◆ことばの話1510「こなそう」

今年9月頃の話。某チャンネルの「笑っていいとも」をボーっと見ていたら、その日のゲスト=大事名お客様は誰かを当てるクイズをしていました。そこに出ていた、名も知らぬ若い女性アイドルが、こう言いました。
「和田アキコは来なそう。」
ん?「こなそう」?「こなさそう」ではないのか?正しくは、さ、どっち???

実はその後、1か月ほど経って、脇浜アナから、
「昨日のニュースで、神戸で硫酸ピッチを放置していた業者のインタビューの音生かし部分で、業者が『法律を知らなさすぎた』って答えていたんですが、この『知らなさすぎる』は、『知らなすぎる』の方が正しいのではないでしょうか?」
(「平成ことば事情1504「知らなすぎる?知らなさすぎる?」参照のこと)
という質問を受けたので、
「あ、これはまったくおんなじ問題だ!」
と気づいたのでした。
「知らなすぎる?知らなさすぎる?」をお読みになった方は、もうわかりますよね。なぜ私が「こなそう」が引っかかったか。NHKの塩田雄大さんの説によると、
「語幹1拍のカ変、サ変、上一、下一のような動詞は、音感上安定しないので、『さ』が入る」
ということですよね。(『明鏡国語辞典』の記述に従うと「こなすぎる」となるのですが。)
「語幹」が一文字と短い動詞の場合に、「語感」がよくないみたいです。
今後も注目します。
2003/12/19



◆ことばの話1509「黒部の語源」

えー、年末恒例の、今年のネタ大ざらえ。
9月に黒部ダムに行ったときのお話です。
「黒部」という地名の語源はいくつか説があるそうなんですが、そのうちの一つはなんと、「アイヌ語で『魔の川』」
からなんだそうです。何に驚いたかというと、長野県のあんな山の中¥で、なんで「アイヌ語か」問うことなんです。やはりアイヌ語というと、
「北海道ちゃうの?」
と思いませんか?せいぜい青森とか、東北の一部くらいでは、と思ったのですが、その後いろいろ本を見返してみると、語源としてのアイヌ語は、何も北海道に限ったことではなく、各地にあるようです。たとえば、東京や関東地方に「谷」と書いて「ヤ」と読む地名が多いのは、実は「ヤ」というのはアイヌ語で「沼地・窪地」というような意味だからだ、というような説もあるそうです。確かに「渋谷」「四谷」「市ケ谷」「幡ヶ谷」「鎌ヶ谷」
「谷中」「千駄ヶ谷」など「谷」を「ヤ」と読む地名が多いですね。大阪だと同じように「渋谷」と書いても「シブタニ」と「タニ」ですもんね。ちょっと「そうなのか!」と思う出来事です。
ついでに7月に北海道は大雪山に言ったときのこと。「大雪山」はアイヌ語で、
「ヌタクカムウシュべ」
というそうです。これは、「屈斜路」「発寒」「苫小牧」「稚内」など、アイヌ語の発音に漢字をあてて地名にしたものとは違い、アイヌ語とは別に「日本語で命名した山の名前」なのですね。
アイヌの言葉の片鱗を知ると、「日本は単一民族・単一原語ではないんだな」ということを実感として思いますね。

このほか、余談ですが・・・まあ、全部余談みたいなものですけど、黒部の発電を企画した高峰博士は、「ジアスターゼ」の発見者である、なんてことも、ダムの記念館に記されていました。中島みゆきの『地上の星』のCDや、NHK『プロジェクトX』のビデオも売っていました。ほんとに余談ですが。
2003/12/19



◆ことばの話1508「バキ」

会長が盗聴を支持していたとして逮捕起訴された、消費者金融最大手の武富士。その元支店長が、やくざまがいの脅しで資金の回収をやらされたとして、裁判所に訴えを起こしました。その際、内部で、
「バキ」
と呼ばれる行為が行われていたというのです。
「バキ」とは、「罵声(ばせい)」と「檄(げき)」を合わせて作られた造語で、罵声でもって檄を送る、というような意味のようですが、その様子を録音したテープを聞くと、脅しにしか聞こえません。
音も「バ」という濁音の持つ「力強さ」「勢い」と、濁った「汚さ」、そして「キ」という音の鋭くえぐったような感じといい、実態をよく音で伝える言葉ではあります。
大教大付属池田小学校児童殺傷事件の宅間被告の「イヤキチ」と並んで、今年の「裏」の「印象に残ったイヤな言葉」の一つになることでしょう。

