◆ことばの話1645「大食漢」

「あさイチ!」の番組の中で、女優の伊東美咲さんが以外に「大食い」だと自分で言っていたという話題が出ました。それを指してNアナウンサーが、
「伊東さんは、意外と大食漢なんですね。」
と言っていましたが、そもそも「大食漢」の「漢」というのは男性を指す言葉。女性の伊東さんには使えないのではないか?と思ってそのことを指摘すると、
「知りませんでした。」
とのこと。でも、じゃあ、「女性の大食いの人」のことをどう言えばいいのでしょうか?
「いまどき、男にしか使えない言葉や、女にしか使えない言葉があるのはおかしい!」
という声も聞こえてきそうですけれども、こういった「大食漢」みたいな言葉に関しては
もともとの男か女かという意味を超えて、
「よく食べる人」
という意味で使っても良いような気はします。でも「漢」の原義(元の意味)は、知っておいて欲しいなと思ったのでした。

2004/3/25



◆ことばの話1644「企てる」

3月17日の夕方のニュースで、京都の市バスに民間企業が参入を「企てている」というニュース原稿がありました。それに目を通したSキャスターが、
「この『企てている』は、よくないことを計画している時に使うんじゃないですか?」
と言い出しました。たしかに、「悪巧み」は「企て」ますね。
そこでインターネットで「くわだてる」を検索して、どんなことを「くわだて」ているのかを調べてみたところ・・・

「企てる」
殺害、犯罪、禁止物質の使用、自由の女神像崩壊、武力進出、氾濫、暗殺計画、マシンへの進入、攻撃、負の公共工事、祖国分裂、妨害、地球侵略


地球侵略はやっぱりあかんのとちゃうかな、企てると。このほか、悪くない「企て」は、
パーティー、旅行
ぐらいでした。
『広辞苑』で「企てる」を引くと、
「(2)思い立つ。もくろむ。計画する。」
として例文には、
「新しい事業を企てる」
とありました。なんだ、悪いことでなくても「企て」てもいいんだ。でもこの「もくろむ」も引いてみようかな。
「もくろむ(目論む)」=「(1)たくらむ。企てる。計画する。」
として、例文には、
「一攫千金を目論む」
とありました。
ついでだから「たくらむ」も引いてみました。
「たくらむ(企む)」=「くわだてる。計画する。特に、悪事をくわだてる。(例)謀反を企てる」

で、出たあ!やっぱり、「たくらむ」まで来ると、「悪事」が出てきましたね。やはり、このあたりからの連想からか、「くわだてる」にも「悪事の色」が付いてしまっているのではないでしょうか?
「もくろむ」の場合は、何か経済的な成果を目指しているような気がしますが、「たくらむ」「くわだてる」は経済的な成果よりも、権力とか、地位とかそういったものを目指しているような感じもします。
結局、この原稿は「参入を計画している」として放送しました。別に「よからぬこと」をたくらんだわけではありません。

2004/3/17




◆ことばの話1643「埋め立てる」

京都府丹波町で、鳥インフルエンザで死んだ鶏を埋める作業が続いています。
それを伝える3月9日のニュースの中で、
「埋め立て作業」
という表現を使ったところ、元アナウンサーのK氏から、
「『埋め立て』という表現は、適切ではないのではないか?」
と指摘を受けました。たしかに「埋め立て」というと、
「海や川を土砂で埋めて陸地を作ること」
のイメージが強いですよね。
たしかに鶏の場合は、
「埋める作業」あるいは「埋設作業」
とした方が良かったようです。昼休みに昼食をとりながらアナウンス部内でも少し話し合ったところ、
「『埋め立てる』のは、水のある場所に限る気がする」
「水がなくてもいいが、穴を掘ってからもう一度土をかぶせるのは、単に『埋める』で、『埋め立てる』の場合は、例えば『谷』を『埋め立てる』というふうに、最初から凹みなどがあるところに土をかぶせることによって、新たな土地を生み出すようなケースに使われるのではないか。」
「そうすると、低地に土を入れるのも(穴ではないが同じような意味合いで)『埋め立てる』が使えると思う。」
というような意見が出ました。『日本国語大辞典』を引くと、
「埋め立てる」
(1)大きな規模で土地を埋める。多く、川や海などを生めて陸地にする場合にいう。
(2)一心に埋める。さかんに埋める

とありました。(2)の「埋め立てる」は、「〜立てる」に「一心に」というようなニュアンスがあるんでしょうね。「ほめたてる」とかそういう場合の「立てる」。だから今回の場合は(1)の意味でしょう。
結局、夕方のニュースでは「埋め立てる」は使いませんでした。

2004/3/12



◆ことばの話1642「三千世界」

鳥インフルエンザウイルスに冒されたカラスが、3月10日、京都府丹波町・園部町に続いて大阪府茨木市でも確認されました。
丹波町の浅田農産の鶏舎を望む位置から中継を担当していたMアナは、
「もう、頭上をカラスの大群が、カアカア鳴きながら飛んで行きますからね、不安ですね。」
とも話していました。
それを聞いてふと思い出したのが、このセリフでした。

