◆ことばの話1530「ビデオとDVD」

我が家もようやくDVDプレーヤーを買いました!しかも、ハードディスクで録画できて、テープやらDVD―ROMとかRAMとかいった外から入れる記録するものがいらない、内蔵されているハードディスクに録画できるものを買ったのです。
さて。先日、私よりも半年も先にハードディスク付のDVDデッキを買った、後輩のYアナウンサーが、こう言いました。
「この間の番組、ちゃんとビデオに録画しましたよ。」
「あれ?おまえ、DVD買ったんとちゃうん?ビデオに録画したの?」
「あ!いえ、DVDのハードディスクに録画しました・・・。でもつい『ビデオ録画』って言っちゃうんですよね。」
「それはそうだよな。借りるのだって、『レンタルビデオ店』でDVD借りてるんだもんな。これって、レコードからCDに変わったあとも、かなり長い間『レコード屋さん』と呼んでいたのと似てるよな。その後『CDショップ』とか『ミュージック・ショップ』とかいう呼び方に変わったけど。」
「そう言えばそうですね。」
「そうすると、『レンタルビデオ店』もそのうち『レンタルDVD店』に名前が変わるのかな。でも『ディー・ブイ・ディー』って言いにくいね、どうも。」

てな話がありまして、あとでアナウンス部のほかの人に
「DVDがもっと普及したら、『レンタルビデオ屋』は『レンタルDVD屋』っていうふうに、呼び方が変わるのかなあ?」
と聞いたところ、
「変わんないんじゃないですか?」
「『レンタルディスク店』とか、なったりして」

というふうな意見が出ました。
下駄のかわりに靴が入っている「下駄箱」や、筆のかわりに鉛筆やシャープペンシルが入っている「筆箱」もあります。もちろん「靴箱」や「ペンケース」などということばも出てきて使われていますが、しぶとく「下駄箱」「筆箱」も生き残っているようにも思えます。
それを思うと、「レンタルビデオ店」も名前が残るかもしれません。
ちなみに、私が大学生のときによく通ったのは、
「貸しレコード屋」
でした。レコードをもじった「麗紅堂」なんて、懐かしいなあ。

2004/1/8

(追記)

中学時代からの友人・吉川健司君から、以下のような指摘をもらいました。

「DVD-ROMやRAMのような記録するもの〜」
という記述ですが
ROMは「リード・オンリー・メモリー」で
ROMは記録できる媒体ではありません。(DVD-RやDVD-RWが一般的です)


ありがとうございます。そうでした。つい「CD−ROMと一緒の名前のアルファベットだったな」と「DVD」のあとに「ROM」とつけてしまったのでした。「DVD−R」ですね。さらにもう一点。

道浦のエッセイの書き出しには
「DVDプレイヤー」
とありました。
これだと再生専用機のイメージが強いです。家電量販店内では
「DVDレコーダー」
と表現しているのが大半なのですが、これが各量販店のホームページなどで検索する際には
「デジタルレコーダー」
と表現しているところが多いです。
HDDしか録画できないものや、HDDがついていなくてDVDを使用しないと録画できない 機種も存在する現段階では、
「デジタルレコーダー」
という表現が一番適切ではないかと思います。


ありがとうございます。今後、そういうふうに書くようにします。いかに私がデジタル化されていないか、よくわかりました・・・ですね。 頑張ります。

2004/1/15

(追記2)

『放送研究と調査』の2004年1月号に、
「デジタル新サービスのカギを握るのは『マイ・プログラム派』か」

というタイトルで、番組選択に関するグループ・インタビュー調査の内容を、原由美子・横江広幸という方がまとめています。その中で気になった記述は、74ページの「録画はもうしない」です。番組を録画しても「結局見ない」「テープがたまる一方」そして「テレビはやっぱりその放送時間に見たい」という理由で、「録画はしない」と決めた人が出始めているというのです。そういう人たちの中には、 「大量のテープを最近捨ててしまった」 人もいるといいます。
これ、オレやがな。
HDDの付いたDVDレコーダーを購入したのはまさにこういった理由だったからです。実際買ってみると、EPG(電子番組表)がものすごく便利だったりで、
「もう、録画にビデオは使わないな」
という気持ちは、さらに固くなりました。
2004/1/16



