◆ことばの話2020「ドン・キホーテ」

埼玉県内のディスカウント・スーパー「ドン・キホーテ」が放火される事件が相次ぎました。それを報じた12月16日の朝刊各紙の見出しの表記は、
(読売)「ドン・キ」
(朝日)ドン・キ
(毎日)ドン・キホーテ
(産経)ドン・キホーテ
(日経)ドン・キホーテ

で、毎日・産経・日経は略していないのでわかりませんが、読売と朝日は略しています。上から3文字目までで表記していますが、「ドン」と「キ」の間に「・」(ナカグロ)がしっかり記されています。つまり、このお店の名前の基になったセルバンテスの小説の主人公の名前は、
「Don Quixote(ドン・キホーテ)」
であって、決して、
「ドンキ・ホーテ」
ではないのですが、一般的にはその語感から、「ドンキ・ホーテ」だと思っている人は多いのではないでしょうか?その証拠に(?)、共同通信からの配信記事の見出しには、
「ドンキ」
と書かれていました。ナカグロなしです。これはなんとなくまずいような。12月17日付(16日夕発売)の『夕刊フジ』も、
「万引き女逮捕 ドンキ放火犯か」
という見出し。16日のテレビ朝日の「報道ステーション」と17日の日本テレビ「ズームイン!!SUPER」でも、
「ドンキ」
という字幕スーパーが出ていました。
GOOGLE検索してみると(12月16日)、
「ドン・キホーテ」=13万1000件
「ドンキ・ホーテ」=   6380件
「ドンキホーテ」= 11万1000件
「ドンキー・ホーテ」=  1110件

ついでにこんなのも。
「ドンキーホーテ」あるいは「ドン・キーホーテ」=594件
ロバのことを英語で、
「Donkey(ドンキー)」
ということから、ドン・キホーテの愛馬ならぬ愛驢馬(ロバ)の「ロシナンテ」が「ロバ」だからか、なんとなくイメージも「ドンキー」なんですよね。そうそう、ディズニーのアニメ映画、
「シュレック」
に出てくる、よくしゃべるロバの名前も「ドンキー」でしたね。ほかにも、
「○○キー」
という形の、おなじみのカタカナの名前には、
「ミッキー」
「ファンキー」
「ヤンキー」
「ビッキー」

など、いろいろありますよね。それで「なじみ」があるのかな。
このほか、昔「ドンキー・コング」というテレビゲームもありました。これに出てくるのは「ゴリラ」ですが、なんとなく「ドンキー」って聞き慣れています。英語の「Donkey」には、
「とんま・頑固者」
という意味もあるそうですから、「ドン・キホーテ」が「ドンキー」とイメージが重なるのも無理からぬところではあります。
さらに「ドン」という音の響きから我々が連想する漢字は
「鈍」
あるいは、
「丼」「呑」「曇」「貪」
といったもので、どれもあまり切れのよいものではありません。そのあたりも、「ドンキー」とイメージがダブっているのではないかなあと類推します。
同じように「ドン」がつく、ひょっこりひょうたん島の、
「ドン・ガバチョ」
や、これも有名な、
「ドン・ファン」
の場合は、しっかりと「ドン」が意識されていて、「ドン+○○○」という形が保たれているのに、「ドン・キホーテ」の場合は、「ドンキー」に引っ張られる形で、「ドン+○○○」の形が崩れているということです。
そういう意味では珍しいともいえますし、逆に入ってきたばかりの慣れない外来語ではなく、もっと身近な日本語と化しているというふうにも言えるのではないでしょうか。
2004/12/16
(追記)

「ドンキ・ホーテ」と切るのと同じようなものとしては、
×「トリコ・ロール」→○「トリ・コロール」
×「プエル・トリコ」→○「プエルト・リコ」
×「エルサル・バドル」→○「エル・サルバドル」

こうやって見ると、英語ではなく、スペイン語やフランス語といった、あまりなじみのない言葉が多いようですね。単語を知らないので、どこで切ってよいのかわからず、自分の持っているリズムで切ってしまうのでしょう。リズムが違うことに気づかないんですね。そうそう、四字熟語の、「一衣帯水」「五里霧中」も、
×「一衣・帯水」→○「一衣帯・水」
×「五里・霧中」→○「五里霧・中」

ですよね。これも、リズムが違うから起きる間違いでしょう。
他にも、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領のことも、最初の頃は、
「ノム・ヒョン」(正しくは、「ノ・ムヒョン」)
と読んでいるアナウンサーも少なからずいました。
知らない言葉を読む時には、自分が知っている言葉のリズムから類推して読むという、きわめて自然な流れなのでしょう。あとは、「正しい切れ目」がわかったあとに直していくかどうかという問題でしょうね。
2004/12/17


