◆ことばの話1560「全羽処分」

牛のあとはニワトリ。
鳥インフルエンザウイルスの感染が確認された山口県では、ニワトリの処分が始まっています。処分と言うと聞こえはいいですが、殺すわけですね・・・。
その際、全部のトリを処分する場合の言葉、
「全羽処分」
は一体どう読むのか?と、Sアナウンサーからの質問です。
牛の場合は「全頭検査」は「ぜんとうけんさ」でなんの問題もないのですが、トリの場合は、読み方は2通り考えられます。
「ぜんば」と「ぜんわ」。
さあ、どっち?
うーん、一応「羽」の数詞・助数詞の読み方を『NHK日本語発音アクセント辞典』の付録のページで見てみると、
「イチワ、ニワ、サンバ(サンワ)、ヨンワ(ヨンバ)、ゴワ、ロッパ(ロクワ)、ナナワ(シチワ)、ハチワ(ハッパ)、キューワ、ジ(ュ)ッパ(ジューワ)」
ということで、けっこう何通りもの読み方が認められているのがありますね。その中で、「羽」の前が「全(ぜん)」のように「ん」が来ているものをピックアップすると、
「サンバ」(サンワ)
「ヨンワ」(ヨンバ)

の2つだけです。つまり「バ」でも「ワ」でも良いようです。ただし、「ん」が付くもので、読み方が決まっているもの(定着しているもの)があります。「千羽鶴」です。この「千羽」は、必ず
「センバ」
です。決して「センワヅル」ではありませんよね。だから「千(せん)」の場合には「羽」は「バ」です。そう考えると「バ」に軍配が上がりそうですが、助数詞についてみていると、どうも「3」のあとの助数詞の読み方は、規則に当てはまらないことが多いようなのです。例外が多い。だから「3」のあとの助数詞の読み方を、「ん」のあとの助数詞の読み方の基準にするのはどうかな?という気もするのですが。
特にこの場合、意味を考えると、「全(部のトリの)羽(数を)処分(する)」というように、「羽」がけっこう独立して意味を持っているように感じるので、「1羽(イチワ)」で読むような「ワ」を使いたいという気持ちも強くなるのかもしれません。でも結論は、
「ゼンバショブン」
でいいんじゃないの?ということになったのでした。理由は、「千羽鶴」のように、原則「ん」のあとは「バ」と濁る、ということで。いかがなものでしょうか?

2004/1/19




◆ことばの話1559「元患者」

1月6日の各紙夕刊の小さな記事に目が留まりました。
「ハンセン病『元患者』の故障変更へ〜厚労相が表明」(日経)
「『元患者』の呼称新しい表現検討〜ハンセン病で厚労相」(読売)

というような同じような見出しでした。どういうことかというと、ハンセン病の元患者が熊本県内のホテルで宿泊を拒否された問題が昨年末にありましたが、それを受けて1月5日に潮谷義子・熊本県知事が、
「必要であれば入所者、退所者、回復者というような使い方をしなければならない」
と述べて、呼び方の変更を提案したのです。それを意識してか、この日(翌日ですね)厚生労働省は治癒した人の呼称について「元患者」という呼称を変更する方針を固め、坂口厚生労働大臣が記者会見で明らかにしました。坂口大臣は、
「元を付けることで、ハンセン病とは違うことを明確にする意味があったが、ハンセン病という言葉が付いて回るために、過去に患者だったというイメージが付いて回る。別の呼び方をすることは、差別や偏見をなくしていく上で大変いいことだ。どういう呼び方があるか検討したい。」
と語ったということです。
確かにそのとおりなのですが、この問題は難しい。なぜならば、ニュースでこの人たちを取り上げる場合になぜ取り上げるかというと「ハンセン病の元患者」だからです。ニュースで取り上げるポイントが「元患者」なのに、そのニュースの中でその表現を使わないとなると、なぜその人たちはニュースに取り上げられたのかがわかりません。そしてそれは、たとえ「元患者」を「回復者」「退所者」と呼び方を変えたところで、同じではないかという疑問が付いて回ります。
もちろん「元」や「患者」という言葉によって想起されるイメージがマイナスであるということならば、言い換えによってそのマイナス・イメージは払拭されるかもしれません。そういった面もあるように思います。「元」と付いていてもそのあとに「患者」という言葉が付くと、「まだ病気なのか?」という疑念が生じる人もいるかもしれません。それが「回復者」となって「病」という文字が入らなければ、
「ああ、この人は『治った人=健常者』なのだな」
と安心する人もいるかもしれません。
しかし、ことは、そう簡単なことなのでしょうか。
過去何十年の間に作られたハンセン病に対する偏見を積極的に否定することでしか、「元患者」の持つとされるマイナス・イメージは拭えないのではないか。なまじ「回復者」などと呼称することで、かえって病気への理解が薄まるのではないかということを、少し懸念します。

