◆ことばの話1775「期日前投票と不在者投票」

国会も閉会し、いよいよ参議院議員選挙(6月24日公示、7月11日投票)が迫ってきました。それに関連した話です。
先月の新聞用語懇談会の総会(山形)で日本テレビの委員から、
「昨年(2003年)12月の公職選挙法改正によって従来『不在者投票』とされていた投票日以前の投票が『期日前投票』と『不在者投票』に分かれたが、各社はこの表現の区別をどうするか?」
という意見が出ました。そもそも「期日前投票」と「不在者投票」はどう違うのか?
これまでの事前投票は、投票用紙に候補者名を書き入れた後、封筒に入れ、市町村で保管し、当日、担当者が投票箱に投入するというシステムでした。しかし、担当者がこの作業を忘れる失態などが繰り返され、大量の「死に票」が出たことから、法改正につながりました。
そこで「期日前投票」は、投票日前であっても、有権者が直接、投票箱に投票用紙を投入することができ、投票した時点で、その票が「確定票」となります。
一方で、従来の「不在者投票」の仕組みも残ります。これは、病気で入院している人、老人ホームに入所している人など、役所にすら足を運べない人のための投票システムです。
投票用紙は、従来通り、封筒に入れて保管され、当日、選挙管理委員会の人間が受理するかどうかを判断した上で、投票箱に投じます。この時点で「確定票」となる
のです。(以上の説明は坂泰知アナウンサーによる文章です)
会議では、各社の現状が報告されました。それによると、
「不在者投票分も含めた期日前投票』」(N新聞)
「議論遅れてる。参院選までに結論出す」(A日新聞)
「『期日前(マエ)投票』と読む」(N局)
「データベースを調べたところ、『期日前投票』が163件、『不在者投票』は167件で、区別して使っているようだ。選管発表に従っているようだ」(Y新聞)
「一般呼称としては『不在者投票』も使うかもしれない」(M新聞)
「『期日前投票』と『不在者投票』は概念が違うので使い分ける」(S新聞)

というようなことでした。
これについて、読売テレビ報道局の木村記者に聞いたところ、
「『期日前(ゼン)投票』と各選管は言っている。これまでの『不在者投票』は、投票用紙を封筒の中に入れたり煩わしい作業があったが、『期日前投票』は、直接投票箱に投票するので、そういった煩わしさが減るメリットがある」
と話していました。
その後、昨日(6月17日)になって、日本テレビ系列(NNN)も呼称の統一を図ったようで、こんな連絡が来ました。

NNNでは、これまで「不在者投票」と言ってきた投票日以前の投票システムを、今回の参院選から、以下の用語に統一する。
○ 「期日前投票および不在者投票」
    または「期日前投票など」
○ 期日前投票の読みは「きじつまえとうひょう」

なお、「期日前投票」の読み方は、条文名では「きじつぜん」とのことですが、NNNでは、耳で聞いてわかりやすいという観点から、
「きじつまえ」
と読むことにしたそうです。
また、報道内容が具体的にこのシステムのいずれかを扱う時には、
「期日前投票」単体での使用:「不在者投票」単体での使用は、共に可能

とのことです。
ちょっと今回の選挙では、この「期日前投票」と「不在者投票」にも注目ですね。

2004/6/17
(追記)

今回(2005年9月9日9月11日投票)の衆議院選挙、「期日前投票」をした人が大幅に増えているそうです。
今日(9月9日)耳にした総務省のラジオCMでは、
「キジツゼン」
と言っていましたが、NNN系列では、やはり、
「きじつまえ」
と言っています。
そのほか、9月6日放送の毎日放送の「っちゅーねん」という番組でも、
「きじつまえ」
と言っていました。

2005/9/9

(追記)

今回の週銀選挙で期日前投票をした人が、推定で836万人と大幅増だそうです。
9月10日の関西テレビとテレビ朝日の放送でも、「期日前投票」を、
「きじつまえ(とうひょう)」
と言っていました。

