◆ことばの話1890「『残忍』アクセント」

9月9日未明、愛知県豊明市で母親と子供3人が殺され、家に放火される事件がありました。9月10日の「おもいっきりテレビ」でこの事件について中継していた、名古屋の中京テレビの鶴木陽子アナウンサーが、
「残忍な犯行」
という言葉を使ったのですが、その「残忍」のアクセントが「中高」で、
「ざんにん(LHHL)」
でした。アクセント辞典を引いてみると、本来のアクセントは
「ざんにん(LHHH)」
「平板アクセント」しか載っていません。
ただ、よく似た発音の言葉である「残念」は、
「ざんねん(LHHL)」
と「中高アクセント」なので、それに引かれて「中高」になっているのではないかと思われます。
同じことは今年1月、福岡放送の浜崎キャスターも、「平板アクセント」のはずの、
「残忍(LHHH)」
「中高アクセント」の、
「ザンニン(LHHL)」
と言っていたことが記録されています。これについては、平成ことば事情1561「『全員のアクセント』に書きましたが、同じような出来事は「再現」という単語でも起きています。つまり、本来「平板アクセント」の、
「再現(LHHH)」
が、「証言」という言葉が平板と中高、両方のアクセントが採用されているので、そのアクセントに引かれて、
「再現(LHHL)」
「中高アクセント」になっているのです。
本来「平板アクセント」→「中高アクセント」になっている同じようなものには、
「全員(LHHH)」→「全員(LHHL)」
「全面(LHHH)」→「全面(LHHL)」

があります。(もっとも「全面・前面」は「平板アクセント」とともに「中高アクセント」が認められています。)
似た言葉のアクセントに引かれて、同じ形に変化していく様子が見て取れますね。
2004/9/10

(追記)

2006年9月11日、夕方6時前の「ニュース・リアルタイム」で皇太子殿下が話してらっしゃる様子が放送されていました。その中で、愛子さまが相撲好きという話題で、皇太子殿下は、
「宮内庁の職員と私で相撲の技を再現したり」
とおっしゃったのですが、この「再現」が「中高アクセント」の、
「さいげん(LHHL)」
でした。
2006/9/11


◆ことばの話1889「スケジュールのアクセント」

9月8日、サッカーワールドカップアジア一次予選の日本対インドの試合をテレビで観戦していました。試合は、ハーフタイムにいきなり停電となり、後半開始が30分も遅れるハプニングもありましたが、後半に3点を挙げた日本が4対0で勝利を収めました。私も試合が行われたインドのコルカタ(旧・カルカッタ)を15年前に訪れたことがありますが、そのときもホテルのレストランでカレーを食べていたら、突然停電!しかし、レストランの人はあわてることもなく、すぐに蝋燭を持って現われましたから、停電は日常茶飯事なんでしょうね。ちょうどその前日、台風18号で、後輩のOアナウンサーのマンションが1時間半ほど停電になったという話を聞いたばかりで、よくよくこのところ停電に縁があるのかなと思いました。
さて、試合が終わってからテレビ朝日のスタジオに戻って、試合のハイライトや今後の日程などを手短に紹介していました。その中でテレビ朝日の女性アナウンサーが、
「今後のスケジュールは」
と言ってのですが、その「スケジュール」という言葉のアクセントが、
「スケジュールは(LHHHHH)」(Lは低く、Hは高く発音)
「平板アクセント」だったので驚きました。何でも平板にしやがる!
アナウンス部でみんなに聞いてみました。
その結果は、
(1)「スケジュール(LHLLL)」・・・「ケ」で上げる=3人
三浦、野村、脇浜
(2)「スケジュール(LHHLL)」・・・「ケジュ」を上げる=7人
植村、小澤、横須賀、道浦、小林、村上、萩原
ということで、「スケジュール(LHHLL)」派が、多いかな。(1)は英語の言語のアクセントに近いんですね。
『NHK日本語発音アクセント辞典』を見ると、(1)(2)の順で2つとも載っていますが、平板アクセントの「スケジュール」は載っていません。
カタカナ語でよく使う言葉は平板になると言いますが、「スケジュール」まで平板にならなくても・・・と思いましたね。
2004/9/9



◆ことばの話1888「ここやし」

帰宅途中、地元の駅で降りて駅前を歩いていると、駅から出てきた待ち合わせの相手を探しているふうの私服の女子高生とおぼしき女の子が、手を振りながら、いきなり大きな声をあげました。
「ココヤシ!」
ハ?ココヤシ?・・・あの椰子の実が取れる、ココナツの?・・・と一瞬思いました。次の瞬間、女の子が手を振った方角から、別の女の子2人が現れ、向こうの方から大きな声をかけてきました。
「おったし!」
それでようやく意味がわかりました。最初の女の子は「ここだよ」という意味で「ここやし」と言い、それを見つけた女の子は「いた!」「見つけた!」という意味で「おったし」と言ったのです。
この場合「し」はなくても成立ちます。つまり、
「ここや!」
「おった!」