◆ことばの話2019「評されるか?称されるか?」

あるピアニストのコンサートのスポット・コマーシャルを聞いていて、次のようなコメントが気になりました。
「『ピアノの詩人』とヒョウされる」
これって、
「ショウされる」
の方が良いのではないか?と思ったのです。「評される」か「称される」かという問題です。このあいだ出たばかりの「新明解国語辞典」の第六版を引いてみると、
「評する」=(二)価値などを決める。評す。
「称する」=(三)ほめる。称す。

となっていて、どちらも意味の上では「ピアノの詩人」の後に続いても間違いではないし、それほど違和感はないと思います。しかし、このコメントは「コマーシャル」だということを考えると、中立的な「評する」よりも、ほめている感じの「称する」の方が良いのではないかなあという気がしました。
GOOGLE検索では(12月16日)

「評される」= 6万2100件
「称される」=18万7000件

「称される」の方が3倍使われていますが、必ずしも「ほめる」という意味で使われているわけではないようです。

2004/12/16


◆ことばの話2018「建屋」

新聞用語懇談会でいつもお世話になっている、日本新聞協会の用語幹事の金武伸弥さんが、2000年に出した『「広辞苑」は信頼できるか』(講談社)という著書の中で、
「建屋」
という言葉は「原子力発電所の建物」などで使われているが、国語辞書にはほとんど載っていない、ということを取り上げたことがありました。(133ページ・134ページ)
それによると「建屋」の漢字表記が載っているのは『学研国語大辞典』だけで、そのほかの辞典には「建家」の表記では載っているものの、
「建ててある家。建物」(『日本国語大辞典』。『広辞苑』『国語大辞典』『大辞林』『大辞泉』もほぼ同じ)
としか書いていなくて、戦後に科学技術用語として、原子炉など特別の働きをする装置等を収容する建物を指すような形で使われるようになったとかかれています。
なんとなくそれが頭に残っていたのでしょう、先日新聞の片隅の小さな記事に、その言葉を見つけました。11月23日の日経新聞で、ボーイング社と共同開発している富士重工が、ボーイング「7E7」の翼の建設のために愛知県半田市に新工場を建てるという記事が載っていたのです。その中で、工場のことを、
「中央翼を生産する新建屋を愛知県半田市に建設すると正式発表した。」
とありました。「原発」以外で「建屋」というのを見たのは初めてです。見出しは、
「新工場」
でしたが。
そこで、すぐに金武さんに「『建屋』を見つけましたよ」というメールを送りました。
その2日後、大分で開かれた用語懇談会の合同総会で金武さんにお会いして話を聞くと、
「『「広辞苑」は信頼できるか』で私が『建屋』の問題を取り上げるようになってから、それ以降の新しい辞書や改訂版には、だいぶん『建屋』という言葉が載るようになりましたね。」
とのことでした。そうかそうかと思って、今、手元の辞書で「建屋」を引いてみると・・・・・・・・
ないっ!載っていない!
出たばかりの『新明解国語辞典』の第6版(奥付は2005、1、10)には載っていません!また、これも出たばかりの『日本語新辞典』(2005年1月)にも載っていません!『明鏡国語辞典』(2002年12月)『新潮現代国語辞典(第2版)』(2000年2月)『岩波国語辞典』(第6版)』(2000年11月)にも載っていません!
かろうじて、2001年3月に出た『三省堂国語辞典』第5版には、
「建屋」=原子炉(ロ)などを収容する建物。
と載っていました。でも、原子炉だけではないという「建屋」の実例、ここで挙げておきますね。
なおGOOGLE検索では(12月16日)、
「建屋」=7万2800件
でした。ちょっとキーワードを増やすと、
「建屋・原発」=      5880件
「建屋・原子力発電所」=1万2500件

でした。
2004/12/16
(追記)

工場の建設などに関る仕事をしている友人のY君からのメールです。

『「建屋」は私たちはごく普通に使用する言葉。それが辞書に載っていないなんて考えたこともなかった。厳密な使い分けをしているわけではないが、私はこう使っている。
「建屋」=「建築物」。建物全般を指すことが多いが「建築」部分を示しているケースもある。
「建築」=「建屋」の中の「躯体」にかかわる場所を指し示す。「建築」と「建築物」は当然違う。
「建屋」−「建築」=「建築設備」
「建屋」は工場、公共施設だけでなく一般家屋にも使用する。「建物」という言葉はまず使用しない。』

とのことでした。また川崎市の西尾さんからも、

『電機メーカーでも工場部門では「建屋」をふつうに使っている。半導体工場のクリーンルーム、メッキ工場、電波暗室、無饗室などの特殊な建物から、事務棟や設計部門の入る技術棟まで、全部ひっくるめて「建屋」と呼んでいる。ほぼ「建物」と同義。「建家」は見当たらない。原子力関係が起源というのは初めて知った。
「建屋」と「建家」の使い分けを調べてみたが、専門書でも特に明確な区別は行われていないようだ。全般、特に原発関係では「建屋」が多いようだが。
■専門書
『建築百科大事典』(産業調査会、昭58)  →「建家」と「建屋」が混在
『新訂建築学大系』(彰国社、昭44.11.15) →「建屋」のみ
『建築大辞典』(彰国社、1993.6.10)    →「建家」のみ(下記)

