◆ことばの話1475「在日朝鮮人の人」

9月30日、NHKのお昼のニュースを見ていると、北朝鮮のマンギョンボン号入港のニュースで、武田アナウンサーが
在日朝鮮人の人が出迎える中」
と、原稿を読みました。これは、
「人」が重なってるのではないでしょうか。しかし、こういうふうに読む気持ちは分ります。なぜなら、
在日朝鮮人が出迎える中」
では、ちょっと、突き放した冷たすぎる感じがするからです。ということは、この「在日朝鮮人の人」という言い方は、「一種の敬意表現」ではないのでしょうか。そんな考えが浮かびました。
それと同じ時期、アテネオリンピック予選に臨む、野球の「長嶋ジャパン」のメンバー発表での長嶋監督の発言に注目しました。9月30日、午前4時52分に放送された、NNN24の「ニュースあさいち430」で流れた長嶋監督のインタビューで、長嶋監督は、
「今の現時点で一番ベストのメンバー」
「点を取られないこと、失点を与えないことが大切」

というふうに話していました。実際、その後の試合では3試合で1失点と「有言実行」だったわけですが、この「今の現時点で」「一番ベスト」などは、同じことの繰り返しです。いわゆる一つの「長嶋語」の一つと思われますが、これも実は「念押しで親切」なのかもしれません。
また、外来語と日本語を繰り返す言い方の中には、「ワースト1(ワン)」のようにかなり定着しているものをありますし、一概に排除できないのではないでしょうか。
長嶋発言とNHKアナ発言が重なったので、そういうことを考えました。

2003/11/12



◆ことばの話1474「鳥肌が立つ2」

平成ことば事情634で書いた「鳥肌が立つ」の続編です。
読売新聞夕刊で話題の連載「新日本語の現場」では今、放送で使う言葉、つまり話し言葉にスポットを当てています。私も2度ほど、登場させていただきました。その中で「感動で鳥肌が立つ」ということについてどう考えるか、またその現状について、10月28日と29日の2回にわたって(第198回と199回)書かれています。それによると、実は74年前、小林多喜二の小説『不在地主』で、
「健は身体に鳥膚が立つ程興奮を感じた」
と、感動の鳥肌(膚)が使われた例があると、『日本国語大辞典』の用例に載っているそうです。
そしてこの連載を担当している読売新聞の関根記者によりますと、読者の方から「鳥肌が立つ」について30通ほどの反響があったそうですが、それらはすべて、
「なぜ『感動で鳥肌が立つ』を使ってはいけないのか。別に構わないではないか。」
という主旨のものだったということです。
私はそれについて、逆に考えてみました。「なぜ、『感動で鳥肌が立つ』を使うことに嫌悪を感じるのか?」という視点です。もちろん、
「今までは、恐怖や寒さに使ったんだから、そういう意味で違和感がある」
というのが大きな要因でしょうが、それ以外にも何かある!とにらんだのです。そして、目を閉じて「鳥肌」を思い浮かべました・・・・鳥肌が立ちました・・・ということはなく、目を開けた時には、一つの考えが浮かんでいました。それは、
「トリ肉のあのブツブツの皮の部分がキライなひとは、『感動に鳥肌が立つ』という表現を使うことを嫌っているのではないか。あのブツブツの皮が好き、あるいは苦手ではない人は、感動にも『鳥肌が立つ』を使っても違和感がないのではないか。」
というアイデアでした。どうです?これは一つ調べてみる価値があると思いませんか?
え?私ですか?私は実は、トリの皮のブツブツ、小さい頃から好物なんですよ。

2003/11/25

(追記)

金子達仁『WM(ヴェーエム)ワールドカップ・ドイツ2006観戦記』(ランダムハウス講談社・2006、8、10)を読んでいたら、108ページの「ドイツ対アルゼンチン」のところに、
「ボールポゼッションに徹底してこだわるアルゼンチンに対し、急所を突く一発のカウンターを狙うドイツ。ショートキル対ロングキル。まったく異なる哲学の激突は、鳥肌が立つほど緊迫したものとなった。」
とありました。この「鳥肌」は「感動」なのか、それとも「恐ろしさ」なのか?「緊迫した状況」というのはその両方がある状況なのでしょう。想像はつきますね。

2006/9/4
(追記2)

2005年8月23日の夜7時からABCテレビで、
「トリハダ・感動名言ボロ〜ンスペシャル!横山やすしVSビートたけし、芸人頂上決戦!!」
という番組を放送していました。
「月曜深夜の名言バラエティが今夜七時にスペシャルO.A.!!」
という広告のサブタイトル。ここでは「感動で立つトリハダ」をタイトルにしていました。この場合「漢字」で「鳥肌」ではなく、「感じ」で。つまり「カタカナ」で「トリハダ」というところがミソのようです。
2006/10/31



◆ことばの話1473「くさい」

新人の女性アナウンサーKさんが、
「○○くさい」
という言葉を平気で使うのを聞きとがめた私。
「『○○くさい』というのは、よい意味では使わないよ。」
と指摘すると、
「へえー、そうですか、知りませんでした。」
それを横で聞いていた若手のOアナウンサーは、
「うーん、(若者は)普通に使いますね、良い意味でも悪い意味でも。」
と言うではありませんか!どういうふうに使うのかを聞いてみると、
「たとえば、『あいつ、彼女と別れたくさいよ』という感じで使いますね。」
「それは、誰かから聞いたという『伝聞』の場合なの?」
「いえ、そうではではなくで、自分でいろんな兆候から推理する『類推』の場合に使いますね。」
今度はこちらが「へえー」と言う番でした。
「そういう意味では、『○○っぽい』という言葉がちょっと前には使われてなかった?『あいつ、別れたっぽいよ』なんて感じで。」
「ああ、それと一緒の使い方ですね。最近は『○○っぽい』の代わりに『○○くさい』を使いますね。」
ということでした。これは果たして全国的な傾向なのか?それとも関西に特有なのか?Kアナは東京出身ですから、全国的な若者ことばの傾向かもしれません。
「この言葉は、全国で使われているくさい」
という証拠をつかんだ方は、ご一報を!!
あ、平成ことば事情143「さびくさい」もご覧くださいね。

