◆ことばの話1460「ロープーウェイ」

10月15日、長野県三岳村の「御岳ロープウェイ」で、ゴンドラの窓枠が外れて乗客2人が投げ出されて死亡するという痛ましい事故が起きました。つい数週間前に近くの黒部でロープーウエーに乗ったばかりだったので、余計にその怖さが身にしみました。
さて、そのロープウエーですが、表記は「ロープウェイ」か「ロープウエー」か「ロープウェー」なのか?という疑問が出てきました。
日本新聞協会の『新聞用語集』などを見ると、
「ロープウエー」
となっています。インターネットの検索エンジンGOOGLEで調べたところ、(10月20日しらべ)、
「ロープウエイ」=5万0300件
「ロープウェイ」=4万7000件
「ロープウエー」=5万0600件
「ロープウェー」=5万0300件

うーん、信用していいのだろうか、この数字。GOOGLEでは、これらの表記をあまり区別せずに数えているのかもしれませんねえ・・・。
ちなみにこの「御岳」のロープウエーの場合、固有名詞として、
「御岳ロープウェイ」
なのです。つまり「エ」が小さくて、最後は「イ」と表記します。「ウェイ」です。長音符号を使った「ウエー」や「ウェー」ではありません。一般的にも「ウエー」より「ウェイ」という表記の方が、よく目にするような気がしますね。しかし、そのあたりは、新聞をよく読むと、きっちりと区別して使っています。さすが!
さて、この話をしていた時に、Uキャスターが、
「私は、『ロープーウエイ』って言う」
と言い出したのです。わかりますか、違いが。「ロープの道」だから「ロープ」+「ウエー」(あるいは「ウェー」「ウェイ」「ウエイ」)なのですが、そうではなくて「ロープー」と伸ばすと言うのです!そんなアホな!と思いながらも、確かに「ロープウエイ」と「ロープーウェイ」、発音してみるとほとんど区別はつきません。だから、表記もそう思い込んでいる人がいるかもしれないと思って検索してみると、いました、いました。
「ロープーウェー」=878件
「ロープーウェー」=4840件
「ロープーウェイ」=4680件
「ロープーウエイ」=4650件
結構いますねえ。この中にはテレビ大阪のUアナウンサーも含まれていました。UキャスターとはUつながりか。
これは「雰囲気(ふんいき)」を「ふいんき」と思っている人が結構たくさんいる、というのとよく似ています。目から入る言葉(つまり字を書いたり読んだりする)よりも耳から入る言葉(話し言葉)をよく使う人、論理的な人よりも感覚的な人に多いような気がします。
ついでに検索キーワードに「ゴンドラ」を加えてみました。
「ロープーウェー・ゴンドラ」=576件
「ロープーウェイ・ゴンドラ」=561件
「ロープウェイ・ゴンドラ」=1万1100件
「ロープウエー・ゴンドラ」=5110件

それで、単独で「ロープー」を引いたら、5530件でした。この数字がどういう意味を持つかはわかりませんが、少なくとも世の中には、「ROPE WAY」のことを、
「ロープー」+「ウエイ」(「ウェイ」「ウエー」「ウェー」)
というふうに思っている人がいることは確認できたと思います。
なぜ「ロープー」と伸ばしてしまうのか?それは日本語の言葉のリズムに合うからではないでしょうか。「ロープ・ウエイ」の場合は、「タンタ・タタン」というリズムになります。音符で言うと、
「四分音符・八分音符(あるいは十六分音符・十六分休符)・八分音符・四分音符」
となります。割と弾むリズムです。これに対して「ロープーウエイ」だと、「タンタンタン」、
「四分音符・四分音符・四分音符」

で、同じ音符が3つという単純なリズムになります。こちらの方が、日本人にはなじみやすいリズムなのではないのでしょうか。だから「ロープー」と伸ばしてしまうのでは?
また、なぜ新聞は「ウエイ」という表記を取らないかというと、二重母音の表記は、原則長音符号を使うことになっているからのようです。
「ロープーウエイ」問題は、二重母音と長音符号の問題に、日本語のリズムの問題が絡んでいるんだと思います。

