◆ことばの話1895「空港島」
2004年9月4日、関西国際空港が開港満10周年を迎えました。
その前日、Sキャスターからの質問です。
「うちは『空港島』を『くうこうじま』と読むことにしてますよね。では現在、二期工事をしている島のことを『二期島』と表記した場合には、『にきじま』ですか?それとも『にきとう』ですか?それと『関空島』という表記をした場合には『かんくうじま』ですか?それとも『かんくうとう』ですか?」
「うーん。『空港島』を『じま』と読むのなら、すべて『じま』で統一すべきだろうなあ。『二期島』を『にきとう』って読んだら『二気筒』みたいだしなあ。そもそも『二期島』なんて言葉は、計画中と工事中にしか出てこない『お役所言葉』なんじゃない?完成したら、全体が関西国際空港の島になるんだし、そういう意味では、『二期工事中の島』とかなんとか、噛み砕いて言うようにしたら?それから『関空島』は『空港島』と同義だから、『空港島』しか使わないようにしたら、余計な議論は避けられるよ。」

ということで、「くうこう」という音読みと「しま」という訓読みが混じった「重箱読み」の「くうこうじま」が、存続することになったのでした。
また他局では、9月7日、毎日放送の田丸アナウンサーも、
「くうこうじま」
と読んでいました。
余談ですが、私たちの世代にとっては懐かしい番組に「ひょっこりひょうたん島」があります。去年からNHKで再放送していますが、あれは「じま」ですね、「ひょうたん」も訓だから問題ないのですが、「くうこうじま」と聞くと、なんとなく「ひょうたんじま」を思い出してしまいます。「くうこうじま」はどこへ行くー!?

2004/9/14


◆ことばの話1894「デ・リマ」

アテネオリンピックの男子マラソン、30キロ過ぎまでトップを走っていたのに、闖入者のせいもあって結局3位に終わったブラジルのデリマ選手。
実況アナウンサー(おそらくNHKの工藤三郎アナウンサー)は、主に、
「リマ選手」
と言っていました。ときどき、
「デリマ」
とも言っていましたが、アクセントは、
「デ・リマ(L・HL)」
で、まあ、言ってみれば「中高アクセント」でした。
ところが、8月30日のNHKお昼のニュースの武田アナウンサーは、
「デリマ」
で、しかもアクセントは、
「デリマ(HLL)」
「頭高アクセント」でした。
同じ日の夜のTBS「ニュース23」で草野満代アナウンサーは、
「リマ選手」
と言っていました。
8月30日の新聞は、日経と読売、朝日、毎日、産経とすべて、
「デリマ」。

でした。ただ、もともとは「リマ」だったことを示す記述が朝日新聞にありました。
『03年福岡国際12位の記録を持つリマ選手の表記を30日付紙面から「デリマ」に変更します』
もとは「リマ」で新しく「デリマ」になったのか。ありま。
共同通信が8月30日12時15分付けでネットに掲載した記事では、
『生中継していたアナウンサーは、リマ選手が投げキスをしながらジグザグに走るユーモアを見せると「これこそブラジルの精神」と称賛した。写真=トップを独走中、走りだしてきた男(右)に飛び付かれるリマ(AP=共同)』
と言うふうに「リマ」になっています。
一体「リマ」か「デリマ」か、どっちなの?
また「デリマ」とした場合に「デ」で切って「中高アクセント」なのか、「頭高アクセント」で「デリマ(HLL)」なのか?これも問題。さあ、どっち?
GOOGLEで検索してみると(9月11日)、
「デリマ選手」=     1万3100件
「デ・リマ選手」=      2780件
「リマ選手」=        3880件
「ヴァンデルレイ・デ・リマ選手」=74件

と、ネット上では「リマ選手」が優勢です。
「ブライアン・デ・パルマ」や「ロバート・デ・ニーロ」の「デ」、「レオナルド・ディカプリオ」の「ディ」も同じようなものなのでしょうか?これらはいずれもイタリア系と思われますが、ブラジル=ポルトガル語系も同じ発音でいいのかどうか。「デ」ではなく「ジ」や「ディ」ではないかという疑問も残ります。
うーん、どうなんだ?外国人の名前は難しいですねえ・・・。

