◆ことばの話1855「ワンボックス車」

8月4日の読売テレビのお昼のニュースでの中で、交通事故のニュースがありました。
乗用車とワンボックスカーが衝突して死者が出たというものでした。そのニュースの中で、
「ワンボックス車」
という言葉が何回も出てきたので気になりました。普通は、
「ワンボックスカー」
と言うのではないか?そう疑問に思ったとたんに、Sアナウンサーからも、
「『ワンボックス車』は、おかしいのではないか?」
というメールが入り、すぐにヤフーで検索をしてくれました(8月4日)。それによると、
「ワンボックス車」 4432件
「ワンボックスカー」 1万2192件
ということで圧倒的に「ワンボックスカー」が使われています。
「思うに『ワンボックス車』は書き言葉風。耳で聞いたら断然、違和感があります。」
とのこと。そのとおり、そのとおり。
ちなみにNHKは、
「ワンボックスタイプの乗用車」
と言っていました。(8月4日お昼のニュースで)
そこで、「○○車」と付く車種と「○○カー」と付く車種を分類してみました。
*「○○車」・・・ミキサー・ワゴン・街宣・外(国)・救急・消防・ハシゴ・ポンプ・クレーン・レッカー・レントゲン・ディーゼル・中継・現金輸送・霊柩・保冷・事故・RV・アメリカ・フランス・イタリア・ドイツ・日本・国産・トヨタ・ホンダ・日産・サーキット・レースなど。
*「○○カー」・・・パトロール・キャンピング・ラジコン・ダンプ・ソーラー・選挙・オープン・スポーツ・ワンボックス・ミニ・サイド・巡回お風呂(24時間テレビ)・レーシングなど
*「どちらでもOK」・・・「宣伝カー、宣伝車」「ハイブリッドカー、ハイブリッド車」など

こうやって見てみると「○○」に入る内容は、大きく分けると、
(1)形態
(2)用途
(3)所属
(4)動力源

に分けられると思います。(これ以外にもあるかも知れませんが。)この場合、「ワンボックス」は、(1)の「形態」ですね。
一応こうやって分けてみたものの、この分類によって「車」か「カー」かを分ける決め手にはなりませんでした・・・・残念。
そうこうしていると、実際にそんな原稿を読んでしまったHアナウンサーからも、メールが来ました。
「ワンボックスの件です。原稿で『ワンボックス車』とあり、おっしゃるとおり『ワンボックスカー』のほうがより一般に使われていることから、言い換えしようかと一瞬考えましたが、私自身が『ワンボックス車』ということばをかねて読んでいたか聞いていたかで、強い抵抗を持たなかったことに加え、その前段に『乗用車』の語があり『車』に『カー』を対応させるのは妙なことに思えたので、そのまま読みました。
私は『ワンボックス車』はクルマの『形態』を表すことばとしてある『ワゴン車』の呼び方をさらに細分化した新しいことばとして認識しています。だからこそ『カー』ではなく『車』を使うのであり、そこに整合性があることも、私がそのことばに抵抗感を持たなかった理由です。
しかし『新しいことば』をニュースで使うには、時期尚早だったのかもしれません。ただ『ワンボックスカー』の呼び方も決して新しいものではなく、話し言葉で使われているからという理由で採用するものでもない気がします。
また車の役割や機能的特長と深く結びついた『パトロールカー』や『ダンプカー』などと同様の比較で呼ぶか呼ばないかを語ることではなかろうと考えます。
この件で報道デスクのW氏と、報道で使う『車の形を表すことばの統一・整理』も今後の課題だと話をしました。
ちなみに『ワゴン車』と呼ばれる車の形は、どうかするとワンボックスタイプから商用車タイプまで含まれてしまっていて、以前からあまり意味のある分類語には思えないものでした。本来はNHK方式の『ワンボックスタイプの乗用車』『ワゴンタイプの〜』を使うのが良いように思いますが、現実的には一語で言い切れる形が重宝されるので『ワンボックスカー』が使われることも多いことでしょう。しかし、そうであっても『ワゴン車とワンボックスカーが衝突し・・・』などという事故原稿は勘弁願いたいと思います。
私が『ワンボックス車』に対し、皆さんに比べ違和感を感じないっことで、視聴者に対して信頼感を失ったのなら残念です。常々、記者やディレクターが使わないということばを無理やり使わないよう心がけてはいるわけですが・・・。今後は下読みに余裕があればインターネットで用語検索でもしてみます。」


