◆ことばの話2045「デューデリジェンス」

年末に日経新聞を読んでいると、
「今年(2004年)よく耳にし、もう定着した言葉に、『デューデリジェンス』がある」
という一文がありました。
え?「デューデリジェンス」?初耳です。「よく耳にした」って、どこで、だれが??一体それって、どういう意味なのよ?と思い、インターネット検索しました。
すると、載っていましたよ。

「デューデリジェンス」
=適正評価手続き。投資家が投資をおこなう際、もしくは金融機関が引受業務をおこなう際に、投資対象のリスクリターンを適正に把握するために事前におこなう、一連の調査のこと。たとえば、次のような手続きをデューデリジェンスと呼ぶ。
*証券発行の引受
引受けをおこなうにあたって引受人が、発行体の財務の安定性などを詳細に確認する手続きのこと
*不動産投資信託の運用対象
運用者が投資対象物件をさまざまな角度から調査・分析して、購入していいかどうかを判断するための諸手続きのこと。不動産の地質、地盤、建物の強度などの物理的調査、権利関係についての法的調査、マーケット価格と比べてどうかという経済的調査などが含まれる。

GOOGLE検索(1月11日)では、
「デューデリジェンス」=1万5500件

ふーん、あんまり私には関係のない世界だね。道理で耳にしたことがないはずだ。
でも世の中では、世の中の一部では使われていた言葉なんだね。一応、耳の端で聞いたということで。

2005/1/11


◆ことばの話2044「半畳を入れる」

なんでこんな言葉にひっかかったのか・・・今となってはわからないのですが、メモにこの言葉が残っていたんです。たぶん、「ハンジョウをイレル」「ハンジョウ」が漢字で書くと、
「半畳」
なので「へえー」と思ったんですよ。なんで「半畳」を入れるんでしょうか?どこに「半畳」を入れるんでしょうねえ?
・・・・・あ、思い出した。たしかに「ハンジョウをイレル」「ハンジョウ」の漢字は何かなと辞書を引いたら、何か「へえー」ということがあったんだ!もう一度辞書を引いてみよう。『新明解国語辞典』第六版。
「ハンジョウ」
「半畳」=(1)たたみ一畳の半分。

それは知っています。
(2)昔、芝居小屋で見物人が敷いた小さなござの類。
へえー、それをそう呼ぶとは知らなかったな。
「半畳を入れる」=役者の演技などに不満がある時、見物人が半畳を舞台へ投げたことから、芝居見物中にからかいや非難の掛け声を出す。
ええー!そうなのか!半畳を入れるって!(2)の半畳を投げ入れたのか!それって大相撲で波乱があった時に、土俵に座布団が投げ入れられる、あれと同じですね。あれも半畳を入れているのかな。さらに、
(3)「半畳」から転じて、相手の話をからかったり、交ぜ返したりすること。
今、普通の「半畳を入れる」は、この(3)のことを指しているのではないでしょうか。
ああ、これで思い出した。(2)の「半畳を入れる」が意外だったので、書き残しておきたいと思ったのでした。よかった、よかった。

2005/1/8

(追記)

『百年の誤読』(岡野宏文・豊崎由美)の370ページに、岡野氏の発言として、この「半畳を入れる」が出てきました。欄外に注釈が付いていて、
「『半畳を打つ』とも言う。芝居で、役者に対する不満・反感を表すため、自分の強いている半畳を舞台に投げうつことが由来。転じて、他人の言動に対し非難・揶揄する意味に。」
と豊崎氏が書いています。あ、そうか、「一畳」の半分のスペースの座布団だから「半畳」か。
「立って半畳、寝て一畳」
という言葉もありましたね。

2004/1/20


◆ことばの話2043「PET」

『週刊文春』(2004年11月4日号)で連載している「さすらいの女王」(中村うさぎ)を読んでいたら、
「PET」
という言葉が出てきました。「ペット」。最近、時々目にしたり耳にします。最初は、
「ペットボトル」
のことかと思っていたら、全然違うらしい。もちろん「愛玩動物」の「ペット」でもないことは言うまでもありません。何でもこれは、
「ガン(癌)を一発で調べることができる機械」
なんだそうです。
ネットのGOOGLEで「PETとは ガン」をキーワードで検索すると、1万1000件ヒットしました。その中で、(財)脳神経疾患研究所附属・南東北医療クリニックという専門機関のホームページによると、「PET」とは以下のようなものだそうです。

「PET(ペット Positron EmissionTomography)とは、陽電子放射断層撮影装置のことで、『ポジトロン・エミッション・トモグラフィー』の略語です。X線CTのような形をした『PETカメラ』を用いて全身や心臓・脳などにおいて、病気の原因や病巣・病状を的確に診断する新しい検査法です。
PET検査では、まず、陽電子(ポジトロン)を放出する検査薬(おもにブドウ糖と結合させた18F-FDG)を静脈から注射します。その陽電子が貪欲にブドウ糖(18F-FDG)を摂取する細胞(代表的なものはガン細胞になりますが)から放出されたガンマ線を検出することによって画像化し、ガンの発見が可能になるわけです。ガン細胞は正常な細胞に比べて約3〜8倍のブドウ糖を消費する性質を利用してPETによるガンの健診に使われます。」

