◆ことばの話1860「大仏さまか?大仏さんか?」

8月7日、お盆を前に、奈良・東大寺の大仏さんのお身拭いが行われました。
そのニュースを伝えた読売テレビのお昼のニュース(関西ローカル)では、
「大仏様のお身拭いが行われました。」
としていたのですが、毎日放送の関西ローカルニュースでは、
「大仏さんのお身拭いがおこなわれました。」
としていました。え?どこが違うって?うちは「大仏様」、毎日放送は「大仏さん」。つまり「様」か「さん」か?ということです。
「『様』の方が丁寧でいいじゃないか」
という声も当然聞こえるのですが、実は関西では、
「『様』よりも『さん』の方が、『敬意が高い』」
という説もあるのはご存知でしょうか?
関西では「神さん」「仏さん」「おひさん」「えべっさん」「お稲荷さん」など、東京であれば「様」つけしそうなものについても「さま」をつけることが多い。これは「御所ことば」においては、「様」よりも「さん」の方が敬意が高いことに由来すると、前田 勇『大阪弁』(朝日新聞社、1977)に記されているのです。
敬意はともかく、大仏さんは関西の人にとっては非常に親しみのある存在ですから、関西ローカルの放送では「大仏様」よりも「大仏さん」の方がより、視聴者に身近なニュースになるのではないかなあ、と思いました

2004/8/12



◆ことばの話1859「減肉」

8月9日、福井県美浜町の美浜原発3号機で、2時冷却系の配管が破損して高温の蒸気が噴出し、4人が死亡する事故が起きました。8月10日の毎日新聞夕刊は、破れた配管の部分が去年11月の時点で、点検が必要な箇所と把握しながら何もしなかったと伝えています。
また、破損の原因について関西電力は、
「水流の乱れで磨耗や腐食が進んだ、激しい『減肉』が原因だとの見方を強めた」
と話しているそうですが、この、
「減肉」
と言う言葉、意味はよくわかりますが、なんと読むのでしょうか?やっぱり、
「げんにく」
でしょうかね。「肉」は「訓読み」のように思えるけど、実は「音読み」なので、「げんにく」は、ヘンな読み方ではないのですが、なんとなく違和感がありますよね。
日本国語大辞典』で「減肉」を引きましたが、載っていませんでした。
しかしGOOGLEで検索したところ(日本語のページで)、2190件もありました。「配管減肉」というような感じで出ていました。(8月10日)
専門用語としては「フツウ」の言葉なんでしょうね。
定期点検をしっかりやって、2度とこういう事故を起こさないでいただきたいものです。
亡くなった4人の方のご冥福をお祈りします。

2004/8/10




◆ことばの話1858「お教室」

Nアナウンサーが、
「道浦さんに今度会ったら言おうと思ってたんですが、最近、ちょっと上流風の20代後半から30代初めくらいの女性が、習い事の教室のことを、『お』をつけて『お教室』って言ってるのをよく耳にするんですが、これって『お』の使い方としてはおかしいですよね?」
と話しかけてきました。はあ、なるほど、「おビール」「おコーヒー」みたいに、本来「お」をつけないものに「お」をつけるものでは、ほかに「お受験」なんてのもありましたが、その系統ですかね、この「お教室」。
Uアナウンサーに「『お教室』って言う?」と聞くと、
「母が『鼓のお教室』と言っていたような気がする」
とのことで、若い人のみならず年配の女性も使っているのではないかと。そうすると、その娘世代の人が使うようになって、代々受け継がれているのかも知れません。さらに、
「芦屋のお嬢様社長・Kさんも、『パソコンのお教室』と言っていたような気がする」
という証言も。

かなり使われているようですね、この「お教室」。
GOOGLEで検索してみました。(8月9日しらべ)
「お教室」=3万0200件
おお!多い!
いずれにせよ、男性は使わないですよね。最近、ジェンダーフリーの中でなくなりつつある「女性言葉」なんでしょうか?それと、子供にお母さんが話しかける言葉には「お」をつけたものが多いですね。
「『おうち』に帰る『お時間』でしょ。」
「『おてて』と『おめめ』を洗いましょうね。」

など「対幼児語」には「お」がよく付きます。しかし「女性だけが使っているのではない」という新たな証言も!
「京都のお能の先生(男性)とそれを習っている大阪のお弟子さん(女性)も『お教室』と言っていた」
うーん、お教室、奥が深い!