2005/9/11



◆ことばの話1774「早割」

京阪電車の中で京阪百貨店のお中元の吊り広告に、
「早割」
の文字が。15、10%オフ。だそうです。「早割」というのは飛行機の航空券の予約から出たように思うのですが、もちろん、
「早期割引」
の略ですよね。飛行機を飛び出して、もう百貨店業界にまで飛び火したのでしょうか?このポスターにも上の方には「早期割引」とも書いてありましたが。
そして他日、南海電車の中の「高島屋」の吊り広告は、
「早期割引」
と書いてありました。昔、「キタ、ミタ、カッタの喜多商店」という日本橋の電気屋さんの15秒スポットCMのナレーションで、
「早期割引、実施中」
というのがありました。20年ぐらい前です。その頃は「早割」とは言ってませんでしたねー。
ちなみにこの「来た、見た、買った」というのはなぜ、最後が「コウタ」ではないのかな?と疑問に思っていました。大阪弁なら「カッタ」ではなく「コウタ」のはずなのに、と思っていたのですが、あるとき、実はこれはシーザーの有名なセリフ、
「来た、見た、勝った」(Veni、Vidi、Vici=ラテン語)
のパロディだと気づいて、なるほどと思ったのでした。しかしその後このスポットCMのセリフは、なぜか、「キタ、ミタ、コウタ」になってしまいましたが。
Google検索では(6月17日)、
「早割」=33万4000件
と、ものすごい件数が出てきました。「日本語のページだけ」だと、26万8000件でしたが、それでもものすごい数です。「早期割引」は、「ウエブ全体」でも「日本語のページだけ」でも同じ件数で
「早期割引」=5万9800件
でした。

2004/6/17

(追記)

今朝(6月17日)の朝日新聞朝刊に、新幹線「ひかり」の割引切符で、
「早特往復きっぷ」
というのが紹介されていました。略して、
「早特」
です。「得」ではなく「特急」の「特」ですが、「得」の意味も感じさせます。
「早トク」
とカタカナにしても良かったのじゃないかな。

2004/6/17

(追記2)

NHKの原田さんから、
「『早割』と『特割』(それに「超割」「プレ割」)は、なぜか全日空が旅行関係の分野で『商標登録』しています。そのほか、業種が違えば登録は可能で、写真現像やプレイガイドなどでも登録があります。」
というメールをいただきました。どうもありがとうございました!

2004/6/18



◆ことばの話1773「近鉄オリックス合併」

近鉄がオリックスと合併というオドロキのニュースが、日曜日(6月13日)の日経新聞朝刊トップに載りました。
「パリーグは5チームになったら、試合で余るチームが出て来る、一体どうするのだ」
「いや、もう1チーム減ってセ・パ10チームが1リーグ制になって行くのだ」
など、連日ああでもない、こうでもないという話題が、スポーツ紙の紙面を飾っています。元・南海ファンで、南海が消えた日・阪急が消えた日にニュース中継をした私としては、「ああ、またか」と悲しさを抑え、ある種の感慨と共に、初めてプロ野球を見た日を思い出しました。
昭和43(1968)年8月31日、小学1年生の夏休み最後の日、父に連れられて行った、ナンバの大阪球場は、「南海対近鉄」のだらだらしたナイターで0対0。試合途中で「もう遅いから・・・」と球場をあとにした途端に、近鉄の小川がホームランを打った、その歓声が球場の外に夜空に響いたのを覚えています。
これから日本のプロ野球はどうなってしまうのか。超一流選手はメジャーリーグへと流れる中で国内の野球はどう生き延びるのか。今回の「合併」は、パリーグの2球団の話と言うことではなく、間違いなく球界再編への第一歩になる予感がします。
で、「こうなるとおもしろいな」という勝手なうだ話を、Sアナウンサーと二人でしていました。私は、
「もはやドメスティック(国内的)な『野球』をやっている場合ではない。サッカー人気が上がってきたことでもわかるし、メジャーリーグのファンが増えたことでもわかるように、国際間の対抗戦の方が愛国心にも火をつけて盛り上がることができる。そう言う意味で、韓国と台湾のプロ野球を巻き込んで、『アジアリーグ』を作ればどうか。そしてその覇者が、アメリカのメジャーリーグの覇者と、真の『ワールドシリーズ』を戦うことにすれば、メジャー人気と一体になって盛り上がるのではないか」
という意見。Sアナは、それはおもしろいと頷きながらも、
「でも台湾や韓国のプロ野球ってなんチームくらいあるんでしょうね?」
「うーん知らん!台湾は4チームぐらいじゃないの?韓国は6チームくらいとちゃうかあ。」