2003/11/25



◆ことばの話1472「マイケル・ジャクソン容疑者」

ご存知、世界的な人気歌手マイケル・ジャクソンが、少年に対する性的虐待の疑いで、11月19日、カリフォルニア州のサンタバーバラ保安官事務所から逮捕状が出て、20日、出頭したところを逮捕されました。が、保釈金300万ドル(およそ3億3000万円)を払って1時間あまりで保釈されたというニュースが、今朝(日本時間の21日午前5時過ぎ)のトップニュースでした。
さて、この逮捕状が出た時点(20日夕方)での、放送各社のマイケル・ジャクソンに対する呼称が違いました。
(日本テレビ)マイケルさん、マイケル氏
(TBS)  マイケルさん
(フジテレビ)マイケル容疑者
(テレビ朝日)マイケル・ジャクソン容疑者、ジャクソン容疑者、マイケルジャクソン(呼び捨て)

(NHKは確認できず。)
また、新聞の夕刊(20日)各紙は、

  (見出し)  (本文2回目以降)
(読売) M・ジャクソン容疑者  ジャクソン容疑者
(朝日) M・ジャクソン容疑者 同容疑者
(日経) M・ジャクソン容疑者 ジャクソン容疑者
(毎日) ジャクソン氏 ジャクソン氏
(産経) M・ジャクソン氏 ジャクソン容疑者

というふうに、「氏」派と「容疑者」派に分かれました。このへんの基準はどうなっているんでしょうか。逮捕状が出た段階で容疑は固まったわけですから、「容疑者」でいいのではないかと思うのですが。
そして今日(21日)、逮捕された時から、テレビ各社は「容疑者」呼称で統一されました。そして1回目は各社「マイケル・ジャクソン容疑者」とフルネームで読んでいたのですが、2回目は各社の呼び方が分かれました。
(日本テレビ)ジャクソン容疑者
(TBS)  ジャクソン容疑者
(NHK)  ジャクソン容疑者
(テレビ朝日)マイケル容疑者
(フジテレビ) マイケル容疑者

そして同じく21日の夕刊各紙は、

  (見出し)  (本文2回目以降)
(読売) M・ジャクソン容疑者  同容疑者
(朝日) M・ジャクソン容疑者 同容疑者
(毎日) M・ジャクソン容疑者 同容疑者
(産経) マイケル(ついに逮捕)  ジャクソン容疑者
(日経) M・ジャクソン容疑者 ジャクソン容疑者

という具合でした。つまり、新聞は「同容疑者」という、書き言葉独特の使い方はしているものの、「ジャクソン」容疑者で統一されています。「苗字+容疑者」ですね。
それに対して、テレビ局は、テレビ朝日とフジテレビが「マイケル容疑者」という「名前+容疑者」という、ちょっと変わった形です。これで思い出すのは、和歌山の毒入りカレー事件で林真須美・健治夫婦がともに容疑者・被告として報じられた時期に、
「真須美容疑者」「健治容疑者」
というような表記があったのと、例のサッチー騒動の時の野村沙知代さんの呼称、
「沙知代夫人」
というような例でしょうか。(これはちょっと違うか?)
今後は「マイケル容疑者」なのか、「ジャクソン容疑者」になるのか、事件の行方とともに注目したいと思います。

2003/11/21



◆ことばの話1471「バングラデシュとフィーチャー」

メモを整理していたら、
12月28日6時49分 ズームイン!!SUPER 
×『バングラディッシュ』

と書かれた紙切れが出てきました。ああ、去年の年末の「ズームイン!!SUPER」に出ていたアナウンサーが、「バングラデシュ」のことを「バングラディッシュ」と間違って言っていたということだな、とわかりました。
ためしに、アナウンス部の後輩に、
「バングラディッシュってわかる?」
と突然、なぞかけのように言うと、中堅のMアナは、
「ああ、バングラデシュでしょ。(正しくは。)」
と答えたのですが、新人のKアナは、
「バングラディッシュ・・・ディッシュってお皿のことですかあ?」
「違うがな、正しくは『バングラデシュ』なのに、間違って『バングラディッシュ』と言ってしまう人がいるという話やがな。」

と言うと、
「へぇー。」
と、「トリビア状態」でした。
「ほら、テレビ業界でも正しくは『フリップ』なのに『フィリップ』って言う人がいるじゃない。そう言った方が、英語っぽく聞こえるんだろうねえ。」
と訳知り顔でいうと、それを横で聞いていた中堅のNアナ。
「そう言えば、『フィーチャー』のことを『フューチャー』って言う人、いますよね。」
ドキッ!それって、もしかしたらオレのこと?と思いながら、
「え?あの音楽番組などで、『桑田圭祐をフューチャーしたTUBEのコンサート』って感じで使うヤツ?あれって『フューチャー』じゃあないの?」
「違いますよ!『フューチャー』じゃあ、『未来』じゃないですか。『未来』の綴りはfutureでしょ?この場合はfeatureです。」

英和辞典を引いてみると、確かに違う。featureには動詞の意味として、
「・・・の特徴になる、呼び物にする、特集する、出演させる」
などと載っていました。そうかあ、知らなかったなあ。
「人を呪わば穴二つ」ですねえ・・・。

2003/11/14

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