◆ことばの話1935「パツパツ」

「今日はもうパツパツです。時間厳守でお願いします。」

ニューススクランブルのYプロデューサーが、朝の立会いで、こう言いました。
この「パツパツ」は、
「いっぱい、いっぱい」
という意味ですが、一般的に使われているのでしょうか?この二つの言葉・擬音をキーワードにGOOGLE検索してみました。(10月22日しらべ)
「パツパツ」=2470件
「パツパツ、いっぱいいっぱい」=111件
でした。
と、ここまで書いて「なんか、前に書いた」ような気がして来て調べると・・・書いてました、平成ことば事情1380「パッツンパッツン」で、ピチピチのTシャツを着た状態を指して、「パッツン、パッツン」という表現をしていたことについて書いていました。2003年の9月1日。つまり「パツパツ」の強調形が、
「パッツンパッツン」
なわけで、その原型の方が、
「パツパツ」
なのですね。1年と3週間ぶりに、納得。

2004/10/22


◆ことばの話1934「大阪に再上陸」

大型の台風23号。今年10個目の(本土)上陸台風。各地で今年最悪の被害をもたらしました。
その23号は、最初は午後1時ごろ高知県の土佐清水市の足摺岬に上陸。その後、午後6時頃に大阪府泉佐野市付近に上陸。これを指してニュースでは、
「大阪に再上陸」
と言っていたのですが、それを聞いたうちの妻は、
「え!大阪に再上陸!?」
と驚いていました。なぜ驚くのかを考えたときに「もしかして・・・」と思ったのは、
彼女は、
「台風が大阪に二度、上陸したと思っているのではないか?」
ということでした。聞いてみると、やっぱりそうでした。たしかに「大阪に再上陸」というと、大阪に二回と思われるかもしれませんが、この場合「再上陸」したのは、
「日本列島(=本土)」
です。省略しないで言うと、
「大阪に、日本列島再上陸」
あるいは、
「日本列島に再び上陸、二度目の上陸の場所は、大阪」
ということなのです。わかっている人には何の不思議もない表現ですが、慣れない人には不思議な表現で、なじめないのかもしれませんね。

2004/10/22


◆ことばの話1933「名門大洋フェリー」

台風23号の交通関係のニュースを見ていると、
「なお海上交通では、名門大洋フェリー、阪九(ハンキュー)フェリー・・・が全便欠航となっています。」
というふうな声が聞こえてきました。その時、頭の中に電球がピカッとつきました。
何についてか。いや、つまんないことなんですけどね。私これまで、
「名門大洋フェリー」
っていうフェリー会社の名前について、
「自分で自分の会社の名前に『名門』って付けるなんて、なんか自慢げで、いやだなぁ・・・。」
と思っていたのです。しかし、この瞬間に稲妻のようにひらめいたのは(あれ?電球と違うかったんかいな)、
「この『名門』というのは、『名古屋』と『門司』を結んでいるということではないか?」
ということだったのです。つまり、出発地と目的地の頭の字をつないでいるに過ぎないと。だって、「阪九フェリー」も「大阪」と「九州」を結んでいるフェリーだし、「関門海峡」も「下関」と「門司」を結ぶわけだし、「関釜(かんぷ)フェリー」は「下関」と韓国の「釜山」を結んでいるんでしょ。それなら「名門」で考えられるのは、当然、
「名古屋」と「門司」
ではないか。
調べてみたところ、なんと航路は、
「大阪南港〜新門司港」
だけでした・・・本社も大阪市内だし、船の名前も「フェリーおおさか」と「フェリーきょうと2」だぞ。名古屋に営業所はあるみたいだけど。うーん、どうしよう?電話して聞いてみました。
すると、実は「名門大洋フェリー」という会社は、「名門カーフェリー」と「大洋フェリー」が合併してできた会社で、「名門カーフェリー」はやはり名古屋と門司を結んでいたのですが、合併後は「大阪南港〜新門司港」の航路だけになってしまった、というような事情がわかったわけです。
調べてみるもんやねー。謎が解けてスッキリしました。
2004/10/22


◆ことばの話1932「ナフキン」

「あさイチ!」の番組終了後、会社の食堂で朝食を済ませてトレイを片付けに行くと、ゴミ箱のところにこう書いてありました。
「お箸、ナフキンはこちらに捨ててください。」
「『ナフキン』だって。大阪らしいねー。普通は『ナプキン』と半濁音だもんな。」
と言うと、Oアナウンサーが、
「大阪の人は濁音、半濁音に弱いですしねえ。デパートを『デバート』と言ってみたり、野球のバントを『バンド』と言ったりしますもんね。」
すると女性のMアナウンサーが、
「もしかしたら、女性の生理用品と区別するために『ナフキン』って濁らないで言ってるのかも・・・。」
と、男性ではとても思いつかない発想の答えを教えてくれました。
「なるほどねー、そういう考え方もありますか。でも食事のときに口を拭くナプキンも生理用品のナプキンも語源は同じだろ?」
「違うんじゃないですか?英語では違う言い方をするんじゃないですか?」
「えー、おんなじだろ?」

