◆ことばの話1620「#」

2月12日のズームインSUPERで羽鳥アナウンサーが、
「#」を「シャープ」
と呼んでいましたが、電話のプッシュボタンにあるこのマーク、よく見ると「シャープ」とは微妙に違います。本当はなんと呼ぶのでしょうか?
インターネットの掲示板「ことば会議室」にこの質問を書き込みました。
「#」というマークですが、これはなんと読むのでしょうか?一見、「シャープ」に見えますが、シャープは「横線が右肩上がりで、縦線は垂直」だと思うのです。しかしコンピューターなど出でくるこのマーク(ナンバーリングの前にも見受けられる)は、「横線が水平で縦線がゆがんでる(斜めになっている)」のです。果たしてこれは「シャープ」なのでしょうか?
すると「hiroyさん」という方からご意見をいただきました。
Shift JISやUnicode等の文字コードでは、「♯」と「#」を区別しています。
「♯」の読み方は「シャープ」でいいとして、「#」の方ですが、
・ナンバーサイン
・ハッシュ、ハッシュマーク
・パウンドサイン(ポンド記号=重量の方のポンド)
・クロスハッチ
・井桁
等々、読み方がいろいろあるようです。
ただ一般的には、「#」は「シャープ」と呼ばれることが多いと思います(日本国内の場合)。特に区別する必要のない場合に、会話中で「ナンバーサイン」なんて言うと、かえって混乱しそうです。
またASCII(半角英数字)では「#」(ナンバーサイン)しかないため、英語の文章ではこれで「シャープ」を代用するようです(マイクロソフトのプログラミング言語「C#」等)。
ちなみにプログラミング言語では「#」を(コメントやマクロ等で)よく使うのですが、私は「シャープ」と読んでいます。讀賣新聞のコラムにも「#」が取り上げられていました。

として読売新聞の「日めくり」の記事(2003年11月27日)を紹介していました。「# シャープ記号のそっくりさん」と題されたその記事によると、
パソコンのキーボードで、Shiftを押しながら3を打つと出て来る記号。ナンバー記号、番号符などといい、「No.」と同様、電話や住所などの番号の前に付ける。また、重さの単位、ポンドを表す記号としても使われることがある。音楽記号で、半音上げることを示すシャープ(♯)と似ているが、よく見ると少し違う。シャープの横棒は右肩上がり、縦棒はまっすぐだが、ナンバー記号は水平の横棒に、斜めに縦棒が入る。ただ、一般的にはどちらもシャープで通じる。あまり神経質に区別する必要はない。
ということでした。神経質になりすぎましたか。でも、いろいろ細かいことにこだわると面白いものですね。
また、「NISHIOさん」という方からは、

日本工業規格では以下のように規定されていますが、コンピュータ業界でも「番号記号」と呼ぶ人は少ないと思います。私は聞いたことがありません。
『JIS X 0201 情報交換用符号』
「 #    番号記号」
『JIS X 0208 情報交換用漢字符号』
「 #   番号記号,井げた」
「 ♯   シャープ」
ちなみに、プッシュホンの「#」は、業界でも一般的にも「シャープ」と呼ばれていますが、実際のボタンの刻印は「#」だったり「♯」だったり、縦線・横線とも傾いていなかったり、さまざまです。


という書き込みをいただきました。お二方、ありがとうございました。記号にはそれぞれに名前があるけれどもよく似た記号の名前でひっくるめて呼ばれることも多いんだなあという現実と、思った以上にいろんな記号があるんだなあということを再確認いたしましたです、ハイ。
2004/3/5

(追記)

上田浩史さんの『ワールド・ワード・ウェブ』(研究社、2002)という本の中に「#」に関する記述がありました。

「プッシュホンのキー『#』、日本では音楽用語で『シャープ』と言うことが多いのですが、英語ではpound key(パウンド・キー)と呼びます。これは「20#」と書いて20ポンドの重さを意味する表記法に基づくもので、今でも紙の重さを表すために使われることがあります。」
とのことでした。
2005/6/13




