◆ことばの話1465「筋金入り」

坪内祐三著『一九七二』(文藝春秋2003,4)を読んでいると、
「筋金入り」
という言葉が出てきました。どういう文脈かというと、
「キャロルが、テレビが生み出した初めてのロックスターであったことに注目してもらいたい。ミッキー・カーチス、内田裕也、パンタ、近田春夫、皆いずれ劣らぬ日本のロック草創期の筋金入りのロッカーたちばかりだ。」
というものでした。ここでは「筋金入りのロッカー」というふうに「ロックミュージックをする人」に「筋金入り」が使われています。この言葉で思い出すのは、以前「読売新聞ニュース」という番組があったのですが、その中で、ペルーの日本大使館公邸占拠事件のニュースを伝えた中で、犯人の男たちのことを、
「筋金入りのテロリスト」
という表現をした原稿を読んだところ、当時のHプロデューサーが、
「テロリストに『筋金入り』という表現をするのはいかがなものか?」
と言い出したのです。つまり、「筋金入り」は、悪者には使わない、「善い者に使う、ほめ言葉」だというわけです。いろいろ調べたところ、必ずしも悪者に使わないわけではなく、悪者であっても、なかなか見上げたヤツ、という感じで使われたケースもあったのですが。
今でもこの「筋金入り」という言葉に出会う度に、あの事件とHプロデューサーを思い出します。

2003/11/4

(追記)
毎日新聞に連載されている、大阪外国語大学の小矢野哲夫教授の言葉のコラム「ことばの路地裏(第55回)」(2004年4月22日)で、「筋金入り」が取り上げられていました。それによると、「筋金入り」とは、
「思想や身体が鍛え抜かれてしっかりしているさま。筋金は物を堅固に補強するために内部に入れる鉄の棒や線。これが比喩(ひゆ)的に用いられたもの。」で、「今では『筋金入りの身体』『筋金入りのファン』など内容が多様化して当たり前に使われるが、実は1949年の流行語。」
えー!流行語だったのか!1949年と言うと、私はまだ生まれていませんが、昭和24年ですね。そして、どういう背景で流行語になったかと言うと、
「『日録20世紀』(講談社)によると、共産主義の信奉者のこと。抑留されていたシベリアから復員した日本兵が共産主義者に変わって帰国したそうで、その精神的な強さを『筋金入り』と呼んだ。」
のだそうです。以下、小矢野先生の感想。
「半世紀を過ぎた今日、このような思想的な堅固さは影を潜めた感がある。『右向け、右』の号令一下、条件反射的に従ってしまうところに個性の輝きも自己の良心もない。上を見てばかりの『ヒラメ』に筋金を入れなきゃ。」

この「ことばの路地裏」、小矢野先生のホームページ「けとば珍聞」で読めますよ。

2004/4/23




◆ことばの話1464「上回生」

インターネットの掲示板「ことば会議室」で、大阪大学の岡島先生が、
「関西の大学では、1年生、2年生のことを1回生、2回生というのは知られているが、最近『上級生』のことを『上回生』と言っているのを聞いた。」
という話が出ました。私は「上回生」という言葉を初めて目にしました。いまだに耳にしたことはありませんが。そういう言い方は、本当に広まっているのでしょうか?
GOOGLE検索では1480件(10月3日しらべ)出てきました。しかしこの件数だけで、本当に「よく」使われていると断定はできません。が、「使われている」のは事実のようです。
この件に関して各大学の先生に聞いたところ、大阪外国語大学の小矢野哲夫先生は、
「『上回生(じょうかいせい)』は大阪外大ではかなり以前から使われています。新入生歓迎物の立て看板にも書かれています。ただし、話の中で使われている例は知りません。文字です。『上級生』という言葉が使われているかどうかは把握していません。」

というお返事が届きました。
また、甲南大学の都染直也先生からは、一般教育科目履修の学生に聞いてくれた結果が届きました。それによると、
 自分で使う    16人
 聞くけど不使用  21人
 聞いたこともない 67人 合計104人

