◆ことばの話2175「四神」

これももう去年の夏の話なのですが。その日、夜勤だった村上順子アナウンサーから、置き手紙が。そこには、こう書かれていました。
「『きょうの出来事』のニュースの中に出てきた原稿で、『四神』の読み方で迷いました。つまり、『シシン』と平板アクセントか、それとも頭高アクセントで『シジン』かということです。過去の原稿や共同通信の原稿でも、両方の読み方があったようです。結局デスク判断で『シシン』と読みましたが、『広辞苑』や『アクセント辞典』には『シジン』しか載っていません。どちらで読めばいいのでしょうか?」
私は「シジン」だと思っていました。ただ、過去にチェックしたノートには、
「1998年3月6日、NHK夜7時のニュースの、キトラ古墳のニュースでは『四神』を『シシン』と濁らなかった」
というメモがありました。三省堂の『大辞林』は「シジン」と濁っています。
文化財担当のH記者に聞いたところ、
関西の専門家の先生は、みんなは『シシン』と濁らずに言っていますねえ。でも辞書は『シジン』と濁っていますねえ。専門家に合わせた方がいいのかなあ。『三角縁神獣鏡』も、昔は『サンカクエン・シンジュウキョウ』と言っていたらしいですけど、最近は『サンカクブチ・シンジュウキョウ』と言いますし、読み方が変わることもあるんじゃないですかねえ。」
とのことでした。
2005/5/5



◆ことばの話2174「BRICs」

ここ1年ほど、新聞紙上で目にする機会が増えたアルファベットに、
「BRICs」
があります。
「ブリクス」
と読むようです。5月3日の日経新聞にも、
「損保の海外戦略 BRICsが主戦場に」
という見出しが出ていました。それによるとこの「BRICs」は、
「ブラジル(B)ロシア(R)、インド(I)、中国(C)」
という4つの国のことを指し、その頭文字を取ったのですね。「s」は複数形の「s」かな。この4か国は「新興市場国」、つまり経済成長の度合いが大きく、今後成長が期待されている国ということですね。
ネットの「Yahoo!辞書」では、すでにちょうど1年前の5月7日に取り上げられています。

「BRICs」(2004年5月7日)=『ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国の頭文字をとった造語。アメリカの大手証券会社ゴールドマン・サックス社が、2003年秋に投資家向けにまとめたリポートで用いて注目されている。現在のペースで経済が発展していくと、上記4か国が世界経済地図を大きく塗り替えるという予測である。今後30年以内に、日本経済は規模の上で中国はもちろん、インドにも抜かれてしまう。2039年には、現在の世界の経済大国のトップ6か国(G6)であるアメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアの合計を「BRICs」が経済規模で上回り、2050年には中国、アメリカ、インド、日本、ブラジル、ロシアの順となるとしている。BRICsが今後30〜50年の間に浮上することは、世界のパワーバランスにも大きく変化をもたらすともいわれている。BRICsはそれぞれすでに地域大国となっており、中国、ロシア、インドは核保有国、中国とロシアは国連安全保障理事会常任理事国として拒否権を行使することができる。これらの国々が経済的な実力を身につけることで、世界はアメリカの一極支配から、「多極化」構造へと変わっていくと予測する研究者もいる。』

最近話題になっている日本の国連の常任理事国入りですが、ここでも日本と並んで名前が挙がっているのが、実はブラジル、インドなんですねえ。ちなみに言うまでもなく、既に中国とロシアは常任理事国です。こういった国々が経済成長を遂げれば、政治的な発言権を強めることにもつながり、たしかに国際間のパワー・バランスが変わってくるかも知れません。
Google検索では、
「BRICs」=4万2100件
でした。まだ経済紙や経済面でしか目にする機会はないかもしれませんが、今後ますますこの「BRICs」を目にする機会は増えるかもしれませんね。注目です。

2005/5/5



◆ことばの話2173「ボウリングとボーリング」

5月4日、尼崎の転覆脱線事故があった4月25日の午後に、JR西日本の天王寺車掌区の社員43人が、親睦のためのボウリング大会を行なっていたことがわかりました。事前に計画されていたものとは言え、事故が起きていることを知りながら、中止せずに行なっていたことが、遺族やケガをした被害者の感情を逆なでしています。
さて、ここで出てきた「ボウリング」。今朝のニュース原稿では最初、
「ボーリング」
となっていました。これだと。
「掘削・穴掘り」
の意味になってしまいます。英語の綴りで言うと、これは、
「boring」
です。そして今回、問題視されている球転がしのスポーツは、
「ボウリング」=「bowling」
つまり料理に使う「深鉢」や、「深い鉢の形をした球戯場」(=アメリカンフットボールで出てくる「ローズボウル」「スーパーボウル」などの「ボウル」)の
「bowl」
「ing」をつけた形ですね、綴りの上では。
です。これは『新聞用語集』にも記されています。そして英和辞典を引くと、「ボーリング」と「ボウリング」の二つの単語の発音は違います。
しかし、『NHK日本語発音アクセント辞典』を見ると、この「ボウリング」と「ボーリング」の発音は、共に、
「ボーリング」

