◆ことばの話1615「鶏か?ニワトリか?」

京都府丹波町の養鶏場の「にわとり」が、鳥インフルエンザに感染していてバタバタと死に、しかもその情報が1週間も伏せられた上に出荷もされていました。食べ物を扱う業者なのに安全意識の低さに唖然とさせられます。
さてその「にわとり」ですが、表記は漢字で「鶏」が正しいのでしょうか?それともカタカナで「ニワトリ」なのでしょうか?
読売新聞社の『読売スタイルブック2002』によると、
「動植物、植物の名称で常用漢字でかけないもの」は「片仮名で書く」
ことになっています。しかし、次に挙げる17の動物の名前は、常用漢字表に含まれています。(鶴・亀・虎は、常用漢字表には載っていませんが、新聞協会が新聞で使ってもよいとしている漢字です。)
「牛、馬、犬、豚、羊、象、鶏、鯨、蚊、蚕、猿、猫、蛇、蛍、亀、鶴、虎」
つまりこのスタイルブックに従うと、「にわとり」は、「鶏」でも「ニワトリ」でも良いということになります。ただ、同じニュースの中に意味もなくバラバラと異なる表記があると、読者・視聴者も戸惑いますから統一した方が良いでしょう。
新聞を見ると、当初は産経新聞で「鶏」と「ニワトリ」の両方が使われていましたが、今は全紙「鶏」で統一しています。
読売テレビでは2月28日からは「鶏」という漢字に統一。日本テレビは3月1日お昼の「ニュースダッシュ」では「ニワトリ」を使っていたものの、夕方から「鶏」の表記に統一しました。
他局を見てみると、私がチェックしいた限りでは、NHK・フジテレビ・朝日放送が「鶏」、TBS・テレビ朝日は「ニワトリ」という表記を使っていました。
ついでに言うと、この鶏の数え方の「○○羽」には「ワ」「バ」「ッパ」の3種類あります。原則は「3」「1000」「万」のように「ン」が付くあとは「バ」、「10羽」「100羽」のように「ジ(ュ)ッ」「ヒャッ」という詰まる音(促音)のあとは「ッパ」となりますが、「ジュウワ」「ヒャクワ」というふうに「ワでも良い」とされることもあるので、話がややこしくなっているのです。「十把(じっぱ)ひとからげ」とは、いかないものです。

2004/3/2




◆ことばの話1614「空弁」

「YOMIURI WEEKLY」の2月15日号で、
「売り切れ続出 出張族のひそかな楽しみ『空弁』」
という特集が載っていました。その数日前に、テレビで初めて、
「空弁」
というものを知った私でした。これ、
「そらべん」
と読むんだそうです。空港で買える弁当=「空港弁当」を略して「空弁」、だから最初は「くうべん」だったのが、このところ「そらべん」と呼ばれるようになったのだそうです。
これについて書こうと思っていたら、先に梅花女子大学の米川明彦教授に2月9日の読売新聞夕刊の「ことばのこばこ」に書かれてしまいました!
米川先生の調べによると、「空弁」の初出は、『週刊現代』の2003年8月23・30日合併号だそうです。その後10月2日発売の「DIME」で「”空弁”を喰う」とう特集が、さらに、11月6日の日経新聞にも同様な記事があったとのことです。
米川教授に夜と「空弁」はこれまでは「カラベン」と読み、空(から)の弁当を指したのですが、これからは二通りの読み方が流通することになる、と記しています。
2月27日発売のマンガ雑誌『ビッグコミック3月10日号』(小学館)に連載中の「ビッグウイング〜東京国際空港物語」という羽田空港を舞台にしたマンガ(作・矢島正雄、画・引野真二)でも「空弁」が取り上げられていました。空港の売店を描いた1コマ目に、
「いらっしゃいませ!今話題の空港弁当、空弁(そらべん)です!!飛行機だけに人気上昇!!お早めにお買い上げいただかないと、昼には売り切れてしまいますよ!」
というセリフが見られました。またそのあとのコマでは、
「国内線の機内食が廃止されたのが空弁(そらべん)のブームの理由って新聞に書いてありましたけど・・・お弁当の内容が充実したからですよね!」
「そうそう、わざわざ空港(ここ)に買いに来るお客様もいるんだってさ!」

というセリフも見られます。マンガも流行を敏感に取り入れて作られているんだなあ、と感じました。
GOOGLEでは「空弁」はなんと6830件使われていました。去年の12月24日の読売ON LINEでも特集していました。また、ネット上の辞書、三省堂提供の「デイリー新語辞典」にも
「国内線航空機内での食事用や土産用として,国内の空港内で販売される弁当類の総称。
〔駅弁に倣った表現〕」

