◆ことばの話2125「シーラーク!」

3月25日土曜日、千秋楽を翌日に控えた春場所14日目。横綱・朝青龍が優勝を決めました。その土俵を見守っていたのが、来日中のフランスのシラク大統領。大相撲好きの大統領は、横綱の優勝を見届けると席を立ちました。
その時、満員(だったと思う)の会場・大阪府立体育会館の観客が、こう、はやし立てたのです。
「シーラーク、シーラーク!」
あまりそういった会場の音を拾わないNHKの集音マイクを通しても、はっきりとそのシラク・コールは聞こえてきました。それを聞いて思ったのは、
「フランス大統領に向かって『シラク・コール』なんぞをするのは、大阪ならではだろうなあ。国技館なんかではありえないんだろうなあ。」
ということでした。あ、そう言えば、会場の大阪府立体育会館、プロレスの会場としても有名。この「シラク・コール」は、「イノキ・コール」のように、プロレスのノリだよなあと思ったのでした。誰か、一人ぐらい、
「よっ、大統領!」
とか、言ってたりして。しかしこのノリは、モンゴル人の横綱も、嫌いではないみたいで、翌日の千秋楽後の優勝インタビューでは、会場の観客に向かって、
「大阪の皆さん、おおきに!」
と大阪弁を使ってお礼を言ってました。なんだか、ほんわかしてしまいました。

2005/3/29


◆ことばの話2124「着させてもらうか?着せてもらうか?」

「ズームイン!SUPER」のディレクターから電話がかかってきました。
「つかぬことを伺いますが、『着せさてもらう』か『着せてもらう』か、どっちが正しいんでしょうか?」
「どういうシチュエーションなの?」
「Kアナウンサーが尼寺に行って、貴重な袈裟(法衣)を着たのですが、それを表現するにあたって、『着させてもらった』か『着せてもらった』かということなんです。」
「うーん、これは難問だねえ。いわゆる『さ入れ言葉』という間違った使い方の言葉があるよねえ『やらさせていただきます』とか。また何にでも『させて』を入れてしまうようなこともあって指摘されるけど、今回はそれではないような。でも考えると難しいな。両方ありそうなんだけど。」
と言って、一旦電話を切って考えました。日本新聞協会の新聞用語懇談会放送分科会編『放送で気になる言葉・改定新版』で「さ入れ言葉」の項を見ると、
「使役の助動詞は五段とサ変の動詞には『せる』がつき、それ以外の動詞には『させる』が付く」
と書かれています。「着る」は「上一段動詞」ですから、これに従うと、「それ以外の動詞」となり、「させる」が付いてよいということになります。つまり「着させてもらう」で良いように感じます。ただこの文章は「てもらう」という、いわゆる「やりもらい関係」の言葉が後ろについているので余計に話がややこしい。この動詞の主語・主体が途中で入れ替わっているようなのですね。
「着させてもらう」の場合はあくまでその言葉を言っている本人が「着る」という動作を行い、その行為をすることを「させてもらっている」という謙譲した言い方なのに対して、「着せてもらう」という言葉の場合は、「着る」のはもちろんこの言葉を発している本人なんですが、「着せる」という行為を誰か別の人がやっている、その違いがあると思います。
一応、そうディレクターに説明して
「じゃあ、『着させてもらう』でいきます!」
ということになりました。
その翌日、この話を後輩の野村アナウンサーにしたところ、少し考えた彼は、
「それは、『着る』という動詞と『着せる』という動詞の違いじゃないんですかねえ。」
と言うではありませんか!
「そうか、わかった!そのとおり、これは『着る』に使役の助動詞『させ』と『てもらう』が付いたのが『着させてもらう』で、『着せる』に『てもらう』が付いたのが『着せてもらう』。だから、その行為に意味の違いが出てくるんだね!」
と、はっきりしたのでした。
なかなか難しい質問をしてくるんですよねえ、最近みんな。

