◆ことばの話1660「整備されていなく」

ニュース原稿に、
「整備されていなく」
というフレーズが出てきました。なんか、なじまないなあ・・・と思って「て」をくっつけてみました。つまり、
「整備されていなくて」
にすると、なんかスルッと落ち着きます。ニュース原稿って、書き言葉ではダメだし、課と言って、完全に話し言葉でもダメなんですよねえ。「整備されていなく」というのは、書き言葉と話し言葉の融合が中途半端なんですよね。「て」を付け加えることで、少し話し言葉に近づいて、放送の言葉として成立するのではないかと思います。
こういった例は結構多い。新聞の原稿を元に書かれた放送原稿に、こういった例が多いように感じます。
反省。

2004/3/27



◆ことばの話1659「名古屋嬢」

「あさイチ!」が終わって食堂で朝食をとっていると、少し離れた席でディレクターのM君が一人で食事を取りながら、真剣に某局の朝のワイドショーを見ています。
「何を見てるんやろ?」
と言うと、一緒に食事を取っていたMアナウンサーが、
「名古屋ジョーの特集みたいですね。」
と言うから、「なんで、シャチホコの名古屋城に、今興味を持っているんだろうか?」と思っていると、横の席にいたYさんが、
「結構かわいいよね、名古屋ジョー。」
と言い出しました。え?シャチホコがかわいい???と思っていたら、どうも「名古屋ジョー」は「名古屋城」ではないみたいなんです。よく話を聞いてみると、「名古屋ジョー」とは、「名古屋嬢」のようなのです。つまり、
「名古屋の独特のお嬢様ファッションの女性」
のことを「名古屋嬢」と呼ぶらしいのです。女性誌では2年ほど前から髪型の「名古屋巻き」とかと一緒に、よく出ているそうです。知らんかったあ!感動した!
でインターネットで調べてみると、ありました、ありました。それによると、
「『名古屋嬢』とは、本来、名古屋で暮らすお金持ちのお嬢様のこと。母親と一緒にブランド品を身にまとい、高級車で名古屋市栄区の老舗デパートにお出かけ。結婚するまで、家事手伝いをしながら花嫁修業を続けるというのが、特徴的なライフスタイル。雑誌で取り上げられ、全国的にその名を広げた。巻き髪にブランドの服。エレガントで、しかも名古屋ならではのポイントを抑えたそのファッションスタイルは、今では名古屋を代表するまでになった。"ゴージャスだけど派手すぎずキュート"なのが特徴。」
ということです。そのほか、
「名古屋嬢は、良家に嫁ぐのが一番の幸せと言われ、就職なんてもってのほか。礼儀作法、立ち居振る舞いなどの花嫁修業に余念がない。おじさんたちのスポーツというイメージが強いゴルフも、社交場として花嫁修業の一環なのだとか。」
そして「名古屋巻き」の特徴は、
「レイヤーを入れて軽さを出した髪に、大きなゆるめのカールを付けたもの。どんな服装にも似合う上に、男性受けもいい」
そうです。
ふーん。なんだかなあ。いいのかなあ、これで、という感じもしないではない、名古屋嬢。

2004/3/27

(追記)

6月7日の日本テレビ系『爆笑問題のススメ』という番組で、爆笑問題の太田光が、番組の「あとがき」コーナーで、「今、名古屋?」と題して、「名古屋巻き」「名古屋嬢」に言及していました。

2004/6/8



◆ことばの話1658「『だの』と『やら』」

大阪外国語大学の小矢野哲夫先生のホームページ「けとば珍聞」の掲示板を見ていると、外国人の日本語学習者という人から、例示を表す「だの」と「やら」について、質問が書き込んでありました。
それによると、「だの」と「やら」を入れ替えできる文章と出来ない文章があるのはどうしてか?ということでした。で、次の文章の場合、「だの」を使うか「やら」を使うか?という問題まで書いてありました。
そこで、その問題に挑戦してみました。

