◆ことばの話1965「ファースト・ゴロ」

日米野球の実況を聞いていて、ヘンなことが気になりました。
「今、実況で『ファースト・ゴロ』と言ったけど、普通の『ゴロ』のことは、今は英語っぽく『グラウンダー』と言うのに、『ファーストゴロ』『ピッチャーゴロ』なんかはそのまま『ゴロ』と言ってるな。けっして『ファースト・グラウンダー』『ピッチャー・グラウンダー』とは言わないなあ・・・。なんでだろ?」

ネットのGOOGLE検索(11月11日)では、
「ピッチャー・グラウンダー」=0件
「ファースト・グラウンダー」=1件
「セカンド・グラウンダー」=0件
「サード・グラウンダー」=2件
「ショート・グラウンダー」=1件
「キャッチャー・グラウンダー」=0件

と、まあ「まったく使われていない」と言っていいですね、これは。
なんで「ゴロ」だけ「グラウンダー」と言うのだろう?「ゴロ」には造語能力があるのに「グラウンダー」には造語能力がない、日本語の外来語としては。
うーん、不思議じゃ。

2004/11/11



◆ことばの話1964「秋需」

11月11日の日経新聞の「商品」欄に、目新しい見出しが出ていました。
『消えた?「秋需」』
サブ見出しは、
「鋼材や半導体 季節変動小さく」
とあります。この、
「秋需」
って初めて見た!本文を読むと、
「鋼材などの素材市場で『秋需』という言葉に代表される需要の季節変動が小さくなっている。」
いや、代表されると言っても、ねえ。もう少し読むと、
「建設用鋼材の需要は公共工事向け生産の増える十 ― 十二月がピーク、年度初めの四―六月が谷という季節パターンがあった。七月ごろには『首都圏の再開発絡みの鋼材調達が加わり、十一月ごろには需要がひっ迫する』との予想もあった。実際には秋需は盛り上がりに欠ける。」
と記しています。なるほどね、鋼材業界の専門用語で「秋需」ね。新聞はホントにいろんなこと教えてくれますね。
GOOGLE検索(11月11日)では、
「秋需」=419件
よく見ると鋼材業界だけではなくて、外食産業などの食品業界にも「秋需」があるようですね。「天高く馬肥ゆる秋需」、ですか。

2004/11/11


◆ことばの話1963「水損」

台風23号による水害で水没した兵庫県豊岡市は、「カバンの街」として知られています。しかし今回の水害で、水が引いたあとも、ミシンが水につかって動かなくなったりして、すぐにかばんの生産再開とは行かないのが実情です。
そのあたりの事情を11月11日の朝日新聞が伝えています。その見出しが、
「台風23号 地場産業を直撃」
「かばん職人 悲鳴〜豊岡」
「ミシン500台水損」

このなかで初めて目にした言葉は、
「水損」
でした。文脈から意味はわかりますが、耳新しい、目新しい言葉です。見出しだけではなく、本文中にも出てきます。
「約1千にのぼる業者らの7割余りでミシンが水損するなどし」
「1台数十万円のミシンだけで500台以上が水損したとみられる。」

辞書を引いてみました。
「水損(すいそん)」
=「水害による損失」(新明解国語辞典)
=「水害のための損失。また、水をかぶったために生じた汚損や欠損など。」(新潮現代国語辞典)
=「水害のための損失。(例)狂言、雷『八百年が間旱損水損の無い様にしてとらせう』」

とありました。辞書にも載っているのですね。特に『広辞苑』では、「狂言」の中に出て来る言葉、歴史のある言葉として紹介しています。
その一方で私が調べた辞書では、「岩波国語辞典」「明鏡国語辞典」「三省堂国語辞典」には、「水損」は載っていませんでした。
これはつまり、古くから日本人は水害に苦しめられ、川や大雨と戦ってきたのですが、近代になって「治水」になんとか勝利することができて、ここ数十年は、日本の多くの町や村で、「水害」を「過去の出来事」としてきたのでしょう。
その中で水害による「水損」という言葉も忘れられてゆき、小型の辞書からは(使用頻度が少ないから)削られていったのではないでしょうか。
それが21世紀に入ったこの時期にまた復活するということは、やはり自然の力をなめてはいけない。自然の前で人間なんてちっぽけなものなのだという「畏れ」の気持ちを、もう一度持つことが必要であると、自然が教えてくれているのかも知れません。
GOOGLE検索(11月11日)で「水損」は、
「水損」=2910件
ありました。やはり「水害」に対する備えも必要なのです。豊岡や出石町の皆さんは1日も早く立ち直れることを祈ります。

