◆ことばの話1680「美青年」

宮崎駿監督が現在製作中の最新作(次回作)「ハウルの動く城」で、主人公の男性の声を、SMAPの木村拓哉さんが務めることがわかったという芸能ニュースが流れました。
その際にスポーツ新聞の紙面には、
「美青年役にキムタク」
と書かれていて、コメンテーターもそのように読んでいました。が、ちょっと引っかかりました。というのも、
「『美少年』は聞いたことがあるが、『美青年』というのは初めて聞いた」
からです。
『広辞苑』を引いてみましたが「美青年」は載っていませんでした。『新明解国語辞典』にも「美少年」は載っていますが「美青年」は載っていません。「微生物」や「美丈夫」は載っていますが。『三省堂国語辞典』『明鏡国語辞典』にも「美青年」は載っていません。唯一、『日本国語大辞典』には「美青年」が載っていました!
「美青年」=容姿が美しい青年。
*故旧忘れ得べき(1935―1936)<高見順>五「当時紅顔の美青年であったS−の寝室で」*第3ブラリひょうたん(1951)<高田保>楠山正雄さんを悼む「脊は低かったが、きりりと引締まった顔で美青年であった」

ちゃんと用例も2つあったんですね。でもこれは「紅顔の美少年」の「少年」の部分を「青年」に置き換えて作った造語のようにも思えます。
そもそも「青年」に美は求められていなかったのではないでしょうか?「青年」に美を求め出したのは、女性が発言権を持ち出してからではないでしょうか。もっと「そもそも」言うと、「美少年」を求めたのも、歴史的には男の方が先なのではないでしょうか。その後「美少年」を女性が求めだし、そういう動きをしていた人たちが年齢を重ねるに連れて対象の男性の年齢も上がってきて「美少年」→「美青年」となってきたのではないかなあ、なーんて推測します。もちろん、『日本国語大辞典』1935年、1951年の用例はあるのですけれども。
ネット検索のGOOGLEでは、
「美少年」=18万2000件
「美青年」=113万件

え!「美少年」より「美青年」の方がネットではよく使われているんだ!オドロキ!!それにしても、キムタクが40歳になったら、「美中年」なんて言葉が出てくるのかもしれません!?
〔参考〕GOOGLEで「美中年」を検索したら、
「美中年」=17万4000件
あっりゃあー、もうずいぶん使われていたんですね・・・・。


2004/4/15

(追記)
NISHIOさんという方からメールをいただきました。要約すると、
「美中年=17万4000件というのは『「美」+「中年」』と解釈して出てきた数字ではないか。検索語をダブルクォートで囲って『フレーズ検索』すると、以下のような数字が出た。
【通常の検索】 【フレーズ検索】    
  美少女 1,260,000 件   "美少女" 1,260,000 件   ← なぜか同数
  美少年 172,000 件   "美少年" 172,000 件   ←   〃
  美青年 1,160,000 件   "美青年" 34,400 件   ← 極端に差がある
  美中年 174,000 件   "美中年" 644 件   ←   〃
  美壮年 28,100 件   "美壮年" 44 件   ←   〃
  美老年 127,000 件   "美老年" 739 件   ←   〃
無視できない差だと思う。」

とのことでした。ということは実際の「美中年」は644件、ということですね。ご教示、ありがとうございました。

2004/4/23



◆ことばの話1679「神は細部に宿る」

この4月1日から、消費税が総額表示になったことを受けて、「ズームイン!!SUPER」で、辛坊治郎キャスターが、その解説をしていました。テーマは、
「神は細部に宿る」
この言葉を指して辛坊さんは、
「西洋の諺(ことわざ)」
と言ったのですが、私は以前、この言葉は誰が言ったのかを調べたことがあったので、
「これは諺ではなくて、建築家のミース・ファンデルローエの言葉ではないのですか?」
とメールを送りました。すると、
「もっと古くから言われている。調べてごらん。」
という返事が返ってきました。そこで、インターネットで調べると、まずはこんな記述が見つかりました。

「『神は細部に宿る(God is in the details)』は、建築家のミース・ファンデルローエの言葉です。ミースは1886年ドイツ生まれ、家業の石工を手伝う傍ら煉瓦職人、家具職人として修行を積み、家具工房で徒弟として働きます。建築事務所で頭角を現した後に建築家として活躍、バウハウスの校長などを歴任してアメリカに渡り、アメリカの近代運動に指導的な役割を果たしました。世界3大巨匠の一人に数えられる建築家です。代表作に、シカゴのIBMビルや、ニューヨークのシーグラムビルがあります。」

ほら、やっぱり!ミース・ファンデルローエの言葉じゃないですか!と思ったのですが、もう少し探してみました。すると今度はこんな記述を見つけました。
「『神は細部に宿る』という格言(中略)は英語では"God is in the details"といいますが、世界3大巨匠の一人に数えられる建築家ルートヴィッヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe, 1886-1969)と、ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルグ(Aby Warburg, 1866-1929)のお気に入りの言葉だったことまではたどれます。しかしその元はとなると、代表作「ボヴァリー夫人」で有名なフランスの写実主義小説家グスターヴ・フローベル(Gustave Flaubert, 1821-1880)の "Le bon Dieu est dans le detail" だという説と、イギリスの著名な美術評論家・社会思想家ジョン・ラスキン(John Ruskin, 1819-1900)だという説があって、どちらも確認がとれていないようです。(中略)この格言は、ミースが学生たちに語ったことから有名になったのだが、それは1940年代はじめのこと。しかしヴァーブルクはすでに1925年のハンブルク大学のセミナーで学生にしばしば "Der liebe Gott streckt im Detail."と語っていたという証言があるので、ドイツ生まれのミースはこの格言をドイツ語で知ったと推定される。ではヴァーブルクが最初かというと、前述のように、さらにその先にフローベル説、ラスキン説があるが、ニーチェ説もあるようだ。いずれも根拠のテキストが見つかってないのですが。)
ということは、ミース・ファンデルローエが初めて言った言葉ではなく、もう少し古くから使われていた言葉なのでしょうか?いずれにせよ、今の段階では、「西洋の諺」とまでは断定もできず、かといって否定もできないような宙ぶらりんな状態です。一番当たり障りのない呼び方は、「西洋の格言」ではないかな、と思いました。