1、果物屋の店先には、梨( )、柿( )秋の果物がいっぱい並んでいる。
2、大学では哲学( )社会学( )を学んだ。
3、来月はレポート( )試験( )でひどく忙しくなりそうだ。
4、太郎( )次郎( )花子( )がやってきた。
5、コーヒー( )ケーキ( )をご馳走になった。
6、急に産気づいたので、湯を沸かす( )人を呼ぶ( )で大騒ぎだった。
7、日が沈んで、山道は寒い( )怖い( )で小さい子は泣き出してしまった。
8、恐喝した金をゲーム( )パチンコ( )に使っていた。
9、あの人は行く( )行かない( )はっきりしない。
10、最近、友達が結婚する( )しない( )言い出しました。
11、寂しい( )つらい( )と不平ばかり言っている。
12、俺は会社に帰ってから、所長( )課長( )主任( )に説明し・・・。
13、名刺にはどこそこの部長( )課長( )といった肩書きが刷られている。
14、二人はこれからダイビング( )観光( )・・とたのしそうです。
15、来るな( )近寄るな( )そばにいるのが辛い( )言っていたのに、思い切り接触してしまった。

難しい質問ですねえ・・・。でも「だの」は原則、「人」には使えないんじゃないでしょうか。「物」か人間以外の「動物」に限られるのでは?もし使うとしたら、かなり「見下した感じ」になりますね。
また「だの」は、いくつかある中から、ある意図で統一されたものの代表を選んだという感じで、「だの」でつながれた前後のことば(もの)は「同じ種類のもの」です。
これに対して、「やら」は、たくさんの種類・バラエティがあることを示すためにピックアップされたものなので、「やら」で結ばれたことば(もの)は、違う種類のものでなければいけない、と思います。具体的に設問について考えていきましょう。

1、梨と柿は、種類は違うが同じ「秋の果物」なので、「だの」。でも種類が違うということに着目するなら「やら」でもいけるかも。
2の哲学と社会学は修理のバラエティを示そうとしているので、「やら」。でも「だの」は、見下した感じを伝えることも出来るので、哲学や社旗あがくをばかばかしい、という意味で使うなら「哲学だの社会学だの、役にも立たないベンキョウをした」などの文脈で「だの」も使える。
3は「だの」かな。
4は「だの」は使えない。人なので「やら」。
5はご馳走になったことに感謝の意を込めれば「やら」。たくさんご馳走になったという意味で。
ここまでは「だの」「やら」でつながれているのは、すべて「名詞」ですね。
次の6は「湯を沸かす」「人を呼ぶ」という文章をつなぐケース。この場合は、行為のバリエーションはこのほかにもいろいろとあったでしょう。そのうちの一部の例示なので「やら」でしょう。
7の「寒い」「怖い」という形容詞。これは「子どもの不安な心情」の葛藤を描いているので「やら」。多様性を示すというよりは、不安の要素であるところの心情の種類を並べ立てることで、その不安の深さを表すことが出来る。
8は、文の表す行為の内容に"否定的な"文章。だから「だの」が適当。
9はカギカッコに入るべき「あの人」の発言を直接引いている。文章のないように対して、この日とは否定的なので、つなぐのは「だの」。
10は、9と同じで「だの」。そういったことを言う友達に対して否定的な見方をしていることも想像される。この文章を書いた日とはその友達が結婚するかしないかといったことに関して関心がない。よって否定的で「だの」。
11も発言内容と取れるし「不平ばかり言っている」ことに否定的。だから「だの」。
12、上司とおぼしき3人の役職者をバカにしているのであれば、「だの」。でも原則「やら」。ここでは「役職名」が並んでいるが、これが単なる「役職名」ではなく「人」をさしているのは明白。
13は、名刺に書かれている肩書きは一つのはずなのに、それを覚えていない。会社の名前も「どこそこの」と覚えていない。これはこの名刺の人を「バカにしている」「見下している」ので「だの」。指しているのも「人」ではなく「肩書き」。「肩書き」というものを見下しているともいえる。
14は「ダイビング」「観光」。このほかにもいろいろと楽しんだのでしょう。そのうちの一部を例示しているので「やら」。
15は「だの」。9,10,11と同じような使われ方。

