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◆ことばの話2225「硫黄島」

「『硫黄島』の呼び方は『イオージマ』か『イオートー』か?」

という話が先日の用語懇談会放送分科会の席で出ました。
これについては、防衛庁、文部科学省、国土地理院は「イオージマ」。しかし、地元の小笠原村の村長はじめ村民は「イオートー」と言っていると、ついこの間、実際に硫黄島から中継を担当したT記者がそう報告しました。
そして、共同通信は、最初「イオートー」としていたが、「島嶼(とうしょ)辞典」では「イオージマ」だったので「イオージマ」に変更したとのこと。各社の反応を聞くと、読売テレビ、NHK、フジテレビ、TBSも「イオージマ」。
ただ、日本テレビの委員から、
「日本テレビ社会部は、先日の高岡記者(YTV)の中継の後に『イオートー』としたが、まだ徹底していない」
という意見が出たので、今後の動きには注目です。
また、NHKの放送文化研究所のことばのホームページでも、2001年1月1日付でこの問題が取り上げられていて、研究主幹の豊島秀雄さんという人が、以下のように回答しています。
(Q)東京都小笠原村の空港建設計画をめぐるニュースで、「硫黄島」の名前が出てきましたが、この島の読みは[イオージマ][イオートー]のどちらでしょうか。

(A)[イオージマ]です。<解説>
戦時中、軍によって一時[イオートー]とよばれ、今も通称・俗称で使われる場合もありますが、正式の島名は[イオージマ]です。しかし、関係者でつくる「硫黄島(いおうとう)協会」という組織もあり、関連の固有名詞の読みには注意が必要です。また、鹿児島県三島村(みしまむら)にも「硫黄島」がありますが、こちらの読みも[イオージマ]です。

ということでした。
現地の人たちは、占領軍・米軍が「イオージマ」と言っていたので、その名称は使いたくないので「イオートー」と言いたい、という思いもあるようです。

2005/7/10
(追記)

2006年8月22日NHKお昼のニュースで、硫黄島の星条旗の写真を撮った従軍記者・ローゼンソル氏死去の報を伝えていました。そこでNHKのアナウンサーは、
「いおうじま」
と言っていました。NHK放送文化研究所のホームページのとおりですね。
2006/8/25
(追記2)

クリント・イーストウッド監督の最新作で話題作の
『硫黄島からの手紙』
のテレビCMを見ていると、
「いおうじま」
と言っていました。
2006/11/7
(追記3)

2007年6月19日の読売新聞に、
「硫黄島は『いおうとう』」
という見出しの記事が出ていました。それによると、
「国土地理院(茨城県つくば市)は18日、太平洋戦争の激戦地として知られる硫黄島(東京都小笠原村)の呼称を『いおうじま』から『いおうとう』へ変更することを決めた。北硫黄島、南硫黄島も『とう』に統一し、地図の表記も『とう』となる。」
ホオ!そうなりましたか!さらに記事を読み進めると、
「小笠原村によると、旧島民らは戦前から『いおうとう』と呼んでいたが、昨年公開された米国映画『硫黄島(いおうじま)からの手紙』の影響もあり、テレビなどで『じま』と発音されることが多くなったため、旧島民から苦情が寄せられていたという。村は国土地理院に対して呼称の変更を要請していた。国土地理院によると、硫黄島は1968年の本土返還後、地図では『とう』と表記されたが、82年に都の公報に基づき、『じま』に修正された。米国では戦時中から『じま』と呼ばれていた。」
とありました。
これで、この問題にはケリがついたということでしょうかね。
平成ことば事情2772「シマとトー」もお読みください!

2007/6/20



◆ことばの話2224「こちら時間で」

7月7日、その前日に2012年のオリンピック開催地に決定したばかりの、イギリス・ロンドンで同時多発テロが起きました。7月8日の正午の時点で37人の方が犠牲になってしまいました。
そのニュースを伝えるNHKロンドン支局の記者の人(鴨志田記者)の言葉遣いで、気になったのは、
「こちら時間で」
という言い方です。その後も、この人は、
「こちらのメディアは大きく取り上げています」
というふうに、
「こちら」
という表現をよく使っていましたが、なぜかその表現を耳にすると、疎外感を覚えたのでした。「こちらはそちらとは違うのよ」と言われているような雰囲気が出てました。
「こちら」「そちら」という表現は、自分がいる場所が基点なので「すごく主観的」な感じがするのです。それならば客観的に、ちゃんと「ロンドン時間」と言えばいいのになあ。
そう感じたのでした。
2005/7/10



