◆ことばの話1795「未来」

先日、神戸女子短大で2日ほど「日本語入門」という講座を担当しました。その時に、『新明解国語辞典』の語釈のユニークさを紹介して、「恋愛」「生命」「未来」「ケータイ」という4つの言葉について、それぞれ自分の語釈を書いてくるようにという宿題を出しました。
学生に書かせるだけでは・・・と思い、一応自分も考えました。ま、全部紹介してもなんですから、そのうち「未来」について。

「未来」=「過去」から見た「現在」だが、「過去」の時点では、可能性の一つに過ぎない時系列上の先にある空間。

え?「未来」って「時間」じゃないのか?と思うのに「空間」というのは、どう言うことか。ここで私は「光年」という言葉を取り上げました。
「1光年」というのは、「光が1年間に進む距離」ですね。光の速度は秒速30万キロメートルですから、1分間では30万×60秒で1800万キロメートル。さらに1時間では1800万キロメートル×60分=10億8000万キロメートル。さらに1日では、10億8000万キロメートルかける24時間=259億2000万キロメートル。さらに1年では、259億2000万キロメートル×365=9兆4608億キロメートル。この距離が「1光年」です。1年という「時間」が光にとって「距離」という単位に使われています。そして光がそうして進むとんでもない距離は、同時に「空間」も示している。よくSFに出てくる「ワープ」というのは、「空間」を曲げて(歪めて)縮めることで、「時間」も縮めているのですね。時間と空間はそういう関係です。
それと同じように、時間の流れの中にある「過去・現在・未来」は、「空間」をも表しているのではないか、と考えました。いかがでしょうか。

ついでに「ケータイ」について書いた語釈も書いておきましょう。1つ目は、ごく普通のものだったので、2つ目のものを。
「ケータイ」=(2)待ち合わせの概念を崩壊させたポータブルな通信道具。あわせてポケットベルも駆逐したが、ポケベル時代に女子高生たちが生み出したコミュニケーションツールとしての語呂合わせは、絵文字などのメール文字文化に継承された。また、ケータイ普及によって、若者向けドラマのシチュエーションも変化した。TVドラマ「ロングバケーション」(1996)にはケータイは登場しない。よって、留守番電話あるいは電話連絡がないことによる恋人同士の「すれ違い」という場面が描かれていたが、今は描けない。不自然になってしまう。文明の利器は、我々の生活のみならず文化にも影響を与えるのである。

ということで。結構、「熱く」書いちゃいました。

2004/6/26


◆ことばの話1794「いってらっしゃいです!」

いつも「あさイチ!」で衣装を用意してくれる、若いスタイリストのTさん。
私が着替えてスタジオに向かう時に、いつもかけてくれる声は、
「いってらっしゃいです」
この「です」が、気になる。なんか、中学の女子バレーボール部の後輩が先輩にかける励ましの言葉の、
「先輩、ガンバです!」
を思い浮かべてしまって、なんか背中がモゾモゾッとなります。
まあ、彼女は若いから・・・と思っていたのですが、今日言われたときにハッと気づきました。これは私たちのような業界の人が毎日のように使う、
「お疲れ様です」
からの類推で行なっているのではないか?ということです。
つまり「お疲れ様」も「ガンバ」も、本来なら単独で使える言葉ですが、先輩や目上の人に使うときは単独では使いにくくて、つい「です」をつけてつかってしまう。それと同じように、単独で使える「いってらっしゃい」も、それだけでは目上の人には使いにくい、と思ってしまって「です」をつけて丁寧な言葉にして、
「いってらっしゃいです」
と言ってしまうのではないか、と思ったのです。同じような考え方で行くと、
「ありがとうございますです」
「ごめんなさいです」
「おかえりなさいです」
「いただきますです」
「ごちそうさまです」

というようなものも出ているかもしれませんね。GOOGLE検索しておきましょう。(6月27日)
「いってらっしゃいです」=510件
「ありがとうございますです」=1万1600件
「ごめんなさいです」=2万9800件
「おかえりなさいです」=1720件
「いただきますです」=4830件
「ごちそうさまです」=6350件