2004/9/13

(追記)

南米を訪問している小泉総理大臣が、アテネ五輪マラソン銅メダリストのデリマ選手に会ったそうです。そのニュースを伝えた9月17日のテレビ朝日のお昼のニュースを読んでいた山口アナウンサーは、
「デリマ(HLL)選手」
と読んでいました。



2004/9/17



◆ことばの話1893「見せてもらっていいですかあ」

アテネオリンピック、水泳の男子メドレーリレーで銅メダルを獲った4人の選手にインタビューした女性アナウンサーの一言が気になりました。それがタイトルにある、
「(メダルを)見せてもらっていいですかあ」
という言葉。最近の若い女性がよく使うのを耳にする、
「〜してもらっていいですか」
という言い方です。本人は丁寧に、親しみを持ってしゃべってるつもりなんでしょうけど、「雑な問いかけ」に感じます。従来なら、
「見せていただいてもよろしいでしょうか?」
もしくは、
「見せていただけませんか?」
と言っていたように思うのです。それに比べると、かなりフランク、親しげではありますが、その反面、敬意の度合いが低いように感じられます。もちろん、こういった言い方に慣れている人たちは、なんとも思っていないのでしょうけれども・・・。
もう、見せてもらうのが当然だと思って、一応形式的に聞いている、という甘えた感じが漂ってくるのですよ。相手の「許可」を得るための問いかけなのに、もう許可は不要、当然見せてもらえる、という感じ・・・臭うゾ。
でも、使っている人たちにこんなことを言っても、おそらくそのニュアンスは伝わらないんだろうなあ。もし、私が言われたら、ムッとしますけどね。メダル、見せてやんないかもしれない。
なんだか気になる言葉でした。
平成ことば事情253「お借りしてもいいですか」も、ご参照ください。

2004/9/10

(追記)
9月13日の読売新聞夕刊「ことばのこばこ」で、武庫川女子大学・言語文化研究所所長の佐竹秀雄教授が「もらう」について書いてらっしゃいます。それによると、若い女性がうどん屋で店員に、
「お茶をもらっていいですか」
と言うのを聞いたが、これは正しくは、
「お茶をいただけますか」
であると。「もらう」には「感謝」の意味はあるが「敬意」は含まれていないので、「敬語ではない」のに、「もらう」を敬語だと思って使っている若者が多いという話でした。やっぱりね!気持ち悪いんですよ、この「もらう」は!

2004/9/14

(追記2)
やはり、気になっている人は多いようで・・。
梅花女子大学の米川明彦先生も「〜てもらっていいですか?」が「最近出てきた気になる言葉」として、10月4日の読売新聞夕刊の連載コラム「ことばのこばこ」で取り上げてらっしゃいました。女子大生たちが使っているのだろうと思ったら、店員がお客さんに対し、申し込み用紙を差し出して、
「これに書いてもらっていいですか?」
と使い、また、若い男性アナウンサーが幼児に向かって、
「見せてもらっていい?」
と使っているのを見聞きしたとのことです。ドキッ。若い男性アナウンサーって、私のことでは・・・若くないか。米川先生は、
「上限関係からいえば、大人が上なのに、何を遠慮しているのだろうか?直接的表現を避け、間接的表現をする傾向は近年顕著だが、ここまでくると気持ちが悪い。」
と結んでいます。

2004/10/5

(追記3)

前の「追記2」が2004年10月。そうそう、その頃にメモしたままだったものが出てきました。2004年10月30日にメモしたものです。
「いただけますか?は『MAY I HAVE YOUR NAME?』の直訳では?また『貸してもらっていいですか?』を不快に感じるのは視聴者に敬意を払っていないから。」
とメモしていました。

