◆ことばの話1825「ボール箱」

7月21日の『ニューススクランブル』の特集コーナーで、いまや日本でただ一人となってしまったという中古カメラの修理工の人を取り上げていました。その中で、カメラの部品を納めておく箱で、
「ボール箱」
というのが出てきました。「ダンボール箱」ではないのか?と思ったのですが、これは、
「ボール紙で作った箱」
ということのようなのです。
こういう呼び方をふだん使われる方はいらっしゃるでしょうか?
ナレーションを読んだHアナウンサーに問い合わせると、
「え?普通に言いますから、特になんとも思わずに読みましたが。ええ、原稿にそう書いてありました。」
とのこと。ということは原稿を書いたAさんも「ボール箱」ということばを使う人なのですね。私は初めて耳にした言葉だったので、アナウンス部のほかの人たちにケーターメールメールで、
「『ボール箱』って知ってますか?」
という質問メールを出したところ、すぐに返事が返事戻ってきて、それによると、「ボール箱」と言うことばを知ってる、あるいは使ったことがある人は14人中0人でした。つまりHアナウンサー以外は、誰も知らないし使わないのです。
『広辞苑』にも載っていません。『新潮現代国語辞典』には「ボール紙」しか載っていません。もしやと思って引いた『日本国語大辞典』には、かろうじて載っています。
「ボール紙製の箱。板紙つくりの箱。」
用例としては、松原岩五郎という人の『社会百方面』(1897)と、有島武郎『或る女』(1919)から引いています。
その後『新明解国語辞典』を引いたら、「ボール」の用例として「ボール紙」「ダンボール」と一緒に「ボール箱」が載っていました!しかもこの「ボール」というのは、
「boardの変化」
と書いてあるではありませんか!ガーン、知らなかったあ・・・。
『岩波国語辞典』にも載っていました。『三省堂国語辞典』にも、見出しこそありませんが「ダンボール」「ボール紙」と並んで「ボール箱」は載っていました。用例でだけですが。『大辞林』(ネット)には「ボール紙で作った箱」と意味も、たった一行だけですが、載っていました。
Googleで検索したところ(7月23日)、
「ボール箱」=4万8500件
も出てきました。でもこの中には明らかに「段ボール箱」が含まれています。そこで今度は「ダンボール箱」で検索を掛けてみました。
「段ボール箱」=4万4700件
そして「ボール箱」―「段ボール箱」=「ボール箱」の純粋の数字になるのではないか?と思って引いてみると、その件数は、
「3800件」
ということになりました。これが多いのか少ないのか。まあ、「そこそこ」といった感じなんですけどねえ。
「段ボール」「ダンボール」「ボール紙」の検索件数は、
「段ボール」= 18万8000件
「ダンボール」=30万2000件
「ボール紙」=  1万9900件

でした。

2004/7/23



◆ことばの話1824「炎暑」

暑い!と言いたくないけど暑いからしょうがない。今日、7月22日は、二十四節気の「大暑」です。
今年は関西よりも関東の暑さの方が大変みたいですね。東京でも39度を越えたとか、山梨県甲府市では40、4度と、史上2番目の暑さを記録したとか。こういうのは「猛暑」を通り越して「酷暑」だと、平成ことば事情394「猛暑と酷暑」に書きました。それが2001年8月8日のこと。「1994年以来、7年ぶりの猛暑」と書いています。
その後、2002年8月27日にも、平成ことば事情800で「酷暑2」でもちょろちょろ書いています。その年に記録した全国の「酷暑日」=最高気温が35度以上を記録した日の回数が一番多かったのは、岐阜、京都、岡山の19回で、1回も35度を超えなかったのは、稚内、旭川、札幌、釧路、室蘭、函館、青森、盛岡、長崎、那覇だったということで、北海道は当然としても、那覇が0回というのは意外ですね。
それで今年は、その3年前よりも暑い!ということで「コクショ・こくしょ・酷暑」と連発されていますが、もうそれでは済まなくなって、
「今年は、酷暑より暑いので『炎暑』と呼んでいるみたいですよ。」
「炎暑(エンショ)!」