2004/8/11

(追記)

Uアナが、お能の先生に確認してくれたところによりますと、
「素人さんを相手に文化センターなどで行なう練習のことは『お教室』と呼ぶが、プロのお弟子さんたちに練習をつけることは『お稽古場(オケイコバ)』と呼ぶ」
とのことでした。場所のことでなくお稽古のことを「お稽古場」と呼ぶんだそうです。
また、NHKの塩田さんからのメールで、
「『誕生』という言葉は動詞で使う場合には『ご』をつけて『ご誕生』と言うのに、『誕生日』のような名詞に『御』をつけるときは『お誕生日』と『お』になるのはどうしてか?」という質問をもらいました。あ、これって、「お教室」「お受験」と何か通じるところがあるのではないか。「御」は「お」とも「ご」とも読みますが、後ろに付く言葉が「漢語」の場合は、原則「ご」、「和語」の場合は「お」になると思うのですが、「受験」「教室」は「漢語」なのに「お」が付くので、違和感がある。しかし同じく漢語の「誕生日」は「お」でも違和感がない。どうしてでしょうか?もちろん「慣れ」の要素が大きいと思いますが、慣れるためには、よく使われていないといけない。つまり、「お誕生日」は子供たち相手によく使われるために「お」が、それほど違和感なくなってしまったのではないか。「ご」が「尊敬」に使われたのに、「お」は単なる丁寧語になってしまった、という解釈はどうでしょうかね。対人関係での使われ方で「ご」から「お」への変化が起きたと考えるのはいかがでしょうか?

2004/8/12
(追記2)

今シーズン話題のドラマに日本テレビ『ハケンの品格』(水・夜10時〜 )があります。篠原涼子演じる大前春子は、スーパー派遣社員。と言ってもスーパーマーケットで働いているわけではなく「スーパー」=「超有能」という意味です。私もほぼ毎週見ています。おもしろいです。ドラマですから、まあ作り物ですけど。話題になっているということで、2月14日の『ザ・ワイド』で(番宣も兼ねてでしょうが)特集していました。その中で、主演の篠原涼子さんがインタビューに答えていた言葉の中に、
「お時給」
という言葉が出てきたのに、MSアナウンサーが気づいて教えてくれました。そんなところに「お」を付けるか!Google検索では(2月14日)、
「お時給」=8万7100件
も出てきました!あ、でもこのドラマの第5話のタイトルが、
「お時給インベーダーVSナマコ大先輩」
だったのね。それと、やはり、
「『お時給』なんて言い方はおかしい!」
とネットで書いてる方がいらっしゃいました。やっぱり気になるんですね。あ、でも、
「お給料」
は抵抗なく使ってますよね、特に女性は。
「お給料」=139万件
でした。ごくごく普通の言葉ですね。「お時給」という言葉が出てきた背景には、間違いなく(正社員が減って)派遣社員やパート従業員が増えているということがあるでしょうね。
2007/2/14
(追記3)

『三匹のおっさん』(有川浩、文藝春秋:2009、3、15)という小説に「お教室」が出てきました。
「一応謝って帰っていったわよ。ピアノのお教室を諦めたかどうかは知らないけど」(28ページ)
2009/5/5



◆ことばの話1857「西ナイル熱」

「ニューススクランブル」で、海外旅行の時に気をつける病気の一つとして、
「西ナイル熱」
を取り上げました。しかしそのときにこの病気の呼び名を一貫して、
「ウエストナイル熱」
としていたのです。これには、相当、違和感がありました。
普通は「西ナイル熱」というのでは?英語にするのであれば「熱」は「フィーバー」とすべきかと思いますが、それではわかりにくいし、一般的な「西ナイル熱」を使った方が良かったのではないかな、と思っていたところ、今朝(8月6日)の朝刊に、北米を旅行して帰国した42歳の女性が、「西ナイル熱」の擬陽性であるというニュースが出て、その時の病名の表示はどれも、
「西ナイル熱」
でした。そこで、取材したT記者にこの疑問をメールしたところ、こんなメールが返ってきました。

「取材中、専門家にお聞きしたところ『西ナイル熱』とは言わないそうです。私が『西ナイル熱』と言っていたのを、わざわざ『それは「ウエストナイル熱」と言うのだ』と直されました。ウエストナイル地区で発生した熱ということで、専門家レベルでは、ほとんどが『ウエストナイル熱』と言っているそうです。それをそのまま使用しました。行政も『ウエストナイル熱』が多いので・・・。『「西ナイル熱」を使うのは、新聞の字数の問題ではないか?』とも、専門家の先生はお話になっていました。」

