◆ことばの話1970「ワンステップバス」

町を歩いていたら、横を通ったバスのおなかに、
「ワンステップバス」
と記されていました。ワンステップ?「ノンステップバス」は聞いたことがあるけど、「ワン」なんてのもあるのか?最近あまりバスに乗ることがないので、疎くなっていました。
GOOGLEで検索(9月10日)してみると、
「ワンステップバス」=  3140件
「ノンステップバス」=2万8200件

件数としては圧倒的に「ノンステップバス」の方が多いですが、「ワンステップバス」も3000件以上ありました。少しずつ増えているのかもしれません。
ワンステップもノンステップも、いわゆる「低床バス」で、最近のバリアフリーの流れの中で、高齢者でも乗りやすい、使いやすい公共輸送機関として登場したようですね。
最近は「100円バス」や、「ミニバス」なども、街中でよく見かけるようになって来ました。車社会はもう後戻りできないのかもしれませんが、その中で少しでも環境にも配慮した、そして利用者本位の交通というものに、みんなが目を向け始めた証拠なのかもしれません。

その後、「ワンステップよりもたくさんステップのあるバスもあるのだろうか?」と思ってGOOGLE検索をして見ました。(11月15日)
「ノンステップバス」=
5万5400件
「ノーステップバス」=
1780件
「ワンステップバス」=
6220件
「ツーステップバス」=
1220件
「スリーステップバス」=
3件
「フォーステップバス」=
0件

「ノンステップバス」も「ワンステップバス」も、この2か月の間に件数が倍増していますね。「ノン」ではなく「ノー」という表現も少数派ですがあるようです。
また、従来のバスは「ツーステップバス」と表現されているようで、大阪市営バスに関するホームページでは、
「2000年式が大阪市営バスのツーステップバスでは最後の新造車」
という記述もありました。
さらに「スリーステップ」というのも3件出てきましたが、その記述を見てみると、
「(バス停)の縁石からだとツーステップバスであるが、地面からだとスリーステップバスとなる。スリーステップバスのどこが乗り降りしやすいと表記されるのに値するのだろう?交通バリアフリー法のノンステップバスの推奨の意義を理解していないようであった。」
「中にはフルデカーを格下げし、スリーステップバスという時代に逆行したような車両も存在しました。」
「『新ステップバス』で、前扉を開けた時に一番下のステップの半分が降下する。ノンステップバスやワンステップバスが考案される前の『人に優しいバス』で、旅客の降車時の負担を軽減する目的で試験導入された。現在のステップの数え方では『スリーステップバス』ということになるが、当時は床面も含めて数えていたので『4段ステップバス』とも呼ばれる。確かに一段当たりのステップが低くなるので、降車時にかかる衝撃を軽減することができるが、たびたびステップの昇降装置が故障したり、従来のツーステップバスに慣れた旅客にとっては余計な1段を認識できずに踏み外したりで、結局10台(三菱6・日野4)の導入で終わってしまった。」

ステップの数え方にも変遷があったようであること、また、交通バリアフリー法の志向がノンステップバスやワンステップバスといった「人に優しいバス」の普及に大きな影響を与えているらしいことが、こういった記述から読み取れました。

2004/11/15
(追記)

2007年9月16日の日経新聞に、
「ノンステップバス 初めて1万台超す」
という見出しの記事が載っていました。それによると「ノンステップバス」というのは、
「乗り合いバスのうち、床面が地上から30センチ以下」
のものを呼ぶそうで、2006年度末で公営と民営の合計で初めて1万台を突破して1万0389台になったそうです。車両全体に占める割合は17、7%。都道府県別でノンステップ車両がないのは、「秋田と大分だけ」
なんだそうです。こういった県こそ、お年寄りが多くてノンステップバスが必要とされているような気がしますが、どうなんでしょうか?政府は2010年までに導入率を30%とすることを目標としているそうです。なお、都道府県で導入率が高いのは、東京(49,7%、3221台)、京都(35,5%、534台)、埼玉(31,3%、627台)などだそうです。
2007/10/2


◆ことばの話1969「人間」


神戸女子大学のM先生からメールが来ました。

「道浦さま。中国語を習っている友人から『日本語の「人、人類」は中国語でも同じ意味で使われていますが、中国語の「人間」は「ひとの住む世界、この世、現実の社会、世間」といった意味で、日本語とは少し意味が異なります。「ヒトの間」と書くのですから、むしろ中国語の方が正しい使い方なのかと思います。なぜ日本語では「ヒト」のことを「人間」と書くのでしょうか?』という質問が出ました。『世』は本来、世間(せけん)のことをいうのですが、古典では多く『男女の仲』という狭義に解釈することが多々あります。このように日本人ははっきりと物事を言わず、ボンヤリとしたそれを含む状況をいうことによって表現する傾向があるので、この例もそうではないかと私は考えますが、何かご存じならお教え下さい。」