2006/9/10




◆ことばの話1892「再開したそうです」

8月31日、アテネ・オリンピック女子マラソンで優勝した野口みずき選手が京都府庁を訪れ、優勝の報告をしたというニュースの中で、アテネから帰国してまだ数日しか経っていない野口選手が、もう練習を再開したということに触れたニュース原稿が、
「練習を再開しているそうです。」
というものでした。この
「そうです」
ですが、よくないよね。同じ伝聞を伝えるにしても
「再開したということです」
とした方が、同じ伝聞でもニュースらしいですね。伝聞と言っても、記者自らの野口選手に取材して聞いたことなのだから、もと自信を持って原稿を書いて欲しいです。
これについてSアナウンサーにメールで意見を聞くと、
「『そうです』には裏取りのニュアンスがありませんね。『ということです』の方が、伝聞でも取材の主体性を感じてしまいますね。」
という答えが返ってきました。やっぱりそうだろ!
こういった細かいところにも気を配って、記者は原稿を書いて欲しいし、アナウンサーも、渡された原稿をそのまま読むのではなくて、そういった表現にはきっちり対応して、
「『そうです』という表現はおかしいのではないか?」
と、デスクなり記者なりに返す必要があると思います。それがプロとしての「スジ」です。
2004/9/11





◆ことばの話1891「クーベルタン」


アテネ・オリンピック男子マラソンで、途中まで先頭を走りながら、突然の闖入者のせいもあって、結局3位の銅メダルに終わった、ブラジルのデリマ選手がブラジルに帰国したニュースを「あさイチ!」の番組で伝えました。ブラジル国内では、「デリマ選手にも金メダルを与えるべきだ」という意見も出ているということなのです。
「でも、フェアープレー賞みたいな、クーベルタン男爵特別賞メダルだっけ?それをもらったんでしょう?だからしょうがないんじゃない?」
という意見をスタッフとの間で交わした時に、
「あのクーベルタンのメダル、正式名称なんだっけ?調べておいて!」
と若手スタッフ(22歳ぐらい、男性)に頼んだところ、
「クーベル・・・タンですか?」
とても不安そうに返事をしているので、まさかとは思ったのですが、聞いてみました。
「もしかして、きみ、クーベルタン、知らんの?」
返ってきた答えは、自信にあふれた声で、
「はい!」
でした。おいおいマジかよー!と思ったのですが、周りの30歳代以上のスタッフは、
「道浦さん、それはしょうがないですよ。最近は教科書に載っていないんじゃないですか?」
「えー、でも教科書うんぬんという問題かあ?」
と思って、番組後の反省会に出席したスタッフ約20人に、
「クーベルタンって誰か知ってる人」
と聞いたところ、一人も手が上りません。
「クーベルタンを知らない人」
と言うと、若手は全員、手を上げました。知名度ゼロかあ。クーベルタンを知っていたのは30歳以上でした。30歳以上でも、
「手は上げなかったけど、実は知りません・・・」
とあとで言い出した(ズルイんとちゃうの!)32歳のNアナウンサーは、
「クーベルタンって、お菓子の名前かと思ってました。」
と、またおいしい話をしてくれたので、私もつられて、
「ああ、神戸のクーベルタンのバウムクーヘン、おいしいよね、クーベルタンを『食うベルタン』・・・なんちって!」
と言わなくてもいい「ダジャレ」を言ってしまうはめに・・・。そうそう、ワインにもあるよね、ジュブレ・クーベルタン・・・ってそれは「シャンベルタン」や!放っておくと、止まりません・・・。
あとでアナウンス部で聞いた時に、恥ずかしそうに「・・・知りません・・・」と言った、34歳のMアナウンサーや、同じく30代のアルバイトのI嬢のように、女性は概して知らないのかなという気もしました。
それにしても若手スタッフの諸君、これでクーベルタンが「近代オリンピックの父」と呼ばれていることなども覚えただろ。反省会も、
「参加することに意義がある」
んだよ。もっとも、参加しても、居眠りして聞いてなかったら意味がないけど・・・。
あ、この「参加することに意義がある」の言葉の変遷については、「読書日記102・オリンピック物語」を読んで下さい。
2004/9/11
 
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