◆ことばの話2230「賛成多数」

7月5日、衆議院で「郵政6法案」が可決されました。可否の票数は、
「賛成233票
反対228票」

たったの5票差でも、河野衆議院議長の声は、
「賛成多数で可決しました」
でした。つまりここにおける「多数」とは、「絶対的な多数」ではなく、
「相対的な多数」
です。しかし、一般に持っている(と思われる)「多数」のイメージは、
「絶対的多数」
です。そこに、「賛成多数で可決しました」という言葉に違和感を覚えた理由があったのでしょう。
あ、もしかしたら、議員の中に親子三代にわたって代議士をやっている人が多かったので、
「三世多数」
といったのかも・・・議長の息子も議員だし・・・。皮肉??

2005/7/16



◆ことばの話2229「エントリー」

外国語が日本に入ってきて、カタカナで書き表されて外来語という名の日本語になる。そしてカタカナ感覚が薄れて本当の日本語になっていく。
まだカタカナ感覚はあるものの「日本語だなあ」というものには、たとえば、
「オープン」
という言葉があります。これってもう日本語でしょ?それと数年前からよく使われるようになった、
「ゲット(する)」
もよく使われています。「オープン」「ゲット」ほど定着していないとは思いますが、そんな言葉の仲間に急速に入りつつある言葉が、
「エントリー」
だと思います。就職活動では、まず、
「エントリーシート」
に、履歴など必要事項を書き込まなくてはなりません。そして、
「エントリー」
するわけですね。
これまでは「エントリー」というと、それこそ、
「美人コンテスト」「ミスコンテスト」
などで、
「エントリー・ナンバー○○番!」
とかなんとか言う時ぐらいしか耳にしませんでした。あ、あとはマラソンの選手が大会に参加するときとか。いずれにせよ、私には縁遠い世界です。
でも就職活動などだとそれほど縁遠い世界ではありません。今後「オープン」並みに「エントリー」も定着して、就職以外にも使われるような気がします。何の根拠もないけど。
2005/7/16
(追記)

2009年3月31日の毎日新聞「09就活日記・上」という記事によると、もはや「エントリーシート」は、
「ES」
と略されているようです。
「興味のある会社にESを出し始める」
というような使われ方です。「ES細胞」みたいです。
2009/4/7



◆ことばの話2228「アフガン」

車で15分ほどのところにある大型ショッピングセンターに行きました。なかなか品揃えも充実しています。特に、乳幼児や子供用製品の品揃えが豊富です。そんな中で、こんなものを見つけました。
「おくるみ・アフガン」
なんだ?アフガンって?アフガニスタンと関係あるのか?「ランボー、怒りのアフガン」という映画もあったな。
Google検索してみると(7月14日)、

「おくるみ、アフガン」 =5620件
「アフガン」 =34万4000件

結構「おくるみ、アフガン」でもありますね。
国語辞典はいくつか引きましたが、中型の辞書には載っていません。ネットの『大辞林』には、それらしいものが載っていました。『広辞苑』は「アフガン犬」と「アフガン編み」だけ。この「アフガン編み」というのが、関係ありそう。
ネットの掲示板「ことば会議室」に、
『(Q)先日、赤ちゃんの「おくるみ」のことを「アフガン」と言うことを初めて知りました。なぜ「アフガン」なんでしょうか?』
と書き込んだところ、岡島昭浩さんから、こんな書き込みをいただきました。

「アフガンコートって何でしたっけ。ともかく毛糸の何かではないでしょうか。アフガンとカシミールって近いですね。カシミヤを思い出します。「インフォシーク辞書」を引くと、
アフガン[afghan(アフガニスタンの)]毛糸編みのやわらかな毛布,また肩かけ.〈現〉▼アフガン編み
畳編み,棒針の先が鉤(かぎ)になっているものを用い,メリヤスの目の各段に線が出るような編み物の技法.〈現〉
★アフガニスタンで生まれた技法の、「また、肩掛け」のあとに、「また、おくるみ」を追加せねばならないわけですね。」

またskidさんからは、こんな書き込みが。
「たまたま図書室から『田中千代 服飾事典』同文書院(1981、新増補版)を手元に出してあったので引きました。
アフガン[Afghan]ウールの柔らかい毛布、あるいは肩かけの一種。普通は編物でつくられ、ベッドの上かけなどのようなおおいや、おくるみとして用いられる。乳幼児のみくるみなどは、極細2本などで柔らかく編み、色もピンク、白、薄いブルーなどにする。
アフガンあみ【アフガン編】アフガン針を使って編む技術で、棒針編とかぎ針編を混合したような編方である。→あみもの
アフガンばり【アフガン針】アフガン編に用いる。竹製のかぎ型の針のこと。→しゅげいようぐ。

