◆ことばの話1690「利ざや」

読売テレビのニュースのスーパーで、
「利ざや」
という言葉が出てきました。それを見たアナウンサーが、
「ひらがなでいいんですかね?」
と質問してきました。つまり「利ザヤ」とカタカナで書く方が一般的ではないか?というのです。
「どうだろうねえ。ひらがなでいいんじゃないの?」
と答えたものの、自信はありません。その数日後に目にした日経新聞(4月24日)では、
「利ザヤ」
とうカタカナの見出しを見つけました。翌25日の読売新聞では、
「利ざや」
と、ひらがなでした。
そこでGOOGLE検索(4月26日)をしてみました。すると意外なことに、
「利ざや」=3400件
「利ザヤ」= 950件
「利鞘」 =6450件

一番多かったのは漢字二文字の「利鞘」だったのです。ネット上と印刷物ではまた違うんですかね。「鞘」なんて漢字は難しいし、おそらく常用漢字ではないでしょうから。そうすると元に戻って「ひらがなか?カタカナか?」ということですが、これも意外な事に、3倍以上ひらがなが多く使われている、という結果でした。
私としては、ひらがな、カタカナどちらも使えると思うのですがね。

2004/4/26



◆ことばの話1689「行かへんと行けへん」

ある人に「昼飯に行かないか?」と誘うようなケース、関西弁なら、
「ヒルメシ、行かへん?」
と言います。しかし、もう一つ、こういう言い方もできます。
「ヒルメシ、行けへん?」
つまり、「行かないかい?」という勧誘の言い方として、「行かへん」と「行けへん」の2通りの言い方があるのです。え?どこが違うかわからないって?つまり「行」の漢字のあとが「か」か「け」か?ということですね。
これによく似た話では、「来ない」という意味の関西弁には、
「けーへん」「きーひん」「こーへん」
の3通り(「きーひん」は、「きやへん」「きやらへん」「きーへん」などバリエーションが多いですが。)があるという話があります。それぞれ、
「けーへん」(大阪)「きーひん」(京都)「こーへん」(神戸)
というふうに使われる地域も分かれていることを、大阪大学大学院の真田信治先生が1990年に発表されています。私もその後「ニューススクランブル」でそれを検証すべく、大阪・京都・神戸の三都市を一日で回って、それぞれ50人ずつ街頭インタビューして、同じ傾向があることを確認しました。
その場合は「来る」という動詞の否定形の方言、ということだったのですが、今回は逆に「行く」という動詞の否定形で、勧誘を表すというケースです。
「けーへん」の場合は、否定の「へん」の前にくっついてくる動詞の活用形は「け」「き」「こ」の3種類の形が見られたのですが、「行く」はどうか?というと「行かへん」「行けへん」で「へん」の前が「か」「け」の2種類だけ。これは「来る」がカ行変格活用だったのに対して、「行く」は単なる五段活用だから、ということなんでしょうかね。
「行かへん」「行けへん」の使い分けに地域差があるかないかは、調べていません。
ちなみに、「行かへん?」という勧誘を断る場合、自分の意志で行きたくない場合は、「行かへん」「行けへん」両方使うかな、私は。そして何らかの理由で行けない場合は「行かれへん」と言いますね。
関西弁の否定形は、けっこうおもしろいですね。

2004/4/27



◆ことばの話1688「回転ドアか?回転扉か?」

先日の新聞用語懇談会の放送分科会で、
「六本木ヒルズで死亡事故があった『回転扉』だが、各社『回転ドア』としているか、それとも『回転扉』か?」
という質問が委員から出ました。全体の意見を聞いてみると「回転ドア」を使っている社が多かったようですが、読売テレビでは、
「主に『回転ドア』を使うが、2回目に出てきたときなどは『この扉は』というような表現を使うこともある」
と回答しました。まあ、どちらも間違いではないので、どちらを使ってもいいわけですが、傾向はどうか?ということで、GOOGLEでネット検索してみました。(4月27日)
それによると、
「回転ドア」=3万3400件
「回転扉」 =2万1100件
「回転とびら」=  103件
「回転トビラ」=   48件

でした。「回転ドア」「回転扉」ともよく使われていますが、その比率は、ほぼ「3:2」のようですね。ついでにこの言葉に「事故」というキーワードを加えて調べたところ、
「回転ドア・事故」=1万9000件
「回転扉・事故」= 1万2600件

と、単独の言葉で検索した時よりも、その差は狭まります。それぞれの言葉を使っているネット上のメディアを調べてみると、
「回転ドア・事故」=Biglobeニュース、news goo、BBNews、YAHOO、YOMIURI ON-LINE、MSN-Mainichi、asahi com、赤旗
「回転扉・事故」=YAHOO 、asahi com、東京新聞、赤旗、京都新聞、NIKKEI