ということでした。結局、「車」か「カー」かは「慣用」で決まっているようなのですね。あとは、「○○」の部分が「カタカナ」であったり、新しい言葉であると「カー」が使われることが多いのかもしれません。そういう面から見ると、「ワンボックス」というカタカナの後には「カー」が来る方が自然ですが、「ワゴン車」をはじめとして、カタカナの後に「車」が来ることもないとは言えませんから、「決め手」にはならないようです。
だからHアナが言うような「ワゴン車とワンボックスカーが衝突」という原稿はありうると思いますし、その場合に「ワゴン車とワンボックス車」とすべきかというと、そうは言えないと思います。
最後のGOOGLE検索をしておきます(8月12日)と、
「ワンボックス車」 2620件
「ワンボックスカー」 7860件
「ワゴン車」 5万1900件
「ワゴンカー」 797件
でした。「ワンボックス車」は2620件あるとはいえ、やはり「書きことば的なイメージ」は拭えない気がします。

2004/8/12



◆ことばの話1854「アゲチン」

8月4日の朝刊各紙に載った『週刊文春8月12日&19日合併号』の広告に、こんな1行がありました。
「扇千景を参院議長にまで押し上げた鴈治郎のアゲマン」
読売、朝日、毎日、産経の4紙すべて同じでした。これを見て私はオヤっと思ったのです。いわゆる「アゲマン」というのは、旦那さん(ご主人、夫、恋人など)男性の運を良くする女性のことで、俗語ではありますが、伊丹十三監督の映画のタイトル(「あげまん」)にもなり、広く、大人には知られています。しかしこの場合「あげまん」(あるいは「アゲマン」)とされるのは「女性」です。鴈治郎さんはもちろん「男性」ですから、この場合に「あげまん」は不適切ではないか?と感じたのです。それも言うなら、下品な感じですが、
「アゲチン」
ではないかと。
そして、当の週刊誌『週刊文春』を手にして記事を見てビックリ!そこには、
「扇千景を参院議長にまで押し上げた鴈治郎のアゲチン」
としるされているではないですか!やっぱり!
ということは、一体どう言うことか?新聞各社の考査基準では、
「アゲマンはOKだが、アゲチンはNG」
ということです。なんか、男女差別ではないか?たしかに「アゲマン」の方が人口に膾炙した分、下品さはやや薄れていますが、でもこの新聞広告の描写は「正しくはない」ですよね。
米川明彦『日本俗語大辞典』(東京堂出版)には「あげまん」は載っています。
「あげまん」=「その女性とつきあっている男性は運が上向くこと。またその女性。もと花柳界の隠語。1990年、伊丹十三監督映画の『あげまん』から広まった。反対が『さげまん』。卑猥な語感」
やはり「女性」に使う語でした。しかし「あげちん」(アゲチン)は載っていませんでした。
「紅一点」はあってもその反対はないのと、ちょっと似ているかも知れません。「あげちん」が出てきたということは、それだけ女性が社会進出してきた証拠ではないでしょうか。
「俗語の世界」の方が、こういった反応は速く出ると思います。
GOOGLE検索(8月6日)によると、
「あげまん」 5530件
「アゲマン」 944件
「あげちん」 583件
「アゲチン」 108件
でした。

2004/8/6



◆ことばの話1853「妙てけれん」

8月1日の日経新聞の川上弘美さんの「此処彼処(ここ かしこ)の31回「父とむっつり小豆島」というコラムを呼んでいると、
「妙てけれん」
という言葉が出てきました。え?それって、
「妙ちきりん」
じゃないの?と思って『日本国語大辞典』を引いてみると・・・なんと「妙てけれん」が載っているではありませんか!
「妙てけれん」=「みょうちきりん」に同じ。
やっぱり。用例としては、
武田泰淳『蝮のすゑ・二』(1947)「君らは社会の腕にも脚にも、胃にも腸にもなれやせん。せいぜいのところ神経だ。<略>しかも妙てけれんな一人種の末梢神経だ。」
中島梓『にんげん動物園・六』(1981)「しかしこちらはSF作家が商売で、しかもいまヒロイック・ファンタジーというものを書いているが、これにはひんぴんと妙てけれんな怪物を出さねばならない」
の2つがありました。このほか、「妙ちきりん」と同じ意味の違う形としては、
「妙ちきちん」
「妙ちくりん」
「妙てけれん」

の3種類(「妙ちきりん」も入れると4種類)が載っていて、いずれも「妙ちきりんと同じ」と書いてあったので、元は「妙ちきりん」のようです。
GOOGLE検索してみました。(8月5日)
「妙てけれん」= 84件
「妙ちきりん」=2300件
「妙ちきちん」=  1件
「妙ちくりん」=2360件