「あみもの」「しゅげいようぐ」の項目では更に詳しく書かれ、図や写真もあります。」
「田中千代編『服飾事典』婦人画報社(1957)や被服文化協会編『洋装辞典』文化服装学院出版局(1955)にも「アフガン」の項目がありました。
国会図書館の蔵書検索では、1958年に『アフガン編全書』、1959年に『鈎針編とアフガン編』があり、1960年代は5冊、1970年代は4冊、80・90年代は各1冊だけです。『角川外来語辞典』も1958年の書名を2冊載せて出典にしています。このあたりから流行し始めたようですが、最近では下火なのかもしれません。」

岡島さん、skidさん、ありがとうございます。『日本国語大辞典』によると、
「アフガン」(2)(英afghan)アフガン編みの防寒用製品。膝掛け、ショール、マフラー、満とナ度に多い。<用例>上海(1928−31)三・下「アフガンの厚ぼったい緋の絨氈」
「アフガン編み」(アフガンは英afghan)手編みの一つ。先がかぎになった棒針(アフガン針)を用いて、往路は棒針編みのように、復路はかぎ針編みのようにする編み方。地厚で立体的な織物のような編み地となり、型くずれがなく、配色が容易である。

とありました。確かに「おくるみ」には向いているかもしれませんね。一つ、賢くなりました。一般的には、
「アフガン=おくるみ」
と考えてよさそうです。
そのほかネット上で、静岡県裾野市の仲澤綾子さんという人の「祈り」という短歌を見つけました。「アフガン」「おくるみ」を読み込んだ短歌です。ご紹介します。
*空爆の 映れば思ふ わが編みし アフガン編みは かの地に生れしと
*編みゆきては 引き抜き戻る アフガン編み 生るるわが子に 御包(おくる)み編みき
*水色(ブルー)と 桃色(ピンク)の市松模様に 編み上げし おくるみにやはき わが子抱きし
*フランス刺繍 スエーデン刺繍 アフガン編み 女(をみな)のおもひ 針にこもれる

歌に読まれるぐらい、「アフガン」も「おくるみ」も定着している言葉なのですね。skidさんが教えてくださったように、1960年代から70年代にかけて、よく使われた言葉なのかもしれません。だから私も知らなかったのか?最近は、昔に比べるとあまり使われていないということは事実でしょう。
もしかしたら、少子化の影響で、あまり耳にすることがなくなってきたのか、あるいは地球温暖化の影響で、暖かくなってきているので、あまり「おくるみ=アフガン」を必要としなくなってきたのでしょうか?真実はどのへんに???

2005/7/15
(追記)

ネットで検索したら、妊婦の方のこんな文章が見つかりました。
『1階下のベビー用品売場へ。(中略)10月下旬や11月の退院ならアフガンも必需品。(中略)それなりに品質はいいものばかりなんだけど…と思ったら、「CELEC」の白いアフガンを母が見つけ、「これはどう?」と見せてきた。そのアフガンは、よく見かける正方形ではなかった。足がすっぽり入るように内側にポケットがつき、下が逆U字型になっている。寒い日でも足が出ないし、正方形のものよりは安定してそうだ。』
やはりベビー用品の「アフガン」はこういうものなのですね。
実は「アフガン」について「ことばについての会議室」にした書き込みを見て、朝日新聞のF氏からメールが来て「偶然、こちらでもコラムで取り上げようと思っていたところ」とのこと。ベビー用品関係の言葉が外来語が入って難しくなっている話で、関西版は7月18日の朝日新聞「ことば力養成講座」「スタイ」というタイトルで載りました。関東版は7月17日に載ったそうです。
2005/7/27



◆ことばの話2227「愛と藍」

以前・・・といってもう6年も前のことになりますが、このホームページを書き始めた頃、ことばの話26「虹は6色?」で書きましたが、
「虹の色は何色(なんしょく)あるか?」
と聞くと、たいていの人は「七色(ななんしょく)」と答えるのですが、「じゃあ、何色(なにいろ)があるか、全部言ってみて」と聞くと、
「赤、橙、黄、緑、青、紫」
の6色までは言えるのですが、そこでハタと困ってしまう、と。忘れられた色は、
「藍色」
で、なぜ忘れられるかと言うと、「藍」が生活の中で使われて身近だった頃は誰もが「藍色」を見ることが出来たのでしょうが、「藍色」というとジーンズぐらい、それも「インディゴ・ブルー」と呼んだりして、「藍」に触れる機会がなくなった現代の都会っ子にとって、「藍色」もまた見えなくなってしまったのではないか。それだけ、
「アイのない世の中」
になった、とシャレで締めくくったのですが、あれから6年、最近は事情が変わってきたようです。というのも、先日、神戸の女子短大で話をする機会があって、女子短大生に、
「虹は何色か?」
と聞いたところ、彼女はスラスラと、
「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」
と七色を答えるではありませんか!そこで私の頭にひらめくものがありました。そう、女子ゴルフの人気者、
「宮里藍選手」
の存在です。「アイちゃん」と呼ばれる彼女ですが、同じ「アイちゃん」の卓球の「福原愛選手」の「愛ちゃん」とは違って、漢字が、
「藍ちゃん」
なので、この「藍ちゃん」が広まることで「藍」という漢字に対する認識が高まり、それが虹の色の種類に対しても広がって答えられるようになったのではないか!?と考えたのです!
しかし・・・なぜ藍色と言うことができたのか、答えた学生が講義の後に言いに来てくれました。
「私、高校時代は理系だったので、虹の色のスペクトラムについては習っていたんです。」
・・・・真実は思いもよらないところにあるものです。
2005/7/15