◆ことばの話1619「ポチ」

山本夏彦『私の岩波物語』(文藝春秋)という本を読んでいると、昔(明治19年)の国語の教科書の話が出てきました。そこには、
「ポチハ  スナホナ イヌナリ。ポチヨ、コイコイ、ダンゴヲヤルゾ。パンモヤルゾ。」
と書かれていたといいます。それを見ての夏彦の記述を読んでビックリしました。
「当時の教科書派西洋の直訳なのである。さし絵までそっくり頂いているのである。だからポチヨコイコイ、などと画中の少年が言っているのである。ポチはプチPetiの訛りだから、明治以前の犬にはこの名はない。正直爺さんの犬はシロである。パンモ ヤルゾとあるので分った。当時のパンは人間にも珍しいもので犬にやるものではない。」
そうだったのか!
なんで犬の名前の代名詞が「ポチ」なんだろうか?とは思っていたのですが、もともとは「プチ」で、それがなまって「ポチ」になっていたとは!目からうろこが落ちました。
そういえば、明治初め頃、外国人が犬に向かって「Come here!」と呼ぶのを聞いた当時の人たちが。「カムヒヤー」と言うのを「カメヤー」と聞いて、
「そうか、外人さんは犬のことを『カメ』と言うのか、それで『カメや』と呼んでいるんだ!」
と勘違いして「犬=カメ」と思ったという話を読んだことがあります。それとちょっと似ているような、似ていないような。
でも、ちょっと待てよ。「花咲じじい」の歌は、
♪裏の畑でポチが鳴く 正直じいさん、掘ったれば・・・♪
でしたよね。花咲じいさんに対して「ここ掘れワンワン!」といったのは、この歌では「ポチ」のはずです。『日本の唱歌(上)明治篇』(金田一春彦・安西愛子編、講談社文庫)を本棚から引っ張り出してきて「はなさかじじい」を見つけました(160〜161ページ)。
作詞は石原和三郎さんという人で、明治34(1901)年6月に出た『幼年唱歌(初ノ下)』に載っているそうです。(石原和三郎さんは調べてみると、たくさん童謡の作詞をしていらっしゃいます。「兎と亀」「おつきさま」「金太郎」「大黒様」「花咲爺」「牛若丸」「うらしまたろう」と、有名な童謡が並びます。へぇーと思ってしまいました。)
そしてそこにはしっかりと、
「うらのはたけで ぽちがなく」
と記されていました。解説を見ると、
「團伊玖磨氏によると、当時ポチというのは最新流行の犬の名だった。正直じいさんの飼犬は白い耳の立った日本犬だから、普通ならば『白』と行きたいところを、ポチとやったところが子どもたちに喜ばれたのだろうと。いかにもそうかもしれない。」
とありました。そうか、当時「ポチ」は最新流行の犬の名前だったのか!ということは、その流行より前のこの物語の本では「ポチ」ではなく「シロ」というのもあったかもしれないということですね。でもこの歌が出来てからもう100年以上経っているので、ほとんどの人は「ポチ」だと思っているよなあ。これって「トリビア」ですよね。
念のため『日本国語大辞典』を引いてみると・・・
「ぽち」
(1)小さい点。ぽつ。ちょぼ。また、小さくつき出た部分。ぼち。

あ、これはよく、新宿生まれ新宿育ちの先輩Tさんが、ニールセンの視聴率表の、視聴率測定不能(つまり0%)の印を見つけては、
「あーあ、またポチだ・・・」
と言っていた、そのポチだ。昔は多かったんです、読売テレビの番組に「ポチ」は。

(2)芸妓や茶屋女などに与える祝儀。京阪地方でいう。はな。チップ。

あれ?これはもしかして「ポチ袋」の「ポチ」かな。お正月に子どもや甥っ子姪っ子にあげるお年玉を入れる小さな袋、「ポチ袋」。これももしかしたら犬の「ポチ」と同じで「プチ」から来ているのかも。でも「ちょびっと」のことをもともと日本語でも「ぽち」というから語源はそちらかもしれませんね。そして・・・


(3)犬につける名。特に明治三、四十年代(1897〜1907)に流行した。

あったあった、やっぱりその頃、犬の名前に「ポチ」と付けることが流行ったんだ!でもなんででしょうね。ちょうどその頃は日清戦争が終わって二十世紀に突入、日露戦争が終わってしばらく・・・ぐらいまでですね。なんだかポチって、奥が深いですねえ。