と出ていました。今度、「空弁」、食べてみようっと。

2004/3/1




◆ことばの話1613「あがなうと購う」

2月23日に放送した、「死刑」を取り上げた「ドキュメント04」。この中で、死刑制度賛成派の、自民党の保岡・元法務大臣がインタビューに答えて、こう言いました。
「死をもってしか償えない、あがなえない。」
この「償う」と「あがなう」、意味はどう違うのでしょうか?『新明解国語辞典』によると、
「償う」=「弁償する」の意の和語的表現。(雅語としては、犯した罪過の埋合せを財貨・労働でする意をも含む)
「あがなう」=(「なう」は接辞)(1)「購う」=「買う」意の雅語的表現。(2)「贖う」=お金や品物で、罪や失敗の埋めあわせをする。

とありました。
『新潮現代国語辞典』では、
「償う」=(「つぐのう」の転)財貨・労働などによって、犯した罪過や与えた損害などの埋合せをする。
「あがなう」(1)「贖う」=罪の償いをする。金や物品を出して罪滅ぼしをする。(2)「贖う」=代償を出して入手する。また、買い求める。


とありました。つまり「あがなう」の方が意味が分化していますが、「償う」と、「あがなう」の『新明解』の(2)と『新潮現代』の(1)が同じ意味と言っていいでしょう。
「償う」よりは「あがなう」の方が、やや文語の響きがありますね。
GOOGLEで件数を調べて見ると、
「償う」=  1万9900件
「つぐなう」=  1500件
「贖う」=    3070件
「購う」=    1960件
「あがなう」=   676件

でした。やはり「償う」の方が一般的のようです。
ちなみにテレサテンが歌っていたのは「つぐない」であって「あがない」ではありませんでした。

2004/2/26



◆ことばの話1612「金桂寛・金桂冠・金桂官」

2月25日、北朝鮮の核と拉致問題を巡る「6か国協議」が始まりました。それを報じる翌26日の朝刊各紙を見比べて、「おや?」と思いました。北朝鮮の外務次官の名前の表記が、新聞によって違うのです。
(読売)金桂寛(キム・ケ・グァン)
(朝日)金桂寛(キム・ゲ・グァン)
(産経)金桂寛
(毎日)金桂冠(キム・ゲ・グァン)
(日経)金桂官

という具合に最後の漢字表記が、「寛」「冠」「官」の3種類あり、「桂」の読み方も読売が「ケ」と濁らないのに対して、朝日、毎日は「ゲ」と濁っているのです。これはどうしたことでしょうか?
推測するに、北朝鮮では、ハングルの表記しか使わず漢字の表記がもう使われていないため、発音が同じものに適当に漢字を当てはめているのではないでしょうか?
読売新聞校閲部のSさんにメールでお聞きしたところ、こんな答えが返ってきました。
「それについては、今週の用語懇談会・関東幹事会でも話題になりました。もともとは『寛』という字を使っていたのですが、今回、中国外務省が『金桂冠』としたために、毎日新聞がそれに変えたようです。また、北朝鮮の朝鮮中央通信が『金桂官』としたために結果として3種類の表記が出てきてしまったようです。北朝鮮はハングル表記のみが基本であるので、なかなか判断が難しいところです」
ということでした。
本当に、難しいですねえ・・・。なお、27日の各紙も、うやはり3通りの表記でした。

2004/2/26

(追記)

新聞・テレビ各社の皆さんにメールで質問してみたところ、いくつかご返事が返ってきました。やはり、「寛」は外務省発表、「冠」は中国外務省発表、「官」は北朝鮮の朝鮮中央通信発表ということのようで、どれをとるかという問題ですね。なお日本テレビ系列は、
「金桂寛」
でやっていました。

(NHK)

NHKでは北朝鮮人名は「カタカナ原音のみ」としている。理由は、北朝鮮は韓国以上に漢字使用の慣用がなくハングルだけだから。向こうの人の中には、自分の名前の漢字自体を知らない人が多いようだ。

(テレビ朝日)

基本的には現在は「冠」でやっている。

(フジテレビ)

「金桂冠」を採用している。理由は、中国当局から事前に今回の協議に参加するメンバーの公表があり、それにのっとったものだ。

(共同通信)

「金桂冠」。これまで北朝鮮の金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官については『金桂寛』と表記してきたが、2月19日に中国外務省が発表した6カ国協議の主席代表の名簿に従い、この日以降は『金桂冠』と表記することにした。19日に記事を出す際、新聞社にはこの表記の変更をお知らせしている。

(時事通信)

「金桂冠」。

(毎日新聞)

毎日新聞は2月20日付朝刊から「寛」を「冠」に変更している。理由は、中国外務省の発表に沿ったため。

(読売新聞)
過去の慣例によって「寛」を使っている。

(朝日新聞)
「官」に変えるという話が一度あったが、結局変えず「寛」で現在に至っている。  

(日経新聞)

元々は「寛」だったが、北朝鮮の外務省が「官」と発表したので2月21日の紙面で『今後は「官」でいく』とおことわりを出した。ところがその後、中国外務省が「冠」と発表したので北朝鮮筋に再度確認したところ、朝鮮中央日報社から「官」と回答があり、また1回おことわりを出した手前もあり、現在も「官」でやってる。