2003/10/31



◆ことばの話1459「打ち損ねと打ち損ない」

日本シリーズの野球中継を聞いていて耳に残った言葉は「打ち損ね」です。これって「打ち損ない」とも言いますよね。一体、ニュアンスは、どう違うのでしょうか?動詞の形の違いを見てみると、「損ねる」と「損なう」の違いです。とも他動詞ですが、「損ねる」は「機嫌を損ねる」というふうに使います。相手の機嫌を「損ねる」。これに対して「損なう」は「(自らの)健康を損なう」というように、自分に対して使うような気がします。
と言っても、「(自分の)健康を損ねる」という言い方もしますよね。これは第三者的に自分を見ているということかな。辞書を引いてみましょう。『新明解国語辞典』では、 「そこなう」=(1)機能が(完全に)失われた状態にする。「一物もそこなう(=こわす)こと無く」「一兵も損なわずに(=損傷させないで)(2)本来持っていた正常な状態を失う。「機嫌をそこなう」「健康をそこなう」「純真な性格が損なわれる」意欲(イメージ・信頼感覚・品位)をそこなう(=・・・が極端に言えばゼロに近い状態になる)」 あと(2)の意味は、接尾語的な「死にそこなう」などの解説が載っています。一方の「そこねる」はと言うと、
「そこねる」=「そこなう」の少しくだけた言い方。「機嫌をそこねる」
ええ!!そうなの!?「そこねる」は「そこなう」のくだけた言い方なの??ほかの辞書はどうか?
『新潮現代国語辞典』では
「そこねる」=そこなう

としか書かれていない!!なんじゃこりゃ!!ただ用例は『浮雲』から、
「課長殿の御機嫌をそこねた時は」
とか『武蔵野』の、
「武蔵野の路はこれとは異なり、相逢わんとて往くとても逢ひそこね、相避けんとて歩むも」
そして『草枕』から、
「一反鳴きそこねた咽喉は」
などの用例が引かれていました。また、GOOGLE検索(10月29日しらべ)では、
「打ち損ね」=237件
「打ちそこね」=215件
「打ち損ない」=335件
「打ちそこない」=196件

でした。漢字では「打ち損ない」が、ひらがな交じりだと「打ちそこね」が多いという結果が出ましたが、その差はそれほど大きくはありません。

2003/10/31



◆ことばの話1458「『こまかな』と『こまやかな』」

「きめ細かい」という言葉に触れた時に、ふと、思いました。
「『こまかな』と『こまやかな』はどう違うのだろうか?」
うーんと考えること5秒。チーン!
「こまかな」は、物の状態を指す言葉で「静」、ソリッドなものに対して使うのに対して、「こまやかな」はものの動く様子を表現したもの、まさに「動」的なものに使う形容動詞なのではないでしょうか?「こまかな柄」と言う時に「柄」は動きません。止っています。「こまやかな神経」と言う時には、その神経は動いていますね。こういった違いがあるのではないでしょうか。
『日本国語大辞典』では、(用例は略)

「こまか(細か)」=(1)非常に小さいさま。微細なさま。(2)繊細で美しいさま。上品でしとやかなさま。きめこまかで風情があるさま。こまやか。(3)くわしいさま。ことこまかであるさま。詳細。(4)念入りであるさま。こまごまと注意深くするさま。丁寧。綿密。また、ささいなことに、あれこれ気をとめるさま。(5)こまごまと親身に心の行き届いているさま。親切なさま。(6)勘定高いさま。けちなさま。みみっちいさま。 「こまやか(細やか)」(=「やか」は接尾語)=(1)こまごまとしているさま。(イ)細かいさま。小さいさま。微小なさま。(ロ)地肌や地質が細かなさま。(ハ)(髪などが)繊細で美しいさま。(2)思いやりや感情をこめたさま(イ)思いやりの気持ちや親愛の気持ちがすみずみまで行き届いているさま。ねんごろなさま。親密なさま。(ロ)感情をこめたさま。(3)こまごまと詳しいさま。緻密なさま。綿密なさま。(4)細かなところまでよく手が届いてすぐれているさま。精巧なさま。精細なさま。(5)繊細で上品なさま。洗練されているさま。(6)色の濃いさま。(7)濃密なさま。(8)草木や毛髪などが密生しているさま。(9)土壌がよく肥えているさま。

そして(語誌)として、
(1)「こまか」と同源であるが、中古においては、「こまか」が主として行為や事物の視覚的・客観的状態を示すのに対し、「こまやか」は、ある行為を行う際の心情や、はたから見た印象を表現する。(2)評価的側面からみると、「こまか」は、中立的に、プラス〜中立〜マイナスと、場面的に広く用いられるのに対して、「こまやか」は、プラスの場面に限られるようである。