◆ことばの話1529「箸が落ちた」

お正月休み。外食をしていた和風レストランで。お客の男性が、ウエイトレスを呼んでこう言いました。
「おねえさん、箸、落ちた。」
「はーい、今参ります」

とお姉さんが飛んできて、新しいお箸をその男の人に渡していました。
それを聞いて思ったのは、
「この場合、箸は『落ちた』と言うべきか、それとも「落とした」と言うべきか?」
ということです。ふだん、うちの子供が、
「おかあさん、お箸、落ちた。」
と言うと、うちの妻は、
「『落ちた』じゃないでしょ、『落とした』でしょ?なんにもしなくてほうっておいてお箸が落ちる?あなたが落としたんでしょ?」
と、子供に「責任の所在」をわからせるように躾けようとしているようです。
しかし、「落とした」という言葉には、「意図的にその行為を行なった」というニュアンスがあります。たとえば、
「爆弾を落とした」
は、意図して「落とした」んですね。うっかり落とすケースは、あまりありません。もちろん、
「サイフを落とした」
の場合は、意図せずにうっかり「落とした」のでしょうが。このように「落とした」という言葉は、意図的なのかそうでないのかの区別が、文脈に大きく左右されるようです。
そして「お箸」についてですが、たいていの場合、子供でも大人でも意図的に箸を落とすことはありません。たまたま、あるいは不注意によって、箸が落ちるのです。本人にとっては「不可抗力」の場合もあります。それならば、「落とした」ではなく「落ちた」のほうが自然なのかな?とちょっと心が動きましたが、このケースに一番ふさわしい言い方は、
「落ちてしまった」
あるいは、
「落としてしまった」
ではないか、と思い直しました。これなら、意図的ではないこともわかりますし、責任の所在も「落ちた」よりははっきりと、発言者に責任があるという雰囲気が感じられます。
うちの妻にも、これからはこういうふうに子供を叱るように言っておくことにしましょう。

2004/1/8



◆ことばの話1528「クリスマスの総本山」

年末に「ニューススクランブル」のお天気コーナーを見ていたら、クリスマスの各国の料理を紹介していました。その中で出てきた表現を聞いて、椅子からずり落ちました。
「ここバチカンは、クリスマスの総本山」
いや、たしかに比喩的には間違っていないのですが、「総本山」という「仏教」の言葉を、「キリスト教」に使うのはまずかろう、ということです。「総本家」なら、まだいいかな。
これに似た例としては、人がたくさん集まって賑やかなところ、あるいは何かの発祥の地を指して、
「○○のメッカ」
という比喩表現がありますね。「スキーのメッカ」とか「高校野球のメッカ」とか。これについて、『NHKことばの「ハンドブック」では、
「イスラム教以外に関して使うのは無理がある」
として、間違いの例として「修験道のメッカ、○○山」「高校野球のメッカ、甲子園」を挙げています。また、日本新聞協会新聞用語懇談会放送分科会が出している『放送で気になる言葉』でも取り上げられていて、
「本来の意味はイスラム教の聖地。『交通事故のメッカ』など悪い意味はもちろん、単に人が集まるところ・名所の意味で使うことも避けたい。」
とあります。
以前聞いたことがある他局のひどい例では、
「仏教のメッカ」
というのがありました。これじゃあ、それと大して変わらないじゃないか。
「総本山」を辞書で引くと、
「本山の上にあって、一つの宗または一つの派を統括する寺。比ゆ的に、ある組織・流派などの大本(おおもと)。」(『岩波国語辞典』)
「(仏)一宗の各本山を統括する寺院。」(『新潮現代国語辞典』)
「一宗の各本山をまとめる寺院。」(『新明解国語辞典』)