2004/1/15

(追記)

中国残留孤児で肉親がわかった人、あるいは肉親は判明しなかったものの日本に住むようになった人たちは、
「元孤児」
と称されることがあるようですが、これも言い換えを検討した方がいいのでしょうか。そういう話は聞きません。「元」って難しいですね。

2004/1/16

(追記2)

1月18日の読売新聞朝刊に、こんな見出しの記事が載っていました。
「入所者」「退所者」「回復者」を併用
その記事によると、全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)は17日、東京都内で開いた臨時支部長会議を開き、ハンセン病から回復した人の呼び方について「『元患者』は裁判で使っていた用語で、特殊な言葉だ」として、「入所者」「退所者」「回復者」を併用することを決めたそうです。
この全療協とハンセン病違憲国賠訴訟全国原告団協議会、同訴訟全国弁護団連絡会で作る「ハンセン病問題統一交渉団」は11日に、「歴史的な経緯がある」として「元患者」を使うことを決めているそうですが、支部長会議に出席した熊本県合志町のハンセン病療養所・菊池恵楓園の太田明自治会長(60)は、「治った人を『元患者』と呼ぶ必要はなく、抵抗がある。全療協としては一切使わない」と述べています。
つまり、関係団体の内部でもいろいろな意見が出ているようで、これはハンセン病にかかった治った人(元患者)と、そうでない人たちとの間に、「元患者」という言葉に関して大きな意識・感覚の違いがあるということを、改めて認識させるものと言えるのではないでしょうか。それだけ微妙な問題なのです。

2004/1/19

(追記3)

1月23日の毎日新聞に、
「ハンセン病回復者の宿泊拒否問題 26日『考える市民集会』中央区」
という見出しの中で「ハンセン病回復者」の文字が。さらに本文には、
「熊本県・黒川温泉で起きたハンセン病回復者の拒否問題を考える市民集会が26日午後6時、中央区北浜東のエル・おおさか6階大集会室で開かれる。問題が発覚した当初、回復者の元に宿泊拒否に抗議したことを非難する匿名の電話が多数寄せられたことなどから、市民団体『ハンセン病回復者とともに歩む会関西連絡会』などが、市民の側から啓発を徹底しようと企画した。」(下線は道浦による)
とあります。この中では「回復者」という言葉も使われるとともに、「ハンセン病回復者と歩む会」という団体があることもわかりました。また、ホテル側の主張の中では、
「ホテル側は『事前に元患者であることを説明しなかった県に責任がある』などと主張していたが」
と、「元患者」という言葉も使い分けて書いていました。

2004/1/23

(追記4)

2月に入っても、ハンセン病関連のニュースが続きます。坂アナウンサーが調べてくれた2月9日夕刊(日経、産経、毎日)と10日朝刊(読売、朝日)の新聞各紙での表記は、 (読売)「入所者」
(朝日)「入所者」
(日経)「元患者」
(産経)「元患者」(見出し)、「入所者」(本文)
(毎日)「入所者」

でした。
また、2月25日の日経新聞・夕刊に、
「ハンセン病強制隔離、韓国の85人が新たに補償請求、日本政府に」
という見出しのベタ記事が載っていました。その本文は、
「韓国のハンセン病療養所『国立小鹿島(ソロクト)病院』の入所者八十五人が二十五日、戦前戦中の日本統治下で強制隔離政策の被害を受けたとして、ハンセン病補償法に基づいて日本政府に補償請求した。」 とあります。
ここでは日経も「入所者」を使っていました。

2004/2/26

(追記5)
3月11日の日経新聞。ハンセン病問題で第三者機関の「ハンセン病問題に関する検証会議」が国の責任を厳しく追及した中間報告をまとめたという記事が載っていました。その中では、
「療養所入所者」「元患者」「入所者団体」「入所者」「入所者ら」
という表現が見られました。

2004/3/11


(追記6)
3月15日の朝日新聞のiモードのニュースでは、
「入所者」
という表現を使っていました。そして、読売iモードの3月30日のニュース画面に、
「療養所入所歴のないハンセン病元患者(非入所者)」
という表記が出てきました。「非入所者」、そのままですが、なんかちょっと生硬な感じがする言葉ですね。


