◆ことばの話1950「セカチュウ」

300万部を超えたベストセラー『世界の中心で愛を叫ぶ』は、映画やTVドラマにもなり、すっかりおなじみ。これだけおなじみになると、こんなに長いタイトルは言ってられない。そこで省略した呼び方が、
「セカチュウ」
です。
セカイノ チュウシンデ アイヲ サケブ」
15拍のうちの4拍のみを取り出したわけですね。GOOGLEで「セカチュウ」を検索すると9580件も出てきました。(10月28日)この「セカチュウ」という言葉を初めて聞いた人の4人に3人は、ポケモン(ポケット・モンスター)の、
「ピカチュウ」
を思い浮かべるのではないでしょうか?「セカチュウ」「ピカチュウ」の2つの言葉をキーワードに検索すると、262件でしたが。
「ピカチュウ」は略称ではなくそれはそのままの名前なのですが、先輩で「岡田忠雄さん」という人の略称(と言うか、愛称)が、
「オカチュウ」
だったのを思い出しました。もしかすると、
「○○チュウ」
という形は、何か「落ち着きが良い」のではないでしょうか。お菓子で、
「ハイチュウ」
というのがありましたよね。
あ、そうだ!大体、中学校の略称が、
「サンチュウ(三中=第三中学校)」
「ヤマチュウ(山中=山田中学校)」
「ウエチュウ(上中=上野中学校)」

などと、どこの中学校でもおしりに「チュウ」と付くではないですか!そうか、義務教育の段階で「チュウ」という音での収まり方が植えつけられていたのか。気づかなかったなあ。ということで、日本人は「チュウ」が好きなのでした。チュウ。
2004/10/28


◆ことばの話1949「ザルカウィ」

10月27日、イラクでまた、日本人が拉致・拘束されました。その犯人グループの背景には、「イラクの聖戦アルカイダ組織」を率いる、アブムサブ・ザルカウィ容疑者がいるようです。その「ザルカウィ」、新聞は、読売・朝日・毎日・産経・日経5紙すべて、
「ザルカウィ」
で、小さい「ィ」でした。でもニュースを聞いていると、みんな、日本テレビもTBSもテレビ朝日も、
「ザ・ル・カ・ウ・イ(LHHLL)」(Lは低く、Hは高く発音)
と5拍で発音しています。もし「ウィ」ならば、発音は、
「ザ・ル・カ・ウィ」
と、4拍で読むべきではないのでしょうか?もし5拍で読むのが正しいのだとするならば、「イ」の表記は大きくても良いのではないか?と思いますが、どうなんでしょうか?
後輩のSアナウンサーによると、
「『ザ・ル・カ・ウィ(HLLL)』という読み方も、テレビで聞いたことがある。」
とのことですが、私は一度も耳にしたことがありません。
英字新聞を見てみると、綴りは、
「Zarqawi」
となっていました。
脇浜アナウンサーに、BBCのニュースではどう発音しているかをネットで調べてもらったら、
「ザ・カッウィ」
というふうに聞こえるということです。「カッ」のところにアクセントがあるそうです。つまり、頭高アクセントではないそうです。
同じようなイラクの名前で、イラクの首相の名前が、
「アラウィ首相」
でこれも新聞5紙はすべて小さい「ィ」で表記しています。こちらの方は、テレビ・ニュースでは逆に、文字と同じように、
「ア・ラ・ウィ(HLL)」
3拍で読んでいるような気がします。こちらは、あまり自信はありませんが。
10月28日、TBSのお昼のニュースの男性記者は、
「ア・ラ・ウィ・ー(HLLL)」
4拍で読んでいました。
そもそも、「ウィ」という表記の音が、語尾に来る外来語というものはあまりなかったのではないでしょうか?「ウイ」あるいは「ウィ」という音が付く外来語は、
「ウイスキー」
「ウイークリー」
「ウインドー」
「ウイット」
「ウイークポイント」
「ウイルス」
「ウインク」
「ウインタースポーツ」
「ウインチ」
「ウインナーソーセージ」