ということでどうでしょうか?
あー、しんどかった。

2004/3/27



◆ことばの話1657「秋葉原は・・・」

Sアナウンサーから質問です。
「秋葉原の『デンキガイ』の表記は、電気街?電器街?それとも電気屋街ですかね?電器店街?」
という、ややこしい質問をしてきました。
「家庭用の電化製品を置いているところだから、『電器街』じゃないの?」
と答えたのですが、自信はありません。Googleでキーワードを「秋葉原」と合わせて検索してみました。(3月27日)
「秋葉原・電気街」=3万5000件
「秋葉原・電器街」=  5329件

あら。圧倒的に「電気街」が多いではないですか。あの「石丸電気」のホームページも、
「秋葉原電気街」
でした。この「電気街」「電機街」に「店」を入れて調べました。
「秋葉原・電気店街」=2万3400件
「秋葉原・電器店街」=  4300件

ついでに、これも。
「秋葉原・電機店街」=1万7700件
やっぱり「電器店街」が多いですね。でも「電機店街」も、けっこうありますね。「電器店街」よりも多い。使用頻度は、
「電気街」>「電気店街」>「電機店街」>「電器街」>「電器店街」
の順ですね。
今度は「店」入れたまま「街」を取ってみました。
「秋葉原・電気店」=4万5600件
「秋葉原・電器店」=1万3600件
「秋葉原・電機店」=1万7500件

そうだ、大阪も調べようっと。「日本橋(にっぽんばし)」で。
「日本橋・電気街」=1万7900件
「日本橋・電器街」=  3070件


「日本橋・電気店街」=1万1900件
「日本橋・電器店街」=  2440件
「日本橋・電機店街」=  2970件


「日本橋・電気店」=3万1100件
「日本橋・電器店」=  6750件
「日本橋・電機店」=  9600件


どうやら大阪・日本橋でも、
「電気街」>「電気店街」>「電器街」>「電機店街」>「電器店街」
の順ですね。東京・秋葉原と同じ傾向でした。
ということで、「秋葉原」は「電気街」ということにしましょう。
2004/3/27



◆ことばの話1656「安全と安心」

アメリカの牛がダメ、トリがダメ、魚もコイがダメ、中国の輸入野菜がダメと、なんだか食べられるものがなくなってきているような今日この頃、一番の関心には、
「安全」
ということがあると思います。もし「安全」が確認されていて、それが保証されるならば、「安心」することが出来ます。
この「安全」と「安心」の関係について考えていると、日経新聞の2月7日朝刊11面に、「味の素」の江頭邦雄社長のこんなコメントが記事になっていました。

「アメリカは科学的安全を言うが、消費者に安心感を与える決め手なしに輸入しても在庫になってしまう。」


つまりアメリカは、「(全頭検査をしなくても)科学的には絶対安全だ」と言っているのです。しかし江頭社長が言うのは、
「たとえ、科学的に安全だとしても、その上に『全頭検査』をすることで、日本の消費者は『安心』を得ることが出来る。たとえ科学的に安全と言われて実際に『安全』だとしても、それがすぐに『安心』につながるとは限らない」
ということでしょうね。
このあたりは、「論理的なアメリカ国民の性格」と「情緒的な日本国民の性格」の違いかもしれません。風評被害などは情緒的な人が多い方が、拡大してしまいます。江頭社長は、消費者としての日本国民の性格をしっかり把握しているから、こういった発言になったのでしょう。そしてこういった情緒を、おそらく「論理的なアメリカ人」は理解できないのではないでしょうか。
アメリカ人が論理的一辺倒ではなく、実は大変情緒的なことは、9・11以降の行動を見ていれば分ります。しかし他国民の情緒に関して理解をどのくらい示してくれるかというと、これはまた別問題になるでしょう。
せめて、日本への輸出分に関してだけでも全頭検査を行い、検査結果が出るまでは輸出しないという方針を採れば、アメリカからの牛肉の輸入は、早い時期に再開されるのではないでしょうか。

2004/3/27


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