さっそくGoogle検索しました。(7月22日)
「炎暑」=7740件
結構、使われていますね。ついでに「酷暑」も検索しておきました。
「酷暑」=17万1000件
ヒエー、と言っても冷えません。
ほかに、もっと暑さを表す言葉はあるかな、とアナウンス部で聞いたところ、
「『獄暑』なんてどうでしょう?」「お、いいね。」
で検索してみると、
「獄暑」=2700件
そのほか、
「激暑」=  3510件
「超暑」=6万1300件

という結果が出ました。人間、寒ければ服を着れば良いけど、暑いと脱げるのも限度がありますからね。もう、ええかげんにして欲しなア、この暑さ・・・。

2004/7/22

(追記)
7月23日の毎日新聞朝刊に、
「酷暑7月平均気温29,3度」
という見出しが。ここでは「酷暑」は「最高気温が35度以上」ということではなく、「猛暑を超える」という意味で使われているようです。

2004/7/26



◆ことばの話1823「わさび抜きで」


先日、回転寿司に行った時のこと。最近、時々行くのですが、ベルト・コンベアーの乗って流れてくる中に、なかなか希望のお寿司やデザートがない時には、インターホンで注文します。6歳の息子に「自分で注文してごらん」と言うと、しっかり、注文していました。が、ちょっとヘンです。
「おいなり、わさび抜きで!」
おいおい、おいなりさんには、普通はわさびは入ってないよ、と言うと、
「まえ、はいってたこと、あるもん」
ああ思い出した。そう言えば、たしかに以前買ってきたいなり寿司にわさびが入っていたことが一度ありました。そうか、じゃあ、そう言うのも仕方ないな。
そして食事も終盤、彼は最後に、デザートも注文しました。
「プリンとパンナコッタ、わさび抜きで!」
・・・・それは、絶対、ないで。

2004/7/18



◆ことばの話1822「エッチ・ビー」

皆さんは鉛筆の芯の軟らかさ・硬さを示す度合いの、
「HB」
を、どういうふうに呼びますか?
「エッチ・ビー」
でしょうか?それとも、
「エイチ・ビー」
でしょうか?
6月23日放送のフジテレビ「トリビアの泉」で、独特の低音の魅力のナレーター・中江真司さんは、鉛筆の「HB」の発音を、
「エッチ・ビー」
と言っていましたが、この「H」の発音、「エッチ」か「エイチ」か?どちらの発音が多いんでしょうね?気になります。
Googleでいろいろ検索してみました。(7月18日)
「エイチ・ビー」 2万2100件
「エイチビー」 222件
「エッチ・ビー」 1万2400件
「エッチビー」 26件
ということで、「エイチ」派が多いようなのですが、これにアルファベットの「HB」をくっつけて検索すると、
「HB エイチ・ビー」 89件
「HB エイチビー」 24件
「HB エッチ・ビー」 47件
「HB エッチビー」 12件
件数は減りましたが「エイチ」:「エッチ」=2:1の比率は、ほぼ変わりません。
今度は「鉛筆」をくっつけてみました。
「鉛筆 エイチ・ビー」 146件
「鉛筆 エイチビー」 4件
「鉛筆 エッチ・ビー」 123件
「鉛筆 エッチビー」 3件
という結果でした。
『新明解国語辞典』では「H」は「エッチ」で載っていて、その例の中に鉛筆の「HB」がありました。「エイチの俗な発音」と記されています。そりゃあ、「H」は「俗」だと思いますね。「H」が「エイチ」で見出しになっているのは「HIV」だけでした。一方『新潮現代国語辞典』で「エッチ」を引くと「エイチを見よ」と→(矢印)が付いていて、「エイチ」の中に、鉛筆の芯の硬さの「H」がありました。そして『明鏡国語辞典』では、「エイチ」を引くと「エッチを見よ」と、『新潮』とはまったく逆の立場の見出しの立て方になっていました。ただ「エイチ」で見出しが出ているものには、「HIV」以外に「HDSL」「HTML」「HP」というコンピューターや通信関係のアルファベット略語が載っていました。この辺は、やはり新しい辞書だからでしょうね。(2002年12月刊)
結構、各辞書で違うのでおもしろいな。『岩波国語辞典』は「エッチ」派。「HIV」も「エッチアイブイ」になっていて、「エイチ」の見出しのところにアルファベットの「H」で始まる言葉は載っていません。そして『日本国語大辞典』は「エイチ」を引くと矢印で「エッチをみよ」となっています。つまり「エッチ」派です。「HIV」「HI法」「HAL」「H型鋼」鉛筆の「HB」「HB式」「HTLV」などすべて「エッチ」です。『日本語大辞典』は「エッチ」の項には「変態」の意味から転じた「エッチ」の意味しか載せておらず、あとは「エイチを見よ」になっていて、すべて「エイチ」で説明しています。つまり「いやん、エイチ」とは言わない。それも言うなら「いやん、エッチ」。これは共通認識のようです。『三省堂国語辞典』は「エイチ」を引くと「エッチを見よ」になっていて、鉛筆の芯の太さから何からみんな「エッチ」です。『広辞苑』は「エッチ」派でした。「HIV」も「エッチアイブイ」。鉛筆の硬さも「エッチ」。そしてネットで見た『大辞林』も「エッチ」派でした。
まとめてみましょう。
「エッチ」=新明解国語辞典、三省堂国語辞典、明鏡国語辞典、広辞苑、岩波国語辞典、日本国語大辞典、大辞林
「エイチ」=新潮現代国語辞典、日本語大辞典(講談社)