そうだったのか、専門家は「ウエストナイル熱」と言っているのか。これは私が不勉強だった・・・。でも専門家の言う言葉をそのまま使えば、すべてそれで良いというものでもないよな。そう思ってT記者に返信しました。

「なるほど、それは知りませんでした。勉強になりました。しかし、やはり専門家は別にして、一般的には『西ナイル熱』の方が通りがいいと思うので(Sキャスターによるとテレビで『ウエストナイル熱』とやっているのは日本テレビ系列だけだそうです。)、
『ウエストナイル熱、いわゆる西ナイル熱』
とかなんとか、一回は触れておかないと、『全く別の病気か』と思ってしまいます。
それに、Sキャスターは『日本テレビは「ウエストナイル熱」』と言ってましたが、今『ザ・ワイド』では、『西ナイル熱』と言っていましたよ。
GOOGLE検索では、
「西ナイル熱」=1万0400件
「ウエストナイル熱」=3530件

でした。
直接関係ないですが『インシュリン』と『インスリン』、一般的には『インシュリン』ですが、医学関係の専門家は『インスリン』と言います。これは英語とドイツ語の違いですが、そういうのもあります。」

一応そういった返事を出した途端、今度はSキャスターから、またメールです。
「厚生労働省、自治体等の発表資料は『ウエストナイル熱』。今夜の夕刊各紙(8月6日)は『西ナイル熱』。日本テレビは、去年まで『ウエスト』だったが、今日のニュースでは『西』。改めて、NNNに確認したところ、理由は定かでないものの、今後は『西』で統一とのこと。」
なんじゃ、そりゃ!理由はわかりませんが、今後、日本テレビ系列も
「西ナイル熱」
にするそうですよ。

2004/8/12



◆ことばの話1856「チャンポン店」

Sアナウンサーから内線電話です。
「道浦さん、『チャンポン店(てん)』、どうでしょう?」
もちろん、チャンポンを食べに行こうという誘いではありません。「店」の呼び方をニュースの中でどう処理するか、という相談です。たとえば「カレー屋」「ラーメン屋」などは、
「カレー店」「ラーメン店」
など、ニュースでは「屋」が「店」に置き換えられます。一般的には俗語として「屋」で呼んでも、「ニュース」という場ではちょっとオメカシして「店」に置き換えるという感じです。しかし、「チャンポン店」、「ン」の音が3回連続で続くのは、日本語としてはなんか少し楽しい、おちょくったような感じがしてしまいます。「マンギョンボン号」なんかも、別に何もおかしくないのに、日本語の感覚からは「変わってるな」と思ってしまうのは(思わないですか?)「ン」が3回、同じリズムで続くからだと思います。
で、この「チャンポン店」。「チャンポン屋」を丁寧に言ったわけですが、何かしっくり来ない。どういえば良いか?ということなんですが。うーん、と考えて、
「『中華料理店』ではどう?」
と言うと、
「え?チャンポンって中華料理でしたっけ?長崎料理では?」
「・・・・もとは、中華料理やろ?元を正せば。」

うまくいきません。さらに考えて、
「『チャンポン専門店』で、どや!」
「うーん、専門店というわけでもなくて、ほかにもメニューはある、ファストフード系のチャンポンの店なんですけど・・・」

面倒な店やなあ・・・・。
「じゃあ、いっそのこと『レストラン』!」
「・・・・こっちで考えて見ます。」

ということで、あとで放送を見ていたら、結局、
「飲食店」
で放送していました。せっかく一生懸命考えたのに、なんか、肩透かしを食らった感じでした・・・。

2004/8/11

(追記)

ちなみに、今日お昼に「冷麺」(=「冷やし中華」のこと)を食べた「黙壷子亭(もっこすてい)」というお店は、店の看板に、
「皿うどんハウス」
と書いてありました。これもニュースで言うときは難しいぞ。
「皿うどん店(てん)」
というのはヘンな感じ。まあ、「皿うどんハウス」にも違和感があるから、どっちでもいいのかなあ。
また、「ズームイン!SUPER」のS解説委員は、
「『長崎風麺料理店』はどう?」
と言っていました。

2004/8/12
 
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