◆ことばの話1845「車でわずか50分」

7月25日、「NHKのど自慢」の放送は、広島県東広島市からでした。司会の宮川アナウンサーはこの東広島市を紹介するときに、
「東広島市は、広島空港から車でわずか50分」
と言ってましたが、ちょっと気になりました。私の感覚では、この場合に「わずか」と言ったならば、「わずか」で表される時間は、最大でも20分ぐらいです。「50分」には「わずか」は使いません。著しく違和感を感じたのですがね。
で、「わずか○分」で検索してみました。(7月31日)
「わずか1分」 5840件
「わずか2分」 4280件
「わずか3分」 5450件
「わずか4分」 1750件
「わずか5分」 1万0700件
「わずか6分」 702件
「わずか7分」 803件
「わずか8分」 768件
「わずか9分」 437件
「わずか10分」 1万0700件
「わずか11分」 343件
「わずか12分」 569件
「わずか13分」 285件
「わずか14分」 168件
「わずか15分」 8020件
「わずか20分」 5510件
「わずか25分」 786件
「わずか30分」 8670件
「わずか35分」 398件
「わずか40分」 1700件
「わずか45分」 644件
「わずか50分」 654件
「わずか55分」 104件
「わずか60分」 804件

と、一応1分から15分までは「1分刻み」で、それ以後は「5分刻み」で調べました。多いものから順に言うと、「わずか5分」と「わずか10分」が同数で1位、1万件を超えています。3位以下は、30分、15分、1分、20分、3分、2分、4分、40分と、第10位のここまでは1000件以上のヒット。これ以外はすべて3ケタ、つまり私の基準では「一般的に使われていない」ということで、問題の「わずか50分」は、「わずか654件」でした。やはり無理があるなあ。本当に「わずか」に値する1分とか2分とか短い時間に使うのは、もちろん良いのですが、宣伝のために「わずか」という表現を使って「短いんだよ」とアピールする道具に使うのは、注意しないといけないと思います。もちろん、検索した中には、「わずか45分」の使用例として、
「シンガポールの タナ・メラ・フェリー・ターミナルから、高速船でわずか45分というロケーションのインドネシア領ビンタン島は、・・・」
というようなものをあって、海外の「島」が「45分」という時間で表されると、「わずか45分」も「あり」かなと思いました。つまり、「わずか」と感じるかどうかは、とても主観的なもので、なかなか客観評価はしづらいのですが、これだけ調べてみても、この東広島市の空港からの距離に「わざか50分」を使うのは、私は「妥当ではない」と思います。

2004/7/31



◆ことばの話1844「キャップ帽」

6月に起きた東京・渋谷駅銃撃事件で出頭してきた容疑者の風貌に関して、日本テレビ系のニュースでは、
「犯行の際、キャップ帽をかぶっていた」
と伝えました。それを聞いて、
「キャップ帽〜!?」
と思いました。そんな言い方、聞いたことがない。この容疑者は、
「『犯行の際にかぶっていたキャップ帽を捨てた』と供述している」
とも伝えているのですが、気になるなあ、「キャップ帽」「キャップ」は「cap」で、
「野球帽」
なんじゃないの?「ひさし」のある帽子のことですよね。でもそれは「キャップ」と言うか「野球帽」と言うか、どっちらかじゃないのかなあ。
GOOGLE検索(7月7日)では、
「キャップ帽」 631件
「野球帽」 2万2500件
と圧倒的に「野球帽」ですね、やはり。6月28日の、テレビ朝日のお昼のニュースも、
「野球帽」でした。
「あさイチ!」の番組で、そのニュースの原稿を読んだWアナウンサーは、
「キャップ帽って確かに初めて読んだ気はします。フットボールチームのマークでも入ってたんですかねえ…。」
とのこと。あ、そうか、「野球のチームのマークが入ったのが『野球帽』で、フットボールのチームのマークが入った帽子は『野球帽』と言えない」ということか。
うん?でも本来はマークとは関係なく、あの形の帽子は「野球帽」でいいんじゃないのかなあ。『日本国語大辞典』では、
「野球帽」=「野球をするときにかぶる帽子。また、それと同じ形の、前庇だけがついた帽子の総称。」
とありました。妥当な説明だ。同じく「キャップ」は、
「キャップ」=(1)ふちなしの、あるいは前部にひさしのついた帽子
と載っていましたが、「キャップ帽」という言葉は載っていませんでした。

2004/7/31

(追記)

警察に出頭した時に犯行を自供した容疑者ですが、その後、犯行を否認しているというニュースを今日やっていました。

2004/8/3
(追記2)

