◆ことばの話1550「オンする」

雪印のスライスチーズのコマーシャルを見ていたら、
「スライスチーズをオンするだけで、ご馳走に変わる」
というコメントがありました。気になったのは、この「オンする」という言葉使い。「ON(オン)」は英語の前置詞なので、それに「する」をつけて同士にするというのは、けっこう無理矢理かな、と思ったのです。
しかし、よく考えてみると、この「オンする」が既によく使われている分野がありました。そう、「ゴルフ」ですよね。
「第2打が見事にグリーンにオンしました。」
というような言い方は、よく耳にしますよね。でもゴルフ以外で「オンする」というのを聞くと、やはり違和感があるなあと思ったのです。コマーシャルはそういうふうに何か引っ掛かりがあるフレーズを使うことが一つの狙いでしょうから、そういう意味ではしっかりと「狙い通り」なのですが。
「オン」以外の前置詞に「する」をつけてみましょうか。
まず「オフする」。「電源をオフしましたか?」と使いそうですね。「オフる」なんかはもう使われていそう。
「インする」。これもなんとなく。ゴルフは使っていそう。
「オブする」。これは使わないな。
「アンダーする」。「する」はつけないで「アンダー」単独で使いそう。
「オーバーする」。あ、これは普通に使うな。「予算がオーバーする」。
「バイする」。使わないな。
「ビハインドする」。スポーツ中継で「3点のビハインドを背負って」とかで最近よく使われていますね。
ああ、もう英語の前置詞、思い浮かばないや。
ということで、使うものもあれば使わないものもある、という結論になりました。
なんか、普通ですね。

2004/1/14




◆ことばの話1549「みてみてください」

テレビのスポーツ番組で女性アナウンサーが、
「みてみてください」
と言っているのをみてみて、あれ?と思いました。「みてみて」という表現って、なんか重複しているよなあーと。これって間違いなんだろうか?
そもそもこの形は、
「〜してみてください」
のように「〜して」のところに、「動詞の連用形+て」が入る形、それに「みてください」がくっついています。その意味では後半の「みてください」は、「見てください」ではなく、
「(ためしに)試みてください」(これも重複かい?)
という意味合いです。「やってみる」に表されているような意味ですね。
ただこの「〜して」の部分に入る動詞が「見る」になると、音の上で「みてみて」と「みて」が2度続くので、重複しているように感じてなんか違和感があるのですが、文法的には間違っていないのではないでしょうか?
同じように、同じ音が続くので間違っているような違和感を覚えるものに、
「味わわせる」
があります。これについては、「平成ことば事情325味わわせる」をお読みください。

2004/1/14



◆ことばの話1548「交ぜ書き」

私も委員を務める日本新聞協会用語懇談会では、数年来「交ぜ書き」を減らす動きがあります。「交ぜ書き」とは、「ら致」「こん睡」「破たん」といったように、本来は漢字のみの熟語で表記すべきものが、常用漢字表の表外字はひらがなで書くために生じているものです。今回検討対象となったのは、「『新聞用語集』にある交ぜ書き223語」と「用語集にはないが検討することになった93語」の計316語。これらから「用語集から見出しを削除する」などの48語を差し引いた268語の処遇は、先日(11月27日)開かれた用語懇談会の総会で以下のようになりました。

(1)交ぜ書きをやめ、漢字のみ(読み仮名なし)に変更する・・・22語(8,2%)
愛玩、旺盛、臼歯、拳銃、甲状腺、参詣、耳下腺炎、腎臓、整頓、腺病質、造詣、
僧侶、脱臼、頓挫、蜂起、捕捉、蜜月、領袖、痴呆、冥土、冥福、伴侶。

(2)交ぜ書きをやめ、漢字(読み仮名付き)に変更する・・・123語(45,9%)
迂回、冤罪、頚動脈、脊髄、愛嬌、死骸、化膿、嗅覚、謙遜、明瞭、要塞、灼熱、
安堵、位牌、嗜好、膵臓、肋骨、喝采、比喩、隕石、闊達、俎上、大腿、投函、矮小、
彗星、瀕死、瞑想、煎茶、挽歌、末裔、翻弄、爽快、楕円、貪欲、捻出など。

(3)交ぜ書きをやめて、言い換えだけにする・・・・・・・・・50語(18,7%)
牽引(→引っ張る)、勾配(→傾斜)、手榴弾(→手投げ弾)、鍼灸(→はり・きゅう)、祈祷(→祈り、祈念)、橋梁(→橋)、傲慢(→高慢)、変貌(→変容)、僅差(→小差、微差)、強靭(→粘り強い)、勃発(→突発、発生)、破綻(→破れ、つまずき、失敗、破局)など。

