◆ことばの話1445「シュワルツェネッガーの表記」

カリフォルニア州知事に当選した、おなじみ「シュワちゃん」こと、アーノルド・シュワルツェネッガーさん。名前が長くて日本人には苦手な「シュ」とか「ツェ」とか、小さいカタカナが入っていることもあってか、「シュワちゃん」と省略されることが多いですね。知事候補の時は「シュワ出馬」とか「シュワ氏」(10月3日、毎日新聞)「シュワ候補」なんて表記も見られました。そして当選したので、今度は「シュワ新知事」(読売新聞の見出し)ですか。はいはい。
それでネット上の表記をGoogleで調べてみました。(10月20日)
(1)「シュワルツェネッガー」=3万5300件
(2)「シュワルツェネガー」= 1590件
(3)「シュワルッツェネガー」= 17件
(4)「シュワルッツェネッガー」= 161件

やはり一番使われている表記は(1)の「シュワルツェネッガー」ですね。でも少し前には、「ネッガー」と小さい「ッ」が入る形ではなく、(2)の小さい「ッ」が入らない「ネガー」という表記もあったように思うのですけど。
また、電子版の毎日新聞は(2)の「シュワルツェネガー」でしたが、紙の毎日新聞は、なぜか(1)の「シュワルツェネッガー」という表記でした。
英語に堪能なWアナウンサーは、
「『ネガー』の方が、より英語に近いと思う」
とも話しています。あなたは「ネッガー」派ですか?それとも「ネガー」派ですか?
あ、そうそう、ニューススクランブルのUキャスターは、極めて珍しい、
(3)「シュワルッツェネガー」派
でした。

2003/10/23



◆ことばの話1444「クオークかクォークか」

報道のYデスクが声を掛けてきました。
「なあなあ、ノーベル物理学賞を取った学者の研究対象の『クオーク』なんだけど、表記は、『オ』は大きい『オ』かな?それとも、小さい『ォ』かな?」
「調べてみましょう。」

ということで、実際調べてみました。こういう新しい専門用語は、『現代用語の基礎知識』のたぐいの辞書がいいですね。
『現代用語の基礎知識』(自由国民社)=「クォーク」
『イミダス』(集英社) =「クォーク」
『知恵蔵』(朝日新聞社) =「クオーク」

ということで、『現代用語』と『イミダス』は小さい『ォ』、『知恵蔵』は大きい『オ』 でした。
それで、各新聞社が参考にしている、日本新聞協会編『新聞用語集』も引いてみたのですが、ここには「クオーク」という言葉は採用されていませんでした。似たような言葉としては、
「クオーツ」
がありましたが、こちらは大きな『オ』でした。
そして去年(2002年)5月に出た読売新聞校閲部編集による『新聞カタカナ語辞典』(中公新書ラクレ)を引くと、載っていました、「クオーク」。大きな「オ」でした。新聞は、小さな『ォ』は好まないみたいですね。道理で新聞社(朝日)から出ている『知恵蔵』は、他の2冊の出版社とは違って、大きな『オ』を採用しているのかもしれません。
Yデスクには、
「新聞社はどうやら、大きな『オ』を採用しているようです。」
と答えておきました。
このほかにも、「ウォーター」か「ウオーター」かなんかも、同じ問題ですね。
今後、注意して観察してみます。

2003/10/23

(追記)

第4戦も延長10回、金本のサヨナラ・ホームランで阪神連勝です!!今日の第5戦もサヨナラ勝ちなら、3,4,5戦が
「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」
と淀川長治さんのようになります。(オフコースという話もありますが。小田和正さん。)

2003/10/24


◆ことばの話1443「10番目の“選手”」

10月22日、甲子園での日本シリーズ第3戦、2連敗していた阪神がダイエーをサヨナラで破り、ようやく1勝をあげました。
このニュースを報じた、翌日の毎日新聞スポーツ欄の大きな見出しは、
「10番目の"選手"燃えた」
というものでした。この"選手"というのは、スタンドに詰め掛けた「熱狂的な阪神ファン」のことです。「補欠の選手のこと」ではありません。ファンの応援あってこそ、タイガースもサヨナラ勝ちを収めることが出来たということですね。本文を読むと、名古屋市昭和区の大学生、西本佳弘さん(22)が、
「阪神には10番目の選手であるファンの応援がある。10人対9人なんだから、甲子園では負けるわけがない。」
と言い切ったと書かれています。この西本さんの発言を、整理部のデスクが見出しに取ったのでしょう。
しかし、この見出しを見て私は、こう思いました。
「この『10番目の選手』と言うのは、サッカーでいう『12番目の選手』=『サポーター』のマネではないか?」
サッカーでは、ポルトガル語で「カミーゼ・ドーゼ」と呼ばれるものがあります。直訳すると、まさに「12番目の選手」で、熱狂的なサポーターのことをこう呼ぶのです。
Jリーグが発足して丸10年。この名古屋の西本さんが小学生の頃にはもう、プロサッカーリーグはあった、そしてサッカーブーム・Jリーグブームがあったのです。意識してか、しなくてかはわかりませんが、その時に覚えた「12番目の選手」という表現が、何の気なしに応用されて「10番目の選手」という表現になったのではないでしょうか。つまりは「野球のサッカー化」の一例ではないかな、と思ったわけです。
それにしても、ホンマに甲子園の「10番目の選手」は、強力でっせ!!

