◆ことばの話1525「浪速か浪花か?」

去年11月、武庫川女子大のセミナーで講演をさせてもらったあと、スタッフと食事をしました。その際に出た疑問です。
「なぜ、大阪を意味する『なにわ』の表記は、何通りもあるのか?もとは『浪花』か『浪速』か。はたまた『難波』か?」
うーん、わからないなあ。とりあえず現状を調べてみました。
GOOGLEで11月16日調べによると、

    (全体のページ)
「浪速」 ・・・ 17万5000件
「浪花」 ・・・ 32万4000件
「難波」 ・・・ 30万5000件
「浪華」 ・・・ 6330件
「波華」 ・・・ 32万0000件

え!?「波華」なんて、あまり見ないのに32万件!?これは、もしかして中国語にあるからでは?と思って日本語のみの検索にしたところ、やはり、ずいぶん減りました。両方並べてみるとよくわかりますね。

    (日本語のページ)   (全体のページ)
「浪速」 ・・・ 14万3000件 17万5000件
「浪花」 ・・・ 7万1200件 32万4000件
「難波」 ・・・ 22万6000件  30万5000件
「浪華」 ・・・ 6320件 6330件
「波華」 ・・・ 10万3000件 32万0000件

やっぱりね。3分の1に減りました。中国語でたまたま「波華」という表記があるのですね。それが「大阪」のことを指しているかどうかは知りませんが。それでも日本語で「波華」ということばもあるようですねえ。
兎に角、現状からいうと「なにわ」と読める(であろう)漢字の表記は、

(1)難波
(2)浪速
(3)浪花
(4)波華
(5)浪華


の順でした。しかし1位の「難波」は、たいていの場合「なんば」と読むでしょうから、ここは「浪速」と「浪花」の対決に絞りましょう。そうすると、
「浪速」:「浪花」=14万3000件:7万1200件=2:1
の割合で「浪速」の方がよく使われているということです。
お好きな方をどうぞ。
2004/1/8



◆ことばの話1524「ティシュー」

川原亜矢子さんが出演しているクリネックスのティッシュのコマーシャルを見ていたら、
「ティシュー」
と言っていました。画面に出た文字も「ティシュー」でした。
私はふだん、クリネックスのも他社のも使っていますが、ともに、
「ティッシュ」
だと思っていたので、この「ティシュー」には「おや?」っと思いました。
辞書には「ティッシュペーパー」として載っています。「ティッシュ」「ティシュー」とも載っていません。
GOOGLEで検索したところ(12月15日)
「ティシュー」=   3050件
「ティッシュ」=22万7000件

でした。圧倒的に「ティッシュ」が多く使われているのですが、「ティシュー」も3000件以上使われていました。
今回は「ティシュー」というものの存在を知ったということが収穫です。
ちなみにうちの両親は、いまだにティッシュでもなくティシューでもなく、
「ちり紙」
を使っています。

2004/1/8

(追記)

近くのスーパー「ダイエー」に行った時に、ダイエーのプライベート・ブランド(自社製品)のティッシュを売っていましたが、その表示は、
「ティシュ」
でした。小さい「ッ」は入っていませんでした。そんなのもあったのですね。実はその前日、早稲田大学の飯間さんから、こんなメールをいただいていたのでした。

「今、手元にある他社の『ネピア』を見ると『ティシュペーパーは水に溶けにくいので……』と『ティシュ』の形になっています。ネピアのホームページを見ても『ティシュ』です。他社は『ティッシュ』のところもあるでしょうか。」

というもの。これを読んでいたから、ダイエーでの「ティシュ」に目を留めることができたということです。これより前に、飯間さんからはこんなメールもいただいていました。

「十條キンバリーが『クリネックスティシューを生産販売したのは、講談社の『日録20世紀1964』によると1964年とのことで、丸谷才一の小説『中年』(1968)には、もうこの形で出てきます。
”俳優の眼のあたりに微妙な怯えが、あるいは不安が、翳のように漂った。その翳を漂はせたまま彼は焼き飯を食べ終へ、ティシュー・ペイパーで口のまはりを拭いた。”」