と、いい加減な返事の私。たしかに身近な国のプロ野球のチーム数すら知らないなんて・・・。「ヘテ・タイガース」とかは知っていますが、名前だけ。
で、調べてみると、台湾のプロ野球(中華プロ野球メジャーリーグ:中華職業棒球)は1990年に米国・日本・韓国・オーストラリア・メキシコに次いで6番目に発足。初期は、4球団(兄弟エレファンツ、味全ドラゴンズ、三商タイガース、統一ライオンズ)。その後、別のプロ野球団体が出来て球団が乱立。レベルの低下、ファンの分散と共に野球賭博事件などで深刻な野球離れが進んだのですが、昨年、対立していたプロ野球団体「中華プロ野球」と「台湾メジャーリーグ」が合併、球団数も6球団に絞られたとのこと。
一方の韓国プロ野球は、8球団による1リーグ制。公式戦上位4チームにプレーオフ進出の権利が与えられ、まず公式戦4位と3位のチームが2戦先勝決着の準プレーオフを行ない、その勝者が公式戦2位のチームと3戦先勝決着のプレーオフを行ない、さらにその勝者が公式戦1位のチームと4戦先勝の韓国シリーズを戦ってチャンピオンを決定するのだそうです。1999年と2000年シーズンの2年間は、8球団を4球団ずつ「ドリームリーグ」と「マジックリーグ」の2リーグに分けて、各リーグ上位2チームでプレーオフを行なったのですが、2リーグと言っても(同リーグでも別リーグでも他球団とは同じ試合数が組まれていたため)実質1リーグと変わりがなく、ファンの評判も芳しくなかったため、2001年シーズンから元の1リーグ制に戻したとのことです。
ふーん、韓国・台湾もいろいろ苦労しているのですね。サッカーの韓国のKリーグも苦労しているらしいし。それだけに、ナショナリズムに火をつけてスポーツで競い合うのは、カンフル剤になるかもしれないと思いませんか?
いずれにせよ、今後の動きには注目しましょう!

2004/6/15



◆ことばの話1772「していただいてよろしいでしょうか」

2004年6月7日の読売新聞夕刊「ことばのこばこ」
に、武庫川女子大学言語文化研究所所長の佐竹秀雄先生が、「していただいてよろしいでしょうか」という言葉について書いています。具体的にはデパートで店員さんに、
「こちらにお名目を書いていただいてよろしいでしょうか」
と言われて違和感を感じた、というお話です。
「よろしいでしょうか」は相手に許可を求める言葉で、普通は自分の行為についてつけるもの。ところが「核」行為は自分の行為ではなく、相手の行為。これに「よろしいでしょうか」をつけるからおかしい、と佐竹先生は書いてらっしゃいます。素直に「〜してください」と言うべきだと。最後に、
「プロポーズで『結婚していただいてよろしいでしょうか』とは言うまい。」
としめています。たしかに、ねー、そうですね。
この話、私が平成ことば事情253「お借りしてもいいですか」とまったく同じ話なんですよね。私も違和感を覚えます。
このコラムをSキャスターの所にもって行って見せると、
「『よろしいですか』じゃなくて『よろしかったですか』と過去形にしたら、また別のところで違和感を感じるんですけどねー」
とのことでした。それと敬語に関連して、6月5日の読売新聞解説面に解説部の左山政樹記者が、
「乱れる敬語〜誤用意思疎通阻む恐れ、原則学べる機会必要」
という見出しで書いていた記事、「ご乗車できません」という言い方が正しいのかどうか、ということを取り上げていました。「ご乗車できません」とすると「乗車」が駅員の行為になってしまう。「ご乗車になれません」あるいは「ご乗車はできません」ならよいと。
この「ご乗車できません」がなんかヘンなのは、相手と自分の間に何らかの「やる・もらう」という関係がある場合、そのあたりの敬語の扱いが複雑で難しいということではないかということに、Sキャスターとの間の話ではなりました。
敬語はやっぱり、難しい!!