2004/4/16



◆ことばの話1678「花輪君@ちびまる子ちゃん」

斎藤美奈子の本を読んでいたら、こんな表現が出てきました。

「花輪君@ちびまる子ちゃん」

これが何を意味するか、お分かりですよね。
「マンガ『ちびまる子ちゃん』の登場人物であるところの花輪君という人物」
という意味ですね。つまりこの「@」(=アットマーク)は、英語の前置詞「at」なのです。それが記号になることで、日本語の文章のなかに自然に溶け込んできている。日本語化しているような気がします。特に、パソコンをよく使う人たちの間においては。
「人@パソコンをよく使う」
ということでしょうか?
英語とパソコンに詳しいWアナウンサーに聞くと、
「ああ、@は普通に使いますね。」
とのこと。「@」のここでの意味は「〜の〔場所を示す〕」だから、後ろから修飾しているのです。日本語の文章とは違う構造ですね。
専門家の間だけではなくて、記号が手軽でかわいいという評価を得ることによって一般の人の手書きの文章の中にも、絵文字や顔文字のような感覚で使われていくのではないかな?という気がします。

2004/4/16

(追記)
もう、けっこう使われていますね。私が気づかなかっただけで。
朝日新聞の金曜日の船橋洋一氏のコラムのタイトルが、
「日本@世界」
でした。今日の日経新聞(5月7日)朝刊一面の「円と元・第五部1」のサブタイトルが、
「中国効果@霞が関」
でした。新聞は好きなんでしょうかね、この「A@B」の形が。

2004/5/7
(追記2)
同じく朝日新聞の5月14日の生活欄、特集コーナーのタイトルが、
「@わたし 40代の1年生」
でした。なんでも「@」ですねえ・・・。

2004/5/18

(追記3)
東京・六本木ヒルズに初めて行きました。53階の森美術館で「MOMA(ニューヨーク近代美術館)展をやっていたので見ました。なかなか天井も高くてゆったりできる美術館で、良かったです。その展覧会の広告に、
「モダンってなに?@森美術館」
とありました。パソコン以外でもこの「@」は、急速に広がっているようです。

2004/7/10



◆ことばの話1677「ウドの大木」

また、実家の母から言葉の質問を受けました。
「『ウドの大木』ってことばがあるでしょ。ほら『独活』って書く『ウド』。あれ、ほんとは『ウロの大木』が正しいって書いてあるのを読んだんやけど、どっちが本当なん?調べて!」
はいはい、分りました。辞書を引いてみると、「ウドの大木」しか載っていません。
インターネットの検索エンジンGoogleで、また検索すると(3月25日)、
「ウドの大木」=927件
「うどの大木」=689件
「ウロの大木」=  2件
「うろの大木」=  2件

で圧倒的に「ウド」がリード。「ウロ」あるいは「うろ」としたものはそれぞれ2件しかありませんでした。
辞書にも載っていないようです。たんなるガセネタかなあ。
とりあえず、「ウドの大木」が正しい、としておきましょうか。

2004/4/15



◆ことばの話1676「歩き電話」

アナウンス部で雑談をしていると、Hアナウンサーが、
「歩きタバコもやめて欲しいけど、『歩き電話』もやめて欲しいね。携帯電話でしゃべりながら後ろの人のことを考えずに突然、針路変更したりするから、ぶつかりそうになることがあるんですよ」
と話しました。ああ、たしかにそういうことはありますねえ。
インターネットでGOOGLE検索(4月16日)したら、
「歩き電話」=57件
ありました。(ちなみに、「歩きタバコ」=9560件と、こちらは一般的。)
57件しかないので、その内容をチェックしてみると、
「・・・歩き、電話」
「持ち歩き電話」

というものが多く、「歩きタバコ」と同じような使い方での「歩き電話」はたったの3件でした。どういう使われ方かと言うと、
(1)男が煙草をくわえたまま、コートの右ポケットから携帯電話を取り出した。やれやれ、歩き煙草のうえに歩き電話か。
(2)家でご飯と思いきやおかんも外食で大ショック。あおいで立ち読み。歩き電話。
(3)仕方がないので新大久保まで歩き電話をしました。

というものでした。たった3件では、一般的とは言えないと思いますが、意味は十分、わかりますね。でも最近は携帯電話のことを「電話」とは略さずに、「ケータイ」といいますよね。ということは、「歩き電話」ではなく「歩きケータイ」の方が使われているのではないかな?と思い、検索してみると、
「歩きケータイ」=9件
と、やはり「歩き電話」よりも「歩きケータイ」の方が、若干多かったのです。今後は「歩きケータイ」という言葉がもっと使われるようになるかもしれません。ただ、それは、
「迷惑だよね、『歩きケータイ』って」
という文脈になると思いますが。それって、だめジャン、あまり使われるようになっては・・・。


2004/4/16
 
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