でした。すでに結構、多いなあ。もう定着してるんだねえ・・・。
2004/6/27


(追記)

この話をSアナウンサーにしたところ、
「報道のIさんは、よく『よろしくです!』と言ってますよ。」
とのこと。そう言われればたしかに・・・Iさんというのは私と同期入社で、四十を過ぎたおっさんです。彼の気が若いのか、もう、そういう年代層にまで浸透していると言うべきなのか・・・悩みます。

2004/11/24




◆ことばの話1793「田舎チョキ」

6月26日の「エンタの神様」に出てきた「はなわ」が、いつものように「伝説の男」(=ガッツ石松)について歌っています。その最後に、
「ジャンケンは、田舎チョキ」
と言って、笑いが起こりました。この、
「田舎チョキ」
というのを、私は初めて耳にしました。笑っているということは笑った人は「田舎チョキ」とは何なのかがわかっているのでしょうか?どうなんだろう?
私は、初めて聞いたものの、おそらく、
「普通のチョキは『人指し指と中指』で出すが、この『田舎チョキ』は『人差し指と親指』で出すのではないか」
と感じました。
さっそくGOOGLE検索(6月26日)すると、
「田舎チョキ」=193件
「いなかチョキ」=24件

でした。そしてその「田舎チョキ」について書かれサイトの中にあったイラストで示された「田舎チョキ」はやはり「人差し指と親指」で作られたものでした。やっぱりね!
でもこの193件というのはビミョウだなあ。件数としては少なすぎますよね。もしかしたら、年齢層によって、この言葉の分布に違いがあるかも知れません。
「田舎チョキ」についてアンケートをとったサイトもありました。それによると、結構全国で使われているみたいで、呼び名も「おやじチョキ」とか「古いチョキ」「キー」「チー」などとも呼ばれているみたい。北海道と九州、石川県、富山県ではかなり使われているようですね。また群馬県前橋市では「男の子が田舎チョキ」を使い、「女の子は普通のチョキ」を出すということがあったそうです。
今度、うちの会社でも「田舎チョキ」を知っている人がいるかどうか、調べて見たいと思います。

2004/6/26

(追記)

アメリカはボストン在住のI先輩からメールがありました。
「田舎チョキのこと、ショックです。私が子供のころの昭和30年代半ばから後半にかけて、京都市下京区では、チョキは親指と人差し指でした。京都は都会やと思っていたのに、田舎だったんですか!!「田舎チョキ」やなんて言わんといてちょうだい。ワシ、傷つきました。(泣)」

す、すみません!ボクが言ってるんじゃなくて、そんな言い方が広がっているかもしれないということなんですう。伝統的な「チョキ」の出し方のようなので、
「トラディショナル・チョキ」
ということで、手を打ちませんか。よろしくお願いします。

2004/7/1



◆ことばの話1792「ウォン・ビィン」

最近、「ヨン様」に限らず「韓国」ブームのようです。6月18日の日経新聞夕刊に、
「韓国ブーム 教室にも」
という見出しで、映画やドラマの人気を受けてか、選択科目の一つとしてハングルを教える高校が増えているという記事が出ていました。(財)国際文化フォーラムの2001年度の調査によると、授業名は対象になった168校のうち、「ハングル」が59校と最も多く、次いで「韓国語」が38校、「朝鮮語」は29校、「韓国・朝鮮語」も28校あったそうです。また文部科学省によると、高校の教員免許は「朝鮮語」「韓国語」が混在するのですが、センター試験の科目名は「韓国語」に統一されているとのこと。
かつては「朝鮮語」と呼ぶことが多かったが1960年代頃から「韓国語」と呼ぶ人が増え、近年は文字を指す「ハングル」を総称のように使うケースが多いとのことです。
で、そのブームの前から、Aアナウンサーは、
「ウォン・ビィン」
という名前の韓国俳優のファンを自称し、会社のパソコンの「壁紙」もその「ウォン・ビィン」さんです。私はつい最近、ようやくその「ウォン・ビィン」さんの顔をテレビで見ることができましたが、どう聞いても、
「ウ音便」
に聞こえるんですよねー。だから、Aアナウンサーに、
「なんだっけ、君が好きな韓国の俳優で、『促音便』じゃなくて『撥音便』でなくて『イ音便』じゃなくて・・・・」
と言うと、キッと怒ったような顔をして、
「ウォン・ビィンです!」
と答えるので、おもしろいから、
「ああ、『おはようございます』とか『おめでとうございます』とか『あぶのうございます』とか言う・・・」
「その『ウ音便』じゃありません!」