やはり「仏教用語」ですね。担当のキャスターとディレクターには注意を促しておきました。

2004/1/8



◆ことばの話1527「サイト」

「ニューススクランブル」のSキャスターから、また質問が来ました。
「『ホームページ』のことを指して『サイト』と呼んでもいいですかね?」
「うーん、どうだろ。『ホームページ』のカタカナ語としての認知度は、数年前の文化庁かなにかの調査で、かなり高くて80%以上いってたと思う(※注)けど、『サイト』になると、おそらく認知度はガクンと落ちるんじゃないかな。英語では、『サイト』の方が正しくてよく使われているようだけど、雰囲気はわかってもきっちり伝わるかどうかの伝達度合いは、低いと思うよ。』
「英語では『サイト』のトップのページ、つまり表紙のことを『ホームページ』と呼ぶんでしたよね。」
「うん。たしか、そうだったと思う。」

日本語の「ホームページ」を指す言葉としては、英語ではほかに「ウェブ」というのもあります。読売新聞校閲部編による『新聞カタカナ語辞典』(中公新書ラクレ、2002,5)によると、「サイト」とは、
「場所。地域。コンピューター用語としては、インターネットで情報を発信している場所をいう。Webサイト、検索サイト、出会い系サイトなど、ホームページと同義で使われることが多い。」
となっています。ああ、「出会い系サイト」は「サイト」だなあ。それで十分通じるなあ。「出会い系ホームページ」とは言わないよなあ。
ついでに「ホームページ」も見ておくと、
「一般に、インターネット上でブラウザーを使って見ることの出来る、ひとまとまりのページの集合を指す。その場所の入り口・表紙に当たる「トップ・ページ」をこう呼ぶこともある。ワールド・ワイド・ウェブという仕組みが使われているため、ウェブサイト、あるいは単にサイトとも呼ばれる。」
まあ、インターネットやってる人にとっては「サイト」と呼ばれようが、「ホームページ」と呼ばれようがわかるでしょうけれど、やっていない人にとっては難解かも知れませんねえ。わかったかな、斉藤、いや、サイト。そういうダジャレは、やめなサイト。
今年も、この調子ですか。

(※注)「平成14年度 国語に関する世論調査」で「ホームページ」の理解度は82,6%。

2004/1/8


◆ことばの話1526「球団」

Jリーグのヴィッセル神戸の経営が思わしくないことから身売りの話が出た先月(去年12月)、そのニュースの原稿をめぐって、Sキャスターからこんな話がありました。
「ヴィッセル神戸を『市民球団』と表現していいんですかね?」
「ん?それって、経営母体が『市民』ベースであるかどうかという話?」
「いえ、そうではなくて、『サッカー』のチームの経営をしている団体(会社)を『球団』と呼ぶかどうかという話なんです。」
「あ!そうかあ。たしかに野球の場合は『球団』って言うけど、サッカーはどうなんだろう?ほかの球技でプロの団体スポーツをやるチームの場合はどうかなあ。」

というような話でした。
『新明解国語辞典』で「球団」を引くと、
「(野球団)プロ野球のチーム(を持つ事業団体)」
とあります。『新潮現代国語辞典』では、
「(俗)「野球団の略称。プロ野球の事業団体」
とありました。「野球団」を略して「球団」なのか。チラッと右のページを見ると、「野球人」の略称として、
「『球人』(俗)野球選手」
というのもありました。へえー。「求人」しか知らなかった。さらに、『岩波国語辞典』を見ると、
「プロ野球のチームを持ち、試合を見せることを事業としている団体。職業野球団。」
とありました。『日本国語大辞典』はどうでしょう?
「(「野球団」の略)職業野球を事業としている団体。プロ野球のチーム。職業野球団。」
と書いてありました。やっぱり少なくともこれまでは「球団」と言えば「野球」だったのですね。でも、世の中の注目されるプロの団体球技スポーツが、野球だけではなくなってきている現状から言うと、サッカーも「球団」と呼んでもいいのかもしれないなあと思う今日この頃です。だって、「蹴球団」だもん。バスケットは「籠球団」か。

2004/1/8

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