2004/6/12


(追記)

このコラムの愛読者で「駅員」経験者という大塚さんという方からメールをいただきました。そのメールによると、
『「ご乗車できません」がおかしいと言うところについてなのですが、私自身、駅員を一時やっていたときの経験からすると「ご乗車はできません」と言おうとすると、
「ご乗車ぁできません」
となってしまうのです。私の滑舌が悪いと言えばその通りなのですが。もっとも、わたしは「ご乗車いただけません」と言うことが多かったです。』
ということでした。なるほど、「は」という助詞までキッチリとは言わない・・・というか、車掌さんって独特のしゃべり方をする人もいますから、聞こえ方によってはそういうケースもあるのでしょうね。大塚さん、メールありがとうございました。

2004/6/26




◆ことばの話1771「ネックレスとペンダント」

韓国の人気ドラマで日本でも「ヨン様」人気が爆発した「冬のソナタ」。その中で、主人公がヒロインに贈った、
「ポラリス・ネックレス」
という、北極星をモチーフにしたネックレスの偽物を販売した会社が訴えられたというニュースが、6月8日のお昼のニュースでありました。その際、
「ネックレス」
とニュースでは読んでいたのですが、鎖の先に、
「北極星をイメージしたペンダント・トップ」
が付いていたので、
「これはネックレスではなく、ペンダントではないか?」
との疑問が出ました。実際、関西テレビのニュースでは、
「ペンダント」
と読んでいました。朝日放送と毎日放送は「ネックレス」でしたが。というのも固有名詞が「ポラリス・ネックレス」だということと関連があると思います。
しかし、ちょっとした真珠がチョコッと付いているものは「ペンダント」と言うよりも「ネックレス」のようですし、ネックレスとペンダントの違いはなんなんでしょうか?
ネットで調べてみると、こんな記述がありました。

「語源」
ペンダント(pendant)は、pend(ぶら下げる)が語源とされている。
サスペンダーもsuspender=sus + pend + er 同様。ラテン語のLibra Pondo
(天秤に掛けて重さを計る)から来ているという説もあります。
Pondoは、ぶらさがるという意味です。
医学用語でラテン語のpenis (垂れ下がる意味の尻尾)から来た説もあります。
ペニシリン、ペンシル、ペンダントなどがみんなペニスと同じ語源。

「ネックレスとペンダントの違い」
ネックレスは首周りのチェーン部と胸元のトップ部が一体にデザインされた宝飾品。
ペンダントは、チェーンなどに付けて使う宝飾品。


『日本国語大辞典』によると、
「ネックレス」=英necklace(ネックレース)首飾り。
と、(その後に用例は載っているものの)シンプル極まりない。そして、
「ペンダント」=英pendant(1)装身具の一種。鎖や紐で首にかけ、胸につるす飾りもの。
(2)照明器具の一種。屋根、天井、軒などからつるした飾り電灯など。
(いずれも、用例は省略)

おや。そうすると、「ペンダント」は、いわゆる「ペンダントトップ」のことを指すのかな。
結局、その後、新聞記事やテレビニュースなどでも「ネックレス」でやっているようでした。
なんか、女性のアクセサリーは、やっぱり難しいや。敬語と一緒だね。

2004/6/12

(追記)

「冬のソナタ」のドラマの中で、ミニョンさん(=ヨン様)がユジンに、「ポラリス・ネックレス」を渡すシーンをDVDで見ました。雪の玉の中に込めてあったネックレスが出てきたシーンだけ見ると、「ネックレス」に見えますが、アップで映るシーンを見ると、ペンダントトップがジャラジャラついていて、「ペンダント」のようにも見えます。うーん、難しい・・・。

2004/6/14

(追記2)

夜中にテレビショッピングを、見るとはなしに見ていると、アクセサリーを売っていました。その中に「ネックレス」と「ペンダント」がありました。見るとはなしにぼんやりと見ているうちに、ネックレスとペンダントでは微妙に形状が違うのに気づきました。
「ネックレス」は首の周りにまあるく「円形」に巻いて、あまり下に垂れていないものが多いのに対して、「ペンダント」は、やや大きめの「ペンダント・トップ」がついている分、鎖が下に下がって「Y字型」になっているようなのです。これは結局、
「鎖を見せるのがネックレス」で「ペンダントトップを見せるのがペンダント」
というような違いに思えたのですが。それによると、「ポラリスネックレス」は「ペンダント」だと思います。
どうでしょうか?

2004/6/15
 
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