◆ことばの話2240「ゆとり教育とゆとりローン」

昔「ゆとりローン」というのがありました。今もあるかもしれないけど。最初の5年か7年ぐらいは返済金額が少なくて済み、その後は(収入も増えるだろうから)返済金額が増えるというものです。
これが初めて出た頃(10年以上前)から、この構図に懐疑的だった私は、
「『ゆとり』と言ったって、結局トータルで払う金額は同じじゃないか。少ない出費をベースに予算を組んで慣れてしまえば、あとから出費が増えると苦しく感じるから、『ゆとり』という名前はある意味では、まやかしだ」
と思っていました。その後すぐ、時代の流れが「右肩上がり」ではなくなり、「ゆとり」どころか「重荷」になってしまったのは、皆さんご存知のとおりです。
で、「ゆとり教育」です。ご存知のように受験戦争を緩和して落ちこぼれをなくし、本当の教育をと導入されたのですが、すぐに破綻してしまいました。
「鉄は熱いうちに打て」
という諺に従うならば、「ゆとり教育」はそれに反するものです。「ゆとり」は必要かもしれませんが、全部がゆとりだと、タガが緩んでしまいます。
先日読んだ本に、「ゆとり教育」を導入した頃の文化庁長官だった、作家の三浦朱門氏が、「『ゆとり教育』というのは、本当は『エリート教育』なんだ。できるやつにはもっとできるようにするための『ゆとり』なのだ。だが『エリート教育だ』と謳うと、必ず反発があるから『ゆとり教育』という名前にしたんだ」
と話していたと書いてありましたが、いずれにせよ、非常に耳に聞こえのよい「ゆとり」という言葉ですが、だからこそ注意すべきです。(今ごろ言われても、とお思いかも知れませんが。)
見せかけの「ゆとり」にだまされるな!
2005/7/26


◆ことばの話2239「ユンカーとユンケル」

ルクセンブルク首相の名前の表記が揺れています。
6月18日のネットの読売新聞では、
「ユンカー首相」
ところがネットの朝日新聞では、
「ユンケル首相」
でした。ほかのメディアでは、NHKは6月17日に、
「ユンケル首相」
6月18日の日経新聞と産経新聞は、
「ユンケル首相」
でした。
つまり私が見た中では読売新聞だけが「ユンカー」だったのですね。それを見つけてから1か月、ほったらかしにして(忙しかったのですよ)しまったのですが、ネットの検索エンジンGoogleで改めて検索してみました。(7月22日)
「ユンカー首相」=203件
「ユンケル首相」=564件

「ユンカー」より「ユンケル」の方が、2倍以上、使われていますね。
ネットでは毎日新聞と東京新聞と京都新聞では「ユンケル首相」ですね。
首相官邸のホームページは「ユンカー首相」ですし、外務省のホームページも「ユンカー首相」です。経団連のホームページも「ユンカー首相」で、TBSのホームページでも外部筆者ですが「ユンカー首相」と使っていました。
私は「ユンケル」の方が、なぜか(・・・て、あのドリンク剤のせいで)親しみがあるのですが、おそらく耳で聞いたら「ユンカー」、文字を目で見たら「ユンケル」となるのではないでしょうか。
ややこしいですねえ・・・。
2005/7/22


◆ことばの話2238「木材か材木か」

ドイツ南部のロマンティック街道の町・ウィルブルクシュテッテン(シュトッツガルトから東に約90キロ)で、現地時間の7月7日、日本人観光客38人が乗ったバスに、前を走っていたトラックが積んでいた材木がバランスを崩して、観光バスの窓ガラスを割って車内に入ってきて、客7人がケガをするという事故が起こりました。
そのニュース原稿や記事を見ると、最初は「材木」と書いてあったのに、最後の方では「木材」となっていたりして、一定していません。
つまり、バスにバランスを崩して突っ込んできたのは、「材木」か「木材」かという質問が「あさイチ!」のスタッフから出てきたのです。材木と木材はどう違うのかということですね。
うーん、と考えて出てきた答えは、
「『木材』は何かに使うために伐り出してきた木。『丸太』なんかは『木材』。それを製材してすぐにでも使えるようにしたのが『材木』」
で、どうでしょうか?
つまり、「木材」のカテゴリーの中に「材木」は入るということで。
『広辞苑』を引くと、
「材木」=建築・器具製作の材料として製材した木。
「木材」=切って種々のようにあてる材料の木。ざいもく。
ということで、あまりその違いが判りません。「木材」の説明の最後に「ざいもく」とも書いてあるし。ただ、「製材」してあったら、やはり「材木」ですね。
『新明解国語辞典』を引くと、
「材木」=家・器具などの材料とするために適宜の長さ・大きさに切ったりひいたりしてある木。角材・板材など。(広義では丸太も含む)
「木材」=〈鉄材・石材などと違って〉建築や器具の材料としての木。