とムキになるのがおもしろい。
「ヨン様」に関しても「あるある」と思っていたことが日経新聞の「プロムナード」というコラムに、作家の星野智幸さんが書いていました。(6月22日夕刊)東急線の電車に乗っていたら、モニターの付いた車両で韓国ドラマの宣伝が流れていて、それを見ていた30代と思しき女性の会話を星野さんは、聞くと話に聞いていたのでした。その会話とは、
「ペ・ヨンジュン、ペ・ヨンジュンってうるさいからさ。え、何、ペ・ヤング?ソース焼きそばの四角い顔のおじさん?って言ったら、マジで怒っちゃって」
「ペヤングのおじさん、今どうしてんのかね?」

少なくともこの二人は「冬のソナタ」にハマっていないのだな、と思い、私は親しみを感じた、と星野さんは書いています。
たしかに、ペ・ヨンジュンとペ・ヤング、似てる・・・・え?似てない?あなた、「ヨン様」ファンでしょ?
つまり、韓国の人の名前は、なんとなくおもしろい響きを持っているように感じるということですが、これは何も韓国に限ったことではありません。きっと、日本人の名前も、韓国の人が聞けば、おもしろい響きを持ったものがいっぱいあるのでしょうね。
2004/6/25


◆ことばの話1791「ゲーセン」

6月22日に夕方、東京都新宿区で13歳の女子中学生が5歳の男の子を団地の4階から5階につながる階段の踊り場から突き落とされた事件。これについて報じた6月23日の産経新聞夕刊1面の見出しを見て、「おや」と思いました。そこには、
「ゲーセン遊び 母に告げ口恐れ」
と女子中学生の「動機」に関することが記されていました。事件も大変なことですが、私が注目したのはこの見出しの、
「ゲーセン」
です。これは、もちろん、
「ゲームセンター」
の略称・通称ですが、こういった俗語をカギカッコもなしに1面の見出しに使うのはいかがなものか?とちょっと思ったわけですね。
米川明彦『日本俗語大辞典』(東京堂出版)にはちゃんと「ゲーセン」が載っていて、
「(和製英語「ゲームセンター」の略)ゲームセンター。若者語。」
として『現代用語の基礎知識1993年版』に載っていることを記してあります。
文芸作品からの用例としては、やはり1993年の大沢在昌『屍欄〜新宿鮫V』から、
「ゲーセンで全部つかっちゃってさ」
というものと、谷恒生の『闇呪』(2000年)という作品の、
「歌舞伎町かいわいのゲーセンや茶店にたむろしているコギャルどもに」
という用例が載っています。でも2000年の事典では、「茶店」(サテン)は死語だよな。もう「カフェ」になっていたと思いますけど。
俗語が一般紙の見出しに来るケースとしては、最近見たのでは、6月18日の日経新聞・経済欄で、
「名門ホテルやっぱ豪華に」
という見出しの
「やっぱ」。
これは言うまでもなく「やっぱり」の俗語ですね。「り」ぐらい省略するなよな。
スポーツ紙の見出しの影響を受けて、一般紙のスポーツ欄でも「だじゃれ見出し」が横行していますが、一般紙のほかのページ(一面や経済面)まで、その影響を受けて俗語化しているのでしょうか。少し由々しき字体・・・いや事態なのではないでしょうか・・・。
2004/6/26
 
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