たてや[建家]=工場内の施設レイアウトで建築物として配置されるもの。中に入れる装置によって階高や形状が決まる特殊型と、一つ上家の中に一連の変換工程を納める一般型とがある。

■法令(http://law.e-gov.go.jp/)=建屋: 4 件、建家: 2 件

■国語辞典
建家 :『広辞苑第5版』『大辞林第2版』『日本国語大辞典初版・第2版』
建て屋:『広辞林第6版』
なし :『言泉』『辞林21』『旺文社国語辞典9版』『講談社カラー版日本語大辞典第2版』

■google(2005/1/16)
"建屋"=88,100 件
"建家"=31,800 件


(以下略)
恐れ入ります。詳細に調べてくださいまして、ありがとうございました。

2005/1/24


◆ことばの話2017「ラム酒の香り」

会社のコーヒーの自動販売機の横に、タバコの自動販売機があります。タバコを吸わない私にとっては、あまり関係ないのですが、コーヒーを買いに行った時に、ふと目に入ったのが、タバコの新製品の広告。緑色のシール知るが自販機に貼ってありました。
「ハイライト・メンソール」
黄緑のパッケージで、そのシールの横には、この新しいタバコの特徴も宣伝されていました。
「ラム酒のかおりのメンソール」
うーん、じゃあ、ラム酒飲んだ方がいいのでは?中途半端な!
と、一瞬思ったのですが、すぐに思い直しました。
「別にラム酒を飲みたいのではないけれど、こういったフレーバーが加わることで、よりタバコがおいしくなるのであろう。」
と。ただ、酒飲んでタバコ吸うのは、一番身体に悪いとも聞いたことがあるけど。
「ラム酒」というと思い出すのが、スティーブンソンの『宝島』。あのお話に登場する海賊たちは「ラム酒」を飲んでいたような気がします。そんな乱暴者の酒飲みが飲むようなさけを口にすることはない、と思っていました。が、アイスクリームにもラム酒を含んだ、
「ラム・レーズン」
というのがあって、これはよく食べますから、知らず知らずのうちに、私もあの「海賊が飲んでいた酒」を口にしていたことになるのですかね。
さて「香り」の話に戻りますと、こういった「本体とは別の香りや味」を表現することが多いものには、「ワイン」がありますね。「湿った枯葉のかおり」とか、「ビロードの舌ざわり」とか。ビロードなめたことあんのか!と思わず突っ込みそうになりますが。
こんな文章をワインの表現で見つけましたよ。
「輝く黄金色でグリセリンもかなり多い外観。ハチミツ、ネクター、白い花、杏の若々しいが凝縮した香り。気品ある杏系の酸味と甘味の絶妙なバランス。これから50年以上の熟成を想像出来る若々しい巨大な力強さを感じます。」
うーん、ここまで語れるか!スゴイ!!
対象物の香や味が非常にバリエーションに富んでいる場合に、こういう比喩表現がふんだんに使われるのではないでしょうか。
アナウンサーにとっては、こういった比喩表現を開発していくことは、表現力を高める上で、大変大切なことですけどね。あまりやりすぎると、イヤミです。
2004/12/9


◆ことばの話2016「ベストテンとトップテン」

12月1日に発表された「流行語大賞」。すっかり師走の風物詩となりましたね。でも昔みたいに金賞・銀賞というような表彰ではなくて、最近は10ぐらい選んでその中から「大賞」を選ぶ形になっているようです。
その10選ばれるものは「ベストテン」ではなく、どうも、
「トップテン」
と呼ばれているようなのですが、そのことを報じた新聞の中で、なぜか読売新聞だけは、
「ベストテン」
としていたのです。「トップテン」と「ベストテン」はどう違うのでしょうか?昔、歌番組で、どっちもありましたよね。「紅白歌のトップテン」と「ザ・ベストテン」。

「ベストテン」=11万8000件
「ベスト10」=28万8000件
「トップテン」=2万7400件
「トップ10」=34万0000件


なぜか「トップテン」だけ、ヒトケタ少ないですが、「ベスト10」と「トップ10」は共に6ケタで、
「ベスト10」:「トップ10」=28万8000:34万
ほぼ、「4:5」ぐらいの割合ですかね。
おそらく英語では、ランキングを表す場合には「トップ10(テン)」の方が普通の言い方で、「ベスト10(テン)」というのは、和製英語に近いものではないか?ということですが、流行語大賞も英語の言い方を取っているということでしょうか。
それにしても「流行語大賞」には載っていないところに、本当の流行語があるような気がするんですけど、ねえ。
2004/12/18