とのことでした。これだと「自分で使うか、聞いたことがある人」は35,6%ということですね。受講者は文理法済営の5つの学部の学生で、理工学部のみ1年次生から、他は2年次生以上が受講。学部間の違いなどはなかったそうです。
そして、同志社大学サッカー部の古川勝巳先生からもメールでお返事が来ました。
「いまの学生は自分より上の学生に限り『上回生』と呼ぶようです。上級生との分化について聞いたところ、関西の学生は『上級生』はほとんど使わないとのことです、つまり死語となっているわけです。実は私も『上回生』という言葉があったのも知らなかったし、学生の前で平気で『上級生』を使っていました。」
とのこと。サッカーを通じて同志社をはじめとする関西の学生にも顔の広い古川先生のお話ですから、関西でかなり広まっていることが伺えます。
この「上回生」という言葉は、古川先生が書かれているように、「自分より上の年次の学年」を指すという意味では、使う人によってその範囲は変わります。そういう意味では小学校における「低学年(1,2年生)・中学年(3,4年生)・高学年(5、6年生)」というふうな固定的な使い方とは違って、「その人から見て」という限定条件が入るようです。
武庫川女子大学の佐竹先生からは、
「私の印象では、上級生と同じ意味に思えました。ただし、上級生という言い方は、
大学生にとって『高校生っぽい、あるいは、上下の連続性の強い語』なのではないでしょうか。かつて、大学生に限りませんが『先輩』ということばが幅を利かしていました。しかし『先輩』も体育会系に象徴されるような上下の関係が強い人間関係をイメージさせます。今の大学生にとって、対人関係は希薄なので、特に上下の強い関係を意味することばは敬遠されるのではないでしょうか。その点で『上回生』は形式性が強くて便利そうです。
話しことばよりも、書きことばのほうが使いやすそうですが。もっとも『回生』は関西流なので、全国制覇はできないでしょう。」
というコメントをいただきました。そうか、「先輩」に代わる言葉としての「上回生」か。つまりタテの人間関係を色濃く匂わす「先輩」が嫌われた結果、高校まで使ってきた「上級生」と「○回生」が合体して、新しく「上回生」という言葉を生み出したのかもしれませんね。パッと見ると特別なことばには見えませんが、私たちが学生時代には使わなかった新しい言葉がジワッジワッと生まれては広がっているようです。

2003/11/4


(追記)
現在行われている読売テレビのアナウンサー採用試験を受けに来た学生さん(大学3年生)で、
「自分も、最上回生になるわけですから・・・・」
というふうに、
「最上回生」
という言葉を使った関西の大学の学生さんがいました。やはり、関西では「上回生」はよく使われて応用もされているようです。
GOOGLE検索では「最上回生」は89件ありました

2004/1/22

(追記2)
『88年版ことばのくずかご』(見坊豪紀ほか、筑摩書房)を読んでいたら82ページに、
「新入生\200・上回生\300」
という記述が出てきました。1987年5月16日に大阪外国語大学の立て看板から採集して「けとば珍聞6月17日号」に載ったものを、見坊さんが記録したもののようですが、大阪外国語大学で「けとば珍聞」と言えば、この冒頭にも書いた小矢野哲夫先生ではないですか!
「『上回生』は、大阪外大では随分前から使われています」
という小矢野先生のお答えは、このことを指していたんですね!

2005/9/23



◆ことばの話1463「サラブレッドの子は・・・」

S社の軽自動車のコマーシャルのナレーションを聞いてビクっときました。
「サラブレッドの子はサラブレッド」
というものなのですが、これは「カエルの子はカエル」の「良い方バージョン」で、
「素晴らしい車の系統を受け継ぐ車は、やはり素晴らしい車」
という意味ですね。それはなんてことはないのですが、「血筋」「血統」という意味合いが感じられると、敏感になります。
「サラブレッド」は本来(もなにも)「馬」ですから、競馬などで、「血統」「血筋」という言葉や考え方が出てくるのは、何の問題もないと思うのですが、これが「人間」に使われた場合は、取り扱いが微妙になります。
「血筋」や「血統」という、本人の努力ではどうしようもないものを尊重することは、差別を肯定、助長することにつながりかねないという考え方からです。
このCMは、「サラブレッド」にたとえられているものが「自動車」ですから、問題はないと思いますが、なんとなくビクッとします。
最近、「政界のサラブレッド」というような形容詞をよく耳にする某幹事長などは、もちろん回りは「ほめ言葉」として使っているわけですが、どういう気持ちで聞いているのでしょうかね。

2003/10/30



◆ことばの話1462「Sアナの疑問」

先日グルメ取材でマツタケの土瓶蒸しを堪能してきたSアナ。アナウンス部に帰ってきて、
「いやー、うまかったです!」
と、ひとしきり感想を漏らしたあとに、不思議そうに一言。

「それにしてもあの土瓶蒸しが入っている入れ物、あれって、なんですかね?急須??」

・・・・こいつに土瓶蒸し、食べる資格なし!
その場にいた皆が、そう思いました。Wアナが、
「それやったら、急須蒸しやんか!」
と鋭い突込みを入れてくれたそうですが・・・。

あとでこの話を、Sキャスターにしたところ、大笑いするかと思いきや、

「でもたしか去年の今頃、Sは土瓶蒸しを食べながら、『これはギンナンでしょ、これはマツタケでしょ、・・・ドビンは一体どこに入ってるんですかねえ・・・・』って言ってましたよ。」

・・・・・度し難い。
S君、早く大人になってくれい!!