『ニューススクランブル』のSキャスターが、報道局のHデスクと2人、雁首を揃えて、
「お忙しいところすみません」
とやってきました。
「『キャップ帽』という表現が出てきたのですが、これってどうでしょうか?」
と言うので、
「『平成ことば事情』に書いてあるよ」
と言った上で、
「『野球帽』に言い換えられれば、それでいけば?」
とアドバイスしました。それからさらに2か月ほど経った2009年1月6日、またSキャスターからメールが来ました。
「大阪・松原市のタクシー強盗殺人未遂事件で犯人が被っていた帽子はどう表現すべきでしょうか?1月5日夕刊各紙の表記は次の通り。
(朝日)グレーの帽子
(毎日)グレーの野球帽
(読売)グレーの帽子
(産経)グレーの帽子
(日経)灰色の野球帽
そして、1月6日朝刊では、
「読売」と「産経」の2紙で『キャップ帽』との表記が登場しました。
ちなみに、テレビニュースでの表現は確認できたところ、次の通り。
(YTV)グレーのキャップ帽 (中継記者リポートの中で)
(ABC)グレーのキャップ (HPの表記で確認)
(KTV)グレーの帽子 (HPの表記で確認)
(MBS)グレーの野球帽 (HPの表記で確認)」
とのことでした。最近これだけ「キャップ帽」が頻繁に登場する理由の一つは、警察発表で使われているのが原因ではないでしょうか?またそれにできるだけ忠実にあろうとする記者の姿勢もあるのかもしれません。それともう一つ、記者クラブで、
「キャップ」
と言うと、そのクラブに「リーダー」を指します。ですから単独で「キャップ」は使いにくい。そこで、
「帽子の意味での“キャップ”」
ということを表すために「キャップ帽」という言い方が現れたのではないか?と推測しますが、いかがでしょうか?ちなみに1月14日のGoogle検索では、
「キャップ帽」 = 1万1600件
「キャップ帽子」=29万4000件
「野球帽」 =50万5000件
でした。圧倒的に「野球帽」ですが、「キャップ帽子」というのも、結構多いですね。「キャップ帽」は、まだ1万件あまりです。
2009/1/14



◆ことばの話1843「レギュレーション」

サッカーのアジアカップ、準々決勝の日本対ヨルダン戦。後半30分まで1対1の同点。テレビ朝日の中継で実況の男性アナウンサー(田畑祐一アナウンサー)がこう言いました。
「この大会のレギュレーションによりますと、前・後半30分の延長戦を行うことになっています。」
なんだ、その「レギュレーション」というのは!
サッカーの場合は、国際大会も多く、その大会ごとに「ローカル・ルール」と言うか「大会規定」があります。どうやらそのことを言っているように思えるのですが、急にそんなカタカナ言葉を出されたって、わからないって!少なくとも、
「レギュレーション、つまり大会規定で」
とかなんとか「言い換え」をすべきですね。わざわざカタカナで言う意味がどこにある?「負けられない戦い」とかなんとか言う前に、そういうところをしっかりやるべきだとは思いませんか?
なお、『デイリーコンサイス英和辞典』で「reguletion」を引くと、名詞としては、
「規則、正規」
形容詞としては、
「普通の、通例の」
という意味が載っていました。また、用例に載っていた「traffic regulations」は「交通規則」と訳してありました。
2004/7/31

(追記)
PK戦でなんとか日本、勝ちました。能活、よくやった!ヨルダン、強かった!でもPK戦の途中でゴール(陣地)を変えるなんて、初めて見ました。審判団は、その責任を問われるべきです。

2004/7/31



◆ことばの話1842「東京三菱と三菱東京」

今、UFJ銀行との合併を巡ってもめている、
「三菱東京フィナンシャルグループ」。
これって、私たちが目にする銀行名は、
「東京三菱銀行」。
省略して呼ぶ場合に「三菱東京」なのか「東京三菱」なのか。ややこしいですよね。
銀行名は「東京」が先だけれど、グループ名としては「三菱」が先なんですね。英語名も「MITSUBISI」が先なので、英語の略称は「MTFG」です。
あれ?これと似たようなことを、以前に書いたな。そうだ、「三井住友銀行」が合併で誕生した際に、英語名では「SUMITOMO」が先「SUMITOMO・MITSUI」だったので、なぜ日本語と英語の語順が違うのか?について銀行の広報に取材したのでした。その時の答えは、
「詳しいことはわからないが、先に英語名が決まった。」
ということでした。ですから、三井住友銀行の持ち株会社の英語の略称は「SMFG」でした。「S」が先です。「東京三菱銀行」の場合は、「銀行名」と「持ち株会社の名前」が日本語でも語順が違う、というややこしいことになっていて、読む時に「銀行」を指しているのか「持ち株会社」を指しているのかによって「東京三菱」になったり「三菱東京」になったりするからややこしいですね。
そうこうしていると、今度は三井住友銀行がUFJに「一緒にならない?」と話しかけてきて、もうUFJったらモテモテ。いっそのこと全部一つになって、
「三井住友UFJ東京三菱銀行」
とかなんとかしたらそうでしょうか、この際。利用者は、なーんも困らないと思うのですけど。いろいろ、これまでのことは考えなくていいから。なんなら「みずほ」もつけましょか?というふうに気軽に考えられない事情が、裏には山ほどありそうですね・・・。