2004/4/30

(追記7)
2004年7月14日の新聞各紙に、
「ハンセン病元患者 差別今も」(読売)
「ハンセン病患者 処遇劣悪」(日経)

という見出しが出ました。
厚生労働省は有識者に委託して設置した「ハンセン病問題に関する検証会議」は、全国13か所の国立ハンセン病療養所の入所者を対象にした被害実態調査の結果を坂口厚生労働大臣に提出。それによると、肉親と絶縁している人が16,8%、男性の断種手術経験者が回答者415人中157人、37,8%にも上ったという実態が明らかになったという記事でした。

2004/7/16



◆ことばの話1558「マリフアナ」

1月16日、朝日新聞の特集コラム「カラシニコフ 銃・国家・ひとびと」の中に、
「マリフアナ茶」
というのが出てきました。以前、私は「茉莉花茶」というのは「マリファナ茶」かと思っていて、実はこれは「まりかちゃ」と読むのだと知った時に、ホッとすると同時に衝撃を受けたことがありましたが、今回は「茉莉花茶」ではなく正真正銘の「マリフアナ茶」です。しかしその表記を見て「おやっ?」と思ったのです。というのも
「マリフアナ」の「ア」の字が大きい
のです。普通、私たちは「マリファナ」と小さい「ァ」の字で「マ・リ・ファ・ナ」と4拍で発音します。しかしもし「ア」の字が大きいと「マ・リ・フ・ア・ナ」と、5拍で発音することになり、耳で聞く分にはまったく違う印象を受けることになると思うのです。
そこで日本新聞協会が出している『新聞用語集』で、外来語の表記のところを見てみると、そこには、
「マリフアナ」
と、大きな「ア」の字が記されているではありませんか!
でも「マ・リ・フ・ア・ナ」と五拍で発音されているのを私はあまり耳にしたことがありません。ということは、表記と発音は別に行われていると考えることができます。
『新明解国語辞典』『新潮現代国語辞典』「岩波国語辞典」はともに見出しは「マリファナ」しかありませんでした。ただ、意味のところを読むと、『新潮現代』は「マリフアナ」「マリワナ」という表記も載っていましたし、『岩波国語』は「マリワナ」が出ていました。こういったことは意外と多い。特に外来語に関しては多いのかもしれません。
たとえば、2003年10月16日、埼玉ダイオキシン訴訟の原告団の金子哲・原告団長は記者会見(NHK夜7時のニュース)で、「ディ」の音が出ずに、
「マスメデア」
と言っていました。表記はきっと「マスメディア」だったと思うのですけど。表記と発音の間で、みんな悩んでいるのですね。
ちなみに「マリフアナ」、原音の発音に近い表記をすると、
「マリワナ」
ではないでしょうか?スペルが「marijuana」で、その「juana」というアルファベットにつられて「マリフアナ」という表記が出てきてしまったのではないでしょうか?これも幻覚作用?
もしくは『岩波国語』に原語の表記とともに「スペイン語」と書いてあったので、スペイン語の発音で「マリフアナ」になったのかもしれません。

2004/1/16

(追記)

去年(2003年)12月21日の日本テレビ「ザ・サンデー」の男性ナレーターは、
「CD」「DVD」
を、それぞれ、
「シーデー」「デーブイデー」
と呼んでいました。あれってわざとかな?さすがに「CD」を「シーデー」と読んでいるナレーターは初めて耳にしました。

2004/1/20



◆ことばの話1557「ADSLとDSL」

1月15日の朝日・産経朝刊に
「ADSL1000万突破」
という見出しが出ました。最近よく耳にするADSL回線の契約が、去年12月末、登場から4年で1000万を超え、1027万2000件になったというのです。この「ADSL」とは何か?本文には、「非対称デジタル加入者線」と書いてあります。『現代用語の基礎知識』を引きますと、
「ADSL(asymmetric digital subscriber line)」
非対称デジタル加入者回線。各家庭にすでにある電話回線に高い周波数を用いて高速・低価格の通信サービスをする。