2003/10/31

(追記)
あれから半年。「どっちの料理ショー」の取材でハワイに行ってきたSアナ。Wアナに対して、こんな話をしたそうです。
「いやあ、ハワイで山に登って見た日の出、とってもキレイだったんですよ!でも、富士山なんかでも、高い山に登ると、雲から太陽が出てきますよね。あれって、雲がないときは、どこから太陽は出てくるんですかねえ?」
・・・・一体、彼は何について尋ねているのか、Wアナはわからなかったそうです。もちろん私も、彼が何を言っているのか、よくわかりません。Wアナは試しに一つSアナに質問をしました。
「『それでも地球は動いている』って言った人は誰か知ってる?」
「・・・・たしか、『ガ』が付きますよね・・・?」
と言ったっきり、答えは返ってこなかったそうです・・・。嗚呼。


2004/4/16

(追記2)
さらにそれから8か月。今月もSアナ、海外取材です。今度はチョコレート職人・ショコラティエの取材でフランスへ。パリから2時間ほど南東へ行ったところにある「トロワ」という町だそうです。世界地図を広げてフランスのところを見て、「あ、ここか!」と見つけました。いろんなところに行くんだなあ。
私は6年前、1998年のフランスワールドカップの時に初めてフランスに行きました。リヨンでの日本対ジャマイカ戦を見る時に、なぜか、泊まったところはリヨンからバスで2時間ほど西にある、「クレルモンフェラン」という町でした。オーベルニュ地方の真ん中にあります。カントルーブの「オーベルニューの歌」を学生時代に合唱団で歌ったことがあるので、なんとなく親しみを感じた町でした。そしてこの「クレルモンフェラン」は、
「人間は考える葦である」
と言った、かのパスカルの生誕地だったのです。その話をSアナにして、
「パスカルって、知ってるよな?」
と聞くと、深く頷きながら、
「日本史の教科書に出てきましたよね。」
????「日本史」には、おそらく出てこないと思うけど・・・出てくるなら「世界史」では?と、問うと、
「・・・・『歴史』って言おうと思って『日本史』って言っちゃいました・・・。」
パスカルを知らなくてもフランスに行くことはできます。萩原朔太郎は行けなかったけど・・・・。

2004/12/9



◆ことばの話1461「Uアナの憂鬱」

選挙が近づいてきました。アナウンス部でUアナウンサーが、3年前、2000年の衆議院議員選挙の特番のビデオを見ていました。
「今年はバタバタして、『こちら・・ではなくて、こちら・・・でもなくて、やっぱりこちらです』みたいにならないようにしないとね。」
というふうに話しかけたら、Sアナと顔を見合わせたUアナが、Sアナと二人、声を揃えてこんな言葉を。
「しかしそしてではなくてしかも」
なんじゃ?その呪文のようなのは!?と聞くと、以前番組の中で、原稿に、
「しかも」
という言葉が書いてあったのですが、「しか」だけが先に目に入ったので、
てっきり、「しかし」だと思って、
そう読んでしまったとたんに、
「しかし」ではない
ことに気づき、とっさに、
「そして」
で繋いで読み続けようとしたのですが、
「そして」では、どうしても「しかも」に繋がらない
ことに思い至ったUアナは、ここで方向修正、
「ではなくて」
と、これまで自分がしゃべった内容を全面否定、ようやく本来の
「しかも」

と言うことができた、というのが真相だったのです。
そのとき、隣の席で相方として、次のニュースを読むためにスタンバイしていたSアナは、笑いをこらえるのに必死で、肩がヒクヒク震えていたとか・・・。
今回の11月9日の衆議院選挙の開票特別番組では、そういうことのないようにして欲しいものです。

2003/10/31

(追記)
あれから半年たった、きのう(4月15日)の「ニューススクランブル」で、Uアナは、
「今回は結果として」
という原稿を読もうとして、
「ケンカイハ、コッカトシテ」
と言ってしまったとのことです。それをスタジオで聞いていたAアナは、
「あれ?いま『今回』と言うのをU先輩は『ケンカイ』って言ったよね?でもどうして誰も、何もなかったかのようにピクリともしないし、クスクス笑ったりしないんだろう?私の聞き間違いかなあ・・・。」
と思ったそうです。あとでその話を聞いたUアナとSアナは、ピシリッと、
「それが報道番組と言うものなんだよ!」
報道の世界ってキビシイ・・・のかキビシクないのか・・・。
さあー、どっち?

2004/4/16


(追記)
それともう一つ、
「〜したのは、およそ200万人ということで」
と読むべきところを、
「〜したのは200万人およそということで」
と読んじゃったそうです。言い忘れたのなら、「およそ」を律儀に付けなくてもええがな、もう・・・。

2004/5/6