84件と「わずか」ではありますが「妙てけれん」も出ています。もちろん「妙ちきりん」の方が圧倒的に多いのですが。しかし、それより多かったのが「妙ちくりん」でした!
びっくりしたあ。
この「妙ちきりん」は、音の響きからなんとなく仏教のお経のバリエーションから生まれたような響きがありますが、そのあたりはどうなんでしょうね。

Googleで「妙けてれん」と「妙ちきりん」の2つをキーワードに検索して出てきたのは、いつもお世話になっている掲示板「ことば会議室」の2000年3月の「奇天烈」でした。
「きてれつ(奇天烈)」の語源は何か?という質問に対して、森川知史さんが、文化八年・浮世床/初下「きてれつ、あり難(が)」を『江戸語大辞典』が載せており、意味は「不思議。奇妙。絶妙。すばらしい。すてき。喜び、ほめていう語。」とあるが、語源の記載はなく、『国語大辞典』(小学館)は、八笑人/初「ヤきてれつきてれつ妙計妙計」を載せている、と記しています。
この「きてれつ」の語順が入れ替わって「き」が「け」に変わると「てけれつ」となりますね。それについて岡島昭浩さんが、「きてれつ」は「てけれつ」「てけれん」という言葉と関連があるのではないかと書き込み、それは落語の「らくだ」に出てくる踊り「かんかんのう」と関係があるのではないか、とも。さらに、それに続いてYeemarさんが『CD「唱う小沢昭一的こころ」で小沢昭一さんが歌う「かんかんのう」のセリフが記しています。
かんかんのう、きゅうのれすー、きゅわきゅれすー、さんしょならえー、さーいほーいしーかんさん、いっぴんらいらいらやーわんろん、めんこがおはおでひゅーどんちゃん、さんしょならえー、さんしょならえー
さらにコロムビアの「小沢昭一が選んだ 恋し懐かしはやり唄」では、中村きらという人が歌う歌詞を記しています。

カンカンイ ヌーヌテキキュウレンカン
キュウヤキュウレンカン
シャンシュナーキャイポカイ ナパタカルカツ
カッポダンリョウイエイエユー
カッポダンリョウイエイエユー
(歌詞カードのふりがなによる)
「かんかんのう」は、明清楽のひとつで、江戸末期ぐらいに長崎の唐人屋敷から広まって明治頃まで歌われたそうです。結局その中に「てけれっつのぱあ」はないようだと記しています。
これに対して、沢辺治美さんが「てけれっつのぱあ」は、古今亭志ん生の落語「死神」の呪文や「黄金餅」のお経などにあるようだとコメントしています。「死神」に出てくる「かんかんのう」は、私も何度か聞いたことがありますね。その「かんかんのう」と「てけれっつのぱあ」を混同してしまったか?Yeemarさんはさらに、『志ん生長屋話』から引いて、「汝ィ元来、ヒョットコのごとしィ……。君と別れて松原行けばァ、松の露やら泪やらァ、アジャラカナトセノキュウライスゥ……テケレツのパ(p.235-236)」という例を、ちくま文庫『古典落語志ん生集』からは、「君と別れて松原ゆけば、松の露やら涙やら、あじゃらか、なとせの、きゅうらいす、てけれッつのぱァ……(p.65)」という例を出しています。やはりお経と言うより、呪文みたいになっていますね。また、朝日新聞2000.03.05 p.2の天野祐吉「CM天気図」から、「豆売りの歌」のせりふとして、「太鼓がなったら賑〔にぎ〕やかで、ほんとにそうならすまないね、へらへいのまんきっつあん、てけれっつのぱっ」〔一八八〇年流行のへらへら万橘の歌を借用とのこと〕
という例も記していました。
『国語大辞典』(小学館)の「ヤきてれつきてれつ妙計妙計」は、なんだか「妙てけれん」と関係がありそうな雰囲気です。
一方「妙ちきりん」「妙ちくりん」は、「珍ちくりん」と似ています。「妙」と「珍」が同じようなニュアンスなので、「珍ちくりん」の「珍」の代わりに「妙」が入って、「妙ちくりん」が登場し、その「ちくりん」→「ちきりん」に代わったことで「妙ちきりん」が生まれたのではないか?と思いました。
つまり、「妙ちきりん」と「妙てけれん」は、まったく別の経路でできた言葉なのに、意味も形も似ているので、一つの語源からのバリエーションとして捉えられてしまったのではないか?ということです。つまり
(1)「珍ちくりん」→「妙ちきりん」「妙ちくりん」
(2)「きてれつ」→「てけれつ」→「妙てけれん」

という語の変遷ではないかと思いますが、いかがでしょうか?

