◆ことばの話1870「棟か軒か」

7月31日の「ズームイン・サタデー」、担当の村上順子アナウンサーは、京都府美山町から茅葺屋根の民家の中継をしましたが、その数日前、中継の準備をしていたFディレクターとOディレクターが、あいついで質問に来ました。
「茅葺屋根の民家を数えるときには『棟』ですか?それとも『軒』ですか?」
うーん、最近のディレクターからの質問は、細かいところに入ってくるようになりました。
「『軒』というのは、家を数えるのと同時に、その世帯を表すのにも使うよね。それに対して『棟』は、家族の構成内容や世帯に関係なく、建物・建造物の数を数える時に使うように思うね。もちろんこの場合は『トウ』ではなく『ムネ』と読むんだけど。
つまり、たとえば『井上さん』という家の『1軒』の敷地には、『3棟』の茅葺屋根の建物がある、というような表現が可能なんじゃないかな。だから『茅葺屋根の民家』というように建造物が対象であるならば『棟』を使った方がいいんじゃない?」

とアドバイスしておきました。翌日の放送では、『棟』を使っていたようです。
なかなか難しいですね、助数詞と言うのは。もちろん「軒」でも間違いではないと思いますがね。

2004/9/5



◆ことばの話1869「秋サケ」

8月のはじめ、立秋にはまだ日がある、という日のお昼のニュース。
大阪中央卸売市場で「秋さけ」の初売りの原稿を読みました。そのときに、
「秋サケか?秋シャケか?」
という問題が生じました。ついでに言うと、「サケ」か「さけ」か「鮭」か?「シャケ」か「しゃけ」か?という表記の問題も、同時に生じました。
そこで、読売テレビ報道局で書いた1995年から2004年8月までの原稿での表記を検索したところ、「秋サケ(さけ)」は9件で、「秋しゃけ(シャケ)」は1件もありませんでした。
ということで、結局「秋サケ」に落ち着いたのですが、要は、魚の名前は「サケ」、食卓のお皿の上に乗って出てくると「シャケ」というケースもあるということのようですね。だから中央卸売市場では、まだ「魚」の状態(=切り身ではない)なので「サケ」の方が望ましいかと。それと地域的な呼び方の差、つまり「方言」としての「シャケ」もあるのではないでしょうか?

2004/9/5
(追記)
2007年8月9日の日経新聞夕刊を見ると、
「猛暑をよそに秋ザケ続々」
という見出しで、本文でも、
「秋ザケの初セリが九日午前五時十分、大阪市中央卸売市場・本場(福島区)で開かれた。」
と、濁った「秋ザケ」が使われていました。
2007/8/10




◆ことばの話1868「ラドクリフのアクセント」

8月24日、アテネオリンピックのニュースで、女子マラソンのラドクリフ選手が、マラソンを途中棄権してしまったことでショックを受け、その後の他の種目への出場を取りやめるかも・・・というニュースを伝えた、NHKの武田アナウンサーは、ラドクリフ選手の名前のアクセントを、
「ラドクリフ(HLLLL)」(※Lは低く、Hは高く発音)
「頭高アクセント」で読んでいました。
女子マラソンの実況アナウンサーは、
「ラドクリフ(LHHLL)」
「中高アクセント」でした。私もふだんは、中高アクセントで言いますね。でも同じようなケースで「ラムズフェルド国防長官」の場合は、以前書きました(平成ことば事情1139「ラムズフェルドのアクセント」)けど、私は、
「ラムズフェルド(HLLLLL)」
「頭高アクセント」で言ってしまいます。NHKの武田アナウンサーは、たしかこちらは、
「ラムズフェルド(LHHHLL)」
「中高アクセント」でした。
外国語のまま取り入れられているか、日本語としての外来語のアクセントのフィルターを通って濾過されているかどうか、という問題ですね。

2004/9/5




◆ことばの話1867「暗黙の・・・」

スポーツ担当のYアナウンサーが、
「先日、TBSの佐古キャスターが、巨人の裏金問題で『暗黙の常識』と言っていた、と。また報知新聞にもそう載っていたのだが、普通は『暗黙の了解』ではないのか?」
と話しかけてきました。たしかに、普通は
「暗黙の了解(諒解)」
ですよね。
GOOGLE検索(8月20日)したら、
「暗黙の常識」=   554件
「暗黙の諒解」=   223件
「暗黙の了解」=3万8500件

でした。「諒解」は、字が難しいから少ないのかもしれませんね。
少ないとはいえ554件もある「暗黙の常識」は、「暗黙の諒解」+「常識」による「混交表現」のようです。
今後、注意してチェックすることにします。
2004/9/5




◆ことばの話1866「駒大苫小牧」

アテネオリンピック・女子マラソンの野口みずき選手の金メダルの話題で陰が薄くなっていますが、夏の高校野球は北海道の駒大苫小牧高校が、春の覇者・済美高校を13対10で下して、春夏通じて初めて優勝旗が津軽海峡を越えることになりました。
さてその駒大苫小牧高校。校名が言いにくい。女子マラソンの「ヌデレバ」選手と同じぐらい言いにくい。「高速増殖炉もんじゅ」と同じぐらい、言いにくいです。
「こまだい・とまこまい」
つい、
「こまだい・こまこまい」
と言ってしまいそうで・・・。実際、間違えて、
「駒大駒沢高校」
と言ったアルプススタンドリポーターの女性アナウンサーも見かけましたし、昨日(8月22日)、駒大苫小牧優勝のニュースを読んだOアナウンサーからも、
「『駒大苫小牧』=『こまだい・とまこまい』を『とまだい・こまこまい』と何度も言いそうになりました。」
というメールをもらいました。ニュースで読み間違ったりすると大変。「てんてこまい」になります。
さて、苫小牧と言うと、学生時代にグリークラブの演奏旅行で一度訪ねました。その時に演奏会を開いた中学校か高校で、司会を担当した部員が(私ではありません。Iという男です)「とまこまい」と言おうとして、
「こまこまい」
と何度も言い間違えたことがありました。彼いわく、
「なんかさあ、真駒内(まこまない)と混同してしまうんだよなあ・・・」
彼はきっと今頃、また会社で、
「こまこまい」
と言っていることでしょうねえ・・・。

2004/8/23


(追記)
8月17日の深夜(実際は8月18日)、家に帰るタクシーの中で、アテネ五輪の野球中継をNHKラジオで聞いていたら、実況アナウンサー(NHKアナウンサーではないかも)が解説者に向かって、こう言いました。
「小笠原さん…失礼、小早川さん。」
たしかに3文字で最初が「小」という字だけど、しかもグラウンドには全日本代表として小笠原選手は出ているけど、こういう間違い方もするんですかね。言葉は「オガサワラ」と「コバヤカワ」では全然似ていないんですけど。目から入った漢字の印象が脳に影響を与えたケースとして、貴重な例かと思いました。

2004/9/8
 
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