なのです。つまり、「ボウリング」を発音するときは、書かれたとおりに「ボウリング」と読む(発音する)のではなく、「ボーリング」と「ボ」の長音で発音するのです。
ところがこれを二重母音で「ボウリング」と読んでいるケースを耳にしました。これは、日本語は言文一致、表記と発音は完全に一致しているという「勘違い」から起きるのではないでしょうか。
表記では二重母音を認めているのに、発音ではそれを認めないという矛盾が露呈しているように思います。
2005/5/5
(追記)

平成ことば事情2412「ボウリングのボウル」も、あわせてお読みください。
2006/3/15



◆ことばの話2172「断突」

先日の用語懇談会の席で、
「断トツ」
という言葉について話が出ました。これはもともとは、
「断然トップ」
という言葉で、それを省略して「断トツ」となっているのだから、
「断トツで最下位」
は、意味が矛盾しておかしいし、
「断トツでトップ」
「トップ」が二回重なっているのでおかしい、というような話が出ました。
そんな中で、委員の一人から、
「たしかに辞書には『「断トツ」は「断然トップ」の略』と書いてあるが、本当にそうなのだろうか?もしこの『トツ』というのが、『飛び出している』という意味で、『突出』の『突』であるならば『断突トップ』は二重にはならないし、『断突で最下位』もおかしくないことになる。そもそも『トップ』の『プ』だけ省略されて、しかも促音の小さな『ッ』が残る形で、それが大きな『ツ』に変るような略語の例は、ほかにあるのだろうか?」
という疑問が提示されました。なるほど、私はこれまで「断トツ」は「断然トップの略」と信じて疑わなかったのですが、たしかに言われてみると「断突」の可能性も否定できませんよね。
Googleで検索すると(5月2日しらべ)、
「ダントツ」=60万6000件
「断トツ」=3万7900件
「だんとつ」=1万3500件
「断突」=1万0600件
「段突」=2900件
「段トツ」=1530件
「断凸」=380件
「断トッ」=5件

でした。ネット上では、表記上は「ダントツ」が、ダントツです。続いて「断トツ」。このうち「断凸」は、中国語のHPが含まれていたので、もしかしたら中国語でも「ダントツ(断凸)」という言葉があるのかもしれません。発音はわかりませんが。
誤用についても引いてみましょう。(Google5月5日しらべ)
「ダントツトップ」=7860件
「ダントツ最下位」=525件
「だんとつトップ」=4280件
「だんとつ最下位」=953件
「断トツトップ」=4020件
「断トツ最下位」=2710件
「段突トップ」=474件
「段突最下位」=10件
「段トツトップ」=1件
「段トツ最下位」=4件
「断凸トップ」=2件
「断凸最下位」=0件

という結果でした。「ダントツトップ」「だんとつトップ」「断トツトップ」は、かなり使われていますね。『AERA』の2004年9月13日号(27ページ)で、マリナーズのイチローに就いて書かれた文章(『チームの「弱体」が生んだイチロー大記録の「わけ」』編集部・石川雅彦)の中に、
「現在、マリナーズはア・リーグ西地区で断トツの最下位。」
という例がありました。皮肉を込めて使う場合にはこれも誤用とは言えないかもしれませんが、その場合には「断トツの”最下位”」のように、「本来の使い方ではないですよ」とわかるように表示する必要があるのではないでしょうか。
『新明解国語辞典』の見出しは、
「だんトツ」
で、「断トツ」とも書く、とあります。『三省堂国語辞典』も見出しは「だんトツ」でした。Google(5月5日しらべ)では、
「だんトツ」=4030件
です。『明鏡国語辞典』の見出しは「断トツ」で、「ダントツ」とも書くとあります。『岩波国語辞典』『新潮現代国語辞典』『日本語新辞典』も見出しは「断トツ」
『日本国語大辞典』でも見出しは「断トツ」。用例は1963年の石原慎太郎『死のヨットレース脱出記』からで、
「スタートからダントツ(断然トップ)で出たが」
とあります。
今後も「ダントツ」「断トツ」、そして「断突」には気をつけていきます。
2005/5/5



◆ことばの話2171「たこやきの数え方」

先日、Jリーグの試合を取材するために久しぶりに長居スタジアムへと向かいました。
その際、地下鉄御堂筋線・長居駅を出てすぐのところに店を出していた、たこやき屋さんの「たこやき」は、
「一舟 400円」
でした。単位は「舟」。「舟の形をした薄い竹の容器」に入って出てくるんでしょうね。
そこから長居スタジアムへ歩いていくと、スタジアムの近くでも屋台が出ていました。こちらは「ジャンボたこやき」で、
「1パック 500円」
でした。「ジャンボ」だと「舟」では入りきらずに「パック」になるんでしょうか。「パック」だとプラスチックというか、発泡スチロール容器なんでしょうね。
同じように見えるたこやきの容器、その数え方にもいろいろあるんですね。
2005/5/1