*平成ことば事情1634「川上弘美さんのことば」もお読みください。

2004/8/6

(追記)

2005年2月19日(土曜日)夜8時(前)から放送の日本テレビの
「世界一受けたい授業!!」
に出演していた、『へんないきもの』の著者、早川いくをさんが、
「妙てけれんな生き物」
といいました。それを聞いた司会者の堺正章さんが、その言葉に反応して、
「妙てけれん!」
と繰り返していました。
2005/2/19



◆ことばの話1852「永久欠番」

『大リーグと都市の物語』という本を読んでいたら、
「メジャーリーグでは、初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンの栄誉を称えて、彼の背番号である『42』を、全球団『永久欠番』にした」
という記述がありました。その後調べてみると、たしかに1997年には、大リーグ初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンの背番号「42」は、全球団で欠番に指定されているようでした。
しかし、テレビでメジャーリーグの中継を見ていると、ヤンキースの押さえのリベラ投手は「42」番をつけています。これはどう言うことかというと、それ以前(1997年以前)から付けていた選手は継続使用が許されていて、マリアーノ・リベラ(ヤンキース)とモー・ボーン(ニューヨーク・メッツ)の2人がこの番号を使用しているとのことでした。なるほど。
この「42」番は「永久欠番」というのを見て思ったことは、
「日本では『42』番は語呂合わせで『死に』につながることから、『忌み言葉』として避けられる傾向にあり、そんなことを気にしない外国人選手がよく『42』番をつけている印象があったが、もしかしたら、外国人選手は気にしないどころか『栄光の番号』として好んで『42』番をつけているのではないか?」
ということです。
実際に日本のプロ野球で「42」番をつけている選手を調べてみました。すると、以下のような結果でした。
(ダイエー)  ズレータ
(西  武)  カブレラ
(大阪近鉄)  バーンズ
(千葉ロッテ)  セラフィニ
(北海道日本ハム) 高橋 憲幸
(オリックス) 萩原 淳
   
(阪神) 下柳 剛
(中日) ドミンゴ
(巨人) シコースキー
(ヤクルト) ゴンザレス
(広島) ブロック
(横浜) ******

ということで、12球団中11団に「42」番をつけている選手がいましたが、その11人中なんと8人が外国人選手でした。これは、やはりかなりの高率ではないか。ちなみに、同じように「忌み言葉」的な「44(死死)」番と「49(死苦)」番に関しては、外国人選手は、
「44」番=12人中2人
「49」番=10人中3人

ということで、それほど多くはありませんでした。
ということは、やはり「42」番は外国人選手に「好まれている」と考えられるかもしれませんね。

2004/8/5



◆ことばの話1851「Uアナの憂鬱2」

平成ことば事情1461「Uアナの憂鬱」の続き・・・というかその後の憂鬱、つまり「憂う2(ツー)」です。
Uアナ、
「10月花形歌舞伎(ジューガツ・ハナガタ・カブキ)」
と言おうとして、口から出てきた言葉は、
「ジューガタ・ハナガツ・カブキ」
あーら不思議、なぜか「10月」の「ツ」と、「花形」の「タ」がひっくり返っています。
もう一つ、
「ところで、そんな」
と言おうとしたUアナ。口をついて出てきた言葉は、
「ソコロデ、トンナ」
今度は「ところで」の「ト」と、「そんな」の「ソ」が入れ替わっています。
トンナ、バナナ、いや、バカナ!
たしかに気持ちが焦って早く言おうと思った時などに、こういう「音韻転換」というか、後(あと)の言葉が先に出てきてしまうという現象は、しばしば見受けられます。
「しばしば」というのは、いろんな人が「たまに」そういうことを起こすのを見かけるということで、「同一人物が何回も」ということではないのですが、こと、Uアナに限っては、「しばしば」こういうケースがあります。
「U鬱」
になる気持ちは、わからないでもないですねえ・・・。もちろん回りの人間は、みんな大笑いしているのですけど・・・。

2004/8/5

(追記)

7月29日、伊豆大島から台風11号の様子を伝える、日本テレビの山本さんという女性記者は中継で、「波のうねり」と言おうとして「うみのなめり」と言っていました。気持ちはよくわかります。「そころで、とんな」と同じことが起きたのですね。
この「Uアナの憂鬱2」を読んでくださった新潮社の小駒さんからメールをいただきました。それによると、
『「ソコロデ、トンナ」のように「ところで」の「ト」と、「そんな」の「ソ」を入れ替える「音韻転換」の現象ですが、これを英語ではspoonerismと言います。「リーダース英和」と「ランダムハウス英和第2版」によると、日本語の訳語は、「頭音転換」となっていました。』
とのことでした。「頭韻転換」とも言うのですね。辞書に載っているぐらいですからよく起きることなのでしょう。Uアナだけじゃないんだ!
小駒さん、どうもありがとうございました。

2004/8/12