◆ことばの話1720「カズ」

最近、新聞のスポーツ欄で、
「カズ」
という文字をよく見かけます。5月14日の産経新聞のスポーツ欄でも、
「カズ真骨頂 ジョンソン攻略」
と太い文字で見出しが出ていて、
「おっ、ヴィッセル神戸の三浦知良選手が活躍したのかな?」
と思ってよく見ると、
「ニューヨーク・メッツの松井稼頭央選手が、12日のダイヤモンド・バックス戦で
"現役最高左腕"ランディ・ジョンソン投手から、先頭打者ホームランを放った」

ということでした。そういうことが2,3度ありました。
時代の流れというか、新聞で使われるニックネームにも、その時代々々の、はやり廃りがあるのだな・・・と、ちょっとさびしく思ったことでした。
GOOGLEで検索してみました。
「カズ、三浦選手」=264件
「カズ、松井選手」=530件

なるほど・・・そうなっていましたか。
でも、さびしいなあ・・・・。

2004/5/17

(追記)

毎日新聞も「カズ」が好きみたいです。つい先日も「カズ」という見出しを見つけましたが、今朝(6月4日)の朝刊にも、
「カズ連続試合安打『7』」
と出ていました。同じ日の隣のページには、
「キヨ2000安打あと『1』」
と言うのもありました。もちろん「キヨ」というのは、巨人の清原選手のことです。省略形、毎日新聞の整理部の人(見出しをつける部の人)は好きやなあ。

2004/6/4

(追記2)

毎日新聞はカタカナ2文字がスキなのでしょうか。今日(6月17日)も、スポーツ欄左側のページに、
「カズ4の1」
と、ニューヨーク・メッツの松井稼頭央選手の成績を「見出し」で伝えた記事があるかと思うと右側のページには、
「ヒデ、小野ら外れる〜予備登録、羽生ら30人、サッカーアジア杯」
ということで、サッカーの中田英寿選手のことを見出しで、
「ヒデ」
としています。まあ、たしかにそう呼ばれていますが、一般紙のスポーツ欄の見出しでねえ。

2004/6/17

(追記3)

6月25日の読売新聞スポーツ欄に、
「KAZ(カズ)の世界〜松井稼頭央」
というコラムがありました。「カズ」とルビは振ってあるものの「KAZ」というアルファベット表記になっていました。サッカーの三浦知良選手の「カズ」は、背番号の上のアルファベット表記は「KAZU」でしたから、最後の「U」のあるなしが、野球とサッカーの「カズ」の違いですね。

2004/6/26

(追記4)

朝日新聞も、7月8日の朝刊スポーツ欄。
「カズ充実の7月 5の3」
という見出し。そうそう、サッカーの「カズ」は「KAZU」とユニフォームの背中に書いてあったという件、発音も後ろから二つ目の母音に来て、
「カズー(LHL)」
だったのを思い出しました。松井選手の場合は、
「カズ(HL)」
ですね。サッカーのカズも日本では「カズ(HL)」と頭高でしたが、インターナショナルで呼ばれる時はアクセントが異なるということですね。

2004/7/8



◆ことばの話1719「親子ゲーム」

5月15日、阪神が広島を相手に、延長12回、劇的な逆転サヨナラ勝ちを収めました。
その試合の実況を担当していた読売テレビの尾山アナウンサーが、鳥谷選手に関して、
「今日は2軍戦にも出て、1軍戦にも出場するいわゆる『親子ゲーム』です。」
という説明をしていました。この、
「親子ゲーム」
というのは初めて知りました。普通、親子ゲームと聞くと、マンガの「あぶさん」のように、本当に親子が出る試合のように思ってしまいますが。
GOOGLEで、「親子ゲーム、一軍、二軍」で検索すると66件ありました。
野球担当の小澤アナウンサーに聞いてみると、
「最近はあまり聞かなくなった言葉ですね。昔は甲子園で昼間に二軍戦があって、夜ナイターで一軍の試合があるような時に、その両方に出ると『親子ゲーム』とか『親子で出場』って言いましたけど。今は、二軍戦は鳴尾浜球場になりましたけど、やっぱり言いますね。でも、たとえば昼に二軍戦が福岡であって、急遽一軍に昇格して、夜、甲子園で一軍の試合に出るような場合には『親子ゲーム』とは言いませんね。あくまで、一軍戦・二軍戦ともにホームグラウンドでの試合の場合に言いますね。」
とのことでした。
今後、「親子ゲーム」にも注目したいと思います。