◆ことばの話2223「ひとパック」

コカ・コーラ ナショナルビバレッジという会社から出ている”国民健康飲料”、

「大豆ノススメ」

という飲み物のコマーシャルで、在阪他局制作の長寿クイズ番組の司会者にして俳優の児玉清さんが、そのクイズ番組での司会のパロディで、この飲料をPRしています。その時に、

「納豆ひとパック分の大豆イソフラボン」

と言っています。(実際の飲料のボトルには、「大豆胚芽150粒分の大豆イソフラボン」と記されています)「パック」という助数詞の前に来る数字の読み方が、
「ひと(つ)」
という和語数詞です。「ワンパック」でも「いちパック」でもありません。これには3つの理由が考えられると思います。

(1)「パック」という外来語の助数詞が、もう生活の中に溶け込んでしまって、外来語っぽさを感じさせなくなってしまったために、数詞も「和語数詞(=ひと)」が選ばれた。
(2)児玉さんが日頃から和語数詞を使うのに慣れていたために、外来語由来の「パック」という助数詞であるにもかかわらず、「ひと(つ)」という和語数詞を使った。
(3)(1)と(2)の両方が重なったため。


まあ、私たちも「パック」という助数詞には随分慣れていますから、この場合「ひとパック」「いちパック」「ワンパック」のいずれの言い方にも違和感はありませんよね。
数の数え方は本当に難しいですねえ。
なお、「平成ことば事情1495数字の数え方3」「平成ことば事情415・1グループ、2グループ」などもご参照ください。
2005/7/7
(追記)

「パック」は、「ひとパック」(和語)、「いちパック」(漢語)、「ワンパック」(英語)すべての数詞の数え方がOKですが、
「ダース」
は、「いちダース」(漢語)だけですね。「ひとダース」(和語)、「ワンダース」(英語)とは言わないですねえ。

2005/9/29



◆ことばの話2222「バグダッドはなぜ言いにくい?」

以前から気づいていたのですが、
「バグダッド」
という地名を正確に言う人は少ないですよね。たしかに濁音が続くと言うにくいんですよね。
なぜなんだろう?
ふと、思いつきました。
「『シンドバット』と『バット』と『獏』の影響ではないだろうか?」
と。
つまり、「シンドバット」「バット」という風に、「バッ」と来た場合に、最後は濁らない「ト」となる方がなじんでいるのではないか。ホラ、カバンの「バッグ」のことを「バック」と言うのも同じような理由かも。そして、「バグ」より「バク」の方が言いやすい。「バグ」は、最近でこそパソコン関係で耳にするようになってきましたが(私は)、昔から親しんでいるのは「バク」のほう。「獏」にも通じます。
「バグ」というのをケータイで変換してみると、1つ(平仮名と半角カタカナを除く)しか出てきませんが、「バク」だと17種類出てきます。これは「バグ」より「バク」の方が日本人にはなじんでいる証拠と言えませんか?(語彙が多いという点で)
同じく「ダッド」の変換は1つですが、「ダット」には「脱兎」というのも含むと2種類あります。
これを組み合わせると、
「獏脱兎=バクダット」
というふうなイメージが働いて言いやすいのではないかと。どうでしょう?
Google検索では(7月10日)

「バグダッド」 =23万9000件
「バグダット」 =1万7500件
「バクダット」 =1万3500件
「バクダッド」 =2万2700件

逆のケースもあります。果物の、
「アボカド」
は、なぜだか全部濁って、
「アボガド」
だと思っている人が多いのではないでしょうか。そうだとすると、「日本人は濁るのを嫌っている」とは、一概には言えませんよね。
Google検索では(7月10日)、

「アボカド」 =22万6000件
「アボガド」 =18万7000件

でした。「カ」一つだけ濁らないのは区別しにくいので、全部濁ってしまえ!ということなのでしょうか?それだったら、「バグダッド」だって全部濁っていいはずなのにそうはならないケースが多い文字ではちゃんと書いてあっても、そう読めている人は少ない)のは、なぜか。やはり『「獏」「脱兎」』のイメージが影響しているのではないか?
もう一つは、日本人は「グ」の音が鼻濁音的な「ング」というような形になって、これが「ク」に近いと意識されているのではないか、というふうにも思います。どうでしょうねえ。
2005/7/10



