◆ことばの話2235「大人のおもちゃ屋」

先日、小学2年生の息子を車に乗せて、15分ほど離れたところにあるショッピングセンターに向かう途中のこと。子供にとっては、ショッピングセンターにあるゲームセンターで「ムシキング」のゲームをするのが目的です。
その行く道、バイパスのロードサイドに、大きなこんな看板が見えました。
「大人のおもちゃ屋」
運転しながら横目にチラッとその看板が入った瞬間、
「まずいな・・・」
という思いが頭をよぎりました。すると、その2秒後、案の定、息子が後部座席から、
「あ、いいなあ、大人のおもちゃ屋。ねえ、今度連れてって!」
と叫びました。私はハンドルをギュッと握り締めながら、即座に、
「あかん!あれは子供が行くところと、ちゃう!」
「えー、でも大人のおもちゃ、売ってるんやろ!大人のおもちゃって、どんなん?」
「そんなん、子供は知らんでよろしい!!」
「わかった!ビリヤードとか、そういうの?」

ウム・・・玉突き、という意味では、当たらずといえども遠からじ・・などとも言えず、そういうことにしておくかと、
「・・・まあ、そんなもんかな。」
「それやったら、ぼくも欲しい!ビリヤード、子供でも、できるでえー」
「子供はできへんようなもんなの!とにかく行ったらあかんの!」
「・・・・」

と言っている間にショッピングセンターに到着したので、ちょっとホッとしました。
こどもの目に触れるところに、そんな大きな『ややこしい』看板を立てんといて欲しいと、真剣に思ったのでした。
2005/7/19



◆ことばの話2234「チェゲバな服」

10代と思われる若い夫婦が3組も、
「チェゲバな服」
という表現をするのを聞いたと、うちの後輩アナウンサーが言ってきました。若者本人たちに聞いても、
「ニューヨーク・ヤンキースの服(ユニフォームか?)」
「ゆったりとした服」
「ラップ系の人が着ているような服」
「帽子を斜めにかぶる」
というような答えしか返ってこなくて、どう言う意味か、なぜそのように言うのか、わからなかったそうです。
ネットで検索すると、
「チェ・ゲバラ」
を略して「チェゲバ」と言うケースがあるかのようですが、一体この言葉の意味、出自はどこにあるのでしょうか?
ネットのことばの掲示板「ことばについての会議室」に質問を書き込んだのですが、「これだ!」という書き込みはいただいていません・・・・。
2005/7/19



◆ことばの話2233「遅かれ早かれ」

少し前の話ですが、今年の2月から4月まで2か月かけて、去年11月に出た『新明解国語辞典』の第六版を読みました。全部で1620ページありました。
その中で気づいたこと、いろいろありましたが、思わず笑ってしまったのは、「遅かれ早かれ」ということばの用例です。そこにはこんな用例が載っていたのです。
「遅かれ早かれ電子辞書の時代になる」
・・・いいのか、そんなことを「紙の辞書」が言って!カミの声か?それにしても、なんて自虐的な・・・・。
たしかに最近の学生は、「紙の辞書」ではなくて「電子辞書」を持っていますし、「電子辞書の利用実態と今後」と題した慶応大学の学生さんがまとめたレポートによると、2003年の電子辞書の年間発売額は440億円、それに対して紙の辞書市場は250億円と、既に電子辞書が紙の辞書を売上額では抜いているんですね。単価が高いので、普及台数(冊数)では紙が勝っているのではないかと思いますが。
ちなみに三省堂の担当の方に聞くと、「新明解の電子辞書」は、まだ商品にはなっていないとのことです。
この「遅かれ早かれ」の用例を、古い版のものから調べてみると、
(3版)用例なし
(4版)「遅かれ早かれ一度は死ぬのだ」
(5版)「遅かれ早かれいつかは死ぬのだ」
(6版)「人は遅かれ早かれいつかは死ぬのだ」「遅かれ早かれ電子辞書の時代になる」

となっていて、今回「電子辞書」が加わりましたが、その前の用例は、
「遅かれ早かれ一度は死ぬのだ」(4版)→「遅かれ早かれいつかは死ぬのだ」(5版)→「人は遅かれ早かれいつかは死ぬのだ」(6版)
となっています。つまり、4版から5版で「一度死ぬ」から「いつかは死ぬ」に変わったのですが、この5版の改訂作業中に、編集主幹だった山田忠雄さんはお亡くなりになっています。「一度は死ぬ」から「いつかは死ぬ」に変わった用例は、山田さんの手によるものだったのか、その後、編集を引き継いだ人たちの手によるものなのかも、興味深いところです。
第6版には当然のことながら(お亡くなりになった)山田さんは参加されていませんが、「遅かれ早かれ電子辞書の時代になる」という新しい用例は、山田さんのシニカルな批評精神を受け継いだものではないでしょうか。なかなか、言えませんよ、これ。
しかしこの用例も、次回の改訂ではなくなるかもしれません。というのも持ち歩きは、たしかに電子辞書が便利ですが、デスクでは既に、紙の辞書でも電子辞書でもなく、パソコンで「WEB辞書」を引くことが増えてきているからです。
次の改訂では、
「遅かれ早かれウェブ辞書の時代になる」
となるのかどうか、注目です。