2004/7/31

(追記)

冗談でいろいろ言ってたら、本当になってきました。2006年1月1日から、「東京三菱銀行」と「UFJ銀行」が合併して、
「東京三菱UFJ銀行」
が正式に誕生しました。(2005年10月から統合されていたんだけど、正式には今年から運用ということで。英語では、
「MUFG」
という略称。ということは、英語表記では
「Mitsubishi(Tokyo) Ufj Financial Group」
となって、「東京(銀行)」が、頭文字から消えてしまっています。そして「東京」は頭文字ではないが隠れているのだとすれば、
「三菱と東京の順番が逆」
ということですね、英文では。「三井住友銀行」の場合と同じかな。
いずれにせよ、「東京三菱UFJ銀行」ではいかにも長ったらしい名前なので、私は近々、もっと短い名前に変わるのではないかなと見ています。
ところで、正月に弟から、
「協和銀行って、今は何銀行に変わってるんだっけ?」
と聞かれて、
「協和埼玉銀行があさひ銀行になって、大和銀行と一緒になってりそな銀行になる時に埼玉銀行だけ、はずれたんじゃなかったっけ?だから、りそな銀行では?」
と言ったのですが、弟は、
「いや、りそなとはちゃうで」
と言い張り、結局よくわからずじまい。
なんでいまさら協和銀行なんてのが出てきたかというと、200円ぐらいしか残高が残っていない「協和銀行時代の通帳」を、もう処分しようと思ったのですが、結局、今はその支店が統廃合でなくなっていて、引き出しがままならないと。どうしても引き出そうとすると、手数料が500円かかるというのです。なんだかバカらしい話ですよね。別に銀行側に「統合してください」とこちらから頼んだわけでもないのに、利用者にそういった理不尽を押し付けるのはいかがなものかと思いますね。

2006/1/12



◆ことばの話1841「『ひた走る』の『ひた』」

ふと思ったこと
「『ひた走る』の『ひた』って何?擬態語?」
『新明解国語辞典』を引いてみたところ、なんとあっさり載っていました。

「ひた」=(接頭)その状態以外の何物でもないことをあらわす。(例)「ひた誤りにあやまる(=ほかの事は何もしないで、ただあやまるばかりだ)「ひた泣きに泣く」「ひた走る」「ひた隠し」

なるほどなるほど。つまりは「ひたすら」の「ひた」なわけですね。

「ひたすら」=ほかの事はすべて無視して、その事ばかりに意を用いることをあらわす。(例は省略)[表記]古くは≪永・大・混≫と書いた。≪只管・一向≫は、江戸時代後期以降の用字。

なんだそうです。「ひた走る」なんて、必死に走っていてその愛音が「ヒタヒタ」聞こえてきそうなイメージがあるんですけどね。関係ないのかな。「ひたひたに浸す」の「ひた」も関係ないのかな。
いろいろイメージは膨らみますね。

2004/7/30

(追記)

NHKの原田邦博さんからメールをいただきました。
『「ひた走る」の本来の形は、
「ひた走りに走る」
のようです。もっとも『広辞苑』には、「ひた走り」と「ひた走る」の両方が載っているものの、その関係や区別はよくわかりません。』

原田さん、ありがとうございました。ほかの辞書も引いて見ましょう。『新潮現代国語辞典』では「ひたばしり(直走り)」が載っていました。「『ひたはしり』とも」と書いてありました。『明鏡国語辞典』には「ひたはしり(直走り)」で載っていて、意味のところに「ひたばしり」ともありました。『岩波国語辞典』「ひたはしる(直走る)」が見出しで、意味に「『ひたばしる』とも言う。『ひた』は『ひたすら』の『ひた』と同語源」とありました。

2004/8/3