◆ことばの話2226「パトラッシュとパトラッシェ」

最近、小2の息子が寝る前に本を読んでやっているのですが、昨夜読み始めたのは、
「フランダースの犬」
です。ポプラ社の本で、大石真さんという人が「文」を書いています。この場合は「意訳」していると考えればいいのでしょうかね。
ところが読み始めたとたんに、息子と一緒に聞いていた妻が、
「ええ!?」
と大きな声を出しました。主人公の名前が、
「ネルロ」
だったので、妻は、
「ネロじゃないの!?」
と声を上げたのです。これは単に、巻き舌の「ル」をカタカナで表記するかどうかの違いだと思います。そして主人公の飼う犬も、
「セントバーナード犬」
ではなく、
「フランダース犬」
だったの、またもや彼女は「ええ!?」と声を上げました。これはタイトルから考えれば当然なのですが、アニメに出て来た「フランダースの犬」のイメージは「セントバーナード」だったことと、「アルプスの少女ハイジ」に出てくる犬と、頭の中でゴッチャになっていることもあると思います。そして、次に驚いたのは私でした。なんと、その犬の名前は、
「パトラッシェ」
だったのです!
「パトラッシュ」ではなく!つまり最後の小さなカタカナだ「ェ」か「ュ」かという問題です。
でもアニメでは、たしか、
「パトラッシュ」
と言っていたぞ!
これって、一般の人は、
「アタッシュ・ケース」
だと思っているけど、実は正しくは、
「アタッシェ・ケース」
であるというのと同じことなのかな?
Google検索では(7月15日)

「パトラッシュ」 =4万6800件
「パトラッシェ」 =108件
「パトラシェ」 =12件
「パトラシュ」 =126件

と、圧倒的に「パトラッシュ」の方が使われています。
ネットで検索した中に「にれのや」さんいう人が2003年の5月12日にこんなことを書いていました。

「疑問はここからです。『フランダースの犬』の主人公、ネロと『パトラッシュ』の名前です。Patrasche は、フランドルが舞台ということから言えば『パトラッシェ』 とするのが正当でしょうね。Patrickに関係ありそうだし、綴りもオランダ語的だし、何かありそうな名前なんだけど、どうなんでしょう? いろいろ調べたけれど語源は不明ですね。オランダ語圏の、少なくとも「人間の男子名」には Patrascheというのはありません。さらに問題なのが、少年ネロです。Nelloという男子名は、オランダ語圏の名前としては、正式名にも愛称にも例がありません。特別に、そういう名前だったんだ、と言われればそれまでなんですけど。むしろ、Nelloというのは、イタリア人の名前です。Antonelloの略称、もしくは、そこから派生した独立した名前です。『フランダースの犬』の1人と1匹の名前に関する情報が、何かありましょうか?」

同じような疑問を持った方がいてよかった!

2005/7/15
(追記)

『明治大正翻訳ワンダーランド』(鴻巣友季子、新潮新書)を読んでいたら、
「『野ブタ。をプロデュース』の中に「寒い。寒いよパトラッシュ」なんて台詞が出てきてちょっと話題になった。」

と、書いてありました。読んだけど気づかなかった。本屋で立ち読みしたら、たしかに6ページに出ていました。これは「パトラッシュ」ですね、やはり。『野ブタ。をプロデュース』は、日本テレビでドラマ化されて(土曜夜9時放送!)、また売れてるみたいですね、この本は。
2005/11/9
(追記2)

岩波少年文庫の『フランダースの犬』(野坂悦子訳)では、
「パトラッシュ」「ネロ」
でした。
2005/11/11
(追記3)

近くの本屋さんで見つけた「ポブラ社、大石真訳」の「フランダースの犬」(冒頭で書いた本ですね)はもちろん、
「パトラッシェ」「ネロ」
でしたが、その奥付は、
19887月第1刷、2007427刷」
でした。もう一冊あったので、それも見てみました。そちらは、
「金の星社、いもとようこ文絵」
の「フランダースの犬」で、これの奥付は、
20063月発行、20086月第6刷」
とわりと新しいもの。こちらは、
「パトラッシュ」「ネロ」
でした。
2009/1/7