◆ことばの話2221「悩ましい」

合唱団の大先輩T氏から、最近の言葉遣いについてこんな疑問を受けました。
「最近、『頭が痛い問題だ』という意味のことを言う時に、『悩ましい問題です』なんて言うのをよく聞くんだけど、『悩ましい』というと、性的な魅力でひきつけるようなことを指して言うんじゃないのか。あの遣い方はおかしくないかい!?」
という質問を受けました。それを聞いた別のT先輩は、
「『悩ましい』と言えば『青い山脈』やな」
「?なんですか?」
「ホラ、『変しい変しい』とか『脳ましい』とか書いた偽の恋文があったやろ」
ああ、そう言えばそんなことがあったかも・・・。「恋しい」を間違えて、
「変しい」
と書いたり、「悩ましい」を間違って、
「脳ましい」
と書いたラブレターですね。「ノーマシー」という外国の映画もありましたが。キム・ベイシンガー主演。サブタイトルは「非情の愛」。慈悲がないのですね。調べたら1986年の映画でした。その後彼女はアレックス・ボールドウィンと結婚してるんだなあ・・・あ、離婚してる。1953年生まれだから、今、52歳か。けっこういいお年です。
話が横道にそれた。
「悩ましい」がそういう使われ方をするということは、実は時々指摘されている言葉の問題なので、どこかにそのことが書いてあったよなあ、と思って新聞のスクラップをめくってみると、ありました、ありました!
朝日新聞の「ことばの交差点」というコラム(現在は「ことば力養成講座」と改題)で、2004年の8月22日に取り上げられています。そこには、「悩ましい目つきで誘惑する」は「官能的」という意味だが、「悩ましい決断の連続だった」「悩ましい問題だ」という場合は「思い悩む」「難儀だ」の意になると。
そしてこれまで「悩ましい」は「官能的」の用法が主流だったので、「思い悩む」方はあまりなじみがなかった。こうしたことから、
「『官能的』が正しい用法で、『思い悩む』は新しい用法ではないか?」
という疑問がよく出されるそうです。これに対して早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんは、
「古語の『なやまし』は一貫して『思いわずらう』『つらい』の意味で使われており、『官能的』の用法は近代に入って登場したので、新用法ではない」
と話しているとのこと。また、三省堂国語辞典の編者だった故・見坊豪紀氏も、
「古語の用法が復活した事例」
としているそうです。
そして、2001年度の文化庁の「国語に関する世論調査」では、「官能的」の意味に使う人が48%、「思い悩む」は32%だったということです。おそらくその後、「思い悩む」の使い方をする人が増えているのでしょうね。
このスクラップのコピーをT大先輩に送ると、返事が返ってきました。
「『悩ましい』についてスクラップをお送り頂き有難うございました。物事を一面的に見てはいけないということをまた教えられました。ある意味では小生の偏見であったかとも思います。それにしても、「悩ましい事態が起きつつある」というような使い方には、自分としてはどうしても違和感があります。古語の復活といっても、何故今になってとの思いもありますが、言葉としては納得することが出来ました。これからはこの言葉を見ても今までのような不快感はなくなるものと思います。
悩ましい問題がひとつ消散しました。有難うございました。」

それはお役に立ててよかった!
2005/7/7
(追記)

こう書き終えて家に帰って読んだ日経新聞7月7日の夕刊に、こんな記事が。
2012年のオリンピック開催が決まったロンドンだけれども、サッカー競技の場合、ワールドカップだとイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つのサッカー協会から別々に4チームの代表が参加しているが、オリンピックは1国1チームなので、ラグビーの全英代表「ブリティッシュ・ライオンズ」のようなチームを結成するかどうか注目されているとのこと。その記事の中にこんな一節が。
『悩ましい問題に国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長は「2012年までまだ時間はある。イングランドとしては出場できない。が、どんなチームで出るかは英国の問題だ」と話した。』
と、シンガポール発・共同通信の記事は伝えています。これも「悩ましい」問題なのですね。

2005/7/8
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