◆ことばの話2200「ケバいとキャバい」

井上章一さんの本、『関西人の正体』を読んでいて出てきた、
「ケバい」
という言葉を見て、ふと考えました。
「ケバいとキャバいは、どう違うのだろうか?」
「ケバい」は「ケバケバしい」が省略されたような感じがします。「気持ち悪い」が省略されて「キモい」というような感じで、高校時代から、
「あの女、ケバいのお」
というように使っていたような気がします。(私は使っていなかったけど、「キモい」という言葉をよく使っていたS君やT君は使っていた。Y君も、「ケバッ!」というふうに使っていた。)
これに対して、「キャバい」は、「キャバレー」のホステスのように化粧が濃い状態(実際にキャバレーのホステスの化粧が濃いかどうかは、知らないのですが)を指すように思います。
こういう時は、やはりあれかな、『日本俗語大辞典』(米川明彦編)
「けばい」=(「けばけばしい」の略)女性の服装や化粧が非常に派手で嫌に思うさま。若者語。<類義語>けばっぽい
用例(かな?)で一番古いのは1984年の「現代用語の基礎知識」になっています。
そして、「キャバい」ですが、これは載っていませんでした。ただ、「キャバすけ」という言葉は載っていて、
「キャバすけ」=(「キャバ」は「キャバレー」の略、「すけ」は女)キャバレーに勤める女性のようにけばけばしい女性を嘲って言うことば。またそのようなかっこうをした女子大生を嘲っても言う。
と載っていて、用例は『週刊朝日』の1979年6月8日号とかなり古いです。
「キャバレー」=「けばけばしい」
という連想のつながりは当然あるようですね。音も近いし。
同世代のHアナウンサーに聞くと、
「昔・・・20年ぐらい前、もっと前かなあ・・その頃は『キャバい』と言っていましたが、その後『ケバい』に変りましたねえ」
とのこと。「キャバい」は一時の流行語だったのかも?新語を早く採用することで知られる『三省堂国語辞典』にも、「キャバい」は載っていませんでしたが「けばい」は載っていました。
「けばい」=(俗)服装やけしょうが、ひどくはでなようす。
なんだか平仮名が多いけど。なんで漢字を使って、
「服装や化粧が、ひどく派手な様子」
と感じにしなかったんだろうか?また別の疑問が。
なおGoogle検索(6月15日)では、
「ケバい」=1万2300件
「けばい、派手」=1360件
「キャバい」=245件

この数字を見ていると、一般的には「ケバい」の方が俗に使われていて、ごく一部で「キャバい」ということもあるという程度のようですね。わかりました。
2005/6/15



◆ことばの話2199「林 健治さんか元受刑者か」

和歌山の毒入りカレー事件で、殺人などの罪に問われた林真須美被告の夫が、刑期を終えて6月7日に滋賀刑務所を出所しました。これを伝えた各メディアの、「林健治」に付ける呼称がバラバラでした。ホームページなどでチェックしたところによると、
YTV=「林 健治さん」
ABC=「林真須美被告の夫」「夫」
KTV=「林真須美被告の夫・健治元受刑者」「健治元受刑者」
MBS=「林真須美被告の夫」「夫」「林 健治さん」

そしてNHKのラジオでは、
「林真寿美被告の夫の林 健治さん」
でしたが、女性アナが、「夫」を「男」と言いかけて、あわてて言い直していました。「男」と「夫」では、全然印象が違いますからね。
本来なら、刑を終えて出所した場合には匿名ですが、この事件の場合は妻がまだ裁判中、しかも夫もそれに関ってくるので、どうしても呼称・呼び名が必要になってきたわけです。
なお新聞は、
読売=「元受刑者」
朝日=「元受刑者」
毎日=「元受刑者」
日経=「元受刑者」
産経=「受刑者」→「元受刑者」

でした。産経は、
「夫の健治受刑者が七日、刑期を終えて滋賀刑務所(大津市)を出所した。取材に応じた健治元受刑者は・・・」
ということで、「元」の使い方を時系列上、厳密にしていました。しかし、原則として新聞は「元受刑者」で統一されていると見ていいでしょう。
それに対して放送は、いろいろ呼称に苦労しているようです。
林真須美被告の控訴審判決は、6月28日に言い渡されますから、その時にもまた、「林 健治さん」の呼称が目に付くと思います。
2005/6/15
(追記)