「丸太」は広義では「材木」に入るのかぁ。
『新潮現代国語辞典』では、
「材木」=建築や器具製作などの材料となるべき木。普通、角材などに加工してあるものをいう。
「木材」=建築・木工などの材料としての原木。また、製材した木。

ありゃりゃ・・・。せっかく、
「材木」=加工している木
「木材」=原木

としたのに、最後で「木材」「また、製材した木」と付け加えてしまうと、なんだか境界線が消えてしまいそうで・・・。
『日本国語大辞典』では、
「材木」=(「さいもく」とも)(1)建築、家具、木工などの材料にする木。普通には、角材、板材、などに製材したものをいう。木材。用材。※(2)(3)は略。
「木材」=建築・工作などに使うための材料とする木。材木。


うーん、ほとんど区別ないなあ。なかなか難しい問題ですねえ・・・。
2005/7/25
(追記)

NHK放送文化研究所の塩田雄大さんから、
「『ことばQ&A』に、以前(2004年12月1日)ちょっと書きました」
と教えてもらいました。どう書いてあったかと言うと、「平和と和平」について書かれたところに、
『「平和」と「和平」のように、漢字の順序が異なることばのペアは、日本語にはたくさんあります。そして、そのほとんどがそれぞれ違う意味を表します。
 たとえば「材木」というのは木を一定の長さ・大きさに切った「具体的なもの」であるのに対して、「木材」は材質が「木」であるというところに焦点が置かれています。「木材からパルプを作る」とは言えますが、「×材木からパルプを作る」とはふつう言いません。』

と載っていました。さらに、
『頭の体操も兼ねて、次のことばを上下逆転させるとどのように意味が違ってくるか、考えてみてください。中には、細微な(微細な?)違いしかないものもあります。
「愛情・育成・移転・異変・運命・鋭気・栄光・液体・演出・王国・王女・会議・外国・会社・階段・害虫・回転・解読・外部・格別・学力・楽器・観客・感触・間食・奇数・急性・牛乳・制圧・・・」


と書いてありました。うーん、漢字の熟語も難しいなあ・・・。
2005/7/29
 


◆ことばの話2237「レイコー」

5月9日の産経新聞夕刊のわかぎゑふさんのコラムのテーマは、
「レイコー」
でした。「アイスコーヒー」のことを大阪では、こう呼びまんにゃわ。最近、あんまり聞かなくなってきたけど。
Google検索(5月10日)では、
「レイコー」=4540件
ただ、アイスコーヒーの意味ではないものもあったようなので、キーワードを追加すると、
「レイコー、アイスコーヒー」=1790件
一方、漢字も交ぜて、こう書くと
「冷コー」=8610件
でした。これが標準的な書き方なのかな。件数が多い。
なお、以前読んだ、わきぎゑふさんの大阪弁を集めた本には「レイコー」の項目はありませんでした・・・。

・・・と、ここまで書いて3か月近くほったらかしにしていたら、「冷コー」の季節になりました。もう一度Google検索(7月25日)して見ましょう。ついでに、ひらがなも入れて。

「レイコー」 =921件
「レイコー、アイスコーヒー」 =1件
「冷コー」 =609件
「冷こー」 =7件
「レーコー」 =620件

あれ?なぜだろ、どれも激減している!季節だから増えるかなと思ったのに。
「死語どっとコム」というサイトには、「レーコー」は「死語」として載っていました。
『(意味)=アイスコーヒー。恐らく「冷」「コーヒー」の略』
「恐らく」ではなく、間違いなくそうでしょう。
『(使用例)=「マスター、レーコー1杯宜しく。」(投稿者)=Hidenori Hori(登録日)=2003-02-16』
ついでに大阪的な表記(?)である「コーヒ」をフィーチャーした、
「アイスコーヒ」=523件
と、「よしよし」というような件数。「冷コー」や「レイコー」「レーコー」と同じ3ケタのヒット数ですね。標準語的に語尾を伸ばすと、
「アイスコーヒー」=29万7000件
となって、件数はすごく増えます。さらに、関西の夏の「あの」飲み物も検索。

「ひやしコーヒー」 =15件
「冷やしコーヒー」 =168件
「ひやしコーヒ」 =0件
「冷やしコーヒ」 =1件

この「冷やしコーヒー」に関するこんな記事をネット(エキサイト)で見つけました。「のなかなおみ」さんという方が「冷やしあめ」について書いているのですが、そこで「冷やしコーヒー」についても書いています。それによると、