ということで、私の手元にある国語辞典では、7:2で「エッチ」派が多いということになりました。ネット検索とは違う結果が出ましたね。
平成ことば事情688「H組」もご参照ください。

2004/7/18



◆ことばの話1821「サジンゴロウ」

祇園祭の宵山の中継に出かけようとしていた2年目のAアナウンサー。どの鉾の前から中継するの?と聞くと「月鉾です」という答え。そこで、I部長が、
「月鉾の中の彫刻は、誰が彫った?絵は誰が描いた?」
と矢継ぎ早に質問。ハトが豆を食らったような顔をしているAアナ。
「ほら、すぐに調べる!」
というI部長の声にせっつかれてインターネットで調べ始めたAナア。最近のネット検索ってホントに便利ですよね。ものの1分もしないうちに答えが画面上に出てきたようです。
「彫刻は誰が彫ったか、わかったか?」
「あ、はい・・・サジン・・・ゴロウ?」
ドテッ。(吉本新喜劇のように、I部長と私がこける音)
「アホかあ、それは、ヒダリ・ジンゴロウと読むんじゃ!!」
もう、ゴビ砂漠の真ん中に置き去りにされたような寂しさ・・・サジン吹き荒れる私の心・・・嗚呼。
おお!そう言えばこのAアナ、この日のお昼のニュースで、「丘陵地」を、
「キョーリョーチ」
と読んでいたな。するってーと、これまで「鳥取砂丘」は「トットリ・サキョー」と読んでいたのか?その代わりに「京都市左京区」は「キョートシ・サキューク」と読んでいたりして。それはないか。
とにかく、左甚五郎を知らないというのはショック。
「日光東照宮に行ったことはないのか?そこにあるやろ、左甚五郎・作と伝えられる有名な、動物の彫り物がさ。」
「いったことありますよ、小学校のときに・・・動物の彫り物って・・・見ザル・言わザル・聞かザルですか?」
「いや、それもあるけど、左甚五郎というと、さ、君がエトを言わされて、思わず答えてしまった動物やんか。」
「・・・ネコ?」
「そう!ネコ!何ネコや?」
「招き猫?」
「ちーがーうー!」

あー、イライラするう〜!
「眠り猫だよ!」
「そうなんですかあ。」
ハアー。
この話をSキャスターに話すと、
「彼女は去年、道浦さんが連れていって、月鉾の見学に行ったでしょ。でも、それしか見てなかったのかなあ。祇園祭全体の勉強をしようという気はないのかな。」
といいます「どうして?」と聞くと、
「『函谷鉾(かんこぼこ)』を、『はこたにぼこ』と読んだんですよ。」
もう、まいりました・・・。早くもわたし、夏バテです。あとは自習しといてください。

2004/7/18
 
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