2004/3/4




◆ことばの話1618「ショート」

報道のM君と話していたときのこと。ショートケーキは、なぜショートケーキと言うか?という話になり、私が、
「それは既に平成ことば事情に書いたよ。それによるとたしか、いくつかの説があるようだけど。」
と言うとM君が、
「じゃあ道浦さん、野球の『ショート』は、なんで『ショート』と言うんですか?」
と聞いてきました。
「うーん、正確に言うと『ショート・ストップ』、略して『ショート』なんだというのは知ってるけど・・・。」
「じゃあ、なぜ『ショート・ストップ』って言うんですか?」
「さあ・・・ランナーが一塁から二塁三塁へと走る時に、二塁と三塁の間でストップするような位置にいるからじゃない?」
などと適当な答え方をすると、
「ほんとですかあ???」
と、かなり疑わしげな声。私も疑わしい。それを聞いていた若手のW君がネットですぐに調べてくれました。それによると、
「右打者が引っ張った強い打球が、よく『ショート・バウンド』で飛んできて、それを止める守備位置だから、『ショート・ストップ』という」
とのこと。ショートはショートバウンドのショートだったのか。知らなかったなあ。
身近で普通に使っている言葉でも、なぜそう呼ぶかを知らずに使っている言葉は、まだまだ、たくさんあるのですねえ。

2004/2/29



◆ことばの話1617「チャーハンとやきめし」

休日の午後。のそのそと起きだしてみると、妻がいません。出かけたようです。6歳の息子が一人で遊んでいます。
台所を見るとフライパンが乗っています。この中にあるのが、今日の「朝飯兼昼飯」のようです。ふたを開けてみると、チャーハンが。昨日の夕飯の残りの豚肉と菊菜(春菊)の炒め物が、そのままチャーハンの「具」になっています。さすが、主婦の鑑!
「あー、お昼はチャーハンかあ」
と言うと子どもが、
「チャーハンと違うで!やきめし。」
と言います。
「どう違うんの?」
と聞くと、
「やきめしは海苔がかかってるけど、チャーハンはかかってない。チャーハンには、カニか、カニがない時にはエビが入ってるけと、やきめしには入ってないねん。」
と彼なりの「定義」を教えてくれました。言われてみるとそんな気もしてきました。
小さいながらにいろいろと考えているのだな、などと思いながらもぐもぐと「やきめし」を食べたのでした。
2004/2/29

(追記)

三浦アナによると、M上J子アナの「得意料理」は、
「チャーハンとやきめし」
だそうです。その真偽を本人に確かめたところ、
「あと、焼きそばも得意です」
という答えが返ってきました・・・。

2004/3/19



◆ことばの話1616「お墓のセールス」

休日に家でのんびりしていると、電話の音が。
「はい。」
「あ、道浦俊彦様のお宅ですか?」
「そうですが・・・。」
「こちらは○○産業と申します。お休みのところ申し訳ありません。実は・・・」
と、年配の女性の声。話が長くなりそうだったのと、あ、セールスの電話だなというのがわかったので、こちらから、
「ご用件はなんでしょうか?」
と聞きました。すると、
「はい。お若いご主人様には、まだご縁がないかとも思いますが、実はお墓のセールスなんです。」
お墓かぁ。たしかに私にはまだ早い。と思う。両親にもまだ早い。と思う。そこで、ひとこと、
「あ、たしかにまだ早いですね。30年後ぐらいに、もう一度お電話いただけますか。」
と切り返しました。向こうも、
「どうも失礼しました。」
と言って 電話は切れました。でも、30年後には電話のおばちゃんは、かけてこない・・・こられないと思います。
それはさておき、こういったセールス電話は、一体どこで電話番号を調べてくるのか知らないけれど(YAHOOか?漏れたのか?)、かかってきますよね。私はあまり家にいないので、かかってきているかどうかはわかりませんが、一日中家にいるお年寄り家庭だと、おそらくうんざりするくらい勧誘・セールスの電話がかかってくるのではないでしょうか。その中には、今巷をにぎわせている「オレオレ詐欺」の電話もあるのでしょう。そういった電話を嫌って外に出かけると、今度は「ピッキング盗」に入られたりして・・・あー、もう、どうせいっちゅうねん!という状態です。かたや牛がダメなら鳥があるかと思っていたら鳥もダメ、魚だってコイがヘルペスにかかっていたり、野菜も輸入物に農薬がいっぱい使われていたりと、八方塞り。
もしかしたらこれは、食料まで大量生産で工業化されてしまったことへの警告で、自給自足の生活を見直して大切にしろということを、自然が教えているのではないか。そんな気さえしてきますが、これが「そうなんだ、きっとそうだよ!」と激しく思い込むと宗教じみてきますから気をつけながらも「もしかしたら、そうかも・・・」ぐらいに思っておくと、いいかもしれません。4年に1度の閏年の2月29日、そんなことを考えました。

2004/2/29


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