といったところ。YAHOOニュースと朝日新聞、赤旗は「回転ドア」と「回転扉」の両方を使っていて、読売、毎日は「回転ドア」派のようですね、ネット上では。印刷物の新聞はまた傾向が違うかもしれませんね。
いずれにせよ、このような事故は2度と起きないように、関係者の注意努力をお願いします。

2004/4/27



◆ことばの話1687「接触」

4月18日の日経新聞の文化欄に「狙われる中年」と題して詩人の佐々木幹郎さんという人がエッセイを書いていました。それによると、先日佐々木さん宅にかかってきた電話の主は、実に巧みに、以前佐々木さんに会ったことがあるかのように話したそうです。しかし佐々木さんにはその男が誰なのかわからず、おかしいなと思いながら問いただしていくうちにこんな言葉がその男の口から出たといいます。
「どこでお会いしたのでしょう」
佐々木さんがこう質問すると、その男は、
「一年前に接触させていただきました。」
タネを明かすと、その男はセールスマンで、一年前に電話を一本かけてきただけで面識も何もない男だったのです。これについて佐々木さんは腹を立てながらもこう書いています。
「なるほどなあ、と思わせるのは、わたしへの電話で営業マンが使った『接触』という言葉だ。実際に会うのも電話で話するだけでも『接触』なのだから、彼は嘘は言っていないことになる。たとえ電話をしていなくても、一方的にわたしのほうが忘れたということにしてしまえば、その失礼をつきながら、攻め込むことができるわけだ。」
そうなんですよねー、最近のセールストークは本当に巧みで、「オレオレ詐欺」にかかってしまうお年寄りを一概に責めることはできないとも思うのです。
しかし!こう考えてはいかがでしょうか?
「知り合いでもない人からかかってくる電話は原則、敵である!」
それは言い過ぎでも、
「こちらから用がない人からかかってくる電話に出る義務もないし、おそらくその電話に出なくても、自分はなんら困らない」
と考えて割り切るというのはどうでしょうか。
先日も、休みの日の昼間にかかってきた女性の声の電話、グジャグジャうだうだ、カードがあーたらどーたら、向こうのペースで話そうとするので、
「ちょっと、待って!あなたは私が持っているカードに関して必要情報を伝えようとしているのですか?それともセールスですか?」
と聞いたところ、息を呑むような間が一瞬あって、
「セールスです・・・」
といったので、
「じゃあ今、忙しいのでセールスなら結構です。では。」
と言って受話器を置きました。いらんもんは、いらん。そういう傲慢さも、自宅の電話なら許されてしかるべきだとは思いませんか?佐々木さん!

2004/4/26



◆ことばの話1686「秋の味覚と春の味覚」

朝の番組の中で、原稿には「春の味覚」と書いてあったにもかかわらず、「秋の味覚」と読んでしまうという"事件"がありました。そのミスに気づいたKプロデューサー、
「たしかに、『秋の味覚』とはよく言うけれども『春の味覚』って、あまり聞かない気がする。間違ったのもしょうがない。」
と言って、私に「そういった傾向はないか」聞いてきました。
なーるほど、たしかに「秋の味覚」の方がよく耳にする気はします。
そこでGOOGLEで数調べをしてみました。(4月26日)
「春の味覚」=7840件
「夏の味覚」=2660件
「秋の味覚」=4万3300件
「冬の味覚」=1万6100件

ということで、やはりダントツで「秋の味覚」が多い!以下、「冬の味覚」「春の味覚」「夏の味覚」の順。
「春の味覚」を「秋の味覚」とつい読んでしまう心情も、わからなくはないですね。
四季の「味覚」を見ていくと、「冬の味覚」はカニとかカキ、寒ブリ、フグ、風呂吹き大根。ありますね。「夏の味覚」、少ないなあ。スイカ、カキ氷、大阪ではハモ!初鰹は一応季語としては夏の味覚か。イチゴは春かなあ。岩カキ、北海道で夏に獲れる鮭=時知らず。なんか、「おかず」になりそうなものが少ない気がします。「春の味覚」はタケノコ、フキノトウ、ツクシ、菜の花、ウド・・は嫌い。野草系統が多い気がする。そして「秋の味覚」。マツタケ、新米、ブドウ、ナシ、フルーツ全般、クリ・・・、嗚呼、ありすぎて書ききれない!
つまり農産物全般は「秋」に収穫されるので、「味覚」というと「秋」が代表的なのでしょう。「麦」も収穫されるのは「春」なのに、それを指して、わざわざ「麦秋」と「秋」の字を使いますね。
なんだかこれを書いてると、おなかが減ってきたあ!

2004/4/26
 
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