という関西弁の会話なのですが、なぜか語尾に「し」が付いています。女の子の京都弁では、この語尾の「し」は昔から耳にするんですが、最近、男女を問わず、語尾に「し」をつける傾向があるようなのです。うちの小学1年生の息子や、その周辺の子供たちは、既に1年ほど前からこの「し」付き言葉を使っていました。それに関しては去年5月に、平成ことば事情1184「おもしろかったしぃ」に書きました。それを読み返してみると、語尾の「し」は、昔(というのは、私が中学生の頃。1974年から1976年頃)、京都の子や、京都弁の影響を受けている京阪地区(枚方など)の子が使っていた言葉と似ていて、私は去年(2003年)5月、JR大阪駅構内ですれ違った女子高生3人組が、
「めっちゃおもしろかったし」
というふうに使っていたのを耳にしたほか、同じく5月に、タレントの陣内智則くんが大阪の町のおばちゃんにインタビューしていた中で、おばちゃんの服装について、
「派手やしィ」
と言ったのも聞いています。
今年(2004年)に入ってからは、千葉に住む大学時代の友人からの年賀状に、
「最近うちの娘(注・たぶん小学生だと思う)が使う言葉で気になる言葉は、語尾に『しぃ』を付けることです」
というメッセージが書かれていたり、年明けの1月5日の読売新聞夕刊の連載「新・日本語の現場〜番外編・上」にも、
「『し』は『復習もしたし、予習もした』というのが普通だが、『ボクは元日から、トンカツを食べたし』などと、文末の言い切りに用いる。『し』に続く文章が用意されていないのだ。(中略)文末の『し』には断定的な言い方を避ける意図もうかがえる。」
として、この「し」が取り上げられていました。
そして、井上史雄・鑓水兼貴編著『辞典・新しい日本語』(東洋書林)の220ページには、「〜ヤシ」が載っています。標準語だと「〜だし」。
「今日は雨ヤシ」という言い方では、大阪市・和歌山市の中間で中年以下の増加(岸江1996)。沖縄県高校生に分布(伊礼1998)「今日から授業やし、知らない間に休み終わってた・・・」(大阪市立大生)

関西だけでなく関東にも「し」は広がっているようです。

2004/9/10



◆ことばの話1887「コルカタで東京メトロ」

2004年9月8日、インドのコルカタ(旧名カルカッタ)で行われたサッカーのワールドカップ、アジア一次予選の日本対インドの試合、12万5000人収容という巨大スタジアム(なぜか、ソルトレイク・スタジアムという名前)に10万人もの観客を集めたその試合で、一番目立ったのは、やはり日本企業の広告看板でした。看板だけ見ていると、日本で試合が行われているのではないか?と思うぐらいでした。そう言う意味では選手も、
「広告看板も日本のサポーター」
と感じて戦いやすいのではないかなあ、などとも思いました。
どんな企業のか看板が出ていたかというと、

「TOSHIBA、読売新聞、ダンディハウス、東京メトロ、CITIZN、アイフル、
namco、calbee、season card、HITACHI、adidas」

といったところ。アディダスはドイツの企業ですが、日本でもおなじみですね。
インドの人口10億人もいるらしいですが、インドの人は絶対、「読売新聞」は取ってないと思う。インドの人は、きっと、セゾンカードを持っていないと思う。それに、インドの人で「東京メトロ」に乗ったことがある人は、ほとんどいないと思う。必要ないし。
つまり、間違いなくこういった広告は、テレビで中継を見ている日本人のために、わざわざ、
「はるかコルカタ」
の地のスタジアムに立てられているのです。(「はるかかなた」に掛けてみました。)
ちなみに、地元の向けの(?)インドの企業と思われる広告は、たった2社しかなく、1社は英語表記で、ヒンズー文字表記の広告は1社だけでした。
まっ、私としては試合場所が「コルカタ」ですから、「ピップ」とか「サロンパス」とか「アンメルツ」とか、そんな広告を出して欲しかったですね。
なお、これと同じような話は、平成ことば事情1273「男のエステ」、平成ことば事情133「ハッサン2世杯の広告」にも書きましたので、ご覧ください。

2004/9/10



◆ことばの話1886「新創刊」


女優の松嶋菜々子さんが、出産から仕事に復帰。その第一弾となったのが、新たに創刊された「BOAO」(ボアオ)という女性向け雑誌の表紙モデルでした。その話題を取り上げた日本テレビの「情報ツウ」(9月10日)で、この雑誌のことを
「新創刊の雑誌」
と紹介していました。でもよく考えたら、「創刊」は「新」に決まっているのではないか?「新」はいらないのではないか?と思いました。と言いつつ、
「新たに創刊された」
なんて私も書いているいるわけですが・・・。
GOOGLEで「新創刊」を検索してみました(9月10日)。
「新創刊」=1万0600件
あらまあー、結構「新創刊」されているのですねえ・・・逆に「廃刊」は・・・
「廃刊」=6万5400件
おやまー、これも多いのねー。
雑誌の世界は「超永久保存版」なんてものもあるぐらいですから(それでいて、保存期間はたったの1年・・・平成ことば事情の第1回「超永久保存版」をご参照下さい。)、映画と並んで、強調に強調を重ねる表現が横行しているのですね、きっと。
2004/9/10
 
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