とのことです。
実は、妻が医療機関の建設などの仕事に関っているため、1、2年前から時々この「PET」という言葉を耳にしていましたが、一般にはまだ、
(1)愛玩動物(2)ペットボトル
の意味でしか理解されないのではないでしょうか?この検査機械の場合は、略称なので表記がアルファベットで「PET」と記されることが多いでしょうから、表記上は区別がつくでしょうが、耳で聞いたら、愛玩動物もペットボトルのペットもこのPETも、文脈でしか区別がつきませせんね。そのうち、
「ペットの水飲みながら、ペットのPET検査の別途支払いをベッドで待っている」
なんてことも出てきたりして。ああ、もう分けがわかりません。

2005/1/14

(追記)

1月20日の朝日新聞朝刊に、
「がん診断で注目されるPET(陽電子放射断層撮影)の次世代機の試作に成功した」
と、独立行政法人・放射線医学総合研究所、千葉大学、島津製作所などのチームが1月19日に発表したという記事が載っていました。それによるとこの次世代機は、
「従来の3分の1の検査時間で、3ミリ以下のがんも見つけ出せる」
というスグレモノ。3年以内の実用化を目指すのだそうです。
この記事のPETの説明は、こう書かれています。
「PETはがんの早期発見に力を発揮する診断法。がん細胞が正常細胞に比べ、ぶどう糖をより多く取り込む性質を利用し、放射性物質を加えたぶどう糖を注射、放射線の検知でがんの有無を判定する。標準的な装置では5〜10ミリのがんが発見でき、全国に広がっている。」
とのことです。次世代機は画像の解析度が従来の1、5倍、感度は3倍、検査時間や被曝量は3分の1(従来の検査時間は15〜30分)だそうです。検査時間が短くなれば被曝量も当然減りますね。
本当にこういう分野では、科学は日々進歩しているのですね。

2004/1/20

(追記2)

妻にこの原稿を見せると、
「最近は、ダジャレではなく、本当に『ペットのPET』もあるのよ。」
ということでした。また、PETによるガンの早期発見について、
「膀胱がんは見つけられない」
とのことです。尿に反応してしまうので、ガンかどうか判断しにくいのだそうです。

2004/1/22
(追記3)

スクラップを整理していたら、去年(2004年)の12月の切抜きが出てきました。
朝日新聞の12月16日の生活欄(家庭欄)の「おいくらですか\」という記事で、「PETでがん検診」はおいくらか、というもの。「PET」には「ペット」というルビが振ってありました。
「特殊な薬剤でがん細胞の活発度をあぶりだすポジトロン放射断層撮影(PET)」
と書いてあります。ポジトロンというのは陽電子のことだそうですね。
で、横浜市港北区の「ゆうあいクリニック」の場合は、「PET検診のみ」だと9万2400円、PETのほかCT,MRI、超音波、血液、便、尿、腫瘍マーカーなどの検査をする「スタンダードがん検診」は16万5900円、そしてスタンダードがん検診と脳検診の「総合検診」だと26万0400円とのことでした。けっこうしますね。PET検診に健康保険が利くのは一部のがん患者らの治療に限られ、PET検査本体の費用は7万5000円に統一されているのだそうです。じゃあ、なんで、ゆうあいクリニックは「PET検査のみ」で9万2400円なんだろう?初診料とか、入るのかな?
そのほか「追記2」でうちの妻が言ったようなことも書いてあります。すなわち、PETの弱点である「脳、心臓、腎臓、膀胱などの部位や炎症部分はブドウ糖が元々集まりやすく、がん細胞が原因で集まったのか見分けにくい」とのことです。

2004/2/18
(追記4)

『Yomiuri Weekly』2005年4月24日号
で、
「リゾートと最先端『PET』の取り合わせ 連休は『がん検診』ツアー?」
という見出し。最近東京だとPET検診するのに予約で1か月以上待たされるのに眼をつけて(?)地方の病院でPETの機械を持っているところへ行き、ついでにゴルフや温泉なども楽しめるというパックツアーが人気なのだとか。記事によると、日本では3年前にPETの保険適用が認可されたこともあり、ここ1、2年で急速に認知されたのだが、PET検査装置は1台10億円以上もするため、全国でもまだ約70か所の医療機関にしかないのだそうです。大手旅行会社のエイチ・アイ・エスは、去年春に、
「宮崎PET―CT検診ツアー2・3日間」
というツアーを発売。料金は16万円台前半から19万円代後半。PET検診は東京女子医大病院では13万円ほどかかり、平均でも10万円前後なので、旅行もできて・・・なら格安感があるので人気なのだそうです。また、JALトラベルでは、北海道・帯広で、スカイマークツアーズでは福岡と鹿児島で同様のツアーを実施しているそうです。
ふーん、要は「はやり」なんだね。
2005/4/11

(追記5)