「三千世界の鴉(カラス)を殺し、ぬしと朝寝がしてみたい」

落語「三枚起請」の中で知りました。高杉晋作が作った都都逸だそうですが。花魁が口にするセリフとして知っています。
ここに出て来る「鴉」は夜明けを告げるもの、「明け烏」とも言いますね。つまり西洋での朝告げ鳥であるニワトリと同じ役目を担っているわけですね。
こんな色っぽいセリフで出て来る場合には(言葉で)カラスを殺しても、
「粋(いき)だねえ」
となりますが、現実はちっとも色っぽくもなく、粋でもありません。ニワトリは、鳥インフルエンザの蔓延を防ぐために炭酸ガスで殺されています。何万羽もです。
ちなみに「三千世界」というのは、どういうものか。仏教用語ぽいけど。『新明解国語辞典』を引いてみました。「三千大世界」として載っていました。

「(仏教で)須弥山(シュミセン)を中心とする世界(=一小世界)を千倍し、また千倍し、さらに千倍したほどの大きな世界。三千世界。(広い世界の意にも用いられる)」

この場合の「三千」というのは「1000が3回」ではなくて「1000の3乗」、つまり、
「1000×1000×1000=10の9乗=1000000000=
10億」

ということなのですね。10おくって、10円置くのとちゃいまっせ。ごっつい広いということで。そんなところに、カラスは何羽いるんでしょうねえ・・・。
(須弥山については、「平成ことば事情164山(セン)」も、あわせてお読みください。)

2004/3/12



◆ことばの話1641「捨て鳥」

3月16日の日本テレビ「ニュースダッシュ」でやっていた、鳥インフルエンザ関連のニュースの中で、
「捨て鳥(どり)」
という言葉が出てきました。それを耳にしたWアナウンサーから、
「『捨て鳥』って、耳慣れない言葉ですけど、そんな言葉、あるんですか?」
という質問が出ました。
ああ、たしかに。意味は分りますが、これまでに使ったことはなかった言葉ですね。同じようなもので、
「捨て犬」「捨て猫」
はよく耳にしますが。つまり「イヌ・ネコ」は飼ってる人も多いので、当然捨てる人も多くなるのでしょうが、「鳥」はあまり捨てないのでしょうか?捨てたところで、羽が生えているので飛んで行ってしまい、「捨てた」という事実が残らないから、言葉も定着しなかったのでしょうか?
Google検索(3月16日)で、
「捨て鳥」=163件
「捨て鶏」=962件
「捨てニワトリ」=80件

そのほか、多い順に
「捨て猫」=2万2300件
「捨て犬」=1万7600件
「捨て牛」=595件
「捨てイヌ」=204件
「捨てネコ」=913件
「捨て馬」=201件
「捨て虎」=148件
「捨てサル」=106件
「捨てガメ」=59件
「捨て亀」=53件
「捨て熊」=40件
「捨てドラ」=38件(ただし「捨て、ドラえもん」とかも含む)
「捨てワニ」=32件
「捨てアヒル」=29件
「捨てザル」=27件
「捨て蛇」=23件
「捨てアライグマ」=23件
「捨てカメ」=20件
「捨て猿」=19件
「捨てトラ」=15件(うち有効は6件)
「捨てクマ」=12件
「捨てパンダ」=9件
「捨てヘビ」=7件
「捨てトカゲ」=6件
「捨てインコ」=5件
「捨てウシ」=5件
「捨てグマ」=4件
「捨てイグアナ」=4件
「捨てウマ」=3件
「捨てダチョウ」=2件

(同じ動物でも、表記が違うものは別カウントしています)

このへんにしておきましょうか。
「捨て鶏」と書いて「捨てドリ」と読むのかもしれませんが、これが962件もあります。また、鳥インフルエンザの前に騒がれたBSE関連で、「捨て牛」というのが595件もあるのが目を引きます。
もう、人間はいろんな動物を飼っては、都合が悪くなったら捨てて・・・。まあ、これは捨てた件数ではありませんが、やはりペットとして飼われていることが多いからか、犬と猫の「捨て」件数が群を抜いていて、言葉として定着しているといえるでしょう。
言葉として定着するということは、当然その背後にそういった行為の件数が多いことが予想されます。(きっちりリンクはしていないでしょうが。)既に「捨て鳥」(「捨て鶏」だったかもしれないとMアナウンサーの証言)という言葉は先ほどの日本テレビで使われていますし、ネット検索では朝日新聞の岡山版、中日新聞(いずれも電子版)で使われています。
そう考えると今後、「捨て鳥」「捨て鶏」あるいは「捨て牛」などという言葉が定着しないことを望みます。

2004/3/16


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