2005/3/29


◆ことばの話2123「チャブ」

けっして「チャボ」ではありません。「チャブ」です。「ちゃぶ台」も関係ありませんが、漢字で書くと「卓袱台」。それとは関係ない「チャブ」を見つけたのは、1月14日の朝日新聞。3か月近くも置いたままにしていました・・・。
見出しによると、
「英の若者『チャブ』現象」
「『悪趣味』な外見 犯罪に警戒感も」
とあります。本文は、
「英国の04年の流行語に耳慣れない若者集団の呼び名が選ばれた。『CHAV(チャブ)』。派手な装飾品を身に付けた外見から、『悪趣味』とからかう人も多い。繁華街を中心に増えている。盗みや麻薬に手を染めることもあり、こうした若者への警戒感も目立つ。」
とのことで、「チャブ」の解説を見てみると、
「呼び名の由来は、ロマ民族(英語ではジプシーとも呼ばれる)の言葉で、子供を意味する『CHAVI(チャビ)』とされる。一般的には経済的に貧しい家庭に育った白人の10から20代大学などで高等教育を受けていない。特徴はファッションと言葉遣い。格子じまのデザインで有名な英国の高級ブランドを好む。野球帽にジャージーという運動着が定番。大きな金の耳飾りをする女性が目立つ。仲間うちだけで通じる隠語を多用し、好みの映画俳優や歌手などの名前を『チャブ風』と称し、自分の子供に命名することもある。」
なんだか、わかったような、わからないような。まあ、見たこともないしね。イギリスにも流行語大賞なんて、あるんですね。それも知らなかった。
ネットの検索エンジンGOOGLEで「チャブ」「ロマ」の2語をキーワードで検索すると(3月27日)、373件出てきました。それほどネットでも日本では認識されていない言葉のようですね。
その後(1月以降)、新聞でもあまり目にしない言葉ではあります。やはり流行語だったのでしょうかね。

2005/3/27


◆ことばの話2122「グワシ」

3月24日、モリゾウとキッコロ(つい、キッコリーと言ってしまう・・・)の出てくる「愛・地球博」の開会式をテレビで見ていると、
「これは世界共通のアイ・ラブ・ユーという手話の言葉なんだ」
という子供たちのナレーションによって、会場のみんなが小泉総理まで、
「親指と中指と小指の3本を立てて」
いました。その指の形を見て私が思ったのは、
「これって楳図かずおの漫画『まことちゃん』の『グワシ』じゃないか!」
ということでした。それを口に出したところ、同世代のI部長とHアナが声を揃えて、
「たしかに!!そうか、『グワシ』は『アイ・ラブ・ユー』の意味だったのか。この年になるまで知らなかった」
と叫びました。私も同じ思いです。
『まことちゃん』の「グワシ」をネットで調べてみました。すると「グワシの歴史」とい
うサイトが見つかりました。
(http://66.102.7.104/search?q=cache:jd47BMFkd-8J:umezz.com/gwashi/+%E3%82%B0%E3%83%AF%E3%82%B7&hl=ja)

それによると、「グワシ」は物をつかむ時の擬態語(そのままやがな)で、指の形には変遷があったことがわかりました。
それによると最初の「グワシ」は中指1本を立てる形でしたが、アメリカ在住の読者から「それは、『ファック・ユー』の指の形に似ている」
との指摘を受けて、急遽変更。次に出てきた「グワシ」は、
「中指と小指を曲げるサイン」(=つまり親指と人差し指と薬指を立てる)
ものだったとのこと。一般的に「グワシ」と言えばこのサインを意味します。私は、
「親指と中指と小指を立てる」(=人差し指と薬指を曲げる)
のが「グワシ」かと思っていましたが、どうやら、逆みたいですね。でもよく読むと、私がやっていたようなものも「バリエーション」としてはあったようなのでした。
いずれにせよ、愛・地球博の開会式で、「グワシ」を思い出そうとは思いませんでした。
2005/3/24
(追記)