ということで、情報をいただいた各社の中では、
「寛」=3社(読売・朝日・日本テレビ(読売テレビ))
「冠」=5社(テレビ朝日・フジテレビ・共同通信・時事通信・毎日新聞)
「官」=1社(日経新聞)
「カタカナ」=1社(NHK)


というような状況です。たしかに、北朝鮮では漢字が廃止されて50年経つわけですから、漢字でどう書くか?というのは、ある意味ではナンセンスな話かもしれません。「かの現・総書記の名前も、以前(1970年代まで)は『正一』ではないかとされていて、1980年代になって『正日』に統一されたということもあった」という声もあります。 そういう意味では、NHKのようにカタカナ表記が妥当か、とも思うのですが・・・・・読みにくいのですね、これが。どうしましょう?と考えているうちに6か国協議は終わってしまいました。
2004/3/2

(追記2)

6か国協議が再開されましたが、難航しています。その北朝鮮の代表の外務次官のことを、12月19日に見ていたNHKの正午のニュースでは、読みも字幕スーパーも、
「キム・ケグァン」
となっていました。「ケグァン」。「ケ」は濁らない。
NHKは漢字表記がなく「カタカナ表記」だと言うのは聞いていましたが、そう言えば、実際にカタカナでどう表記するか(つまり、どう読むか)を聞くのを忘れていました。この読み方だと「読売新聞」と同じですね。
2006/12/20
(追記3)

2010年11月22日、日本テレビから系列局に、北朝鮮の人名・地名についての「原稿表現の変更」が伝えられました。
(1)北朝鮮の6か国協議主席代表の人名漢字表記
  ×金桂寛 → ○金桂官 とする。
〜北朝鮮の人名の漢字表記は、従来、ラヂオプレスなどに準拠してきたが、この度、「金ジョンウン」の漢字が「正恩」であることを本国に確認して報じるなど、朝鮮通信の信頼性が高いことが確認された。このことから今後、北朝鮮の人名は朝鮮通信に準拠し、「官」を用いることとする。
(2)北朝鮮の核施設がある「寧辺」の読み
  ×ヨンビョン → ○ニョンビョン とする。
〜もともと韓国発報道が根拠だったので、韓国読みが慣例的に使われてきたが、複数のメディアが北朝鮮読み「ニョンビョン」を使用するようになってきた。
外報部で見直した結果、「外国の地名は現地発音を踏襲する」原則にならい、ニョンビョンと変更する。
とのことです。「金桂官」は日経新聞と同じ表記ですね。
2010/11/23



◆ことばの話1611「初ピッチ」

ヴィッセル神戸に入団(?)したトルコ代表のイルハン選手が、今日、初めてピッチ(サッカーのグラウンドのこと)に立つかもしれないということで、その取材が夕方のニュースの項目に上がっていました。そこには、
「神戸の王子が初ピッチ!?」
と出ていました。神戸の王子と言っても王子動物園があるところの地名ではありません。イルハン選手のことを、女性ファンやマスコミが「イルハン王子」と呼んでいるのです。
問題は、
「初ピッチ」
という言葉。ピッチ(グラウンド)に立つことを、こう呼んでいるようなのですが、聞き慣れない言葉です。「初ピッチ」というと、
「野球でピッチャーが始めた投げた」
のかと思います。そこで「初ピッチ」と「サッカー」「野球」それぞれをキーワードにGOOGLEで検索してみました。
「初ピッチ・サッカー」=28件
「初ピッチ・野球」=   7件

おや。ものすごーく少ないな。ほとんど使われていないではないですか。しかしサッカー関係の方が若干多く使われている。中では「今季、初ピッチ」という使われ方が多いようです。これは野球でもサッカーでも使えますね。意味は違うけど。
でも野球の場合は「初ピッチ」よりも「初マウンド」の方が使われているような気もするなどうでしょうか。
「初マウンド」=552件
やっぱり、ずいぶん使われているゾ!では、意味の上では「ピッチ=グラウンド」あるいは「ピッチ=グランド」なので、
「初グラ(ウ)ンド」というのも検索してみました。
「初グラウンド」= 9件
「初グランド」= 69件

ただ、一つ一つ見ていくと、本当の意味で「初めてグラウンドに出た」という意味での「初グラウンド」は9件中3件、「初グランド」は69件中11件でした。
スポーツ紙などでは既にかなり使われているかもしれませんね。

2004/2/26

(追記)

そういえば、「PHS」のことを「ピッチ」と呼んだこともありましたが、今「ピッチ」と言って「PHS」を思い浮かべることは相当困難になりました・・・。

2004/2/27

(追記2)
そうそう、そういえばそんな選手も来ましたかね、イルハン。実績も残さずに、あっという間にピッチを去りました・・・さらばピッチ。
2004/12/3


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