2004/5/17



◆ことばの話1718「帰国か来日か」

小泉総理大臣の再訪朝が決まりました。5月22日の土曜日に北朝鮮に行くとのこと。それに関連して注目されているのが、拉致被害者たちが北朝鮮に残してきた家族の問題です。この家族を日本に連れてくることができるのかどうか。
家族が日本に来ることをどう表現するかに関して、4月の新聞用語懇談会放送分科会のあとの懇親会で、フジテレビのTさんから質問を受けました。どういう質問かというと、
「拉致被害者の家族が日本に来ることを、どう呼ぶのか?帰国と言っていいのか、それとも来日か?」
というものでした。つまり、
「拉致被害者の家族=子どもは、北朝鮮で生まれたので、日本の土を踏んだことがない。その子どもたちが日本に来ることを『帰国』と呼んでいいのか?『来日』ではないのか?曽我ひとみさんの夫チャールズ・ジェンキンスさんはアメリカ出身なので、問題なく『来日』という表現が使え『帰国』は間違いと言えるが・・・・」
ということでした。そうか、そこまで考えていなかった。で、その場で考えた答えは、
「たしかに、標準的な『帰国』(=狭義)は、日本から外国に出て、そこから日本に戻って来ることを指すが、広義では、日本に一回も来たことがなくても、両親が日本人であって今回のように両親が拉致されていた状況であれば、『帰国』と呼んでいいのではないか」
というものでした。一方Tさんの考えはというと、
「私は『到着』と使えば問題ないと思うのだが・・・」
とのことでした。
その時には、まだ小泉総理の再訪朝の話は出ていなかったのですが、昨日(5月16日)の朝刊には、ジェンキンス氏の問題が載っていました。それによると、読売新聞はジェンキンス氏については「来日」を使い、家族については、
「拉致被害者五人の家族八人全員の帰国・来日を目指す立場から」
と、いうふうに使っています。多分、ジェンキンスさんに「来日」、残りの家族については「帰国」を使おうという意図だと思います。
そのほか、朝日、毎日、産経も見出しでは「家族帰国」としていますが、本文では「帰国・来日」という表現を使っています。
アナウンス部でSアナウンサーとこの話をしたところ、
「たとえば、日系ブラジル人三世で、日本国籍を取得した上で日本に永住するつもりで初めて日本に来る場合は『帰国』としてもいいだろう?つまり、『帰』という文字には、来た後もずーっといるつもりかどうかという意思が関わって来ると思うな。」
「ぼくなんか北海道出身で大阪に来て、もう16年になりますけど、北海道の実家に行くときには『帰る』って言いますし、北海道から大阪へ戻るときも『帰る』って言いますね。」「そうそう!おれも東京に下宿してた時に、大阪へ行くのも東京に行くのも『帰る』って言ってたもん!つまり、現在生活の基盤となっている場へ行くのも『帰る』だし、もともとの出身地・故郷へ行くのも『帰る』なんだよな。『自然に帰れ!』なんていうのも、自然に親しんでいない都会人に呼びかけられたものだから、そういう意味ではおかしいとも言えるけど、全然おかしく感じないものね。」

というような会話がありました。
いずれにせよ、22日に小泉訪朝には、大きな期待がかかりますね。

2004/5/17

(追記)