何人かの方から、「アイ・ラブ・ユー」の指の形は、「親指と中指と小指の3本を立てる」のではなく「親指と人差し指と小指を立てる」ではないかとご指摘をいただきました。私もTV画面で、しかもあまりアップではない画像を見ていたので、見誤ったのかも知れません。訂正させていただきます。小指がI、人差し指と親指でL、小指と親指と手首でYを表している(で、I Love You)とのことです。ご指摘いただいた皆さん、どうもありがとうございました。
2005/3/31
(追記2)

先日(6月6日)、TVコマーシャルに楳図かずおさんが出ていて、「まことちゃん」の作者本人が、
「グワシッ!」
とやっているのを見かけました。ちょっと感激。
2006/6/15
(追記3)

2006年7月24日号『ビッグコミックスピリッツ』のカラー特集で楳図かずおの『神の左手 悪魔の右手』の映画公開の話題の記事が出ていました。そこに、
「さあ皆さんご一緒に『グワシの左手 ギョエーの右手』!!」
というフレーズが書いてあって、そのポーズをする楳図かずおさんと映画のヒロインの渋谷飛鳥(しぶや・あすか)さんの写真イラストも描かれています。(手の部分だけイラストなのです。)
それによると「グワシ」は、「親指と人差し指と薬指」を伸ばし、「中指と小指」を曲げていました。本家本元です。ところでこの映画はヒットしたのかな?
2007/5/29


◆ことばの話2121「大騒動」

日本テレビのTさんからメールが来ました。
「『大騒動』の読みを私はずっと『おおそうどう』だと思っていましたが、最近、映画『シャークテイル』のCMで『だいそうどう』と言っています。『広辞苑』にはどちらも出ていません。どちらが正しいのでしょうか?」
そりゃあ、もちろん、
「おおそうどう」
が正しいでしょう。CMのナレーターが、間違って読んでるだけじゃないの?と思いましたが、一応調べて返事を出しました。

「大騒動」はやっぱり「おおそうどう」でしょう。『NHK日本語発音アクセント辞典』『NHKことばのハンドブック』「おおそうどう」しか載っていません。
このあいだから、用語の懇談会の放送分科会で検討している『新聞用語集』の改訂でも「オー」で読む中に「大騒動」がちゃんと入っていました。「NHKことばのハンドブック」354ページに「『大』の付く語の読み方」というコーナーがあって、基本的に、漢語に付く「大」は「ダイ」、和語に付く「大」は「オオ」と書いてあります。それとは別に、漢語なのに「オオ」が付くものも慣用的にあるとして、

大一番、大火事、大げさ、大げんか、大御所、大散財、大地震、大時代、
大掃除、大騒動、大道具、大入道、大番頭

という例が挙がっています。ただ「大地震」「大舞台」「大時代」などの「大」を「ダイ」と読む人も増えていて、これは本来の漢語的なものに戻りつつあることを示しているのだとも言え興味深い、と記してあります。
2月21日の読売新聞・大阪版の夕刊コラム「ことばのこばこ」に武庫川女子大学・言語文化研究所の佐竹秀雄先生が「大地震」というタイトルで書いていました。それによると、

『「ダイ」と読む例と「オオ」と読む例を比べても、規則性は認めにくい。あえて言うなら漢語でも身近に感じる語の場合には「オオ」になりやすいと言えるかもしれない。その程度である。』

ということです。つまり「大騒動」という言葉と、それを使う人との親密度(よく使うかどうか)によって、「オオ」と言うか「ダイ」というかは変わってくる。余り使わない、言葉の歴史を知らない人の方が「ダイ」と言い、この言葉をよく使い歴史を知っている人は「オオ」と言う傾向がある、ということですね。
また『日本国語大辞典』には「大騒動」は「おおそうどう」の見出しで載っていました。用例としては、17世紀のものが載っていました。「だいそうどう」はありませんでした。』

また、「大」の読み方の関連で言うと、昨日(3月23日)のニュースで、ライブドアの堀江貴文社長、通称・ホリエモンが、「大株主」のことを、
「ダイカブヌシ」
と言ってましたが、これもやはり従来、
「おおかぶぬし」
と読むべきものでしょう。堀江社長はもしかしたら「大金持ち」を、
「ダイカネモチ」
と読むのかな?

2005/3/24