◆ことばの話2215「ダンサー」

NHKの午後の番組の中で、大阪局からダンスに熱中する若者を取り上げていました。インタビューに答えたそういった若者がいう「ダンサー」のアクセントに耳を疑いました。彼ら・彼女らは、
「ダンサー(LHHH)」(Lは低く、Hは高く発音)
と平板アクセントでそう言っていたのです。「ダンサー」が平板かよお!
もちろんアクセント辞典では、
「ダンサー(HLLL)」
と、頭高アクセントしか載っていません。若いOアナウンサーに聞くと、
「こういったダンスをやっている若者の間では『ダンサー』は平板(LHHH)でしょうね。頭高で『ダンサー(HLLL))と言ったら、かえってヘンに思われますよ。」
そーだったのか!いつのまにか「ダンサー」まで平板に!!平板アクセントだと、
「あ、そこダンサーがありますから、注意してくださいね。」
というふうに「段差」と間違ったりしないのだろうか。「段差」のところに「ダンサー」が寝転がっていたりしたら、間違いやすくて困るじゃないか!!そこへ舞妓さんが、
「だんさん、こんばんはあ」
と訪ねて来たら、一体どうするつもりだっ!
もちろんこれまでにも、いわゆる「専門家アクセント」(by井上史雄先生)で、その用語をよく使う人たちの間では、アクセントは平板になる傾向があることはわかっていました。
「ドラム」「ギター」「バイク」
といったものを趣味・仕事で使う人たちは、平板アクセントで言うようになってくるということです。「ダンサー」も平板になって、それがダンスにあまり縁のない私の耳にも触れるようになってきたということは、ダンスブームが広がりを見せているということですかね?
でも、Oアナウンサーによると、
「『ダンス』は頭高アクセントのままですね。これは平板で『ダンス(LHH)』とは言いませんね。」
とのこと。もし平板になると、「たんす」と区別がつかないからでしょうか?
まさか!
2005/6/27



◆ことばの話2214「ボーイング777の読み方」

MBS・毎日放送のFアナからメールが来ました。それによると、
「『ボーイング777型機』を、NHKさんは『ナナ・ナナ・ナナ』と一文字ずつ読むのはどうしてか。ご存知だったら教えて欲しい。」
ということでした。MBSでは、一応「ナナヒャク・ナナジュー・ナナ」と、一つの数字として読むことにしているそうなのですが、NHKでは「ナナ・ナナ・ナナ」と読んでいるのを見て、「うちも、ナナ・ナナ・ナナでいいのではないか」という人もいて意見が分かれているそうです。で、読売テレビではどうしているのかも含めて教えてくださいというメールでした。
そこで、こんな返事を出しました。
「『放送で気になる言葉・改訂新版』の数字の数え方、84ページに、
「ボーイング767」=「ナナロクナナ」(ナナヒャクロクジューナナとも)
として、併記してありますが、これはNHKさんが「ナナロクナナ」を主張されたから、まず「ナナロクナナ」を載せ、他社ではうち(日テレ系列)なども「ナナヒャクロクジューナナ」だったと思います。(フジは「ナナロクナナ」だったか・・・も。)そのときにNHKさんの説明で聞いた「ナナロクナナ」の理由は、『ボーイング社の飛行機のナンバーは、「7×7」で、「×」の部分に開発順に数字が入っている。つまり・・・764、765、766、『767』、768・・・という風に続き番号があるのではなく、「727」「737」「747」「757」「767」「777」「787」という風に続くので、それぞれ百の位、十の位、一の位を独立して読む』というものだったと思います。つまり、電話番号だと「7654−3210」を普通は「ナナ・ロク・ゴー・ヨンのサン・ニー・イチ・ゼロ(レイ)」と独立して読むのと似ているのかもしれません。その際にフジテレビのTさんが資料を持ってこられて、「YS−11」は「YSジューイチ」と読むが、もともとは「YSイチ・イチ」だったという話をされました。これも「型番号」だというのが理由ですが、現在では「ジューイチ」が定着してしまっているので、「イチ・イチ」と言うと、一般の人には「何を言ってるの??」と言われそうですが。こんなところで、いかがでしょうか?」

一応このメールで納得していただけたようですが、私も気になっていて、そんな時に『飛行機物語』(鈴木真二、中公新書:2003)という本を見つけたので読んでみると、ボーイングについての関連情報がわかったので、またメールしました。

「アメリカでもおそらく『ボーイング747』は、
『セブン・フォー・セブン』
と分けて言うから、それに歩調を合わせて『ナナ・ヨン・ナナ』になっているということかもしれません。また『777』の通称は『トリプル・セブン』なので、そちらの方が通用しているかもしれませんね。
『飛行機物語』(鈴木真ニ、中公新書)という本には、ボーイングの1号機は水上飛行機で、最初の成功飛行機は『40A』という名前だったこと。その後『YB−9』、ジェット爆撃機『B−47』、プロペラ機の『B―247』、同じくプロペラ機で『空飛ぶホテル』と呼ばれた2階建ての豪華旅客機『B―377』などがあって、その後ジェット旅客機のベストセラー『B―707』が開発されたということなどが記されていました。
おそらくその1950年代から、ボーイングの「7×7」という型式が続いているのでしょう。最新型は『B−787』です。ご参考までに。」