小泉訪朝で、地村さん、蓮池さんの子供たちは日本に「帰国」しましたが、曽我ひとみさんの家族は帰ってきませんでした。そして7月インドネシアのジャカルタで、曽我さん家族は1年9か月ぶりに再会を果たしました。
さあ、ではいつ日本に「帰って」くるのかが焦点。日本に来るのを拒んでいた夫・ジェンキンスさんも軟化したようで、どうも今朝の報道によるとこの週末から週明けの連休にかけて、つまり早ければ7月18日にも、日本に「治療名目」でやってくることになりそうです。
7月15日の日本テレビのお昼のニュース「ニュースダッシュ」を見ていると、金子アナウンサーは、
「ジェンキンスさんと2人の娘のらい・・・帰国」
と一旦「来日」と言いかけて「帰国」と言いました。字幕は「帰国」でした。ジャカルタから中継した赤堀記者は、二人の娘には「帰国」、ジェンキンスさんには「来日」、そして家族4人全員には「帰国」というふうに使い分けていました。日本人の曽我さんと一緒に帰る家族であれば「帰国」という言葉も特に問題はないでしょう。
この話を始めてから3か月で、実際にどういう言葉を使うべきかという、嬉しい状態がやって来ましたね。

2004/7/15



◆ことばの話1717「ビラとチラシ」

大阪府熊取町の小学生・吉川友梨ちゃんの行方がわからなくなって、今月20日で、丸1年。警察の懸命の捜索にもかかわらず、その行方は杳(よう)としてわかりません。街の交番の掲示板やコンビニのカウンターなどでも、友梨の情報を呼びかけるポスターをよく見かけますが、本人の行方はわかっていません。
友梨ちゃんの父親・吉川永明さんは、昨日(5月16日)の日曜日、新しく刷ったビラやポスターを大阪府内の繁華街などで配り、情報の提供を呼びかけました。
このニュースを伝えた際、原稿では、
「新しく作ったポスターを配り」
となっていたのですが、普通、配るのは「チラシ」か「ビラ」です。「ポスター」は「張る」物ですね。大きいものが多いし。それに気づいて、
「新しく作ったチラシを配り」
に原稿を直したのですが。その時に、またちょっと引っかかりました。というのは、「チラシ」というのは新聞にはさんであったりするもので、主に「商業的な広告」の時に使うのではないか?商業的ではない内容を訴える場合に配るものは「ビラ」ではないか?と感じ、原稿は、
「新しく作ったビラを配り」
に直してニュース本番では読んだのでした。その後『広辞苑』を引いたところ、
「ちらし」=(2)広告のためにくばる刷物。ビラ。引き札。「大売出しのちらし」
「ビラ」=(billの訛)宣伝広告のため、人目につく所に張り出したり通行人に配ったりする紙片。ちらし。

とありました。両方とも広辞苑では「広告」「宣伝」ということですが、「ちらし」の方は「大売出しのちらし」という用例(作例)がありましたが、「ビラ」には例文がありませんでした。それにしても「ビラ」は英語のbillの訛りだったのかあ。
『新明解国語辞典』ではどうでしょうか。
「ちらし」=(二)開店披露や大売出しのために配る、広告文を書いた紙。
「びら」=(「片(ヒラ)」の口語強調形)(広告・宣伝などのために)配ったり張ったりする、一枚刷りの紙。

お!こちらの「びら」は「ひらがな見出し」で、英語語源ということが書いていないぞ。『広辞苑』の見出しはカタカナだったのに。もう一つ、『新潮現代国語辞典』はどうか。
「ちらし」=(一)広告に配る刷り物。びら。
「びら」=(「片、枚:「びらびらするもの」の意とも、billのなまりとも)(一)宣伝のための張り札。ポスター。「びらを張る」(ヘボン)(ニ)広告文をしるして配布する紙片。ちらし。(ヘボン)

おやおや?「びら」の語源に関しては、「びらびらするものの意とも、billのなまりとも」と両方出てきた上に、「びら」そのものも(一)はポスター(ニ)は、配るちらしの意味と出てますよ。どない、なってんねん。
最後に『日本国語大辞典』
「ちらし」=(2)広告するために、人に配る刷り物。引きふだ。(用例)浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)四「散らし配りて薬売り」・・・・(以下略)
「びら」(片・枚)=(1)宣伝のための文章や絵などを書いて掲示したり、配布したりする紙片。本来、演劇や演芸の宣伝のために、湯屋や飲食店など人目の多いところに張り出したものをいった。びら紙。