など、語の頭にくるものが多く、共同通信のハンドブックや新聞用語集を見て驚いたのですが、これらの表記はすべて大きな「イ」を使った「ウイ」なのです。小さな「ィ」は使われていないのです。「ウエ」「ウオ」に関しても、小さな「ェ」「ォ」は使われていないんですね。
共同通信の記者ハンドブックの「外来語の書き方、用例」を見ると、その中にたしかに、
『原音で「ウィ、ウェ、ウォ」の音は「ウイ、ウエ、ウオ」と書く。(注・外国の地名、人名の表記とは異なる)』
とあります。だから上に挙げたようなウイスキー、ウイークリーなどは大きな「イ」だったのですね。「外国地名一覧」のページを見ると、
「ウィースバーデン」
「ウィーン」
「ウィスコンシン州」
「ウィスワ川」
「ウィチタ」
「ウィンブルドン」
「ウィッテンベルク」

といった小さな「ィ」を使った地名が挙げられていました。しかし、これらの読み方を考えたときに、「ウィーン」「ウィチタ」「ウィスコンシン州」「ウィンブルドン」などは、大きな「イ」で1拍分発音しているように思います。ちゃんと「ウィ」と発音するのは、あまり聞いたことのない「ウィスワ川」「ウィッテンブルク」ぐらいか。
そもそも「ウィ」という音を、日本語で1拍で発音する音はないのではないでしょうか。だから表記としては存在しても、それを発音できない。発音しようとすると、外国語をしゃべっているようになってしまう。
『広辞苑』の後ろに載っている「外来語の表記」という平成3年(1991年)6月28日の、海部内閣の時の内閣告示第二号によると、「ウィ」「ウェ」「ウォ」は「第2表」のカタカナとなっていて、
『「ウィ」「ウェ」「ウォ」は、外来語音ウィ、ウェ、ウォに対応する仮名である。』
とあります。そして(例)として、
ウィスキー、ウィット、ウェディングケーキ、ストップウォッチ、ウィーン(地)、
スウェーデン(地)、ミルウォーキー(地)、ウィルソン(人)、ウェブスター(人)、
ウォルポール(人)

とあります。また「注」が3つ。
注1 一般的には、「ウイ」「ウエ」「ウオ」と書くことができる。
(例)ウイスキー、ウイット、ウエディング、ウエハース、ストップウオッチ
注2 「ウ」を省いて書く慣用のある場合は、それによる。
(例)サンドイッチ、スイッチ、スイートピー
注3 地名・人名の場合は、「ウィ」「ウェ」「ウォ」と書く慣用が強い。

そうか、「ザルカウィ」も「アラウィ」もこの「注3」に当てはまるのですね。でも最初に「ウィ」「ウェ」「ウォ」はそれぞれ外来語音に対応すると書いてあるのですから、外来語音の発音をすべきなのではないでしょうか。
判っちゃ入るけど、できないんだよなー、きっと。書いてあるものと読み方が違うというのはややこしいですが、そもそも外国語の発音、外来語の問題は、難しいですねえ・・・。

2004/10/29

(追記)

11月19日のNHK夜7時のニュースで女性の陰アナ、1回目は、
「ザルカウィ(LHHHH)容疑者」
2回目、3回目は、
「ザルカウィ(LHHLL)容疑者」
と、1回目と2、3回目が、なぜかアクセントが異なっていました。

2004/11/25


◆ことばの話1948「サドンデス」

ちょっと古い話ですが・・・。
今年の7月31日(=8月1日の午前2時頃)、中国の重慶で行われたサッカーのアジアカップ準々決勝、日本対ヨルダン戦の中継(テレビ朝日)を見ていたら、延長まで戦って1対1の同点だったので、PK(ペナルティ・キック)戦に突入しました。その時にアナウンサーが、
「サドンデス」
という言葉を使ったので、おや?と思いました。
たしか10年ほど前、Jリーグ開幕の頃から、
「『サドンデス』という言葉は、直訳すれば『突然死』であり、あまりイメージが良くないので、使わないようにする。」
となったのではないでしょうか?そのために、延長戦の「サドンデス」は、Jリーグでは、
「Vゴール(方式)」
となり、同じ方法を取り入れた国際サッカー連盟の他の国の大会でも
「ゴールデンゴール(方式)」
としたはずではなかったのでしょうか?しかしよく考えると、PKに関しては、どうするのか決めていなかったような。だから「サドンデス」がまだ「生きて」いたのでしょうかね。久々に「サドンデス」と言う言葉を聞いて、ビックリしました。
ところで「サドンデス」というと、子供の頃は、
「サドンです」
と聞こえて、「丁寧な言葉だな」と思っていたものでした。「おばんです」(=こんばんは)のような。「です、ます」の「です」ではなく、「死」という意味の「デス(death)」だと知ったのは、かなりあとのことで、突然(サドン)のことに相当、驚いたものでした。
2004/10/27