と載っていました。さてそれと同じような記事なのですが、日経新聞は、
「DSL利用1000万件突破」
また毎日新聞は、
「DSL加入1000万回線に」
とあったのです。あれ?「A」がないぞ。「A HAPPY NEW YEAR」と「HAPPY NEW YEAR」の違いか?『現代用語の基礎知識』に「DSL」は載っていませんでした。本文を読むと、
「DSL」(デジタル加入者線)
と一応書いてありますが、この「DSL」と「ADSL」の違いはなんなんでしょうか?そう思って、デジタルアナのWさんに聞くと、
「ADSLというのは非対称のデジタル回線、つまり上りと下りの線の太さが違っていて、情報を取るほうは太くして、こちらから情報を送るほうは細くしてあるデジタル回線なんです。日本ではこちらの方が多いんでしょうけど、アメリカなんかでは、上り下りが対称の回線なんで、DSL=デジタル回線という表現が使われることが多いんじゃないですかね。」
「そうすると、DSLの範疇の中にADSLも含まれるということ?」
「そうですね。」

そこまで聞いてから、検索エンジンgoogleで「ADSL」と「DSL」を調べてみました。すると、
「ADSL」= 948万件
「DSL」= 1500万件

と、なんとDSLの方が多かったのです。
よく考えると、この検索は全てのページを対象にしていました。そこで今度は日本語のページのみにターゲットを絞って検索してみると、
「ADSL」=199万件
「DSL」=  22万件

と、さっきとまったく逆の結果が出ました。といううことで、やはり日本では「ADSL」という表現の方が普及しているのだなあ、と改めて感じたしだいです。
新聞記事をもうちょっとよく読むと、こんな一節も。
「DSLの大部分を占めるADSL」
やっぱりそうか。でも、東京ディズニーランドが「TDL」でしたっけ?え?ディズニー・シーとあわせて東京ディズニーリゾートだから「TDR」?
どうでもいいけど、アルファベットの略字はややこしくてかなわんよ、という声が聞こえてきそうですね。え?それはどの回線を使ってだって?
・・・生の声で。

2004/1/16



◆ことばの話1556「濃茶のアクセント」

お正月気分もそろそろ抜けてくる10日。お茶道・裏千家の初釜式のニュースがありました。そこで振舞われるのは、
「濃茶」
このアクセントは、
「こいちゃ(LHH)」
と平板でしょうか?それとも、
「こいちゃ(LHL)」
と中高アクセントでしょうか?5年目のYアナウンサーが「平板アクセント」で読んでいるのをみて、私は、
「あれ?濃茶は『中高アクセント』ではないか?」
と思って『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いてみたところ、なんと、「頭高アクセント」の「こいちゃ(HLL)」しか載っていないのです。「お」が付くと「おこいちゃ(LHLL)」と中高アクセントが載っているのですが。つまり、私もYアナウンサーも×ということ!?NHKの方に調べてもらったところ、
「NHKのアクセント辞典は、今の版の前の版、昭和60年(1985年)から『濃茶』を見出しとして採用している。そのときから頭高アクセントだ」
とのことでした。
そして、三省堂の『新明解日本語アクセント辞典、』を引くと頭高の「こいちゃ(HLL)」の次に平板アクセントの「こいちゃ(LHH)」が載っていました。これでYアナウンサーはセーフ。残るは私ですが、なぜ私は中高アクセントの「こいちゃ(LHL)」と思い込んでいたのでしょう?それをじっと考えた時、私が中高アクセントと思い込まされた原因は、アクセント辞典にあるのではなくて、新人当時(昭和59年)の研修担当の先輩アナウンサーに教え込まされたものだと思い当たりました。当時たしか「濃茶」という言葉が出てきて、アクセントをアクセント辞典で調べたものの載っておらず、その先輩に聞いたところ、「こいちゃ(LHL)」と中高アクセントだと教わったことを思い出したのです。念のため当時つけていた「日誌」をめくってみたところ、昭和59年の8月2日に、たしかに、
「濃茶」「薄茶」
という文字が書付けてありました!ただしアクセントは記されていませんでしたが。
「三つ子百まで踊り忘れず」といいますが、新人の時の研修って、その後も付いて回るものなのだなあ、と感心することしきり・・・。ということは、今教えている後輩たちに対する責任も重大・・・・と考えるとゾーっとしますが・・・・。

2004/1/15

(追記)

早稲田大学の飯間浩明さんからご指摘をいただきました。
「『三つ子百まで踊り忘れず』とかかれていますが『三つ子の魂百まで』と『雀百まで踊り忘れず』の混交表現ではないでしょうか。」
嗚呼!やってしまった・・・。ご指摘どおりです。すみません。書いてて「なんかヘンだなあ」と感じたのに、そのままにしていたのでした。申し訳ありませんでした。
この場合は、
「雀百まで踊り忘れず」
の方が当てはまりますかね。そのように直した、ということで。(上の原文はあえてそのままにしておきます。直してしまうと「間違った」という跡が残らないので。)
2004/1/19