おまけですが、現在の電子辞書には『広辞苑』を載せたものが多いですが(私も持っています)、『広辞苑』第4版が出たのが1991年、第5版は1998年。ということは、そろそろ第6版が出るのでは?と思って岩波の人に聞いたところ、「今年は出ない」と。理由を聞くと、
「電子辞書に載せているのが第5版なので、現在の電子辞書が売れている間は、新しい版は出せない」
とのこと。電子辞書の売り上げが、紙の辞書の改訂にも影響を与える、内容は同じ辞書でも、メディア(媒体)が変わるとそういった影響を及ぼすこともあるのですね。とは言うものの、そんなことを言っていると、いつまでたっても改訂できないのでは?という危惧も・・・。

2005/7/19



◆ことばの話2232「ケニアのお茶」

近くのショッピングセンターで目に入ったお茶屋さんの張り紙。

「ジェイアール茶あります」

とありました。へえー、JRは多角経営で、ついにお茶にまで手を出したかア。JR東日本は、確か缶入りのお茶を売っていたから、そんなに不思議ではないかな。でも名前が「JR茶」とはな、と思ってもう一度張り紙をよく見てみると、

「ジュアール茶あります。」

え?「ジュアール茶」?「ジェイアール」ではないのか!ややこしいなあー!
Google検索してみると(7月17日)、、なんと
「ジュアール茶」=2万8400件
も出てきました!
同じ物の呼び名の違う「ジュアールティー」も、
「ジュアールティー」=8万2900件
も出てきましたし、ちょっと表記の違う(おしりの「ティ」を伸ばしていない)、「ジュアールティ」も
「ジュアールティ」=5700件
出てきました。通信販売などで結構人気があるようです。どういったお茶かというと、
「アフリカ生まれの野草ジュアール(学名・カメリアシネンシス)のお茶。テレビ屋雑誌でダイエット・美白・若返りのお茶として話題の健康茶」
だそうです。
知らない間にブームというものは広がっているものなんですねえ。これは「静かなブーム」というものなのかな?ついでに、

「ジェイアール茶」 =1件
「ジェイアールティー」 =4件
「ジェイアールティ」 =1件

でした。あんまり間違う人はいないみたい。私ぐらいでしょうか、目の錯覚が起こったのは・・・

2005/7/17



◆ことばの話2231「半陰陽」

7月15日の毎日新聞スポーツ欄に、ロイター時事の記事としてこんな見出しが出ていました。

「女性と称した『男性』陸上選手 禁固刑判決〜ジンバブエ」

それによると、ジンバブエの陸上選手が女性と偽って競技(三段跳びなど)を続けていたとして、性別詐称で逮捕されたサムケリソ・シトレ選手が14日、同国の裁判所で、禁固3年6月の判決を受けたということ。シトレ選手は公判で、
「自分は男女両方の性器を持っているが、女性として生きてきたと主張。しかし医学検査の結果は男性だった。」
と記事は結んでいます。
医学検査の結果は「男性」と出たわけですが、シトレ選手の、
「自分は男女両方の性器を持っている」
という主張を信用すると、彼(彼女)は、いわゆる
「両性具有(者)」「半陰陽」
と呼ばれる存在です。インターネットで「半陰陽」の解説を検索してみたところ、こう出ていました。
「intersex」「ふたなり」とも。英語ではインターセックス。仮性半陰陽(遺伝子上の性別とは逆の外性器を備えていること)と真性半陰陽(両性の外性器を備えていること)があり、特に真性半陰陽の状態は個人差による所が大きい。この性質を持つ人は、半陰陽者、インターセクシュアル(インターセクシャル)、ハーマフロダイト?などと呼ばれる。」

『インターネット大辞林』を引くと、
「はんいんよう」―いんやう 3 【半陰陽】=「外性器が生殖腺の雌雄と反対の外観を呈すること。また、同一個体に両性の生殖腺を有すること。半陰半陽。ふたなり。」
「りょうせい-ぐゆう」りやう―いう 5【両性具有】=「男女両性を備えた神話的存在。相対立するものの一致、全体性などの象徴とされる。」

とありました。
そして、『日本国語大辞典』を引くと、結構詳しく載っていました。
「半陰陽」=性別のはっきりしない一種の異常。染色体異常が一因でおこる。女性の染色体XXと男性の染色体XYが同一の個体にモザイク状に存在する。陰茎睾丸をそなえていながら外陰部が女性のようなもの、女性であるのに性器の一部が肥大して陰茎のように見えるもの、睾丸と卵巣を同時にそなえていて男女の区別が困難なものなど、さまざまな程度がある。ふたなり。*裸に虱なし(1920)〈宮武外骨〉男に乳房のある理由「妊娠後の三ケ月間は、対峙に男女の差別が無く、半陰陽(ハンインヤウ)の体(てい)であるのが、四ケ月目に男になり女になるのであって」
「両性具有」=男女両性を備えていること。特に心理学的な両性の傾向体現や、神話や儀式などに現れる原初の全体性を象徴する存在をいう。

ついでに・・・
「ふたなり(二形・二成)」=(1)ひとつのもので、二様の形状を持っていること。特に、一人で男女両方の性器をもっていること。また、その人。半陰陽。はにわり。ふたなりひら。

『読売テレビ放送用語ガイドライン』には、第2章に、「性差をめぐる表現」という項がありますが、「半陰陽」に関する記述はありません。ただ、「セクシュアル・マイノリティー」に関する記述はあります。もっぱらゲイとレズビアンと性同一性障害に関する記述ですが、
「性的少数者差別」を行ってはならないという主旨の記述から考えると、この「半陰陽」のジンバブエの陸上選手に関する記事の取り扱いに関しても、面白おかしく取り上げるのではなく、十分に内容を吟味した上で、どういう方向性で取り上げるのか、慎重に取り扱わなければならないでしょう。

2005/7/15
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