(4)交ぜ書き例示を(「新聞用語集」に)残す・・・・・・・・・73語(27,2%)
あん馬、乾めん、ヒ素、フッ素、ぶどう糖、暗たん、うっ血、押なつ、研さん、抜てき、急きょ、改ざん、覚せい剤、かく乱、真ちゅう、憤まん、晩さん、し尿、土のう、刺しゅう、憂うつ、うつ病、骨粗しょう症、集じん、漏えい、霊きゅう車、隠ぺいなど。

このうち(1)(2)(3)は交ぜ書きではなくなるわけですから、現在使われている交ぜ書きの約73%は使われなくなり、「交ぜ書き」は(4)の73語(27、2%)だけになるということです。
実際、このところの新聞紙面では「ルビを振ったちょっと難しめの漢字」が増えている気もします。
今朝(12月4日)の新聞で、ルビつきの漢字をチェックしてみました。

読売新聞
「肋骨(ろっこつ)」「横溢(おういつ)」「唖然(あぜん)」「淘汰(とうた)」「饒舌(じょうぜつ)」「蘇生(そせい)」

といった言葉が、ルビつきで使われていました。これまでなら、それぞれ、
「ろっ骨・あばら骨」「あふれる・みなぎる・いっぱい」「あっけにとられる・あぜん」「とうた・整理」「冗舌・多弁・おしゃべり」「よみがえる・生き返る・回生」
と言い換え・表記されていたものです。用語懇談会での議論が、さっそく反映されているようです。このほか、
「帯状疱疹(ないじょうほうしん)」「吃音(きつおん)」「盧武鉉(ノムヒョン)大統領」もありました。「脳挫傷」はルビなしでした。

毎日新聞=新聞小説と子供欄のルビは除く。
「槍(やり)」「耳袋(みみぶくろ)」「根岸鎮衛(やすもり)」「真摯(しんし)」「錯綜(さくそう)」「李承Y(イスンヨプ)」「小傳茂慧(こでもさと)さん」「戎(えびす)神社」「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」「稟議(りんぎ)書」「惨憺(さんたん)たる結果」「傅瑩(ふえい)アジア局長」「腫瘍(しゅよう)」:編集手帳「図体(ずうたい)」「猜疑(さいぎ)心」「焚書(ふんしょ)」「南蛮(なんば)焼」

朝日新聞
「痴呆(ちほう)症」「盧武鉉(ノムヒョン)2回」「歴(れっき)」「破綻(はたん)5回」「卑怯(ひきょう)」「藪(やぶ)」「胃潰瘍(かいよう)」「復讐(ふくしゅう)」「心筋梗塞(こうそく)」「中通(なかどおり)総合病院」「茶化(ちゃか)している」「漏洩(ろうえい)」「佗茶(わびちゃ)」「丸壷(まるつぼ)」「大名物(おおめいぶつ)」:ゲーム五話「任天堂(にんてんどう)」「誇(ほこ)る」「浜村弘一(はまむらひろかず)」「土壌(どじょう)」「駆使(くし)」「歯槽膿漏(しそうのうろう)」「隠蔽(いんぺい)」:天声人語「猜疑心(さいぎしん)」:「四川省・九寨溝(チュウツァイコウ)」「啓蒙(けいもう)活動」「温家宝(ウェンチアパォ)首相」「牽制(けんせい)」「香港の董建華(トン・ちえんほわ)行政長官」「胡錦涛(フー・チンタオ)」「崔秉烈(チェビョンニョル)」

産経新聞
「豆鼓(トウチ)エキス」「潜像(せんぞう)」「「隠蔽(いんぺい)」「幇助(ほうじょ)」「稟議(りんぎ)書」「漏洩(ろうえい)」「厭(いと)わしく」「塵芥(ちりあくた)」「面(おも)て」「業(わざ)」「莫大(ばくだい)」「干割(ひわ)れ」「帯状疱疹(ほうしん)」「発疹(ほっしん)」「姑息(こそく)」「菩提寺(ぼだいじ)」「秀勝廟(びょう)」「石槨箱棺墓(せきかくはこかんぼ)」「注染(ちゅうせん)柄」「扮(ふん)した」「女将(おかみ)」「申(さる)」「満身創痍(そうい)」「慙愧(ざんき)」「総(すべ)て」「躊躇(ちゅうちょ)」「焙(あぶ)り」「慮(おもんぱか)る」「混沌(こんとん)」「毅然(きぜん)」「闡明(せんめい)」「槍玉(やりだま)」「急遽(きゅうきょ)」「哺(ほ)乳類」