というものでした。そこでまず、復刻版『言海』(大槻文彦)「人間」を引いたら、「世の中」の意味が最初にあり、3番目に、
「俗に誤ってヒト」
というふうに書いてありました。やはりもともとは「世の中」の意だったようですね。
ではいつ頃からそれが「ヒト」の意味に変わってきたか?ネットの掲示板「ことば会議室」に、その質問を書き込んでみました。

『「人間」は、中国語では「世の中、世間」という意味ですが、日本語では「人」の意味で「ニンゲン」ですね。「ジンカン」と読むと「世の中、世間」の意味か。「人間」が「ヒト」の意味で使われ始めたのはいつ頃からで、その起源はどういうことなのでしょうか?』

それに対して答えをいただきました。

『人口に膾炙した「人間五十年、下天の内を比ぶれば」(幸若『敦盛』)からだとなると話は早そうですが、果たして。これも元々は仏教的なもので「人の世」などの意味ですね。』(佐藤氏)

その後、思いついたことをまた書き込みました。
『水平社宣言「人の世に熱あれ、人間に光あれ」の「人間」は「人」の意味ですよね?大正11年(1922年)です。』

その後さらに、ご指摘をいただきました。
『(旧)日本古典文学大系「今昔物語集(一)」(岩波書店)補注128(p.430)に、関連記事があります。尚、この本は何回も増補されているので、図書館などに収められている初刷の本には、この注がないかも知れません。』(豊島正之氏)

そしてYeemarさんによると、
『(旧)日本古典文学大系「今昔物語集(一)」(岩波書店)補注128(p.430)に、昭和40年の3刷によれば、「今昔物語集」(12世紀ごろか)の巻五第三に、
「天人ハ目不瞬カズ、人間ハ目瞬ク」
とあることから、このころすでに「天人」の対語として「人間」(ヒューマン)の意味で使われたのではないか、というようなことが書いてあります。
『日本国語大辞典』第2版も、この例を「ヒューマン」の意の初出と扱っています。初版では「好色一代男」の例が初出あつかいですから、ずいぶんさかのぼったものです。』


ということで、「人間」を「ヒト」の意味で使い始めた例は『今昔物語』、12世紀(=およそ900年前)までさかのぼれるようですね。でも、明治時代の「言海」に「俗に誤ってヒト」とあるということは、初出は平安・鎌倉でも、その後も「人間」は「世の中」の意味でかなり長く使われていたということではないでしょうか?
「人間」に二つの意味があるということ、そして、中国での使い方とは異なることは覚えておきましょう。
それと、この「ことば会議室」の主宰者の岡島さんが、
「『世の中』の意味で使う時の『人間』は『ジンカン』と言う、と言われ出したのは、いつ頃からか?つまり、いつごろから、ニンゲンがヒューマン、ジンカンが人生・世間というような使い分けが生じたか」
ということの方に興味を持ってらっしゃいました。これについてもYeemarさんが、

『「人間到る処青山在り」は、いつだったかNHK「クイズ日本人の質問」で取り上げられ、古舘伊知郎さんが「『じんかん』(が正しいと世上言われるが)、これは、『にんげん』と読んでもいいんです」と言っていたのを覚えています。『言葉に関する問答集』では、
〈「人間、到ル処、青山在リ」の「人間」は、「ニンゲン」か「ジンカン」か〉
という問いがあります。これについて縷々述べた後、
〈……このような事情から考えると、元の詩については「人間」を「ジンカン」と読むことによって誤解を防ぐ方が好ましい読み方だとも言えるのである。ただし、すでに「人間」を「ニンゲン」と読んで「ひと」と解釈し、Aの意味〔人間はどこでも墓所の地とすることができる〕でことわざのように広がっている現状を誤りとするには及ばない〉
とあります。この項の初出は1991年ですから、ことばとがめの記録としては新しいですね。』

と答えてらっしゃいます。

これについては、読売テレビの故・青山行雄会長が、よく、
「『人間』と書いてなんと読む?」
と、入社試験を受けに来た受験生に質問していたという話を思い出しました。
2004/11/15


◆ことばの話1968「ザルカウィ2」

イラクでは、ファルージャへのアメリカ軍の攻撃がまた始まって、「第二次イラク戦争」の様相を呈してきました。先日、拉致されて惨殺された香田証生さんを誘拐したグループを操っていたとされるのが「ザルカウィ」。その呼称に関して、各新聞はどうしているのか調べてみました。
11月10日夕刊各紙(朝日は11月11日朝刊)の「ザルカウィ」のあとの呼称を調べると、
(読売)容疑者
(毎日)容疑者
(産経)容疑者
(日経)容疑者
(朝日)幹部