飛行機の世界の奥は深いですねえ。
2005/6/27



◆ことばの話2213「カカア」

6月25日緒の深夜(実質26日未明)、コンフェデレーションズ・カップの準決勝、ブラジル対ドイツの試合を、TBSの清水大輔アナウンサー(彼はもと、同じ系列の札幌テレビで、また大学のゼミの1年後輩でもあるのです)の実況で見ていた時のこと。ブラジルのメンバーの一人、
「カカ」
という選手の名前を言う時に、清水アナはさかんに、
「カカア」
と言っていたのが耳に残りました。中高アクセントで、
「カカア(LHL)」
つまり二つ目の「カ」を高く発音しているのです。これがどう聞いても「母親」の意味の
「かかあ」
に聞こえてしまって、なんだかおかしくて・・・。「おとう」という声が聞こえたりして。たしかに現地の発音では二つ目の「カ」にアクセントがあります。そして背番号の上の名前の表示にも、二つ目のAの上にアクセント記号までついていましたから、清水アナの発音は、現地音により近い発音なのですが、なんとなく・・・。
そう言えば同じブラジル代表だった、
「カフー」
という選手も中高アクセントで、
「カフー(LHL)」
でした。そういう意味では、カカ選手のカタカナ表記も、
「カカー」
とすべきなのかも知れません。そうすれば中高アクセントでもおかしくないか。
外国語のアクセントのある位置を日本語(カタカナ)で表そうとすると、「−」と長音符号にするか、「ン」とはねるか「ッ」と詰まるかの3つの方法がありますが、必ずしもアクセントを表記しないケースもありますからねえ。
それにしても外国語をカタカナにするって、難しいですねえ・・・。
2005/6/28



◆ことばの話2212「口をつむる」

小2の息子に、
「ちょっと、口、つむっとけ!」
と言ったのを耳にした妻が、
「さっきの『つむる』だけど、あれって『つぐむ』じゃないの?」
と質問してきました。言われてみれば、たしかに「つむる」のは「目」で、「口」は「つぐむ」ですよね。でも私はごく普通に「口をつむる」とこれまで言ってきたようです。
辞書を見ると、やはり「つむる」は「瞑る」と書いて、本来は「つぶる」。意味は「目」に使われているようです。「口」に使われた例はないようです。
ネットでGoogle検索してみると(6月20日)、
「口をつむる」=100件
「口をつぐむ」=9010件
でした。圧倒的に「口をつぐむ」が多いです。しかも「口をつむる」の中には、はっきりと、
『「つむる」は間違い。正しくは「つぐむ」』
と書いてあるサイトもあります。アッチャー・・・。
さらに、なんと「口をつむる」で検索して出てきた中には、私が書いた「平成ことば事情」の中の例まであるではないですか!平成ことば事情1633「3票の読み方に思う」の中に、
「3羽(サンバ)」の場合の「ン」は口をつむるので「m」の発音。この時に口はつむっているが息は出ている状態です。こういう時に次に来る音は「バ」と濁音になる。(2)の状態です。
とあったのです。ありゃー、「口をつむる」を思いっきり2回も使っているなあ。
しかし私以外にも使っている人もいるということは、誤用かもしれないけど、方言かもしれないよね・・・。
「つむる」は「つぐむ」の転なのでしょうか?「瞑る(つむる)」は「つぶる」の転と、『広辞苑』には書いてありますが。
また、牧村史陽『大阪ことば事典』には、
「つむぐ」=口を閉じる。ふぐむ(噤む)のグとムとが転倒した語
として、なんと近松門左衛門から用例が引かれていますが、「つむる」は載っていませんでした。
この件に関しては、私は「口をつぐんで」おいた方が、よいのかもじれません・・・。
2005/6/20
(追記)

『日テレ放送用語ガイド』(2003年)の225ページに「言葉の誤用と乱用」の「(1)誤りやすい語句」として、しっかりと、
「口をつむる」
が載っていました。「『口をつぐむ』が慣用」と記されていました・・・。
2005/7/15



◆ことばの話2211「ジェンキンスさん一家」

アメリカのお母さんに会いに行っていたジェンキンスさん一家が、6月22日「日本に」帰国しました。それを伝えるニュースを見ていて、ふと思いました。

「いつから『ジェンキンスさん一家』という表現になったのだろう?以前は『曽我ひとみさん一家』ではなかったか?」

そこでネットでGoogle検索(6月22日)してみました。
「ジェンキンスさん一家」=751件
「曽我ひとみさん一家」=1万9300件
「曽我さん一家」=2万9900件

やっぱり「曽我ひとみさん一家」という表現の方が、「ジェンキンスさん一家」という表現よりも25倍以上使われていますね。そして「曽我さん一家」は、さらにそれより1万件も多く使われています
今回のニュースの主役は当然、ジェンキンスさんですから、
「ジェンキンスさん一家」
という表現で、まったく違和感はないのですが、曽我ひとみさんの存在が薄く感じられて、少し「おやっ」と思ったのでした。もし、夫婦同姓であれば、特にこういった使い分けはいらないのでしょうけど。
ところで、「ジェンキンスさん一家」「曽我さん一家」の戸主って、ジェンキンスさんなのかな?それとも、ひとみさん?
2005/6/22
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