◆ことばの話1545「七面鳥」

去年のクリスマスイブの話。と言っても、全然色っぽい話じゃあ、ないんですが。
クリスマスに「七面鳥」を食べるという話に関連して、実はアメリカで七面鳥を食べるのは「クリスマス」ではなく「サンクス・ギビング・デー(感謝祭)」であること、そして日本にもずいぶん昔に七面鳥を食べる習慣が伝わっていたのに驚いたということが書かれた記事を見ての話。今は七面鳥ではなくてニワトリを食べてますよね、日本では。
その七面鳥、英語では「ターキー(turkey)」ですね。「ターキー」って、「トルコ」の国名と一緒でしょ。どうもヨーロッパでは、新大陸(アメリカ)から入ってきたこの鳥を、「トルコからてきた鳥」ということで「ターキー」と呼ばれるようになったとか。日本で、も昔、外国(中国)から入ってきたものをなんでも「唐様(からよう)」と呼んだような感じだそうです。これは「ボストン読本」というメールマガジンを発行している、井筒周さんによる話です。
その外国語とともに「七面鳥」が日本に入ってきたときになぜ「七面の鳥」という訳語になったのか。そういう疑問が出ました。隣の席のHアナウンサーに話すと、
「縮緬鳥(ちりめんちょう)が、訛ったのじゃないですか?」
という答え。そっかあ!「ちりめんちょう」→「しちめんちょう」。ありうる、ありうる。
なんか、羽根の感じなんか「ちりめん」ぽいかもしれない!
と喜んだのですが、辞書を引いてみてガックリ。『日本国語大辞典』によると、
「七面鳥」=「キジ科シチメンチョウ亜科の鳥。全長1,2メートル。重さ10〜15キログラムになる。頭部に肉いぼ、あごの下に肉だれがある。興奮したりすると、頭部から首にかけて裸出した皮膚が青・赤などに変化することからこの名がある。(以下略)」
なーんだ、色が変わって表情が七つの面、つまりいろいろあるから「七面鳥」ですか。意外と平凡なというか、そのままの命名でしたね。「原種は北米の草原に野生」ということです。トルコから来たのでもないのです。でも「ターキー」。滝沢君とは関係ありません。あれは「タッキー」か。エトのおサルは「ウッキー」。うけてくれれば「ラッキー」。

2004/1/13



◆ことばの話1544「シックハウスとシックスクール」

「シックハウス症候群」
という言葉は、もうずいぶん普及したのではないでしょうか。新建材などから出るホルムアルデヒドなどの化学物質が原因で起きる諸症状のことです。これを防ぐ健在の開発なども進んだようです。
最近、これに似た言葉でチラチラ目に耳にする言葉は、
「シックスクール症候群」
です。シックハウス症候群の舞台が、個人の「家」なのに対して、この「シックスクール症候群」の舞台は、その名のとおり、「スクール=学校」です。つまり、学校の新校舎に、そういった建材が使われていることによる症状です。子供たちがその被害者になるわけですから、ある意味では個人の家の場合以上に、深刻な問題と言えます。
GOOGLEで、これらの言葉の使用状況を調べてみました。(2003年12月26日)
まずは歴史の長い「シックハウス」から。
「シックハウス症候群」・・・・・・4万1200件
「シックハウス」・・・・・・・・11万8000件

さすがに件数が多い。続いて新しい「シックスクール」。
「シックスクール症候群」・・・・・・・930件
「シックスクール」・・・・・・・・・6050件
「シックハウス・シックスクール」・・・3980件

老舗(?)の「シックハウス」に比べると、まだ新しい言葉なので、頻度は「数十分の1」です。
各新聞での「シックスクール症候群&シックスクール」の出現回数(12月26日まで)は、
読売新聞・・・・66件
朝日新聞・・・・96件
毎日新聞・・・106件
産経新聞・・・・36件
日経新聞・・・・87件

で、毎日新聞が1番、朝日新聞が2番、以下日経、読売、産経の順でした。
できたら、問題になって言葉が定着する前に、こういった現象がなくなると良いのですが。
2004/1/13