2003/12/15




◆ことばの話1507「ポン酢で・・・」

会社の近くで昼食を摂ったときのこと。ロースステーキ定食を頼みました。すると、ウエイトレスがこんなふうに聞いてきました。
「ステーキはソースにされますか?それともポン酢で?」
迷わず私は、
「ポン酢で。」
と答えました。そこに迷いはありまさせんでした。しかし、この物言いに自分で引っかかりました。
「『ポン酢で』と言うときの『で』って、なんだろう?」
3秒後に出てきた答えは、
「『ポン酢でお願いします』の『お願いします』を省略した形だ!」
でもまだ問題は残ります。
「ポン酢で、何を『お願い』するのだろう?」
また、すぐさま答えが思い浮かびました。
「『ポン酢で、ステーキの味付けをしてください。お願いします。』の略ではないか?」
ここまで考えて、予約ちょっと納得しました。
YEEMARさんのホームページ「ことばをめぐるひとりごと」の2003年11月28日の記述に「述語を落とす」というのがあります。
『学生の発表を聞いていて、「おやおや、この人はいったい何が言いたいのだろう?」と途中で混乱することがよくあります。こちらが聞きながらメモを取っていても、論旨が混乱して不完全な要約になったりします。』
という書き出しで、「述語を言わない。語尾をあいまいに濁す。述語部分をすっぽりと落とす」という若者の傾向の実例として、NHK「お元気ですか日本列島」(2003.11.27) で、あることば遣い(「『〜じゃないですか』をどう思いますか?」)について問われて、渋谷の若い人の答えを上げています。
(男性)「いきなり初対面とかの人に言われても、逆に。そういうほうはちょっと。だからその、人間関係があれば問題ないですね」
この文では述語が2箇所向けているのだそうです。
「いきなり初対面とかの人に言われても、逆に〔 a 〕。そういうほうはちょっと〔 b 〕。だからその、人間関係があれば問題ないですね」
 その「a」「b」は何なのだ、「a」「b」をはっきり言ってくれ、と質(ただ)したい気持ちになります。ことによると、本人の語彙には、その「a」「b」がないのかもしれません。また、本人は明確には表現したくないのだと想像されます。そこに問題の本質があると考えられます。 述語をすっぽり抜かすというのは、学生に限ったことではなく、どの年代でもあることかもしれません。というより、ありそうな気がします。たまたま、僕の耳に学生のことばが引っかかったということです。


と結んでいます。今これを書いていて思い出しました。私はあまり好きではないので見ていないのですが、(ちょっと矛盾。見ていないのになぜ好きじゃないとわかるのか。でも、わかる。)フジテレビのドラマ「北の国から」の主人公が、
「でも、それは、○○というわけで・・・・」
という言い方をするのが特徴だったのを思い出しました。見ていなくても知っています。また、20年ぐらい前のアニメで、(たぶん「北の国から」の影響を受けたのでしょうが)「気まぐれオレンジロード」とかなんとかいうのも、主人公の男の子がこの「僕は、困ってしまったわけで・・・。」という物言いをしていたのも思い出しました。
そのあたりの流行と定着、というのも「述語を落とす」ことと関連があるのかもしれませんね。え?本当に関連あるのか、と言われると、私は困ってしまうわけで・・・。
2003/12/25



◆ことばの話1506「考えられうる」

12月18日、イラクへの自衛隊の派遣が決定されました。その際の、石破防衛庁長官の発言。

「考えられうる最大限の・・・・」

なんだったかは忘れました。この言葉で「なんだかなー」と思ってしまって。字幕もそのとおり出ていました。この「考えられうる」は、「可能が二重」になっていませんか。普通は、
「考えられる」
か、もしくは、
「考えうる」
か、どちらかではないでしょうかね。あれ?この「られ」は、もしかして可能ではなく受身?だとすれば、これは間違いではないですね。でもそうすると、なぜ受身形を使うのでしょうか?
「考えられる」ならば主語は「私」ですが、「考えられうる」の主語は・・・・誰?世間?
自分ひとりが考えたのではなく、みんなで考えたその英知の集結するところでもって考えに考え抜かれた(受身)最大限度の・・・という意味合いなのでしょうか。一人よりも二人、二人よりも三人、三人寄れば文殊の知恵というではありませんか。そんなに英知が集結して考え抜いたのに、この時期に自衛隊派遣・・・・。
2003/12/25

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