というふうに、ずいぶん昔から「ティシュー」や「ティシュ」はあるみたいなのですが、こないだ調べたネット検索でも辞書でも、「ティッシュ」が優勢です。
(2004年1月13日)
・・・・とここまで書いて、ほったらかしになっていました・・・。
現在、2006年6月7日です。2年もほったらかしになっていました。
そうこうするうちに、用語懇談会でご一緒している静岡放送アナウンサーの國本良博さんからメールをもらいました。
『原油高騰の影響でメーカーが値上げを発表した「Tissue Paper」ですが、読みは「ティシュー」なのか「ティッシュ」なのか?我々の中で話題になっています。
インターネットで調べてみますと、メーカーの表示は、
・大王製紙「エリエールティシュー」
・クレシア「クリネックスティシュー」
・王子ネピア「ネピアティシュ」(但しトップページは「ネピア ティッシュ」)
・常盤ティシュ 「ニューグリーンティシュペーパー」
・カミ商事 「エルモアティッシュ」
・河野製紙「保湿ティシュ」
・ダイレイ 「ローションティシュ」
・花王「ウエットティッシュ」(ペット用)
・サンワサプライ「OAウェットティッシュ」
・エレコム「液晶用ウェットクリーニングティッシュ」

製紙メーカーの多くは「ティシュー」「ティシュ」にしているようです。
『広辞苑』では「ティッシュ・ペーパー」を本項目として掲載し、「ティシュ・ペーパー」を副項目としています。
『ジーニアス英和辞典・和英辞典』では、「Tissue」の発音記号は「ティシュー」ですが日本語による説明では「ティッシュ」となっています。
我々は、英語の本来の読みに準じて「ティシュー」をとりたいと思っていますが、道浦さんはどうお考えになりますか?』
ということで、製紙メーカーでは「ティシュー」「ティシュ」が多いようですね。
私はこんな返事を書きました。
『お返事が遅くなりすみませんでした。「平成ことば事情1524」で「ティッシュ」について、2年半ほど前に簡単に取り上げていましたので、ここに写します。
(略)
ということで、一般的には「ティッシュ」ですよねえ。『新聞用語集』では、
「ティッシュペーパー」
ですから、やはり統一表記は「ティッシュ」でしょう。原語の発音に近くすると「ティシュー」もあるのでしょう。『新明解国語辞典』の見出しは「ティッシュ」ですが、意味の説明の中に「ティッシュー」とも書いてありました。
原語の音に忠実に、ということは「原則」なんですが、これまでの「慣用」が強い場合にはなかなかそうは行かないのが現状です。
たとえば「アルミサッシ」の「サッシ」は、本来の音に近くするなら「サッシュ」で、業界では「サッシュ」と言っているようですが、一般的には「サッシ」としか言いませんよね。こういった例に「ティッシュ」も相当するのではないかと思います。
それと、やはり系列でキー局ともお話になってどちらに統一するのか、ということを決めないと、視聴者が混乱するのではないでしょうか?商品の場合のばらつきは「固有名詞」と解釈して「しょうがないな」とするしかないでしょう。「ボージョレーヌーボ」の表記のばらつきと同じです。(参考に「ボージョレーヌーボー」に関して書いたものを添付します。=略)ということで・・・失礼します。』

こんなところで、いかがでしょうか?
なお、Google検索では(6月7日)、
「ティッシュ」= 363万件
「ティッシュー」= 2万3300件
「ティシュー」= 23万1000件
「ティシュ」= 366万件
と、なんと、
「ティシュ」>「ティッシュ」
です。ほぼ同じくらいですが。
2006/6/7
(追記2)

米原万理『心臓に毛が生えている理由』(角川学芸出版、2008、04、30)を読んでいたら、その名も、
「ティッシュペーパー」
というエッセイがありました。米原さんは「テイッシュペーパー」派のようです。
2008/6/4



◆ことばの話1523「リトル・マツイ」

日本時間の12月11日早朝、元・西武ライオンズの松井稼頭央選手のニューヨーク・メッツ入団会見が行われました。これで来シーズンは、ヤンキース松井とメッツ松井の「2人の松井」が、同じニューヨークという街で対決するということになりますね。
さて、このメッツの松井のことを、
「リトル・マツイ」
とも呼ばれているようですが、このアクセントはどうなるのか、アナウンス部で議論になりました。つまり、
(1)「HLL・LHH」
(2)「LHH・HLL」

(Lは低く、Hは高く発音)
のどちらか、ということです。(1)は「リトル」と「マツイ」のそれぞれ独立して発音したもの、そして(2)は「リトル」ち「マツイ」が結合してコンパウンドした形です。
「(1)の別々に発音するんじゃないの?」
と私が言うとHアナは、
「けっこう(2)のコンパウンドした発音で言っている人がいるんですよね。『星野阪神』(「平成ことば事情1088」参照)と同じ問題ですよねえ。」
「そうだね。でも(2)だとまるで『リトル・トウキョウ』みたいやで。」
「そうですねえ。」

ということで、私は、別々に発音する(1)を支持します。皆さんはいかが?

