◆ことばの話2015「ステープルする」

ビデオを借りてきたアメリカのドラマ「ER」を見ていたら、こんなシーンが。
医師「ステープラー!」
看護師「ステープルするの?」
医師「縫合より早い!」

つまり、開腹手術をした重傷患者の内臓を手術用の糸で縫うのではなく、なんと「ステープラー」で、わかりやすく言うと「ホッチキス」で留めるという場面なのです。パチン!それにも驚いたのですが、さらに驚いたのは、看護師の、
「ステープルするの?」
ということばにも驚きました。名詞の「ステープラー」が動詞で、
「ステープルする」
と使われていたからです。英和辞典でステープルを引いてみました。
「staple」=U字型の止め金で止める。ステープ、書類とじでとじる。(『デイリーコンサイス英和辞典』)
ああ、やっぱり動詞は「ステープル」でいいんだ。問題はその英語の動詞に「する」をつけて日本語のサ変動詞にしたものが定着しているかどうかです。GOOGLE検索してみました。(12月9日)
「ステープルする」=25件
「ステープラー」=1万2800件
「ステイプラー」=2560件

やはりまだ「ステープルする」は日本語としては定着していませんね、これを見ると。「ステープラー」「ステイプラー」あたりは、定着というか、まあちょっとは知られてきているというあたりでしょうか。ついでに、
「ホッチキス」=10万4000件
「ホチキス」=10万5000件

も調べましたが、こちらの方がなじみがありますよね。
1999年8月に「ことばの話12」で「ホッチキス」について書きましたが、それによると、
検索エンジンはGoogleではなくInfoseekですが「ホチキス」=1351件、「ホッチキス」=1747件。また当時のgooによると、「ホチキス」=1016件、「ホッチキス」=1386件と、ともに「ホッチキス」のほうが、優勢でした。なお、この回の「ER」ではもう一つ業界用語(隠語)と思しきものが出てきました。それは「ビスケット」という言葉で、意味は、

「ストレッチャーでしてしまった排便」


のことだそうです・・・。でもGoogle検索ではこういった意味のものは出てきませんでした。

2004/12/9


◆ことばの話2014「仁川」

12月2日の「ニューススクランブル」。特集の見出しは、
「被災地・仁川に花を」
でした。それを見て私が思ったのは、
「いつ、韓国のインチョンが被災したのだろう?」
ということでした。
実はこれ、阪神大震災による地滑りで34人が生き埋めとなって亡くなった、
「西宮市の仁川百合野町」
のことだったのです。嗚呼。震災からまもなく10年。あの「仁川」を「インチョン」と読んでしまうとは・・・。
あと1か月で阪神大震災から、丸10年です。長くも短くもあった10年でした・・・。


2004/12/7


◆ことばの話2013「生活ができていける」

12月7日の「ニュースプラス1」で、曽我さんが夫のジェンキンスさんも含む一家4人で、(曽我さんの)故郷・佐渡島に帰郷するというニュースを、拉致被害者の兄・蓮池透さんをゲストに迎えて、笛吹(うすい)雅子キャスターが、蓮池さんにいろいろ質問をしていました。
その中で、国からの支援金だけで、曽我さん一家が生活していけるのかどうか、拉致被害者家族としてその実態を知っている蓮池さんに質問していたのですが、その聞き方が、なんだかおかしい。
「その金額で、生活ができていけるでしょうか。」
ナンダカ、ヘン。それも言うなら、
「暮らしていけるでしょうか?」
「生活していけるのでしょうか」

というような「普段着の言葉」を使うか、あるいは少し硬めに言うならば、
「生計を立てられるでしょうか?」
で、いいんじゃなーあい?大体「できて」「いける」と、可能形が二重になっていますよ。
ま、たんなる言い間違いだろうとは思いますが、話し言葉の中とは言え、スタジオの中の会話って、台本どおり、というイメージもあるので、なんだか違和感がありました。

2004/12/7


◆ことばの話2012「背を向ける」

後輩のYアナウンサーが、ニュース番組で、
「背を向ける(HLLLL)」(Hは高く、Lは低く発音する)
という「頭高アクセント」で原稿を読んでいました。それを聞いて、
「背を向ける(LHHHH)だろう!?」
と、「平板アクセント」だ思った私、さっそく『NHK日本語発音アクセント辞典』を引くと、なんと!!
「背」のアクセントは、「頭高アクセント」と言うか「尾高アクセント」と言うか、つまり、
「『背』の次の助詞のところでアクセントは下がる」
ものしか記されていないのです。
「背が(HL)高い」
という具合です。ただ、(  )内に「セ」を長音化した形の、
「セイ(HL)」「セー(HL)」
も載っていましたが、基本的には最初のアクセントと同じですね。そしてその後ろには、
「〜が高い」
という風に、このアクセントの時に使う用例も載っていました。
ほんまかいな、と、もう少しよく見てみると、その二つ下に、同じ「背」の文字が!そこには、
「平板アクセント(というか無アクセント)」
が最初に記され、その後に、さっきと同じ「頭高(というか尾高)アクセント」の「背」が記されていたのでした。さらにその後ろには、
「〜を向ける」
とありました。これは、どういうことかというと、
「背が高い」の時の「背」と、「背を向ける」の時の「背」では、「アクセントが変わる」ということです。まあ、両方に頭高(尾高)アクセントが載っているのですから、ある意味では「同じ」とも言えるのですが、どちらが最初に出ているかということや、わざわざこの二つの「背」を、別項目で見出しに立てていることから考えれば、二つの「背」のアクセントは「違う」と考えるのが妥当だと思います。
なぜ、違うのか?
それは、成句としての「背を向ける」が一つの言葉として広く認識されているために、「背」が平板化して後ろの「を向ける」に取り込まれてしまっているからだと思います。
それに比べて、主語としての「背」が単独で成立している場合は「頭高(尾高)アクセント」を保つということでしょう。
Yアナウンサーが、独立した「背」のアクセント(頭高・尾高)を用いたのは、彼女が「背を向ける」という成句に、あまりなじみがなかったからだと考えられるのではないでしょうか。いかが?

2004/12/7


◆ことばの話2011「ダイキリ」

スタジオの近くを歩いていると、「なるトモ!」の司会担当のMアナウンサーが、
「道浦さん、おもしろい話、してあげましょうか。」
と言ってきました。なになに?と聞くと、
「Aアナがね、さっき私に聞いてきたんですよ。Mさん、この『ダイキリ』ってなんですか?って。」
「ふむふむ、それで?」
「カクテルかバーテンダーの話かと思いながら、『どういう文脈で出てくるの?』って聞いたら、『TOKIOがダイキリをやるそうなんです』って言うじゃないですか。原稿を見たら、そこに書かれていた漢字は、『大喜利』だったんです!』
「ワッハッハ・・・て、笑っている場合じゃない、それ、放送されたの?」
「いえ、幸い、放送前でしたから、注意して直すことができましたけど。」
「うーん、自分のところの局で放送している『笑点』を、絶対彼女は見たことないな・・・。研修で見せるか。」
「そういう問題ですかねえ・・・。」
「”ダイキリ”かあ・・・アナウンサーも、”ピンキリ”だね。」

・・・山田くーん、座布団全部、持ってっちゃいなさい!
おあとがよろしいようで・・・・・。


2004/12/9
 
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