8/6


◆ことばの話2266「グアム島」

突然ですが、
「グアム島」
の発音は、「グァム」でしょうか?それとも「グアム」?もしかして「ガム」
30代前半のNアナウンサーによると、
「『グァム』や『ガム』という言い方は、年配の方がするんじゃないですか」
とのこと。若い人は決して「グァム」「ガム」とは言わずに、
「グアム」
3拍で言うんだそうです。ほんとかな?
Google検索では(8月3日)、表記になるので、発音がわかるわけではありませんが、

「グアム」 =107万件
「グァム」 =106万件
「ガム」 =143万件
「グアム島」 =3万1700件
「グァム島」 =6650件
「ガム島」 =154件

単純に「ガム」とすると「チュウインガム」のようなものも含まれてしまってますから、この数字は当てになりませんね。大きい「ア」と小さい「ァ」の表記では、単独ではほとんど差がない(107万件VS106万件)んですね。「島」をつけると、だいぶ差が出るけど。
いずれにせよ、これは「表記」の話で、発音とは直接リンクしていないと思います。表記でも「ガム島」と書いている人は、きっと「ガム」と発音していると思いますが。
そこでいつものように足を使って(と言っても、報道フロアで聞いただけですが)社内で10代のバイト君から30代前半のスタッフまで「10人」に(すくなー!)に聞いたところ、
「グアム」=9人
「グァム」=1人

でした。ただ、「グアム」と答えたうちの一人は、
「『島』がついて『グアム島』ならば『グァムトー』になります」
と答え、また「グアム」と答えた9人のうち8人までは、
「グアム(HLL)」
と頭高アクセントでしたが、一人だけ、
「グアム(LHL)」
と中高アクセントでした。
ちなみに「グァム」と答えた人は30代前半の男性でした。
また注目していきたいと思います。
2005/8/4
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