2006年3月3日の読売新聞夕刊に、
「PETがん検診 過信禁物」
「国立がんセンター内部調査、発見15%止まり」
と出ていました。2004年2月からの伊1年間で国立がんセンターを受信した3000人のうち、150人からがんが発見されたものの、そのうちPETで発見された人は23人(15%)で、残りの85%は、超音波など他の方法でがんが発見されたとのこと。夕刊の見出しの通り、過信は禁物ですね。でも、悪性リンパ腫や顔や首にできる頭頚部がんなどは発見されやすいそうです。
2006/3/24


◆ことばの話2042「着拒」

先日・・・詳しく言うと去年の11月30日、テレビを見ていたら、女性タレントの梨花(りんか)が、
「チャッキョ」
という言葉を使いました。一瞬、
「なんだろうか?チャッキョって?」
と思いましたが、2秒後にこれは、
「着信拒否」
の省略した形、つまり、
「着拒」
だとわかりました。そうか、若者は「チャッキョ」なんて言葉を使っているのか。
日本語のページでGOOGLE検索してみると(1月8日)、なんと、
「着拒」=1万8600件
もありました。ふーん、使われているんだ。ふだん「着拒」されたことがないし、したこともないから、わからないや。でも、もしされたら・・・キレるだろうな、オレは。
あ、でもキレる前につながらないのね、電話は。キレるからつながらないのか、つながらないからキレるのか。ニワトリが先かタマゴが先か、みたいな問題ですね、これは。
カタカナの「チャッキョ」は、
「チャッキョ」=972件
でその中に、知り合いの大阪外国語大学の小矢野哲夫先生のホームページ「けとば珍聞」があって、その2000年10月号「チャッキョ」と「バンツーオフ」という言葉を取り上げていました。というと、今からもう5年前には、この言葉はあったんだ。それによると、
「チャッキョ」は「着信拒否」、「バンツーオフ」は「番号通知オフ」。携帯電話にまつわる造語も続々と生まれる。(『朝日新聞』2000年9月27日朝刊「消費は動くか 自律回復正念場 上」)という朝日新聞の記事を取り上げた上で、「チャッキョ」については、第13回すっきゃねん若者ことばの会(2000年6月10日)で、大阪外大生が以下のような使用例を示した。「K:で、あまりにもキモイからミカなー着拒してんでー!」「N:うっそーまじゅでー?」「K:まじゅで!」「N:着拒ってふつう使わんやんなー? それ使われたヒロキってやっぱしょぼいな。あー、なんかなー。」
と使っていたそうな。あれ?このときの「すっきゃねん若者ことばの会」って、オレ出たぞ。ああ、聞いたのに忘れてたんだ。ショック・・・。「若者ことばの会」といえば、その主宰メンバーの一人、米川明彦先生の『日本俗語大辞典』(東京堂出版)にも「着拒」はやっぱり載っていました。
「着拒」=「着信拒否」の略。若者語。『現代用語の基礎知識2002年版』若者用語「ちゃっきょ 着信拒否」
とのことです。『現代用語の基礎知識』にも、もう3年前に載っていたのね・・・。
2005/1/8


◆ことばの話2041「無愛想」

新聞用語懇談会の放送分科会で、『新聞用語集』の中の「放送で標準とする読み方例」の改定作業を進める中で、ある委員からこんな質問が出ました。
「愛想」
の読み方は、「あいそう」ではなく、
「あいそ」
なのに(『新明解国語辞典・第六版』にも、見出し語は「あいそ」だけで、「愛想(あいそう)の短呼」と書かれています。)、「愛想」の反対語の、
「無愛想」
の読み方を辞書で引くと、
「ぶあいそう」
と「う」が付いていて、「ぶあいそ」という短い形が載っていないのはなぜか?という疑問です。言われてみれば、たしかにそうなんです。何ででしょうか?
「愛想」という言葉はよく使われるから「あいそう」が短縮化されて「あいそ」の方が正式な形になったのに対して、「無愛想」は、「愛想」ほど使われないから短くなってないのではないかと、一応私は答えたのですが、実際は「無愛想」もよく使いますし、ふだんの会話の中では、
「ぶあいそ」
と「う」を落とした短い言い方もしています。そうすると、
「なぜ辞書は『ぶあいそ』という形を載せていないか?」
という疑問になります。気づかないから、でしょうかね?
うーん、難しい・・・。考えている中で、こんなことを思いつきました。
「『愛想』を『あいそ』と読む時は、『あいそが良い』『あいそが悪い』というふうに、両方の言い方がある。つまり『あいそ』自体にはプラス・マイナスの意味はなく、ニュートラルなのではないか。つまりこの場合の『あいそ』の反対語は『無愛想』ではない。『あいそう(愛想)』の反対語は『ぶあいそう(無愛想)』で呼応しており、両方「う」が付いている。それに対して、『愛想』が『あいそ』と短く呼ばれる場合には、『あいそが良い』『あいそが悪い』という形で対応しているのではないか。」
どうでしょう、この考え方は。根本的な解決にはなっていないですけどね。
そのうち「無愛想」も、「ぶあいそ」で辞書に載るようになるのではないかなあ。
2005/1/8
 
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