◆ことばの話2085「4月の新学期」

しとしとと降る2月の雨。今日、2月19日は雨の土曜日です。そう言えば、昨日2月18日は、二十四節季のひとつ、「雨水(うすい)」でした。雪が解けて雨になるという時期ですね。もう次の二十四節季は「啓蟄」ですから、早いものです。
その雨の降る中、出勤してくる道で思ったのは、
「6月の梅雨の雨はもっと湿気があってジメジメしてイヤだよな。それに比べれば今の時期の雨の方が、まだマシかな。」
それとともに
「梅雨に入る前に、春、新学期が来る。新入生や新入社員が街にあふれて、自分は新入社員でもないのに、なんだかちょっとウキウキしたりする季節だよな。桜が咲いて街全体が華やいだ、はしゃいだ雰囲気になるよね。でもそれは、日本の場合には4月が年度始めだから新入生が入ってくるのだけれど、アメリカみたいに年度が9月から始まる場合には、4月だからといって特別の感慨はないのかな。「町の雰囲気」と言っても、特にそういったものが街に”物理的に”充満する(=つまり、人間の気分を高揚させるような化学物質が街の空気中にばら撒かれる、というようなこと)わけではなく、個々人の意識の中での捉え方がそうなるだけだよね。日本でも、学校の学年の変わり目(=年度始)を9月にするなんて話が、サマータイム論議と同じくらい”時々”出てくるけど、それって4月が9月になるだけの話ではなくて、現在生きている日本人の持つ根本的な感情まで変えてしまうかもしれないということだよね。うーん、そうなると賛成できないな。」
などと考えているうちに会社についてしまいました。
いろいろな「年度」があることは、「平成ことば事情433冷凍年度」で書きました。また、国によって学校の年度始めが違うことも「平成ことば事情1255各国の新学期はいつから?」に書きました。そこから各国の新学期開始を引き写すと、
(1月)シンガポール
(1月下旬〜2月上旬)オーストラリア、ニュージーランド
(2月)ブラジル
(3月)アフガニスタン、韓国、アルゼンチン
(4月)日本、インドネシア、ペルー
(5月)タイ
(6月)フィリピン
(8月)ハワイ
(9月)アメリカ、イギリス、アイルランド、サウジアラビア、カナダ、
カザフスタン、中国、イタリア、スペイン、フランス、ドイツ、
オランダ、エジプト、香港、台湾、トルコ、メキシコ、キューバ、
(10月)ナイジェリア、カンボジア

各国それぞれに伝統と理由がきっとあるのですよ。ブラジルやニューシーランド、オーストラリアなんて南半球だから、1月や2月と言っても「夏から秋」だもんね。シンガポールは1月が一番暑くなくて、しのぎやすいんじゃないですか?おそらく。
そういった事情も考えた上で、
「日本は4月に新学期が始まるのがいいなあ」
と、改めて思いましたね、きょうは。


2005/2/19

(追記)

読売新聞が連載していた「さくら考」。この2006年4月5日の記事を読むと、「桜=若者の門出」のイメージは、入学式が4月に行なわれるようになったことから定着したそうです。ということは、小学校の新学期が4月から始まるようになったのは、
1892年から(帝国大学や旧制高校は1920年まで9月入学が続いた)
ですから、「さくら=門出」のイメージは、かなり「後付け」ということだということです。
また、「桜=いさぎよく散る(散華)」というイメージを植えつけたのは、歴史学者の平泉澄(きよし)東京帝国大学教授であると。それに反対したのが、国文学者のあの山田孝雄(よしお)皇學館大學初代学長だと。「新解さん」の山田忠雄のお父さん。その山田孝雄には『櫻史(おうし)』という桜研究の名著があるそうです。これは『桜が作った「日本」』(佐藤俊樹、岩波新書)にも出てきました。復刊が待たれると書いてありましたが、先日、本屋さんに行ったら、およ!出ていたので購入。これから読もう・・と思っていたら桜の季節が終わりそうなので、また来年かなあ。年年歳歳、花相似たり。年年歳歳、人同じからず、ですか。
2006/4/14


