◆ことばの話1695「DJ」

いつものようにSアナウンサーからの質問です。
「最近DJというと、いわゆる『クラブ』と言われるお店でラップのお皿(レコード)を右手と左手に2つまわしてキュキュキュキュ言わせている人のことを指すようになってるでしょ。昔は、『ラジオのDJ』とかもあったと思うんですけど、いつからこんなに変わっちゃったんですかねえ。」
いまだにDJといえばラジオのDJが本道だと思っていて、それとは意味の分化で、クラブのDJが出てきていたと思っていた私は、ちょっとビックリして、
「え?今はラジオのDJとかは、使わへんの?」
「ほとんど言わないんじゃあないですか」

そうなのかァ。世の中、同じ言葉でも意味が変わってくるもんなんだなあ、知らないうちに。そこで、「DJ」を軸として2つの言葉をキーワードにGOOGLE検索(3月30日)を行なってみました。
「DJ、レコード」   =8万0000件
「DJ、アナウンサー」 =1万3400件
「DJ、ラップ」    =3万5300件

たしかに「ラップ」と「DJ」は3万5300件もあり、「DJ・アナウンサー」を大きく上回っていますね。さらにSアナウンサーは、
「ラジオのDJって、昔は『パーソナリティー』とも言いましたよね。」
そういえば、言いました!そこでもう一度、検索。
「DJ、パーソナリティ」=1万7200件
おお、けっこうあったな、「DJ、アナウンサー」よりも多い。
「しかしDJというと思い出すのは、『DJの草分け』とも言われる糸居五郎だなあ。」
と私が言うと、私より4つ年下のSアナウンサー、
「誰ですかそれ?知りません。」
そうか、糸居五郎、知らんかあ・・・、って私も詳しく知っているわけではないけど、「オールナイトニッポン」の最後の方は、たまに遅くまで(午前3時)起きていると、たまたま聞いてしまったことはあったな、あの独特のフレーズ。
なんてことを思っていたら、4月22日の日経新聞にこんな記事が。
「懐かしのDJ8人復活・ブルボンのCD付き食玩」
内容は、ブルボンがニッポン放送と組んで、CD付き食玩「懐かしのオールナイトニッポンキャンデー」を4月27日から北海道で販売開始、6月からは順次、他地域に広げるとのこと。そのCDに登場するDJは初代の糸居五郎、笑福亭鶴光、吉田拓郎、泉谷しげるら8人。オープニング局として有名な「ビタースイートサンバ」と、それぞれのDJごとに当時のヒット曲も収めたということです。♪パパッパッ・パッパパパ・パッパパ・パッパパパ・パッパパ・パ・パッパパ・パ・パッパ・パッパッパ♪
欲しいっ!買う買う!!
中島みゆきや所ジョージ、よく聞いたなあ。1970年代後半。
と、それはさておき、インターネットで糸居五郎さんのデータを調べてみました。それによると、
<日本のDJの草分け・糸居五郎>
1921年(大正10年)1月17日生まれ。1984年(昭和59年)12月28日永眠。命日の12月28日は「ディスクジョッキーの日」に。
1959年(昭和34年)10月日本初のラジオ深夜番組「オールナイトニッポン」担当。自分でレコードをまわす。その後レコードよりもしゃべりを中心とした「パーソナリティ」が主流となるがDJの形を貫いた。

そして、番組冒頭の、あの独特のフレーズは、
「HI!こんばんは。オールナイトニッポン、
GO GO GO AND GO’S ON
HI!夜更けの音楽ファンこんばんは。朝方近くの音楽ファンご機嫌いかがですか。君が踊り、僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれる。太陽の代わりに音楽を、青空の代わりに夢を。新しい時代の夜をリードする、オールナイトニッポン、GO GO GO!」


うーん、時代を感じさせますねぇ。もうその糸居さんがなくなって20年か。合掌。

2004/4/30



◆ことばの話1694「みーちゃんはーちゃん」

急に妻からメールで、こんな質問をされました。
「芸能人や流行なんかにものすごく関心が強くて、追っかけなんかをしているような人のことを、どうして『ミーハー』って言うの?」
それはね、「ミーちゃん、ハーちゃん」を略して「ミーハー」と言うんだよ。
「でも、どうしてミーちゃん、ハーちゃんなの?マーちゃん、チーちゃんでも、いいでしょう?」
マーちゃん、チーちゃん?だって、それだと「ミーハー」にならないからねえ・・・。
これではまるで、ご隠居さんと八っつあんの会話です。ホラ、あったでしょう、こんなのが。
「ご隠居さん、『うわばみ』は、なぜ『うわばみ』と言うんですか?」
「それはね・・・『うわ』という動物がいると思いねえ。」
「思いました。」
「その『うわ』がバムんだな、これが。」
「へー、『うわ』はバミますかね?」
「ばむ!バマないと、『うわばみ』にならない!」