2009年4月21日、最高裁判決は高裁判決を支持、林真須美被告の死刑が確定しました。その判決を前にして、「夫・林 健治」にインタビューをした様子のVTRを、「情報ライブ・ミヤネ屋」で放送しました。その際の紹介の原稿・ナレーションは、
「林 健治さん」
「さん」付けでした。特に違和感はありませんでした。刑期を終えて出所してすぐの時期と、それから4年の歳月が流れてからでは、呼称も変わってくるのですね。当たり前といえば当たり前ですが。
そして5月18日付で、最高裁は、死刑判決に対する被告側の訂正申し立てを棄却する決定をし、林真須美被告の死刑が、本当に確定しました。
2009/5/25


◆ことばの話2198「ミッフィーか?うさこちゃんか?」

今年はあのディック・ブルーナ作のウサギのキャラクター、
「ミッフィー」
が誕生して50周年の年にあたるのだそうです。
でも、あれ、私が小さい頃には、たしか
「うさこちゃん」
と呼ばれていたと思うのですが・・・。
そこで、子供の頃親しんだ「うさこちゃん」の本を出している福音館書店のホームページをのぞいてみると、「うさこちゃんとミッフィー」という項目があったのでクリックしてみました。そこには、こう書かれていました。
『他社から出版されている本やビデオで、うさこちゃんがミッフィーとよばれていることにお気づきのかたがいらっしゃるかもしれません。うさこちゃんのもともとの名まえはオランダ語でネインチェ・プラウス。ネインチェは「うさちゃん」、プラウスは「ふわふわ」という意味です。ミッフィーという名まえは、うさこちゃんの絵本がオランダ語から英語に翻訳されたときにつけられた名まえです。』

あ、やっぱり「うさこちゃん」だったんだ!うれしい!「ミッフィー」は英語からか。
大人になってから「うさこちゃん」のことを「ミッフィー」と言っているのを耳にした時は、なんだか、よその人のような(人じゃないけど)感じがしていました。昔、一緒に遊んだのに、外国に引っ越して外国人になってしまった友達のような・・・。そんなヤツはいないけど。
ちなみに6月14日のGoogle検索だと、
「ミッフィー」=27万5000件
「うさこちゃん」=3万1500件

でした。
2005/6/15
(追記)

家の近くの図書館に4歳の娘と行った時に見つけた、「ミッフィー」と「うさこちゃん」の絵本、いくつか見比べてみました。すると、同じ内容でもタイトルと訳者と出版社が違うものがありました。たとえば、
福音館書店『うさこちゃんのさがしもの』(松岡享子・訳、初版2008920)
と同じものが、講談社から、
『ミッフィーどうしたの?』(角野栄子(かどのえいこ)・訳、初版2004、10、1)
で出ていました。.講談社からは1995、6、30初版で、
『ミッフィーのゆめ』(舟崎靖子・訳)
という本も出ていて、角野さん以外に、舟崎さんという方も訳しているようですね。福音館書店も、石井桃子さん以外に松岡享子さんという方が訳していますし、翻訳の競演ですね。
2009/6/1
(追記2)
うさこちゃん改めミッフィーの、(ブルーナの地元)オランダでの名前は、「ネインチェ」
と上に書きましたが(もう忘れてたけど)、カタカナに移すときは、
「ナインチェ」
とも書くようです。Google検索(7月25日)では、
「ネインチェ」=   2290件
「ナインチェ」 = 5万9100件
「うさこちゃん」9万2500件
「ミッフィー」1330万0000件
でした。「ミッフィー」が圧倒的でした。
2010/7/25



◆ことばの話2197「食い倒れ」

井上章一の『関西人の正体』という本を読んでいたら、
「最近の若い人は『食い倒れ』の意味を、はき違えている」
ということが書かれていました。
「本来は、食い物にお金をかけすぎて身上つぶすことを『食い倒れ』と言ったが、最近は『食べ過ぎて倒れる。倒れるまで食べる』ことを『食い倒れ』と思っている人が増えた」
とのこと。ええ?ホンマかいな、と思って会社で1年後輩のHアナに聞いてみると、
「食べ物道楽で、身上、潰すこと、ですよね。」
と正解。さすが!しかし6年後輩のWアナウンサーに聞くと、
「食べ過ぎて倒れることじゃないんですか?」
という答えが。Oアナウンサーに聞いても、
「食べ過ぎて倒れること?」
という答え。今年入社のIアナ(長野出身)、Mアナウンサー(長崎出身)に聞いても、やっぱり、
「食べ過ぎて倒れることですよね。」
という答えが。やっぱり・・・井上章一は正しかった・・・。
さらに、
「大阪食い倒れ、京の着倒れって言うやろ」
と言うと、新人アナ2人から、とんでもない質問が出てきました。
「京の『きだおれ』って、『気持ち』の『気』ですか?」
「えーっ!?アホかいな。『着物』の『着』、『着る』の『着』に決まってるやろ!」