とあって、「びら」は演芸の宣伝用だったのですね。そして「補注」として、
「大正時代、社会運動の中で英語のbillと混交し外来語意識をもって用いられた、以来今日でも、和語・外来語の別の判然としない場合が多いが、「アジビラ」などは外来語意識で使われている。」
とあります。
思うに「ちらし」は「大売出しのちらし」「新聞のちらし」のように商業的な広告で使われることが多いのに対して、「びら」は「アジビラ」のように政治的あるいは宗教的というように商業ベースでない、何かの主張を訴える内容が書かれているものに使うことが多いのではないでしょうか。アジテーションするビラを「アジビラ」と言うわけですが、これが「ちらし」で「アジチラシ」だと、「味ちらし」。なんだか「ちらし寿司」みたいで、おいしそうです。
いずれにせよ、一日も早く友梨ちゃんが見つかるように、祈らずにはいられません。
2004/5/17



◆ことばの話1716「サブスリー」

NHKの原田さんからメールです。
「フルマラソンで3時間以内で完走することを『サブスリー』と言うそうですが、誰が言い出したのでしょうか?英語にはないと思うのですが。」
へえー、「サブスリー」、初めて聞きました。スポーツ担当のOアナに聞くと、
「3時間という記録の水準から見て、市民ランナーの言葉じゃないですかね?」
とのこと。GOOGLEで検索すると、「サブスリー」は3900件もありました。(5月15日)見てみると、やはり市民ランナーの方が一つの目標としているようで、3時間を切ると、大きなレースへの参加資格も得られるようです。
この「サブ○○」という言葉、以前「2時間10分以内で走るランナー」のことを、
「サブテン・ランナー」
と言う、というのを書いた覚えがあります。(ことばの話119「サブテン」)
それを見てみると・・・あれ?「サブスリー」に「サブフォー」というのも出てきてるぞ
その部分を抜き出すと、

◆ことばの話119「サブテン」
趣味でマラソンをやっている後輩の市民ランナーに聞くと「サブテンはわかりませんが、“サブ3(スリー)”や“サブ4(フォー)”はよく言いますよ。マラソンで3時間を切ったり4時間を切ったりする事で、それを目標に走ってますから。」とのこと。
なるほど、確かに実際に走っている“マラソンランナー”の間では、「サブ〜」という言葉は、プロ(?)アマ問わずに浸透しているようです。

サーチエンジンの「インフォシーク」で検索してみた所、「サブテン」は48件ありました。その中で一番古いのは1998年2月の記事でした。48件と言うのは多いのか少ないのか?(私は少ないと思いますが。)
それにしても、英語の「サブ」の意味は、本来「〜より下位の、下の」と言う意味のはず。2時間9分台は、2時間10分台より「上位の」記録です。(確かに数字の「9」は「10」より下ですが。)それなら「サブテン」ではなく「アップテン」のほうが正しいのではないでしょうか?

2000/5/23

(追記)
(前略)ほぼ3年ぶりにインフォシークで「サブテン」を検索すると・・・・77件。あまり増えていませんでした。Googleでは、
「サブテン」・・・・・・・・257件
「サブテンランナー」・・・・・43件

でした、まだまだ専門用語のようです。その後「サブテンランナー」の人数は増えているようなのですがね。

2003/3/3

とのこと。4年前にもう書いてたんだ。忘れてた。
「サブ」はサッカーなどでは「控え(補欠)の選手」のことを言いますが、マラソンでは「記録・タイムが、それ以上(時間の長さで言うとその時間「以下」、その時間よりも「早い」)」
ということを表すようですね。そういえば「サブマリン(潜水艦)」は「海面の下」を潜って航行するし、「サブウェイ(地下鉄)」は、「地面の下」を走っていますし、「サブ」は「〜の下」ということなんでしょうね。サッカー選手の「サブ」も「レギュラー(正選手)の下」ということなんでしょうね、きっと。

2004/5/15
 
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