『関西の夏向けドリンクは「冷やしあめ」だけではない。「冷えたもんあります」の看板がかかった駄菓子屋で、人気の冷たい飲み物を聞いてみると、「冷やしコーヒーに冷たいミルクセーキに冷やしあめ」という答えが返ってきた。ちなみにこの「冷やしコーヒー」とは、コーヒー味のコッテリ甘い飲み物の事で、関西人が「レイコー」と呼ぶアイスコーヒーとは少し違う。コーヒーの元は冷蔵庫に半分凍った状態で保存してあり、注文すると柄杓でコップに注いで出してくれるのだ。』

たしかに、子どもの頃に飲んだ「冷やしコーヒー」は、喫茶店の「冷コー」とは違ったような気がするなあ・・・。
駄菓子屋さんでの「夏の定番」であるこういった飲み物ですが、最近は後継ぎがいなくて、店を畳んでしまう事も多いとのこと。「冷やしコーヒー」「冷やしあめ」は、消えてしまうのでしょうか・・・・。
と思ってネットをもうちょっと見ると・・あれ?「関西の」夏の定番であるはずの「冷やしコーヒー」、香川県高松市や沖縄県にもあるみたい。
そして、やはり日経のこの名物サイト「食べ物 新日本奇行」で日経新聞編集局文化部・編集委員の野瀬泰申さんが取り上げていました。

第9回「いわゆる冷やし中華」(その2)より
<ご意見>「冷麺」で思ったことですが少なくとも私が学生だった20数年前、大阪ではアイスコーヒーのことを「レーコー」(冷コー?)と言いました。「冷麺」という名称は外来にしても「冷……」という表現自体が関西と親和性が高いのでは?(上海の田中さん)

<ご意見>やっぱり関西では「冷コー」(アイスコーヒー)があるように、冷たいラーメンは「冷めん」でしょう(しかし「冷やしうどん」は「冷どん」とは言わへんな)私の中では「冷やし中華」はよそ行きの言葉、標準語というイメージです(大阪生まれ滋賀県育ちのうずら40代♀さん)

<野瀬註>コンビニやスーパーに並ぶ全国一律商品の「冷やし中華」、「冷やし中華」のテレビコマーシャル、冷やし中華文化圏からの訪問者の増加。各地の以前の呼び方が「冷やし中華」に駆逐されている可能性は十分にあります。盛岡の冷風麺や関西・四国の冷麺という呼び方が劣勢になっているとしたら、ちょっと寂しいような気がします。同じように関西の「レイコ」「レーコ」も絶滅危惧(きぐ)種です。私が大阪で初めて勤務した27年前は喫茶店という喫茶店にレイコがありました。多分、ウエイトレスの中にもレイコさんがいたでしょうが、そのレイコさんは客が「レイコくれ」とか「レイコでええか?」「うん、レイコ好きやねん」などと言うたびに複雑な思いをしていたことでしょう。それが今やアイスコーヒーばかりになってしまいました。はやりのコーヒーショップチェーンやカフェで「レイコ」って絶対言ってくれそうにありません。レイコが懐かしい。レイコー、オレが悪かった。帰ってきてくれー。

<ここでレイコ乱入>探さないで…。もう終わったのよ。

<デスクも乱入>アイスコーヒーを略したのに「アイコ」にならないところが、大阪の懐の深いところですね。もしかして初めは「冷やしコーヒー」と呼んでいたのでしょうか。

<野瀬註>どこかにアイコがいたら、コンビ組む?上方レイコ・アイコとか。
<レイコ>ウチ、そんなんいやや。

せっかく「デスク」が乱入して、いいこと言ってくれてるのに、野瀬さん、おちゃらけてしまって・・・。残念!
牧村史陽『大阪ことば事典』にも載っていました。語尾が延びずに「レイコ」の形で。野瀬さんじゃないけど、ホントに女の名前みたい。
「レイコ」=「アイスコーヒー・コールコーヒーのこと。冷コ(ーヒー)と略したもの。これに対して普通のコーヒーはホット。そこで大阪人は『ほっとしたらホット』としゃれる。」
ええ!ほんまに???「ほっとしたらホット」って、しゃれるのお?大阪人は・・・俺、大阪人とちゃうわ。いくらなんでもそんなベタなダジャレ、言いません!
しかしここには重要なことが書かれていましたね。「冷コー」以上に死語に近いと思われる
「コールコ−ヒー」
です。「コールド・コーヒー」の「ド」が取れたものと思われますが。またGoogle検索(7月25日)です。

「コールコーヒー」 =328件
「コール・コーヒー」 =47件
「コールコーヒ」 =18件
「コール・コーヒ」 =0件

でした。「コールコーヒー」、なんとか生きてますね!