と答えると、IアナとMアナは、
「そうなんですか!京都は、形式ばって堅苦しいから、気持ちが息苦しくなって、それで倒れるから『気倒れ』だと思っていました。」
という答えが。ふーん、そんな考え方ってあるんだねえ・・・。
また、神戸出身のWアナからは、
「神戸は『はき倒れ』っていいますよ!」
という意見が。そうなのか。ケミカルシューズで「履き倒れ」か。まさか「吐き倒れ」ではないですよね・・・失礼。
また、3年目のKアナウンサーにも聞いてみたところ、
「食い倒れですかあ・・・食って食って食って、倒れてしまうことじゃないんですか。」
という予想通りの答え。
「じゃあ、着倒れは?」
と聞くと、
「きだおれ・・・ですかあ?聞いたことありません。」
ガクッ!
でも14年目のMアナウンサーや8年目Oアナ、7年目のYアナ、6年目のMアナも、「食い倒れ」の意味は「食べ過ぎて倒れる」だと思っていましたし、Yアナに至っては、Kアナと同じく「着倒れ」を知りませんでした。そして新人君と同じく、
「気を使って倒れるってこと?」
などと言っていたのです。ショック・・・・。
Google検索(6月14日)では、
「食い倒れ」=10万2000件
「着倒れ」=792件
「履き倒れ」=233件

「履き倒れ」は神戸だけでなく東京、名古屋でも言うようですね、ネットで見ると。やはり、全国的に定着しているのは「京の着倒れ、大阪の食い倒れ」で、それに続けて3番目には各地で、ご当地を織り込むという形ができているのではないでしょうか?
ほら、
「日本三大○○」
と言った時に、1番目2番目は決まっているけど、3番目は土地によって言われ方が違うようなことが、よくあるでしょ?あれと一緒じゃないかなあと思います。
ついでに、「気倒れ」も、念のため検索。
「気倒れ」=1件
だけど、これは誤字じゃないかな、正しくは「着倒れ」のつもりだったのではないでしょうかね。文脈は、
『「讃岐の気倒れ」という諺があるように、比較的見栄っ張りで冠婚葬祭も派手。』
というものでしたから。
しかし、こういう風にして「食い倒れ」の意味が間違って伝わって変っていき、「着倒れ」もいつの日か「気倒れ」になってしまう日が来るのかもしれません・・・。残念なことですが。そういう日が来るのを一日でも遅くするために、頑張らなくては!
ちなみに『日本語新辞典』『新潮現代国語辞典』『新明解国語辞典』には、「食い倒れ」「着倒れ」は載っていましたが、「履き倒れ」は載っていませんでした。
2005/6/14



◆ことばの話2196「肥満児」

「あさイチ!」で紹介するその日の朝刊の紙面に「肥満児」という言葉が出てきました。なんか、懐かしい感じ。それで、
「よく昔は、『今、何時?』『肥満児!』なんて言いましたね」
というと、若いスタッフは皆、
「????」
という反応。ただ、一人、同年代のNチーフプロデューサーが、
「言うた、言うた!よう言うた!」
と手を叩いて喜んでいました。まあ、この番組の視聴者の平均年齢は、比較的高いから、いいか。
5月26日のGoogle検索では、
「今、何時?肥満児」=833件
でした。ちなみに、その後に続く言葉は、
「何分過ぎ?太りすぎ」
だそうですけど。いやぁ、子供って、こういう遊びの言葉の天才やなあ・・・。
反省会の時にNチーフプロデューサーは、こうボヤいていました。
「まあ、しゃーないわな、今の時代。こないだおれが、ヤセポチのことを『骨川筋衛門(ほねかわ・すじえもん)』とゆうたけど、誰もわからんかったからな。」
・・・それは、わからんと思う。ちなみにGoogle検索(5月26日)では、
「骨川筋衛門」=522件
でした。まだ「肥満児」の方が多いな。「骨川筋衛門」は江戸時代か?
ついでにこれも検索してみましょう。(6月14日)
「百貫デブ」=1200件
この言葉は、まだ生きているようです、あんまり聞かないけど。昔よく言われたなあ・・・子供心に傷つきました・・・。みんな、もう言わないようにしようね。
2005/6/14
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