◆ことばの話2084「講談社現代新書のデザイン」

講談社が出している読書人のための雑誌に、その名もズバリ『本』というものがあります。その2005年1月号の巻末(68ページ)に、「お詫びと訂正」が載っていました。
それによると、講談社現代新書は今度装丁を変更したとのこと。(本来は「装丁」の「テイ
」の字は、「巾偏に貞」で記されています。以下、同じ。)それは私も2004年の12月頃に本屋さんで気づいていました。これまでのクリーム色のカバーから、白をベースにカラフルな色(本によって違う)を用い、背表紙の色もツヤのある目に鮮やかな色に変更されました。あまりなじまないなと思っていたのですが、どうもそのデザイン変更を巡って「いざこざ」があったようなのです。その「お詫びと訂正」には、講談社現代新書出版部の名前で、こう記してありました。
『既刊書については表紙・カバーを順次変更して参りますが、本文デザインは従来のままとなります。それに伴い、二00四年十月一日付重版分の現代新書奥付には、装丁者として杉浦康平氏およびスタッフのお名前を記載し、カバー袖にカバーデザインとして中嶋英樹氏のお名前を記載しました。この件につき、これまで装丁をご担当いただいた杉浦康平氏より「私のブックデザインは本全体の流れを重視してまとめてきたものであり、思考・方法のちがうほかのデザインと混在させる今回の重版・在庫本に対する措置は容認できない」旨のご指摘をいただきました。(中略)なお上記重版分につきましては、奥付から装丁者の項目を削除させていただきます。』
ふーむ、これは前のブックデザインをした杉浦さんの方に理があるなあ。前のクリーム色のカバーはその本ごとに絵が違ったし、それを本体は変わらずに表紙だけ付け替えるのは「ブックデザイン」としてどうなのか、という問題ですよね。名前をはずしたらそれで終わりとは言えないような。
我が家に講談社現代新書は100冊くらいありますが、一番古くに購入したものは、大学時代に買ったもので、安倍北夫『パニックの心理〜群集の恐怖と狂気』という本。これは昭和49年8月28日初刷で私が購入したのは昭和55年3月5日の5刷です。これは既にクリーム色のカバーですが、カバーをはずした本体の表紙の色は「カーキ色」。講談社現代新書の364番です。『講談社現代新書』自体は、1964年(昭和39年)4月に創刊しています。そして私が持っている一番古い番号のものは、小林正『フランス語のすすめ』で、番号は17番。初版は昭和39年9月16日、私の持っているのは昭和56年2月19日の38刷(!)のものです。その後の講談社現代新書、カバーは変わりませんが、本体の表紙は「濃いサクラ色」になりました。
そして去年秋に変わった表紙、たとえば読書日記にも書いた井上章一&関西性欲研究会『性の用語集』(2004年12月20日初刷)などは、番号は1762番です。講談社現代新書にとって去年2004年は、創刊から40年という節目の年だったのですね。それで表紙も一新したのか。
ちょっと納得して我が家の本棚を眺めると、なんともっと古い講談社現代新書を見つけました。数年前に東京の古本屋さんで購入した、藤原与一『ゆたかな言語生活のために〜方言から見た国語』という本。これが昭和44年11月16日の初刷のものでした。そしてこの本の表紙にはカバーはなく、本体の表紙はシンプルな「赤」でした。そもそも昔はこういうタイプだったのかもしれません。そう思うとデザインの変更もしょうがないのかなあと言う気がしてきましたね。
ところでこの本、表紙の裏に、
「田中様 恵存」
と青いインキの万年筆で記されています。著者の藤原与一さんの字なのでしょう。せっかく著者からもらった(買ったかもしれないけど)本なのに、おそらくこの田中という人は、読みもしないで古本屋さんに売っちゃったんだろうなあ・・・古本はそういう背景が想像できて楽しいですね。


2005/2/18


◆ことばの話2083「小泉今日子の肩書き」

2月17日、小泉今日子さんが「あて逃げ」で書類送検されました。それを報じた各紙の、小泉さんの「肩書き」が微妙に違いました。
(読売)歌手で女優
(朝日)タレント
(毎日)タレント
(産経)歌手で人気タレント
(日経)歌手で女優

そのほか、
(日本テレビ)女優
(フジテレビ)歌手
(TBS)タレント
(共同通信)小泉今日子タレント
(時事通信)人気タレント
(日刊スポーツ)歌手
(スポーツニッポン)歌手、タレント
(サンスポ)歌手で女優
(デイリースポーツ)歌手で女優


「歌手の小泉今日子」=       484件
「女優の小泉今日子」=        693件
「タレントの小泉今日子」=     374件
「小泉今日子タレント」=      1050件
「歌手で女優の小泉今日子」=   520件
「歌手で人気タレントの小泉今日子」=0件
「人気タレントの小泉今日子」=    3件


共同通信が「小泉今日子タレント」としたので、配信を受けている西日本新聞や四国新聞、愛媛新聞など地方新聞も「小泉今日子タレント」を使ったために、1050件にもなったのでしょうね。
それにしても小泉さんの現在の職業は、何だと言えばいいのでしょうか?
難しいですね。どれも間違いとは言えないけど、こんなにバラバラだと、なんだかよくわからなくなりますねえ・・・。

2005/2/18



◆ことばの話2082「アスタリスク」

「情報ツウ」を見ていると、ORANGERANGEの新曲を紹介していました。そのタイトルは、
「*〜アスタリスク」
だそうです。アスタリスクと言うと、この前の用語懇談会放送分科会で、
「*このマーク、なんて言ったっけ?」
という質問が委員の中から出て、みんなが、
「アスタリスクですよ」
と答えていたのですが、その後にボソッと、
「なんでアスタリスクって言うんだろうね。どういう意味かな?」
という声を出ました。そう言われれば「アスタリスク」ってどういう意味なんだろうか?そう思って調べてみることに。
『広辞苑』を引いたら、「アスタリスク」ではなく、「アステリスク」で載っていました。