*見出しの「痴呆」にルビなし。本文中では「いわゆる老人ボケ」という表現のみで、ルビつきの「痴呆」は出てこない。

日経新聞
「穿刺(せんし)針」「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」「終焉(しゅうえん)」「要諦(ようてい)」

といった具合でした。日経新聞はルビがついた漢字が少ないですね。産経はけっこう多い。朝日は中国の地名や人名にルビ、つけています。産経の、一般の人の投稿記事の中とはいえ、「闡明」なんて言葉も漢字も、知りませんでした。勉強不足です。でも、難しすぎない?辞書(『新明解国語辞典』)を引くと、
「今まではっきりしなかった道理(意義)を明らかにすること。」
とありました。はあ、なるほど。ルビつき漢字の実態、明らかになったでしょうか?
2003/12/4に書き始めて、書き終えたのは2004/1/13

(追記)

今朝(1月15日)の産経新聞の1面に、文化審議会の国語分科会の最終報告書で、小学校の教科書にある「せい長」「こっ骨折」といった「交ぜ書き」をやめて、「成(せい)長」「骨(こっ)折」というふうにルビを振った漢字を使い、早い段階から児童・生徒の目に漢字を触れさせることの大切さを強調することを盛り込み、来月の文化審議会で答申することになったという記事が載っていました。新聞用語懇談会での交ぜ書きを減らすための話し合いが、文化審議会国語分科会にも影響を及ぼしたのだと思います。

2004/1/15
(追記2)

実は「追記」に書いた産経新聞の記事とまったく同じような内容の記事を、少し前に見た覚えがあって、スクラップを探していたら出てきました。1月8日の日経新聞の夕刊でした。 「国語交ぜ書き取りやめ、常用漢字の読み、小学校卒業までに、文化審議会報告案」 という見出しで、例として挙げられている交ぜ書きは、
「心ぱい」→「心配(ぱい)」
「せい長」→「成(せい)長」
「こっ折」→「骨(こっ)折」

でした。ほかの新聞は載らなかったのか、見逃したのか、気づきませんでした。

2004/1/16



◆ことばの話1547「A HAPPY NEW YEAR」

「あけましておめでとうございます。」
こう書かれた年賀状、今年もたくさんいただきました。ありがとうございました。それと並んで多かったのが、
「A HAPPY NEW YEAR」
と書かれた年賀状。しかし以前、
「正しくは『HAPPY NEW YEAR』で『A』は、いらない!」
と聞いたことがあります。たしかにそう言われると、「A HAPPY NEW YEAR」は成句であって名詞じゃないから、冠詞はいらないような気はします。本当のところはどうなのでしょうか?そんなことを考えていたら、テレビのコマーシャルで、宝船に乗ったピンク色のウサギが、
「A HAPPY NEW YEAR!」
と言っている
ではないですか。その英会話学校に駅前留学している妻に、
「今度行った時に、外国人の先生にどちらが正しいのか、聞いておいて!」
と頼んだら、ようやく聞いてきてくれました。
「どうだった!?」
とせき込んで聞くと、
「『A』は、いらないって。」
「やっぱり。で、理由は?」
「『HAPPY NEW YEAR』というのは呼びかけの言葉で、たとえば『GOOD MORNING』に『A』がいらないようなものだって。」
「そうでしょう、そうでしょう、思ったとおり。でも、ピンク色のウサギが『A』ってコマーシャルで言っているのはどうして?」
「そのCM,知らないって。CM制作に外国人の先生はかかわってないんだって。」

そうだろうな。でも、それって、ちょっとマズイよね。
ということで、「A」はいらないそうですので、来年から「A」は抜きましょう。わたし?実は今年の年賀状の下書きには「A」が入っていたのですが、印刷屋さんが訂正して「A」を抜いておいてくれたのでした。ホッ。
ちなみに、今年私がもらった年賀状389枚に書かれた「新年を祝う言葉」のデータを調べました。それによると、

1位「あけましておめでとうございます」・・・・・102枚
2位「謹賀新年」・・・・・・・・・・・・・・・・・78枚
3位「A HAPPY NEW YEAR」・・・・・48枚
4位「HAPPY NEW YEAR」・・・・・・・26枚
5位「迎春」
   「謹んで新春のお慶びを申し上げます」・・・・・24枚
7位「賀正」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23枚
8位「その他」(1枚だけのもの)・・・・・・・・・・14枚
9位「初春のお慶びを申し上げます」・・・・・・・・13枚
10位「なし」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12枚
11位「頌春」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10枚
12位「賀春」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6枚
13位「恭賀新年」・・・・・・・・・・・・・・・・・・5枚
14位「謹んで新年のお慶びを申し上げます」
    「BONNE ANEE」・・・・・・・・・・・・2枚