◆ことばの話1543「43箱」

2003年9月15日の「あさイチ!」で、神戸市長田区のクリーニング店の前野自動販売機から、タバコ43箱を盗もうとした19歳の少年が逮捕されました。この少年、タバコの取り出し口から手を入れてタバコを取っていたのですが、もっと取ろうと奥まで手を入れたところ、腕が抜けなくなり、1時間近く助けを求めていたそうですが、誰も助けてくれずに、結局、警察に捕まったという、とんだ「アホ」な兄ちゃんです。(ああ、この事件からもう4か月も経ってしまった・・・その間、この原稿、棚ざらしで年越ししてしまいました・・・)
さて、このタバコの箱の数、
「43箱」
をどう読みますか?つまり「43」は「よんじゅうさん」ですが、「箱」を「ハコ」と読むか「バコ」と濁るか、それとも「パコ」と半濁音になるか。
アナウンサーらしい悩みでしょう?この助数詞ってのが、面倒なんですよねえ。
一応、こういった時に頼りになるのが、『NHK日本語発音アクセント辞典』の後ろの片の付録の63ページから89ページに載っている、助数詞の読み方です。これによると、「3箱」は、
「ミハコ」
あるいは、
「サンバコ」
となっています。つまり、数詞部分を和語の「ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー、ここの(つ)、とう」にするか、漢語系の「イチ、ニー、サン、シー、ゴー、ロク、シチ、ハチ、キュー、ジュー」にするかという選択によって、序数詞の読み方も変わってくるんですね。で、「さん」と読んだら、「バコ」と濁音になっているのですが、私は、「パコ」という半濁音の読み方も認めていいんじゃないかなあ、と感覚的には思うのですが、どうでしょうか?
同じようで同じじゃないものに、
「40袋」
があります。これも「40」を「よんじゅう・よんじゅっ(よんじっ)」と読んだあとの「袋」を、「フクロ」とそのまま読むか「ブクロ」と濁るか、「プクロ」と半濁音になるか、という話。これも「アクセント辞典」のフクロ・・・ではなくフロクで「袋」を見てみると・・・あ!「助数詞」として「袋」が載っていない!・・・次回の改定では、是非乗せてくださいね!
要はこの問題が起きるのは、数詞の最後が「ん」の撥音である場合と、「っ」と促音になる場合なのです。撥音の場合には「濁音」になり、促音の場合には「半濁音」になるのです。
「6発」「6泊」などは「ロッパツ」「ロッパク」というふうに「促音便で半濁音」ですね。そこから考えると、「40フクロ」は「よんじゅっプクロ」かなあと。「3箱」は「サンバコ」か。なんで「サンパコ」というのも良いかなあと思ってしまうんだろうか?もしかしたら、「3パック」からの類推?てなわけは、ないですね。
さて、これも去年の秋からの懸案なんですが、福岡放送の同期のアナウンサー・古賀ゆきひと君から衆議院選挙の前に「票の読み方」についての質問がきていたのです。と言っても、選挙の参謀や報道当確デスクのノウハウについて書こうというわけではありません。「票」という助数詞について、
「1〜10票については『NHK発音アクセント辞典』に載っているが、11票以上については載っていない。どういう原則で読めば良いのか?」
という質問です。
まあ、原則は1〜10の読み方を当てはめればいいのですけれど、その中でも難しいのは、
「『3票』の『票』の読み方は、『ヒョウ』『ビョウ』『ピョウ』のどれ?」
というものです。
これも難問だなあ・・・。『NHKアクセント辞典』には「サンビョー」という濁音しか載っていないのですが、「サンピョー」という半濁音も、いけそうな気がしませんか?ま、かりに「ビョー」の濁音だけとしても、「米俵」の「3俵」は「サンピョー」と半濁音のような気がしませんか?ところが『アクセント辞典』だとこの「3俵」も「サンビョー」という濁音しか載っていないのです。
さっき、「撥音(ん)のあとは濁音」と書きましたが、たとえば「先輩(せんぱい)」という言葉は「ん」のあとが、濁音ではなく「ぱ」という半濁音ですね。同じ「ん」でも、発音の時に「N」と発音する「ん」か「M」と発音する「ん」かで、「ば=濁音」と「ぱ=半濁音」の違いがあるのではないか?とも思ったのですが、その違いをみんなが意識して発音しているとは思えないから、却下。
数詞と助数詞の関係を見ていると、特に「3」という数字の場合の助数詞の読み方が難しいように思いますねえ。「3」は特別な数字なのでしょうか。
結局答えは出ずじまいでしたねえ・・・。

2004/1/13
(追記)

2009年4月21日の朝の日本テレビ『スッキリ!!』で、
4000箱」「15000箱」
をナレーターさんがそれぞれ、「パコ」ではなく
「ハコ」
と読んでいました。田中義剛さんの「生キャラメル」の会社が、あの夕張市に工場を作ったという話題で、「キャラメルの箱の数」を数える際の数え方でした。
この「箱」の読み方に関しては、「平成ことば事情794全箱検査」もお読みください。
2009/4/21