米川明彦先生の『日本俗語大辞典』も引いてみました。
「れいコー(冷コー)」=(「冷やしコーヒー」を縮めて、読み換えたもの)冷たいコーヒー。アイスコーヒー。「冷コ」とも言う。主に大阪の中高年のことば。※『新語の考察』新語の成立(1944)<加茂正一>「赤バイ ハムサンド 丸ビル 板チョコ 冷コー(冷やしコーヒー)といふやうな、合の子略語も少くない」
ふーむ、戦前からあったのですね。

またコーヒー会社のUCCのサイト『月刊・珈琲人2001年7月号』には、
「日本の暑い夏に欠かすことのできないアイスコーヒーは、既に明治時代のコーヒーシーンに登場し、当時は“冷やしコーヒー”と呼ばれていました。今日大阪の街で“レーコー(冷コーヒー)”という愛称で親しまれるアイスコーヒーの語源はここにあるように思えます。」

とありました。やっぱり、日経の「デスク」の方が考えたように、「冷コー」以上に「冷やしコーヒー」の歴史は古いようですね。戦前どころか明治時代ですか。
うーん、このへんで「冷コー」でも飲んで、一服するか。でも最近流行りの「カフェ」には、「冷コー」はありません。「アイス・カフェラテ」とかなんちゃら、長いカタカナの名前のものしか、あらしません。
2005/7/25
(追記)

2006年3月20日に、あの『バカの壁』や『国家の品格』といったベストセラーを出した新潮選書から『大阪弁「ほんまもん」講座』(札埜和男)という本が出ました。札埜さんは京都の八幡高校の国語の先生だそうです。その本の中に「レイコ」が出てきました。「フレッシュ」とコンビで。(「フレッシュ」については、「平成ことば事情173フレッシュ」をお読みください。)
札埜さんは2005年の夏に、大阪天満宮の近くに引っ越したそうですが、その周辺の商店街ではいまだに「コールコーヒー」とメニューに載っていて、「レイコ」と注文する50歳以上の人が常連の中にはたくさんいるそうです・・・って、天満宮の近くと言えば、読売テレビがもともとあった場所、私も入社以来4年余りを過ごした場所、いわば「地元」ではないですか!(と言っても、もう20年ほど前ですが)天神橋筋商店街の1丁目、2丁目あたりですよね!確かにあの辺なら、まだ「レイコ」は残っているかもしれませんね。今度、確認しに行こう!
2006/4/4
(追記2)

『ビッグコミック・スピリッツ』(小学館)の2006年4月17日号(NO.18)に連載されている「逆風客室乗務員 CA(シーエー)とお呼びっ!」(花津ハナヨ)という、昔で言うところのいわゆるスチュワーデス、今はキャビンアテンダントとかCA(シーエー)と呼ばれているのですが、そのマンガの中で主人公のCA・山田紗依(ヤマダサエ)が、飛行機の客室内で乗客から、
「お姉ちゃん、冷コー ちょーだい!」
「こっちは新聞〜〜〜!」
と言われているシーンがありました。これに対して山田紗依は笑顔で、
「は〜〜〜い!少々お待ちください!」
と答えています。特に「冷コー」を理解できないふうでもありませんでした。
2006/4/6


◆ことばの話2236「私服と制服」

新人のIクンから、甲子園球場に野球の取材研修に行く日の服装について、質問を受けました。
「服装は私服でいいんですか?」
「ちょっと待てよ。私服ってなんや?」
「え?スーツじゃない服のことですけど。」
「あのな、スーツもいわば私服なんやで。私服の反対語は制服やろ。オレら会社員・アナウンサーに制服はないんやから、当然『私服』という概念もないよな。」
「ええ!でも、スーツは私服じゃないですよお。」
「自分のものだったら私服だよ。それを制服と思っているのは、いまだに学生気分が抜けないからじゃないか?『自分のスーツ』を、『与えられた服装だ』としか認識していないで着ているということだからな。」
「うーん・・・」

とI君は納得できないような顔つきでしたが、「私服」なんて言葉、学校でしか聞かないでしょ?自衛隊とかならあるかも知れませんが。
私は、学生時代のもの以外で、制服は持っていません!・・・・あ、合唱団のユニフォームはあった。これは制服だな。
「私服」
には、青春を感じますよねえ、うんうん。
2005/7/21