という結果が出ました!やっぱり、「HAPPY NEW YEAR」という正しい形よりも「A」が付いた「A HAPPY NEW YEAR」の方が倍ほど多かったのです。「A」が付いたものは、市販のはがきではなく、自分でパソコンなどを使ってあるいは手書きでというものが多かったように思います。
8位の「その他(1枚だけのもの)」というのをご紹介しましょう。

「祝新年快楽」「Peace」「寿」「chase dreams2004」「2004年 新しい年の幕開け」「幸多き新年をお慶び申し上げます」「春風献上」「恭頌新禧」「初春」「たのしい人生きょうも行く」「wishing you a happy new year」「慶春」「老後初心」「2004 DIGITAL DREAM

というふうにそれぞれユニークでした。この中の「wishing you a happy new year」は、文章の中なので「a」が付いてもOKなんでしょうね。
また、10位の「なし」といのは、「本年もどうぞよろしくお願いします」などの文句はあったのですが、「新春」とか「新年」とか「あけまして」とかいうようなフレーズがまったくないもので、エトの絵でそれを表していたり、とにかくお正月に来たから年賀状だとわかるようなハガキでした。
それにしてもこれまでは1月15日が「成人の日」で、その日にお年玉つき年賀ハガキの抽選があったので、わかりやすかったのですが、「ハッピーマンデー」とかで成人の日が動くようになってから、なんだか抽選日も毎年変わって、とってもわかりにくい。成人の日は1月15日の小正月でいいんじゃないの?と思ってしまいます。「ハッピー?なんでー?」という感じです・・・・そうそう、昨日(1月14日)の「トリビアの泉」で、全国4700人にインタビューして(スゴイ!)「日本人がよく言うダジャレ・ベスト10」を発表していましたが、その堂々の第1位は・・・わ、わすれた・・・。なんやっけ?
覚えてるのは「レモンの入れもん」「ヘタなシャレ、いいなシャレ」(だっけか?)「カレーはかれー」あ、そうだ1位か2位か忘れたけど「トイレにいっといれ」があったな。これは言うぞ。え?言わない?私は時々言うような気がします。
「ベスト10に入るんじゃないかな?」と密かに思っていたのは、
「そんなダジャレ言うのは、ダジャレ(誰じゃ)?」
でしたが、入っていませんでした・・・・。

2004/1/15



◆ことばの話1546「住民と住人」

夜勤なので、少しゆっくり寝ていると、Sアナウンサーからメールが来ました。
「京都の病院で酸素ボンベが爆発して、病院の患者と隣の民家の人など12人が怪我をしたのですが、この場合に民家に住んでいる人は『住民』ですか『住人』ですか?」
うーん、考えたことなかったけど、考えよう。・・・考えた!返事のメールを打ちました。
「住民という場合は、国や自治体など公共のものに対峙する場合に『公に対する民』としての『住民』。『住民グループ』が(反対)運動を行うことはあっても『住人グループ』とは呼ばない。これに対して個人でそこに住んでいる人という意味合いを指すのなら『住人』でよいのでは?大体『公』に対峙するのは一人では無理なのでグループを作るから、10人以上の場合は『住民』と呼んでもいいのではないかい?」
とベッドの中からメールを打ちました。
そして夜勤で会社に行ってから実際にそのニュースを読もうとすると、原稿には、
「隣の家の住民6人が、軽いケガをしました」
とありました。なんじゃい、せっかくメールで書いたのに、反映されてないな、と思って「住民」を「住人」に直して読んでみたのですが、なんか、しっくり来ません。なぜか。そう考えて、ハッとひらめきました。
「住人」の読みが「じゅうにん」で、アクセントこそ違うものの、「10人=じゅうにん」と同じだから、ニュース原稿の中では「住人」という表現はどちらかというと避けられて、「住民」の方がよく使われているのではないか?ということです。
インターネット検索GOOGLE では(1月13日)、
「住民」=225万0000件
「住人」= 48万1000件

と、「住民」の方が5倍近く、多く使われています。
「住人」の方が世間との交わりを感じさせずプライベートな感じ、「住民」というと個人ではなく、ある目的のために集まった住人のグループ、というようなイメージの違いを感じますが、必ずしもそういう意味の違いをもって使い分けられているわけではなさそうですね。

2004/1/13

(追記)

1月17日、東京出張からの帰りの新幹線の中で見た電光掲示板の「中日新聞ニュース」で、
「大阪市西成区でマンション火災。住人9人を救出。」
という文字が。
「ジューニン、キューニン」って、やっぱりわかりにくいがな。しかも、
「キューシュツ」
ですから、文字で見ると全然問題ないのですが、耳で聞くとキューとジューが混ざって、わかりにくいですよね。

2004/1/19


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