◆ことばの話1410「政策を鍛える」

9月26日のお昼前のニュースを見ていると、注目の自民党・安倍晋三・新幹事長がこんな言葉を述べていました。
「政策がどれだけ鍛えられているか。」
へえー、政策って鍛えられるものなんだ。鍛えると言えば、普通は「身体を鍛える」ほか「筋肉」「生徒」「選手」「腕」「足」「足腰」「脳」「腕前」「精神力」といった、「人あるいは人に付随するもの」のイメージがあります。だから一般人は「政策を鍛える」なんて言葉は使いません。但し、政治家にとって「政策」は「人(=政治家)に付随するもの」なのでしょうから、「鍛える対象になりうる」のでしょうか。永田町用語の一つのような気がします。今回の選挙では、
「政策公約=マニフェスト」
が焦点になっていますので、その意味でも正に「政策が鍛えられる」のかもしれません。
Googleでネットを検索したところ(10月9日)、「政策を鍛える」と「政策が鍛えられる」は1件もありませんでした。「政策、鍛える」で検索すると、5490件。その中には、
「戦略思考を鍛える」「政策提言能力を鍛える」「論理力を鍛える」「倫理力を鍛える」「民主主義を鍛える」
という風な使われ方が出てきました。
ということは、最初は我々が使うように身体や筋肉、足腰というふうなモノを鍛えていたのが、そのうち比喩的に、思考力や論理力、能力を鍛えるというふうに使われるようになり、さらにその能力・力によって作られたもの「思考」「戦略」「政策」というものも「鍛える」という言葉を使う対象に広がっていったのではないか、というふうに推測できます。
こうやって考えることも国語力・日本語力を鍛えることになってるんですよね。
2003/10/9




◆ことばの話1409「入院したらどや」

日曜日の午後、他局の漫才の番組を見ていたら、中田カウスボタンが出ていました。
そのやり取りの中でこんなフレーズが。
「いっぺん入院したらどや」
お笑いの中では特に何と言うこともなく使われるようなフレーズかもしれませんが、私はビクンとしました。
この「入院」は、どこの病院への「入院」かと言うと、言うまでもなく、
「精神病院」
でしょう。つまり、
「おまえ、頭、おかしいんとちゃうか」
ということの言い換えとして「いっぺん入院したらどうや」が使われているのです。これは放送で流すにはきわどい「セリフ」です。
よく、犯人が匿名のニュースの時に、
「なお、この男(あるいは女)には過去に通院歴がありました。」
というような一文がつくことがありました。今もまだあるかもしれません。この「通院歴」というのもどんな病院への「通院歴」かと言うと、「精神病院」あるいは「精神科」への通院歴を指しています。法を犯しても、精神が罪を償えるような状態になく、不起訴になったりするケース、なりそうなケースに、その根拠を匂わせるニュースの常套句でした。
刑法39条、(心神喪失及び心神耗弱)ですね。
第39条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

しかし、2年前の大阪教育大学付属池田小学校への乱入殺傷事件の犯人が、精神病を装う「詐病」をしていたことをきっかけに、このような「通院歴を言うことを免罪符としての匿名報道」は、減って来たように思います。(あくまで"感じ"ですが。)
いまだに精神病や精神病院・精神科に対する偏見は根強く残っているとは思いますが、それを再生産するような放送にならないように、日々気を付けなくてはならないと思っています。

2003/10/11



◆ことばの話1408「こべこべ」

10月5日、「新婚さんいらっしゃい」を見ていたら、京都の消防士の新郎がこんな言葉を言っていました。
「油、こべこべ」
油が「べとべと」というのは聞いたことがありますが、「こべこべ」という擬態語は初めて耳にしました。「こびりついたような」感じがします。この言葉は、一般的に使われているのか?それとも、京都の消防士の男の人が作った言葉なのか?
ネットで「こべこべ、油」をキーワードにGoogle検索してみると、果たして8件、出てきました。内容を見ると、3件が「べとべとが固まった」意味の「こべこべ」でした。

(1)
冬休みあけには、掻いたあとから黄色い汁がにじみ出て、 それが乾くと、こべこべに固まって、動こうとするとそれがはがれるので、とても痛がります。」

(2)
風呂に入って髪の毛や両腕の、こべこべの血を流す。
鏡を見て本人も驚いている。
「何で鼻血が出てきたかわかんないけど、鼻を触っていたらまた出てくるかも知れないよ。あんまり触るのよそう。」