◆ことばの話1542「インフォームド・アセント」

新聞を読んでいたら、こんな言葉に目が留まりました。
「インフォームド・アセント」
意味は「説明し同意を得る」ということで、杉本健郎・関西医大男山病院小児科部長が提唱しているようです。同じような意味で似た言葉には、
「インフォームド・コンセント」
があります。国立国語研究所が「納得診療」という言い換えを提唱した、わかりにくい外来語の一つですね。
インターネットの検索エンジンGoogleで「インフォームド・アセント」を検索してみると、
49件(2003年9月30日しらべ)出てきました。数は少ないですね。その中のSaito-Kyoshiroさんのサイトによると、
「インフォームドアセント(Informed Assent)」=法的規制を受けない、患者への説明及び同意取得のこと。
とあり、「インフォームドコンセント」は、各国の法律や規則の規制を受ける為、義務として実施していますが、それに対して「インフォームドアセント」は、例えば小児集団への臨床試験における小児被験者への同意取得のように、法規制上の義務が無いにも関わらず、自発的に、医師及び治験スタッフが患者に対して治療に関する説明及び同意取得を行うことをさすそうです。
つまり「インフォームド・アセント」と「インフォームド・コンセント」の違いは、「法的な義務の有無」ということになるようです。
assentを英和辞典で引くと「承諾する」「同意する」とありますから、直訳では「インフォームド・コンセント」とあまり違いはないのでしょうか?
「インフォームド・コンセント」の言い換え例が出された時に、私も国立国語研究所のホームページに、
「『納得診療』診療という言い換えでは、臓器移植のドナーの家族への『インフォームド・コンセント』の説明にはならない。」
という主旨の意見を書き込みましたが、臓器移植に関して言うと、現在、6歳未満の幼児に関しては、国内での臓器移植はできません。これが国内でもできるように変えて行こうという動きも見られますので、そういった動きとともに、この「インフォームド・アセント」という言葉も広がりを見せるかもしれません。しかし、その場合の言い換えはどうなるのか。「小児への納得診療」?
ちなみに、この言葉を初めて知った去年9月30日から3か月半が経った今(2004年1月13日)、「インフォームド・アセント」をGOOGLE検索してみると、90件と増えていました。
2004/1/13


◆ことばの話1541「緋色とシンク」

「繻子ひじゅす、繻子しゅちん」

新人アナウンサーの滑舌練習の中に出てくる言葉です。この「ひじゅす」というのは「緋繻子」、つまり「緋色」の繻子ですね。緋色とは「赤」。「緋毛氈(ひもうせん)」の「緋」ですから、色は思い浮かべられますよね。お茶会などの時に出てくる、あの赤い絨毯のような敷物ですね。おひなさんの段にも、緋毛氈、敷かれていたんではないでしょうか。
さて、この緋色、英語だと「スカーレット(Scaret)」。コナン・ドイルのシャ−ロック・ホームズもので『緋色の研究』という作品の名前を思い出します。「Study of Scaret」「しんく」ですよね。
でもこの間、色彩図鑑で「緋色」を見ると、なんと緋色は「朱色のような色」で出ているではありませんか!なんということ。念のため今度は英和辞典で「Scaret」を引くと、
「深紅色」
とあります。ほうら、やっぱり、深紅だ・・・ウン?深紅・・・シンク・・・真っ赤なシンクは「真紅」ではなかったか?「真紅」と「深紅」は違いますよね。こりは一体どういうことだい??甲子園では夏・優勝したらもらえるのは「深紅」の優勝旗ですよね、「真紅」ではなく。それとも「辛苦」?(冗談です。)春は「紫紺」でしたっけ。
GOOGLEで検索したら(2004年1月11日)、
「真紅」・・・・7万4900件
「深紅」・・・・5万6700件

と、「真紅」が優勢。
『新明解国語辞典』を引くと、「深紅」の見出しはなくて「真紅」だけ載っていました。
「真紅」=濃い紅色。まっか。(表記)「深紅」とも書く。
とあるではないですか!?おんなじなの?
『新潮現代国語辞典』では、
「シンク(真紅・深紅)」=「まっかな色。しんこう。」
とやはり同じ表記、同じ意味でした。どうも「真紅」も「深紅」も同じ色みたいですねえ。
『日本国語大辞典』でも、「真紅」と「深紅」は同じくくりになっていて、
「しんく(真紅・深紅)」=「濃い紅色。正真のべに色。茜染(あかねぞめ)などのにせ染めに対していう。しんこう。」
とありました。染物の言葉なんですね、もともとは。用例では「深紅」を使っているのは1907年の夏目漱石の『虞美人草』を、また「真紅」の例としては1951年の大岡昇平『野火』を引いていました。どちらでもお好きな方をどうぞ。