とありました。この「語誌」の(1)は、私が感じていたのに近い感じですね。同じ根っこを持つ言葉でも微妙なニュアンスは違うのですねえ。木目こまやかに、こまかなところにも気を配って言葉と向き合って行きたいと思いますね。

2003/10/30



◆ことばの話1457「『ともかく』と『とにかく』」

10月6日、ニュースを見ていると、石原国土交通大臣が、
「ともかく」
という言葉を口にしました。私は「ともかく」はあまり使いません。使うのは「とにかく」です。同じように使われると思われる、この「ともかく」と「とにかく」、どう違うのでしょうか?ちょっとニュアンスは違うような。「とにかく」の方が固い感じで、「ともかく」の方が口語・柔らかいイメージかな。でもSアナウンサーとHアナウンサーは、
「『とにかく』の方が口語でよく使うイメージがある。『ともかく』はめったに口にしないし、硬いイメージなので書き言葉のよう。」
と言います。私と少し意見が違います。ただ「ともかく」は「TOMOKAKU」の「とも」が「O」の音が続くので、言いやすい感じもします。
辞書を引いてみました。『三省堂国語辞典』では
「ともかく」=(1)そのことは、どうであっても。(例)「ともかく出かけよう」「手段はともかく(として)(2)(前を受けて)(・・・なら)問題はないが。(例)「和解すればともかく、そうでない限り」
「とにかく」=(1)とりあえず。その事を先にするようす。いずれにしても。(例)「とにかく行ってみよう」(2)(前を受けて)どうのこうのと言わないけれども。(例)「知らないことならとにかく」

これを見ると、両方(1)の意味で扱う場合はどちらを使ってもいいような気がしますが、(2)の場合は、「ともかく」を使う方が言いような気がしますねえ。
インターネットのGOOGLE検索(10月24日しらべ)では、
「とにかく」=128万件
「ともかく」=36万件
「とにもかくにも」=5万6500件
「兎に角」=5万7100件
「兎も角」=2万9100件

単純比較では、
「とにかく」:「ともかく」=7:2
ですね。漢字の当て字にしたら、
「兎に角」:「兎も角」=約2:1
と、その差は縮まりました。ともかく、そういうことです。あ、この場合は、断然「ともかく」だなあ。「とにかく」は似合いません。
2003/10/24



◆ことばの話1456「近畿の失業率」

10月31日、総務省が発表した全国の失業率統計のニュースを、お昼の「ニュースダッシュ」で読みました。その原稿では、
「近畿の9月の完全失業率は、前の年の同じ月に比べて0,8ポイント改善し、6,8%になりました。」
というものでした。
ところが、関西テレビと朝日放送のニュースでは、
「近畿の9月の完全失業率は6,8%で、前の月に比べてマイナス0,8ポイント、5か月ぶりに悪化していることがわかりました。」
というふうに言っているではありませんか!
え?「悪化」?うちは「改善」というニュースだったのに・・・。ちなみに、毎日放送は「3か月連続の改善」と言っています。
これは一体どういうことなのでしょうか?うち(読売テレビ)と毎日放送が誤報か?それとも関テレと朝日が間違いか?
結論は!!!
ともに間違いではありませんでした。
なんでか?と言うと・・・・今年9月の完全失業率を、読売テレビと毎日放送は、
前年同月比で0,8%改善して6,8%」
としたのに対して、関西テレビと朝日放送は、
前月(=今年の8月)に比べて0、8%悪化して6、8%。これは5か月ぶり(=今年4月以来)の悪化」
という表現をしたのです。
たまたま、「前年同月比では0,8%改善、前月比では0,8%悪化」と、プラスマイナスをはさんで「0,8%」という数字が同じだったので、よけいにややこしかったのです。基準としている数字が違うので、
「どこを基準にして改善したのか、悪化したのか」
という判断が分かれたということだったのです。ちなみに読売テレビの記者が総務省に確認の電話をしたところ、
「失業率や消費者物価は、季節による変動があるので、前の月と比べるのではなく、普通は前の年の同じ月と比較して発表している」
とのことでした。ただでさえわかりにくい経済ニュース、もう少しわかりやすく伝えたいとは思っているのですがねえ。

2003/10/31

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