2003/10/23
(追記)

第4戦も延長10回、金本のサヨナラ・ホームランで阪神連勝です!!今日の第5戦もサヨナラ勝ちなら、3,4,5戦が
「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」
と淀川長治さんのようになります。(オフコースという話もありますが。小田和正さん。)

2003/10/24

*平成ことば事情2326「背番号26」もお読みください。


◆ことばの話1442「錦繍と錦秋」

月に1回放送で私が担当している「声〜あなたと読売テレビ」という番組のVTR収録の台本に、こんなフレーズが記されていました。
「お早うございます。まるでそこが抜けたような青空に、錦繍が映える、はや、紅葉狩りの季節になりましたね。」
でもちょっと待てよ、放送は10月の初め、ちょっと紅葉狩りには早いよなあ、と思ったのですが、それよりも唐突に現れるこの「錦繍」という言葉に目が行きました。はたしてこれを若手アナウンサーは読めるのだろうか?
新人のKアナウンサーに見せたところ・・・やはり読めませんでした。
Yアナウンサーに見せたところ、不安そうに、なんとか、
「きん・・・しゅう?」
と読めました。そしてWアナウンサーに問うたところ、
「その『きんしゅう』って、『錦』に『秋』って書くんじゃなかったでしたっけ?」
あ!
そう言われれば。
辞書を引いてみました。『岩波国語辞典』では
「錦繍」=(1)にしきとぬいとり。一般に、豪華で美しい衣服・織物を言う(2)豪華で美しい物事・詩歌。(3)もみじのたとえ。
「錦秋」=木木が紅葉して、にしきのように美しい秋。

『新明解国語辞典』は、
「錦繍」=錦(ニシキ)と縫いとりをした布。(いろどりの美しい織物や衣服、また、紅葉や花、あるいは、美辞麗句を連ねた詩文などの意にも用いられる)
「錦秋」=「木ぎが紅葉して美しい秋」の意の漢語的表現。

『新潮現代国語辞典』はどうでしょうか。
「錦繍」=錦(ニシキ)と縫い取りをした布。(2)美しい織物・衣服(3)うるわしい字句の詩文や、美しい花・紅葉などのたとえ。

『新潮現代国語辞典』には「錦秋」は載っていませんでした。
まあ、「錦繍」のように紅葉が色づいた秋の風景が「錦秋」。だから、この場合はどちらも「可」でしょうね。
いずれにせよ、この漢字の読みくらいは出来なくてはならないでしょう。
そういえば宮本輝さんの小説に『錦繍』というのがありましたね。

2003/10/23



◆ことばの話1441「殺人ザメ」

普段、放送の仕事に携わっていると、言葉の問題で気になるのは、おもに音声上どうなるか、ですが、新聞と同じように表記に話が及ぶこともあります。そうですね、それは「字幕スーパーの表記の問題」です。その問題についての具体的な質問の内線電話がSキャスターからかかってきました。
「『殺人鮫』という言葉が出てくるんですが、これの表記のサメの部分が、カタカナで書くときには、読みと同じく『ザメ』ですかね?それとも『サメ』とした方がいいのでしょうか?」
「ああ、なるほど、『殺人ザメ』とすると、『サメ』の部分が連濁表記になって、わかりにくいかもしれないね。」

実はこの問題、先日も似たようなことが起きていたそうです。兵庫県相生(あいおい)市の特産品「相生牡蠣(がき)」の表記が「相生ガキ」と濁るか、「相生カキ」とするか、という問題だったそうです。Googleで調べました。(10月22日しらべ)
「相生カキ」=17件
「相生ガキ」=1件

件数自体が少ないのですが、これは濁らない「相生カキ」の方が多いですね。濁って「相生ガキ」とすると、なんか、「相生のガキ(餓鬼)」みたいだしなあ。
で結局この「サメザメ」問題もGoogleで検索してみました。
「殺人ザメ」=56件
「殺人サメ」= 2件
「殺人鮫」= 19件

ということで、「殺人ザメ」が一番使われていました。中には、
「シャークアタック〜地獄の殺人ザメ」(1999)
というアメリカ映画もありました。
ついでに「殺人ザメ」よりもよく使われているであろう、「人食いザメ」の表記も調べてみました。
「人食いザメ」=791件
「人食いサメ」=234件
「人食い鮫」= 750件

やはり「人食いザメ」と濁った表記が多いですね。2番目は「鮫」という漢字を使ったものです。あと、「喰」の字を使ったものも調べました。
「人喰いザメ」=377件
「人喰いサメ」= 58件
「人喰い鮫」= 255件
「人喰ザメ」= 11件
「人喰サメ」= 8件
「人喰鮫」= 879件

結局、放送ではどうしたかを見ていたら・・・あれ?「殺人ザメ」も「殺人サメ」も使われていないぞ。使われていたのは、
「人食いザメ」
「巨大ザメ」

という言葉でした。やはり「殺人」は、キツ過ぎるかな、表現が。でもともに濁って「ザメ」という表記でした。
それよりも放送の内容が、なんとサメの駆除は、2日間で64匹にも及んだということで、なんだこれでは「殺人ザメ」ではなく「殺鮫人」ではないか、と感じました。でも、これ、どう読むんだろ。さっこうじん?

2003/10/22

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