2004/1/11

(追記)
1月11日の日経新聞の日曜版に連載されている「美の美」、特集は「琉球の宝物(中)」で今回は、
「強烈な太陽が生んだ紅型の色」
という大きな見出しがあって、「紅」の色について書いてあります。リード部分は、
「黄、赤、朱。鮮やかな色と大胆な図柄。紅型(びんがた)は沖縄を代表する染織物だ。いつ、どのようにして誕生したのか分からない謎めいた宝物だが、そこには沖縄ならではのチャンプルー(混ぜ合わせ)精神が脈打っていた。」
とあります。そして、真っ赤な地に龍が描かれた、
「紅色地龍宝珠雲文様紅型平絹袷衣装」
の写真がデーンと載っています。この「紅型(びんがた)」というのも、「真紅」「深紅」に近いのかなあと思いながらこの記事を読みました。そして「紅(べに)」を「びん」と読むのが面白いと思うと同時に、「紅」を「べん」と読む、
「紅殻格子(べんがらごうし)」
を思い浮かべたのでした。あれも、赤いなあ。

2004/1/19

(追記2)
武庫川女子大学の佐竹秀雄先生からいただいた、「スカーレットとは、何色か?」という質問に関する答えです。
* 本当のスカーレットという色は
 『言泉』という大型の国語辞書がありますが、その最初に色名が色見本とともに挙げられています。
そこには、「深紅」「緋色」「スカーレット」が別の色として掲げられています。そして、説明によると「スカーレット」はJIS慣用色名に含まれているということです。私が見た限りでは、スカーレットは深紅よりも緋色に明らかに近いようです。
 しかし、これはあくまで現代日本語で、かなり専門的な色も入っていると思います。英語で赤系統の色がどれほど分類されているのか知りませんが、英語における赤系統の一般的な名前より、日本語で一般に使う色名のほうが多いのではないでしょうか。そのために、日本語のほうが多種類の赤が出てくるような気がします。
 したがって、日本では緋色ないしそれに近い色がスカーレットと言えるのだと思います。しかし、深紅はスカーレットとは言いにくいでしょう。
 他方、英語のスカーレットの実情はわかりません。英語での色彩感覚では、日本語と違う基準があるのかもしれません。あるいは、ひょっとすると、英和辞典などがあやしい。例えば、昔の翻訳家がいい加減な訳し方をしているために、そういう例があがっている可能性もないでもありません。

2004/1/23

(追記3)
近江源太郎監修『色々な色』(光琳社出版)という本によると、

「緋色(ひいろ)」=茜染めのわずかに黄みをおびた鮮やかな赤を指す色名ですが、もとは緋(あけ)、真緋(あけ)といい、明るさを意味する「あか」と同じ意味を持っていました。火に通じ、火色(ひいろ)とも書きます。また「火」を「思ひ」の「ひ」にかけて思ひの色とも呼ばれます。熱い情熱をたとえたものでしょう。英語のスカーレットに当たります。

とありました。「火色」かぁ。そして「真紅」「深紅」については、

ベニバナだけで染めた色を紅色(べにいろ)、真紅(しんく)、深紅(しんく)などと称しました。

とあるほか、「紅(くれない)」については、

「ベニバナで染めた鮮やかな赤で、わずかに紫みによっています。『紅(くれない)』の名は『呉(くれ・中国)から伝わった藍』と言う意味の『呉藍(くれのあい)』が転訛したもの。当時、藍は染料一般をさしました。」

と書いてありました。「くれのあい」→「くれあい」→「くれない」か。勉強になりました。

2004/2/15
(追記4)

なつかしい山口百恵の『プレイバックPart2のCDを、歌詞カードを見ながら聴いていたら、例の歌詞、
「真紅なポルシェ」
の部分は、「真紅」と書いて「まっか」とルビが振ってありました。また、1番の、
「これは昨夜の私のセリフ」
というところと、2番の、
「これは昨夜のあなたのセリフ」
「昨夜」を、山口百恵は、
「ゆうべ」
と歌っています。歌詞に「ルビ」は振っていないですが。ふーん、知らなかったなあ。
2009/6/9

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