私の回答には満足していないようで、こんな、メールが届きました。
「『広辞苑』によると、「みいちゃんはあちゃん」は「(一説に女子の名が「み」「は」で始まるものが多いことからいう)流行やまわりの人の趣味などにすぐ同調する人をいやしめていう語」だそうですよ」
なんだい、『広辞苑』が近くにあるなら、まず最初に字引きを引いてからメールをよこしゃあ、いいじゃないか、ヤな子だねこの子は。おっと、口調がすっかりご隠居さんだよ。まったく。
以前「ミーハー」の語源について書かれたものを、どこかで読んだ気がしたんだけどなあ・・・と心の片隅に気に留めていましたら、見つけました!武庫川女子大の佐竹秀雄先生が書かれた本、『サタケさんの日本語教室』(角川ソフィア文庫、2000年)の111ページに載っていました。それによると「ミーハー」とは、程度の低いことに夢中になっている若い子、特に女の子を軽蔑していう言葉、なんだそうです。語源説はいくつかあって、一つは、女の子の名前として多かった「ミヨちゃん」「ハナちゃん」からできたというもの。もう一つは、力士仲間の隠語で少し間の抜けたものをハーちゃんと言い、それをドレミファソラシドのミファ(ミハ)と関係付けて、ミーちゃんと並べてハーちゃんになったという説だそうです。この「みいちゃんはあちゃん」は昭和初期に流行し、ミーハー族ということばも生まれ、その後昭和30年ごろには、音階で「ミファ」よりは上の「ソラ」に当たるということで、「ミーハー族」より知性があるとうぬぼれている人たちを指して「ソーラー族」という流行語も生まれたそうです。いずれも私が生まれる前、今から40年以上前の話です。

「ソーラー」は死語になりました(太陽電池の「ソーラー」は関係ないですからね)が、ミーハーはまだ生きていますね。ミーハーは永久に不滅です!

2004/4/30



◆ことばの話1693「チブスとチフス」

4月8日の午前4時過ぎ、会社に向かうタクシーの中で聞いた「NHKラジオ深夜便」。その日の特集(録音)のゲストは、三笠宮崇仁親王殿下でした(ヒゲの殿下のお父様)。その中で、三笠宮さまは、「チフス」のことを
「チブス」
と濁っておっしゃっていました。これはその時代には「チフス」と言わずに「チブス」と言っていたことの一つの証拠かと思うのですが、なぜ濁ってしまうのか?を考えた時に、やはり、「チフス」は無声化の音が続くために発音しにくいということが、濁る理由にあげられると思います。
外国語の原音はわかっていても、それを日本語の外来語として発音する場合には、日本語としては言いにくい・発音しづらいものに関して、日本人は生活の知恵的に濁る音にしたりということが、昔は頻繁に行われていたのではないでしょうか。特に新しい言葉の場合は、既成の概念にとらわれることなく比較的自由に言葉を変えていたのではないでしょうか。
三笠宮さまの「チブス」という言葉を聞いて私は、年配の方が外来語の発音の清濁において、しばしば現在の原音主義的な音とは異なる濁った音や逆に清音で発音するのは、「言いやすさ」に第一義的なものを感じているからではないか、と思いました。

2004/4/30



◆ことばの話1692「雲が取れる」

気象予報士のYさんが天気予報の中で、
「この雲は、比較的早く取れるでしょう」
というような表現を使っていました。以前にもこの、
「雲が取れる」
という表現は耳にしたことがありました。それも、テレビのお天気おじさんの言葉でした。天気予報では耳にするものの、一般の人の会話の中で、この「雲が取れる」というのは聞いたことがありません。普通は、
「(雲が)晴れる」
と言うと思います。この「雲が取れる」は、そういう意味では「気象業界用語」なのではないでしょうか?
同じような言葉に、やはり雲に関連した言葉で、
「雲域(くもいき)」
というのもあります。これもお天気おじさんやお姉さん以外に口にしているのを聞いたことがありません。もう一つ、 「雨域(あまいき)」というのもありました。「域(いき)」が好きですね、気象関係者は。
「意味はわかるけれども普段は言わない」という業界用語は、身近なところに隠れているものなのですね。

2004/4/29



◆ことばの話1691「短髪」

ニュース原稿をチェックしていると、こんな文章が出てきました。
「身長170センチぐらい、短髪で・・・。」
その日の担当アナウンサー(後輩)は、そのまま「短髪で」と下読みしていたのですが、この「短髪」文字で見ればたしかに「短い髪」とすぐにわかりますが、耳で聞くと「タンパツ」はわかりにくい。「サンパツ(散髪)」ならば、耳で聞いてもわかりますが。
そこで、この原稿は、
「髪は短く」
に直しました。そこでふと思ったのは、
「『長髪』は話し言葉になっていて、耳にもなじんでいますが、なぜか『短髪』はなじんでいない。そういう意味で、『言葉のなじみ度』が非対称だなあ。」
ということです。
GOOGLE検索(4月29日、日本語のページのみ)では、
「長髪」=4万9500件
「短髪」=3万2600件

でした。「短髪」もネット上ではけっこうよく使われています。そういう意味では、書き言葉としての「短髪」は何の問題もなく使えるでしょう。しかし、話し言葉(耳から入る言葉としての「短髪(タンパツ)」は、言いかえが必要、ということになります。
わかりやすい・わかりにくい、の決め手は、一つは「なじみ度」、そしてもう一つは「わかりやすさ」です。その「わかりやすさ」の対極にあるのが、日本語には多いといわれる同音異義語です。同じ音の響きなのに、意味が違う、まったく違う言葉であるケース。この「タンパツ」だと、「短髪」と同じ発音なのは「単発」ですね。同音異義語が多い単語は、ほかの言葉に言い換える努力が必要と言えるでしょう。

2004/4/29
 
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