「アステリスク(asterisk)」=(印刷用語)星印。「*」注を添える時などに使う。

とありました。なーんだ、そのままやんか、星印。おや・・・星・・・宇宙・・・アステリスク・・・たしか「宇宙飛行士」を英語で言うと、「アストロノーツ」だったのでは。英語のつづりは・・・「astronaut」、女性形は・・・女性形があるのか、女性形は「astronette」、そして旧ソ連のは「cosmonaut」か。
とすると、この「アステリスク」の「アステ(aste)」というのも、宇宙・空に関する接頭語なのかな?あ、そうか微妙につづりは違うけど、「星」「ster」「star」なんだ!
その前後の言葉を英和辞典から引き写すと、
・「asterism」
=1)3つ星印《*を上向きに△あるいは▽に配置した形》《注意を促すために節の前に置く。》
2)《まれに》[天]星群、星座。
・「asteroid」
=1)[天]小惑星(minor planet)《主に火星・木星間に散在》
2)[動]ヒトデ(starfish)[形]星状の。

というふうな、「星」に関する言葉がありました。
Googleで検索すると(2月18日)、
「アスタリスク」=17万    件
「アステリスク」=   5030件

でした。圧倒的に「アスタリスク」ですね、ネット上は。手元の国語辞典では、

「アステリスク」=広辞苑、明鏡国語辞典、新潮現代国語辞典、三省堂国語辞典、新明解国語辞典、日本国語大辞典
「アスタリスク」=************
掲載なし=日本語新辞典、岩波国語辞典、NHK日本語発音アクセント辞典、新明解日本語アクセント辞典、新聞カタカナ語辞典、新聞用語集、日本語大辞典

ということで、なんと手元の国語辞典はすべて「アステリスク」で、「アスタリスク」が載っているものはひとつもありませんでした。ネット上では圧倒的に「アスタリスク」の方が多いのに。このギャップはなんでしょうね。そもそも「アステリスク」も「アスタリスク」も載せていない辞書の方が多いような感じですもんね。

2005/2/18


◆ことばの話2081「コロリ」

車を運転しながらNHK第一ラジオを聞いていたら、投稿「都々逸(どどいつ)」コーナーをやっていました。ふだんあまり聞いたことのない都々逸ですので、どんなものかなと聞いていると、都都逸は「七・七・七・五」という形だそうで、言われてみれば「なるほど、そうか」と納得。その番組の中で紹介された昔の名句が、こういうものがありました。
「『赤い顔して コモ着ていても 非人ではなし 寒ボタン』。昔、乞食はコモを着て物もらいして差別された時代があった。封建時代に。」
と選者の「なかみちふうじんどう」さんという方が話していました。後でネットで調べてみたところ、漢字で書くと、
「中道風迅洞」
と記すようです。なかなか放送で「こじき」とか「物もらい」とか「非人」という言葉が、歴史以外で出てくることはありません。文学作品でも、なかなかないのではないでしょうか。おそらく生放送だと思いますが、特に注釈やお詫び・訂正はありませんでした。これを紹介したこと自体に差別意識はなく、「そういう時代もあった」ということを言っているだけなのですが、やはり普通は慎重にならざるを得ないところでしょうね。
そのことをSアナウンサーにメールで知らせたら、こんな返事が。
「『こじき』は知っていても『おもらい』なんて言い方は、若いアナウンサーは知らないでしょうね。」
そりゃそうでしょうね。そう思って、こうメールを送りました。
「そういえば昔、1970年代に北杜夫の本で『さびしい乞食』というのがあって、その主人公の名前が、『コロリ・オモライ』だったなあ。ボクが中学時代に読んだんだけど。」
するとまたメールで返事が。
「『コロリ』は『コレラ』と知ってる人はいるけど、『かごかきの蔑称』と知らない人が多いでしょうね。」
え?「コロリ」って「かごかきの蔑称」なの?し、知らないよ!そもそも「かごかき」だって蔑称として使われることがあるから、歴史上の言葉で使うならともかく、注意しなきゃいけない言葉でしょ。
「道浦さんも知らないんですか?」
知らない。『広辞苑』を引いてみました。
「ころり」(駕籠かきなどの隠語)=銭100文の符牒。浄瑠璃・博多小女郎波枕「石薬師までは道は二里有る、駕籠賃ころり」
なんだ、違うじゃないか、「ころり」は「駕籠かきのこと」ではなく、駕籠かきの間で使われる隠語で「銭100文のこと」ではないか!銭の形からきた言葉なんでしょうね。
Sアナもヘンな風に勘違いしていたわけで。
勉強になりました。
2005/2/18

(追記)

冒頭のNHKのラジオ番組、私は最後までは聞いていなかったのですが、番組の最後に、
「番組中、不適切な表現がありました」
というお詫びの放送が入ったということです。
また「中道風迅洞」さんが引用した句も、正確には、
「こも着ても 非人ではなし 冬ボタン」
という、読み人知らずの句だったということです。
2005/2/23
 
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