◆ことばの話1947「らうめんとらあめん」

日本人って、ラーメン好きの人、多いですねえ。実は私は、それほど好きではないのですが。もちろん、嫌いではありません。
さて、そのラーメンの表記、普通ならカタカナで「ラーメン」ですが、それでは普通すぎておもしろくない、うちのラーメンはもっと個性的なんだ、ということを言いたいからでしょうか、さまざまな表記があるようです。中でもひらがなで、「らうめん」「らあめん」というのがありますが、これは私の感覚からいうと「個性的かもしれないけど、なんだかなあ・・・」と思ってしまうのです。インターネットのGOOGLEで、それぞれの表記が何件ぐらい引っかかるか見てみましょう。(10月27日調べ)
「ラーメン」=273万件!
「拉麺」=    2万0700件
「らうめん」=    3200件
「らあめん」=    8670件
「らーめん」= 13万5000件

ということで、「ラーメン」が一番多いのは当たり前として、ひらがな表記なのに長音符号を使っている(本来、長音符号はカタカナにしか用いないことになっている)「らーめん」が13万5000件とかなり多く使われていますね。
「らうめん」「らあめん」は、「らあめん」の勝ち。ある意味では「らうめん」という表記が一番「希少価値がある」ということでしょうか。
まあ、表記はどうでも、中身がうまければそれでいいのですけどね!・・・あれ?これって以前に書いたかも知れない気がしてきた・・・・2回も書くなんて、私も実は「らあめん」好きだったりして・・・。

2004/10/27

(追記)

神戸の三宮からちょっと北に行った「二宮」付近で、
「らあめん」
という看板をも見つけました。ちょっと変わっていたのは、この「あ」が小さい「あ」だったことです。

2004/1/20
(追記2)

「黒らうめん」
という看板を、タクシーに乗っていて、大阪の玉造筋のJR森ノ宮駅の南側で見かけました。(南に向かって左手)ちょっと興味があります。

2005/11/22
(追記3)

「らあめん」に関しては、既に「平成ことば事情1730」で書いていたのでした。トホホ。でも「らうめん」に関しては、その時は調べていませんでした。
先日(5月25日)、新聞用語懇談会の総会で岩手県の盛岡市に行った時に、盛岡市内で、
「らー麺」
という看板を見つけました。これに就いても前は調べてなかったな。一応、他のものも一緒に、Google検索しておきましょう。(6月15日、日本語のページ)
「ラーメン」= 4480万件(!!!)
「拉麺」= 51万5000件
「らうめん」= 8万8600件
「らあめん」= 25万8000件
「らーめん」= 366万件
「らー麺」= 12万4000件
「ラー麺」= 4万5900件

正統派「ラーメン」も驚異的な伸び!それに続くのが平仮名の「らーめん」、そして漢字の「拉麺」、さらに平仮名の「らあめん」、今回盛岡で見つけたパターンの平仮名プラス漢字の「らー麺」、前回みつけた「らうめん」、そして「これもあるのかな?」と思って念のために検索した「ラー麺」でも4万件以上ありました。そうだ、「追記」で書いた、
「らぁめん」
も検索しておこうっと。
「らぁめん」=24万4000件
けっこう、ありますねえ。ついでだ!
「らぅめん」=4万7500件
やっぱりあった!これだけ表記にバリエーションがあるということは、みんなそれだけラーメンが好きで、しかも他人と差別化を諮りたい、という気持ちの表れなんでしょうねえ。
2006/6/15


◆ことばの話1946「『ていうか』と『というか』のはざま」

米原万里さんの本を読んでいたら、
「というか」
という表現が出てきたので、少しホッとするとともに、考えてしまいました。何についてかと言うと、「『ていうか』と『というか』のはざまについて」です。
「ていうか」は「話し言葉」で、相手の発言を受けていますが、内容的にはまったく相手の言うことを受けていないから違和感があります。
一方の「というか」は「書き言葉」なので、冷静・やや知的・理屈っぽいというイメージがあります。自分が言ったことを否定し、さらに発展させるのに使う、という違いがあるように思えます。
何が言いたいのかと言うと、実は私、「ていうか」は使わないものの、「というか」は、よく使っているようなのです。それで、いつも槍玉に挙げられる「ていうか」「てゆーか」の使い手と同じように思われたくないという思いを、いかにして正当化するかということについて、常日頃、考えていたのでした。
ということで、「というか」は良いけど、「ていうか」はやっぱりあかんよな!ということでした。
2004/10/27
 
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