でした。このうち毎日新聞については、11月4日から「ザルカウィ幹部」をやめて「ザルカウィ容疑者」にすることになったと「おことわり」が出ていました。ほかの各社は、どう変わったのか、もともとそうなのか、気づきませんでした。
GOOGLE検索してみますと(11月11日)、
「ザルカウィ容疑者」=1万6500件
「ザルカウィ幹部」=   2940件

でした。時事通信も「幹部」みたいですね。また日経ネットに出ている10月30日の23時16分、共同通信発の記事も「幹部」です。山陽新聞、秋田魁新聞(ともに11月2日のネット)も、共同通信発の記事として「幹部」になっていますから、共同通信も「幹部」を採用しているのでしょう。
なぜ朝日新聞と共同通信は「幹部」を使うのでしょうかね?また、聞いておきます。
このザルカウィの呼称とは直接関係ありませんが、アルカイダの首謀者とされる、ウサマ・ビンラディンに関して、先日出張で行った広島で買い求めた「中国新聞」は10月30日から、「ウサマ・ビンラディン氏」をやめて「ウサマ・ビンラディン容疑者」にするという「おことわり」を出していました。
その後、朝日新聞の知り合いに聞いたところ、こんな返事が戻ってきました。
「『ザルカウィさん』については10月30日の時点で、香田さん殺害との関連がはっきりしたら『容疑者』に変更する含みで、敬称をやめて『幹部』呼称にしました。その時点では『ビンラディンさん』の方は敬称継続の方針でしたが、直後に『おれがやった』というビデオが出たので、こちらは『おことわり』を出して変更しました。今後、香田さん殺害に『ザルカウィさん』が関与したことがはっきりすれば、『容疑者』呼称に変更することになると思います。」
とのことでした。
なお、平成ことば事情1949「ザルカウィ」も、お読みください。
2004/11/12

(追記)

共同通信の知り合いから、「ザルカウィの呼称」の変遷の経緯についてメールが届きました。現在、共同通信では「ザルカウィ容疑者」「容疑者」呼称になっているとのことです。
『共同通信では10月30日に、
「国際テロ組織アルカイダとの関係が指摘されてきたイラクのテロ組織指導者を、これまでは、『ザルカウィ氏』としてきましたが、31日付朝刊から『ザルカウィ幹部』と呼称を変更します」
との連絡を加盟社などに流し、放送用原稿もこれに合わせました。日本人人質事件をはじめ数多くのテロで犯行声明を出している人物に「氏」を付けるのは妥当ではないと判断したためです。
さらに11月2日に、
「イスラム教過激派『イラク聖戦アルカイダ組織』の指導者をこれまで『ザルカウィ幹部』としてきましたが、日本人殺害事件で同組織名で犯行声明が出されましたので、11月3日付朝刊から『ザルカウィ容疑者』と呼称を変更します」
という連絡を流し、放送用原稿も変更しました。
従って現在は「ザルカウィ容疑者」です。』
とのことです。つまり状況の変化に応じて、1週間で2度の呼称変更が行われたわけですね。「容疑者」呼称は、犯罪が認知されて時点で変わるわけですから、たまたまその(呼称変更の)時期が1週間のうちに重なったということでしょうか。
2004/11/15
(追記2)

肝心の、我々日本テレビ系列の呼び名が抜けていました。日本テレビ系列では、
「ザルカウィ容疑者」
で、「容疑者」です。
2004/11/19
(追記3)

NHKも11月19日の夜7時のニュースでは、
「ザルカウィ容疑者」
「容疑者」でした。
2004/11/25


◆ことばの話1967「猛打賞」

スポーツ担当のOアナウンサーが話しかけてきました。
「こないだ、阪神じゃないチームのゲームで、その試合3安打目を放ったバッターに対してアナウンサーが、『○○選手、猛打賞!』と言ってたんですけど、あれって間違いですよね?」
私は、
「1試合で3安打以上放つと、『猛打賞』として何か商品(賞金)がもらえるので、『3安打=猛打賞』」
と認識していたので、どこがおかしいのかわかりません。
「それって間違ってるの?」
と聞くと、
「だって『猛打賞』は、甲子園球場で1試合で3安打打った時に出るものだから、よその球場では言わないんじゃないんですか?」
とのこと。へえー、そうなの?よその球場じゃ、出さないの?
「少なくともオリックスは出してないですよ」
と、パリーグ取材の経験もあるOアナの話。知らなかったな。
でももう比比喩的に、1試合3安打以上を「猛打賞」と呼ぶことに、私は抵抗がないのですが、そもそもこの話、正しいのでしょうか?どうなんでしょう?
ご存知の方がいらっしゃったら、教えてください。よろしくお願いします。
2004/11/12