(3)
泉門天という祇園(洛北支店もあり)のミニ餃子を貰って焼きましたが、失敗。水だけ入れて忘れ。中華鍋こべこべ。不思議と味は悪くもない。

この(3)の人は京都の人のようですから、もしかしたら、「京都弁」かもしれませんえ。(お、語尾が京都弁になってる!)
検索条件を「こべこべ」だけにしてみると、98件引っかかりました。その中にはこんなものがありました。

(4)
10年ほど前、私が西脇市民病院に勤めていた頃のことです。「今日はなぜ来院されましたか?」という質問に「こべこべなんです」とか「鼻がかびかびで」とおっしゃられる方が多数おられました。最初の頃は意味が分からず、同じ兵庫県民なのに変な方言だなーと思っていましたが、要するに青い鼻水で鼻の穴のまわりがぐちゃぐちゃになっている状態のことです。神戸や大阪ではほとんど使われていない表現なのですが、姫路に戻ってきてみると、同じせりふを時々耳にするので懐かしいです。

(5)
10月3日
方言辞典
追加 「こべこべ」
こべこべ
ごはんが茶わんに
こびりついてとれにくいようす。
「茶わんを水につけとけへんだで
こべこべして とれえへんわ。」 
(茶わんを水につけておかなかったので
こびりついて とれないよ。)

(6)
これは、オフクロさんから聞いた話だが、長期勾留の時などは、帰ってくると身体中が「こべこべ」になっているんだそうだ。疥癬(かいせん)だ。

(7)
YUMEMIさんは屋根の瓦を一生懸命塗り塗りしてくださってました♪
この,こべこべ感♪、アンティークガラスの汚れ具合、屋根・・・もうコッツウォルズそのものでしたぁ(^O^)

(8)
持っていってたハンドタオル、家に帰った頃には、乾いてこべこべになっていました。

うーん、どうも兵庫県の人も使ってるみたいですね。京都と言っても京都市内じゃなくて郡部かも。そう思って、報道の神戸・三木在住のデスク2人に聞いてみると、
「そんな言葉、知りません。」
京都の大学出身のデスクに聞くと、
「ああ、使いますね。道浦さんは使いませんか?」
と言うことで、やはり京都では使われているようです。形容の程度で言うと、
「最初はベトベトなのが、ズルズルになって、コベコベになる。最後はカビカビ」
だそうです。つまり水分が徐々に抜けた状態を指しているようです。
「台所の油汚れなんかの状態を『こべこべ』ということが多いですね。」
とも答えてくれました。
京都弁としての「こべこべ」、今後も調べますね。
2003/10/6

(追記)

『貧困の僻地』(曽野綾子、新潮文庫:2011、11、1 )という本を読んでいたら、曽野さん「こべこべ」を使っていました。
「和服の袖で洟水を拭くので袖口がこべこべに固まっている子」(13ページ)
うーむ、「こべこべ」が目に浮かびます。京都でなくても使うのかな?
2012/02/20



◆ことばの話1407「戸籍上の夫」

千葉県で16歳の少女・石橋裕子さんが殺害され「焼かれた遺体」で見つかった事件で、10月6日未明、死体損壊の容疑で、未成年を含む5人の男が逮捕されました。主犯格の22歳の男に対する表現が、おや?と思いました。各社、
「被害者の戸籍上の夫」
という表現を使っていたのです。また10月6日の正午のNHKニュースは、
「被害者と婚姻届を出していた男」
でした。アナウンス部でニュースを見ていて、
「なんで、単純に『夫』じゃないんだよ!?」
と言うと、周りのみんなが、
「同居していなかったからじゃないんですか?」
と答えます。
「じゃあ、なにかい、単身赴任しているダンナは『戸籍上の夫』かい?」
というと、みんな黙ってしまいました。それに普通「戸籍上の夫」というと、
「別居していて離婚を前提にしているが、何らかの原因でまだ籍を抜いていない状態」
を指すと思います。この場合そうなのでしょうか。
「夫」には3種類あるということでしょうか。つまり
(1)「(普通の)夫」
(2)「戸籍上の夫」
(3)「戸籍上、夫ではない夫」

の3種類です。(1)は、戸籍にも登録していて同居もしている、普通の夫婦における夫、(2)は上に述べたような状態、そして(3)は、籍は入れていないものの一緒に住んで、事実上夫婦である夫、「事実婚」とか「内縁関係」というものでしょうか。
この事件はどういう状態だったのでしょうかね。気になります。
その後10月6日の夕刊を見ると、

  (見出し) (本文)
(日経) 「夫」と4少年逮捕 裕子さんの戸籍上の夫
(産経) "偽装婚"の夫ら逮捕 裕子さんとの婚姻届を出していた
(毎日) 22歳「夫」ら逮捕 石橋さんと戸籍上の夫になっている
(朝日) 22歳夫と4少年逮捕 裕子さんの戸籍上の夫
(読売) 夫と少年4人逮捕 裕子さんの夫で