ということで、『日本国語大辞典』を引いてみると、なんと・・・・「ナフキン」が載っているではないですか!
「ナフキン」=(英napkinに「ふきん(布巾)」の連想がはたらいてできた語)「ナプキン(1)に同じ。」
とあります。なーるーほ−どー、「ふきん」の連想で「ナフキン」かあ。そして用例も載っています。
*われらの一団と彼(1912)<石川啄木>「有るか無しかの髭をナフキンで拭きながら私は聞いた」*或る女(1919)<有島武郎>後・四四「糊の強いナフキンを枕から喉にかけてあてがってやると」
ホホウ、髭を拭いたり糊が強かったり枕にあてがってやったりするんだ、ナフキンって。ともに1910年代の使用例ですね。
ちなみに「ナプキン」は、
「ナプキン」(英napkin)《ナップキン》(1)西洋料理を食べると際、棟やひざにかけておき、衣服のよごれるのを防いだり、口や手をぬぐったりする布。紙製もある。ナフキン。」
これが、「ナフキン」の中にあった「ナプキン(1)」ですね。それでは「ナプキン(2)」はというと、
「(2)生理用品の一つ。経血を吸い込ませるためのパッド。」
とありました。どちらも「ナプキン」だけど、「ナフキン」には「ナプキン(2)」の意味は載っていないですし、生理用品のことを「ナフキン」と言っている人を見たこともないですから、Mアナウンサーの言うように、「ナピキン(2)」と意味上の区別をするという意識が「ナフキン」と「ナプキン」を使い分けているのかもしれませんね。
2004/10/22
(追記)

小5の息子の学校の宿題につき合わされました。国語の音読のチェックです。教科書に載っている題材は、宮沢賢治『注文の多い料理店』でした。その中にこんな一文が。
「『早くいらっしゃい。親方がもうナフキンかけて、ナイフを持って、舌なめずりして、お客様がたを待っていられます。』上に黄色な字でこう書いてありました。」
宮沢賢治は、
「ナフキン」
と使っていました。
2009/3/5


◆ことばの話1931「アイバン」

台風23号が、日本列島に深い爪跡を残しました。多くの方が亡くなりました。これで今年本土に上陸した台風は10個目。例年は2〜3個ですから、4倍のペース。さらに24号も来そうな感じです。もういい加減にして欲しい・・・。
さて、アメリカでも大型の台風が猛威を振るいました。「台風」というか「ハリケーン」ですが。先月(9月)16日、大型のハリケーン「アイバン」が、アメリカ南部のアラバマ州に上陸、フロリダ州などで少なくとも20人の死者を出すなど各地で猛威を振るったと、9月17日の毎日新聞が伝えています。ロイター通信によると、フロリダ州では8歳の女の子が自宅に倒れてきた樹木の下敷きとなり死亡。フロリダ州など4州では150万世帯以上が停電し、橋が流されるなど深い爪跡を残しました。その大型ハリケーンの名前で、ハッと気づきました。
「『アイバン』とは『イワン』のことではないか?」
と。「アイバン」と「イワンのばか」の「イワン」、ロシアの「イワン雷帝」は同じ綴りの、つまり英語の綴りでは、
「Ivan」
なのではないかということです。その「I」を「イ」と言うか「アイ」と言うかという違いなのではないでしょうか。こういった発音の例は、たとえば、
「アイコン」と「イコン」
があります。日本人は「I」を「イ」と発音し、アメリカ人は「I」を「アイ」と発音する傾向があるのではないか?つまり日本人は耳から入った外国語を表記しているのではなく、目でも見た文字の英語を音にしているのではないでしょうか。
アメリカ人が(訛りかもしれませんが)「I」を「アイ」と発音する例としては、マイケル・ムーア監督の映画「華氏9/11」の中に出てきたアメリカ人が、「イラク」のことを、
「アイラク」
と発音しているのも聞きました。ロシア人の名前で、
「イサク」
と言うのを聞いたことがありますが、これも英語風だと、
「『アイザック・ニュートン』の『アイザック』」
と同じではないでしょうか?ちょっと発見した気分です。

2004/10/22

(追記)

アメリカ在住のI先輩からメールをいただきました。いつもありがとうございます。
「アイバンがイワンやったとは気づかんかった。読み方の問題は、見た目で発音とかいう問題ではなくて、現地読みかどうかの問題ではないか。Ivanは、きっとロシア語では「イワン」と発音するんだと思う。世界史に出てくる名前で、ぼくら日本人は、チャールズ、カール、シャルル、なんて、それぞれ現地の発音(英語、ドイツ語、仏語)で習うが、アメリカだったら、みんなチャールズ。聖書のマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、なんてのも、英語ではマシュー、マーク、ルーク、ジョンと言う。違う言語でも、おなじアルファベットで書いてあるから、現地読みでなくて、自国語の発音で読んでしまうのだろう。
これは日本でも同じような現象があって、毛沢東と中国語で書いてあっても、漢字が読めてしまうから「もう・たくとう」と、現地語読みとは似ても似つかない発音で読んでしまう。しかしアメリカの新聞だと「マオ・ツァートン」なんて現地読みで表記しているから、中国についての英語の記事を読むと、人の名前が判らなくて苦労する。きっと中国の人も、日本人の名前(漢字)を向こうの読み方で発音しているのだろう。」
ということでした。そうでした。日本と中国における漢字の読みの問題と、アルファベットの発音の違いの問題は、おっしゃるとおり、似ていますね。結局「現地(または自国)読みかどうか」の問題と言ってよいと思います。

2004/10/27

(追記2)

アメリカの第16代大統領、
「アブラハム・リンカーン」
も最近は、
「エイブラハム・リンカーン」
になっているようですね。君たちはアブラハム、エイブラハムどっち?と聞くと、MアナウンサーとアルバイトのIさんがいきなり、
♪アブラハムには7人の子、一人はノッポであとはチビ♪
と、声を合わせて歌いだしました。子供の頃、キャンプで歌ったそうです。そんな歌があったのか。ここでは「アブラハム」。
GOOGLE検索(11月10日)では、
「アブラハム・リンカーン」=2440件
「エイブラハム・リンカーン」=3270件

でした。

2004/11/10
 
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