◆ことばの話1966「泥のように眠る」

新潟の地震の取材・中継から帰ってきたUアナウンサーから、伊丹空港に戻りましたとメールが入りました。その中に、
「飛行機の中では、泥沼にはまったように眠ってましたぁ」
という一文がありました。すぐに、
「『泥沼にはまったように眠る』ではなく『泥のように眠る』だろう!」
と指摘すると、
「そうでしたっけー?それって、もともと、どこの国の表現なんですかあ」
と、お気楽な返事が。
「たぶん、聖書か何かじゃないの?」
とこちらも、ええかげんなことを答えてしまいました。で、その後、調べるはめに。
ネットで検索するとこんなページが出てきました。「さるさる日記」というページです。
「★ ユニークな表現-- ?のように眠る(2003、10、15《水》)」
と題したもので、ドイツの友達の所に行った筆者は、時差ぼけにも陥らずにぐっすり眠ることができたそうです。それに対して「君はどう?」と聞くと、相手のドイツ人の友人は、
「昨日は仕事が続いて疲れてたからね〜、Ich habe wie ein Stein geschlafen!」
と答えたそうです。つまり、
「石みたいに眠る」
これがドイツでの「泥のように眠る」なんですね。これで刺激を受けた筆者は、
英語での表現「sleep like a log」(丸太のように眠る)
と同じで、ドイツ語では「Holz」でも使うのかと思っていたそうです。後日、オーストリア人の知人に「『石のように眠る』と言うか?」と聞いたところ、
「オーストリアではそんな表現はほとんど使わない!」
と言われたそうで、「では、なんと言うのか?」と聞くと、そのオーストリア人は、こう答えたそうです。
「wie ein Murmeltier schlafen!!」(マーモットのように眠る)
「マーモット」というのはリスの親分みたいな動物ですね。実はこれ、ドイツでも言うことがあるそうで、その後この筆者が調べたヨーロッパでの「ぐっすり眠る」の表現は、以下のとおりです。

(日本語) 泥のように眠る
(英 語) sleep like a log(木のように眠る)
(ドイツ語) wie ein Stein schlafen(石のように眠る)
  wie ein Murmeltier schlafen(マーモットのように眠る)
(フランス語) dormir comme une marmotte(マーモットのように眠る)
(スペイン語) dormir como una marmota(マーモットのように眠る)
(イタリア語) dormire come una marmotta(マーモットのように眠る)

なんと英語と日本語以外はすべて「マーモット」。ヨーロッパ大陸ではマーモット優勢。英語では sleep like a marmot とは言わないようです。アルプス・マーモットは芸をしこむとよく覚えるのだそうで、マーモットを使った芸は、昔お祭りなどで大変人気があり、当時のヨーロッパの人々は、マーモットをよく目にしていたことでしょうから、表現に登場してもおかしくはないのですね。

「英語で『泥のように眠る』をなんと言うか?」と、英語に詳しいWアナウンサーに聞くと、即座に「sleep like a log(丸太のように眠る)」と答えが返ってきました。さらに、

「ビートルズの『A Hard  Day's Night』の歌詞に、"sleeping like a log"という部分がありますよ。」

と教えてくれました。そのほか英語では、「sleep like a top」(コマのように眠る)という表現もあるようです。駒が全速回転している時は、完全に動きが静止したように見えるところから、「ピタリと動かずに寝ている様子」のたとえなんだそうです。

また、なぜ「泥」なのか?という最初の質問に答えてくれたのも、インターネットでした。実は「泥」は「虫の名前」だったのです。『異物志』という中国の文献の中出て来る、

「南海に住むという空想上の虫」

で、「骨がなく、水中にいるときは活発だが水を離れると酔って正体をなくし、泥の塊のようになってしまうという虫」だそうです。だからこの「泥虫」のように酔っ払うことを、

「泥酔」

と呼ぶようになったとのこと。「泥のように眠る」は「泥虫のように眠る」だったんですね。昔は人間の身体の中にいろんな「虫」が住んでいたようです。「疳(かん)の虫」とか「腹の虫」とか「腹の虫」とか。「虫の居所が悪」かったり「虫が好かな」かったり「虫養い」をしたり。最近、虫はどこへ行ってしまったんでしょうかね?
2004/11/12
 
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