ということで、日経と毎日は見出しで夫に「 」を付けていて、ふつうの夫ではないことを示唆しています。見出しでも本文でもその辺りの区別をしていないのは読売だけです。
なぜ、そういったややこしい表現にしているかに付いて見てみると、
「裕子さんは今年七月に石橋容疑者との婚姻届を出していたが、捜査本部によると、石橋容疑者が氏名を変えて消費者金融から借金するための『偽装』だったとみられる」(日経)
「広宣容疑者は今年七月、裕子さんとの婚姻届を提出。多額の借金を抱えており、裕子さんの姓に変えたのも、借金を重ねるためだったという。」(産経)
「捜査本部によると、広宣容疑者は借金を重ねるため、何度も名字を変えていたとみられる。裕子さんとの婚姻届を出して石橋姓に変えたのも同様の目的の可能性があり、裕子さんとは婚姻届提出後も別居し、夫婦の実態はなかった。」(毎日)
「裕子さんと広宣容疑者は7月に婚姻届を出していた。広宣容疑者はそれまで天野姓で、新たな借金をするため、名字をかえたかったのが理由だなどと、知人に話していたという。2人は現在は一緒に暮らしていない。」(朝日)


とにかく普通の状態ではなかったのは、そのとおりのようです。困ったものです・・・。
私も「戸籍上の夫」ですけど。別に「戸籍上」と付けなくても夫です。「戸籍」をそんなことに悪用するな!!
2003/10/6


◆ことばの話1406「恋々と連綿」

10月5日、藤井治芳(はるほ)道路公団総裁の更迭が決まりました。そのニュースを翌日の「あさイチ!」で伝えた脇浜アナウンサーが、こう聞いてきました。
「道浦さん、藤井総裁の発言の中で『地位にレンメンとしない』と言っていて、スーパーフォローも『連綿』と出ていたんですけど、『恋々』じゃあないんですか?」
「そりゃあ、『恋々』だろう!」

ということで、VTRを確認してみました。
「ズームイン!!SUPER」の10月6日6:32に出たVTRで石原国土交通大臣は「連綿としないと(藤井総裁が)おっしゃった」と、またその後6:32に放送された藤井総裁も「連綿としない」とハッキリ言っており、なんと発言をフォローした字幕スーパーも「連綿としない」と出てきました。
お二人とも「恋々としない」という言葉を知らなかったのか、たんなる言い間違いか。字幕スーパー担当者は「恋々と」という言葉を知らなかったのか、あえて間違いを正さなかったのか。明らかにここで使う言葉は「恋々」です。
10月6日朝刊各紙は、すべて「恋々としない」で統一されていました。
また、それに関して読売新聞の10月6日夕刊「よみうり寸評」がさっそく取り上げています。
「『私は地位に<恋々>とするタイプではない』そう言ったと各紙は報じた。更迭の決まった日本道路公団の藤井治芳総裁のこと*その<恋々>はテレビでは<連綿>と聞こえた。旧建設省時代から連綿と続く道路づくりと公団への天下り、それをなお連綿と続けたい本音が、その言葉に表れたようだ。」

そうですよねー。その「地位にれんめんとしない」藤井総裁、10月6日の午前中に辞表を提出するはず・・・だったのに出しませんでした。恋々としてるじゃないか!
藤井総裁、名字の表記を「不辞意」に改めてはどうか。それで総裁・・じゃない相殺・・・はできませんが。

(追記)

日本テレビ、夕方の「ニュースプラス1」では字幕スーパーが、
「恋々としない」
と直してありました。藤井総裁のVTRは同じ物でしたが 。
2003/10/6

(追記2)

辞表を出さなかった「不辞意」総裁、その心の内をつづったコメントを出し、その要旨を10月7日の各紙朝刊が載せました(朝日新聞以外)。それによると、
(日経)「私は地位に恋々とする人間ではない。」
(産経)「私は地位に恋々とする人間ではない。」

毎日新聞の「コメント要旨」に「地位に恋々」のくだりはありませんでしたが、読売新聞はこう、記していました。
(読売)「私は地位に恋々(原文は連綿)とする人間ではない」
あーーー、やっぱり!「不辞意」さんは、「恋々」を「連綿」だと思っていて、いまだにその過ちに気づかないんだ!・・・いや、「もっと大きな過ち」に気づかない人なんですから、そんな小さな言葉尻に気づかないのは当たり前か。
2003/10/8