2004/11/11


◆ことばの話1962「蕎麦屋の出前」

Bアナウンサーが席を立って1,2分後に、内線電話がかかってきました。
「Bアナウンサーはいらっしゃいますか?」
と女性の声で尋ねます。私は、
「あー、たった今、出て行きましたけど。」
と言ったあとで、自分の言い方があまりにも大げさだったので、うそをついていると思われそうな気がして、
「あ、決して『蕎麦屋の出前』とは違いますよ。」
と言ったのですが、受話器の向こうの相手は、その意味が理解できないような感じでした。
この、
「蕎麦屋の出前」
というのはどういう意味かと言うと、お蕎麦屋さんなどに出前を注文して20分経っても30分経っても来ない時に催促の電話を入れるとします。するとお蕎麦屋さんは決まって、
「あ、今出ましたあ!」
と言います。もう出てしまったのでは、お客さんは文句をいえないし、本当に出たかどうかの確認もできないからです。そこであわててお蕎麦屋さんは蕎麦を打ち始める・・・なんてことも、あるやに聞いております。
そういうふうに、遅れていることをごまかすときに使う方便、これを、
「蕎麦屋の出前」
と呼んでいるわけです。これはみんな知っているものだと思ったら、意外にもアナウンス部でも若い女性アナウンサーはその意味を知りませんでした。えー知らないの?と言うと
「私、出前は取りませんから・・・」
おいおい、そういう問題かい?一般常識だろ!と思いましたが・・・。
GOOGLEで検索すると(11月11日)、
「蕎麦屋の出前」=1万1500件
「そば屋の出前」=  7290件

でした。「真・コンピューター用語辞典」というページには、
「そば屋の出前」=【現象】納期が迫った、あるいは過ぎてしまったプロジェクトの末期において頻繁に使用されるもの。客先に説明しながら、「今の俺って、『今出ました』って言う、そば屋の出前状態だなぁ」と使う。
とありました。そうそう、それそれ!
まあ、時代が違うのかなあ・・・。会社の食堂が休みの時に、夜勤をつけてやろうかしら。

2004/11/11


◆ことばの話1961「萩原健一氏」

ショーケンこと「萩原健一」が、交通事故を起こして業務上過失致傷で略式起訴され、罰金40万円の略式命令を受けたあと釈放されました。その会見が、11月10日に開かれ、その時の模様が、翌11日の朝のワイドショーから、テレビ各局で取り上げられていました。その時の「ショーケン」の肩書き・敬称は、読売テレビの「あさイチ!」では、
「萩原健一氏」
「氏」を使いました。字幕スーパーは「萩原健一」と「ショーケン」でした。
そのあとの「ズームイン!!SUPER」では、読みは、
「萩原健一さん」
と「さん」付け、スーパーは「萩原健一」でした。
「あさイチ!」のチーフ・プロデューサーが、そのあとの日本テレビ「情報ツウ」をチェックしてくれたものによると、
VTR内のナレーション・・・「氏」
VTR内の名前スーパー・・・「さん」
VTR内の城下さんリポート部分・・・「さん」
スタジオトーク・・・「さん」

「NTVガイドライン」(YTV分には掲載されてない)では、「略式起訴」「略式命令」の公人は、「肩書きor容疑者」となっています。
また読売テレビの関西ローカル放送「なるトモ!」では「あさイチ!」に準じて読み方は、
「萩原健一氏」
でやりました。同じく読売テレビの制作で全国ネットの「ザ・ワイド」でも読みは、
「萩原健一氏」
でした。
他局を見ていると、フジテレビ「特ダネ!」は、
(読み)萩原さん
(字幕スーパー)萩原健一(呼び捨て)

午後2時からのTBS「ジャスト」では、
「萩原さん」
と「さん」付けでした。また翌日の11月12日の関西テレビ「2時ワクッ」では、
(読み)萩原
(字幕スーパー)萩原健一

と、ともに呼び捨てでした。

2004/11/12
 
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