2003/12/11

(追記)

2月4日の日本テレビ「ニュースプラス1」で、キャスターの藤井貴彦アナウンサーと、男性のナレーター(アナウンサーではない)は、ともに、
「リトル・マツイ(HLL・LHH)」
と読んでましたが、同じくキャスターの笛吹アナウンサーは、「リトル」を強調しようとして、
「リトル・マツイ(HLH・LHH)」
というふうに「リトル」の最後の「ル」を上げて、しかも「マツイ」との間を少し空けて発音していました。が、原則は頭高アクセントと考えているのでしょう。
2004/2/5

(追記2)

ホームページを読んでいると、歌手の宇多田ヒカルさんは、
"松井稼頭央選手の名前の「稼頭央」を、「韋駄天(いだてん)」だと思っていた"
ようです。たしかに足も速いし「韋駄天」と呼ばれることもあっただろうし、「漢字の感じ」も、どこかしら似ていますね。宇多田さんは、文字もイメージで捕らえているのかもしれませんね。

2004/2/12

(追記3)

この「追記2」の話を家で妻にしたところ、「韋駄天」を知らないというのです。 「え?ほんとに知らないの?聞いたと、ない?」 と聞くと、
「知らない。何?イダテンって。天ぷら?」
と言うではありませんか!・・・・たしかに「イカ天」とか「ゲゾ天」とか(両方イカか)「エビ天」とか、天ぷらのタネに「○○天」というのはありますが、「イダ天」というのは聞かないなあ・・・。 ようです。たしかに足も速いし「韋駄天」と呼ばれることもあっただろうし、「漢字の感じ」も、どこかしら似ていますね。宇多田さんは、文字もイメージで捕らえているのかもしれませんね。

2004/2/26




◆ことばの話1522「立ち上げる考」

ある日ふと頭に考えが浮かびました。
「『立ち上げる』『立ち上げ』という言葉がどんどん使われる背景には、『旗揚げ』という言葉とイメージが重なる部分があるからではないか。」
そう、ふと思ったのです。もちろんすべての「立ち上げる」が、そういうイメージで使われているわけではないと思いますけれども。

それからしばらくして、去年(2002年)のベストセラー、筑紫哲也の『ニュースキャスター』(集英社新書)を読んでいると、
「新しいニュース番組を起ち上げるだけはなく」(22ページ)
というフレーズが出てきました。
ここではあきらかに「起ち上げる」と書いて「たちあげる」と読ませようとしています。ルビはついていませんでしたが。ここでは「起業」というイメージで「たちあげる」を使っているようです。
いろんなイメージを広く包括して使用できるために、この「立ち上げる」は使い勝手のよさから広く使われるようになったのではないか、と考えました。
2003/12/10



◆ことばの話1521「コインロッカー」

去年の12月、会議で新しい日テレに行った時に、初めて汐留に行きました。新しい街ができて約1年。まだまだこれから、という不思議な活気を感じました。その最寄り駅のJR新橋駅でみかけた、コインロッカーの案内板。カタカナでの表記の下に、こんなアルファベットが。

「COIN  LOCKER」

わかりますか?
そもそも「コインロッカー」というのは「和製英語」であって、純粋な英語ではないのです。それをアルファベットに「直訳」しても、英語を使う外国人には、おそらく通じますまい。そうすると、このアルファベットによる「COIN LOCKER」という表記は、誰に対するものなのか。
表示を出した人の意図である「英語の読める外国人」ではなく、結果としては「英語表記の読める日本人」あるいは「日本語の和製英語に対する知識のある英語のわかる外国人」に対する表示になっているのです。
きっと日本中探すと、こういった「ある意味で無駄な表示」は、掃いて捨てるほどあるのでしょうね。
「だから、和製英語は悪いんだ!」
と短絡的には、私は考えませんが、こと、この表示に関して、無駄は無駄、ですよね。
ちなみに『デイリーコンサイス和英辞典』によると、「コインロッカー」にあたる英語は、
a (coin-operated) locker
だそうです。
2004/1/6

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