◆ことばの話1405「住めないからに」

ある日、ふと口を衝いて出てきたメロディ、フレーズがあります。
「雪よ 岩よ 我らが宿り 俺たちゃ町には 住めないからに」
そう、「雪山讃歌」ですよね。元歌は、
「OH!マイ・ダーリン、OH!マイ・ダーリン、OH!マイ・ダーリン、クレメンタイン」
という「愛しのクレメンタイン」ですね。この曲どこが、どういうふうに引っかかったか、というと、「雪山讃歌」は「愛しのクレメンタイン」のメロディに合わせて歌詞を付けた訳ですから、これは一種の「替え歌」ですよね。その「替え歌」の歌詞の最後のところ、
「住めないからに」の、
「からに」

が、引っかかった」のです。以前・・・というのは子どもの頃から、
「なぜ『からに』と言うのだろう?『住めないから』ならわかるけど、最後の『に』って何よ??」
と思っていたのです。それが、四十を過ぎたある日(具体的には、つい先日)、家路を急ぐ最中に、突然ひらめいたのです。
「この『からに』は、『京都弁』 ではないのか!?『雪山讃歌』は一種の替え歌なのだから、歌詞を作ったのは日本人。しかもその時代(「いつなのか」はわからないけど)登山をするのは学生だったのではないか。そうすると、伝統ある京都大学の学生が作ったとしても不思議はない。京大と言えばボート部の『琵琶湖周航の歌』もあるし、体育会系の部には『歌はつきもの』だったのではないか。そういえば京大の山岳部には、有名な人がいたはず。だから、もし京大の人が歌詞を作ったのなら、京都弁が使われていても不思議はないはず!」
と頭の中で回路がつながりました。
翌日、会社でインターネットを使って調べてみると、思った通り、歌詞を作った(作詞した)のは、京都大山岳部の、あの西堀栄三郎さんでした。西堀氏といえば、第1回南極越冬隊隊長ですよね。群馬県嬬恋村にある「雪山讃歌の碑」の説明版によると、こういう事情だったようです。
「昭和2年1月、鹿沢温泉でスキー合宿をしていた京大山岳部は転向の悪化により宿に閉じ込められてしまった。その時に作ったのが雪山讃歌。当時部員として参加していた西堀栄三郎氏(第1回南極越冬隊長)が作詞したもの。これを記念して昭和46年に台字は西堀氏直筆により『雪山讃歌』の碑が鹿沢温泉に建立した。」

ということで、やはりこの「住めないからに」の「からに」は、「京都弁」だったのです!それなら(今となっては私は)、なんとなくニュアンスは分りますね。
気づかなかったなあ。
2003/9/17




◆ことばの話1404「ノーシャランとノアシェラン」

サッカーの元日本代表GK(ゴールキーパー)、川口能活(よしかつ)選手が、イングランドのプレミア・リーグ、ポーツマスから、デンマーク・リーグのチームへ移籍しました。そのチームの名前は当初、
「ノーシャラン」
と伝えられました。9月2日の電子版の朝日新聞スポーツ面にも、共同通信の記事として、
「サッカーの元ニホン代表GK川口能活が、イングランド・プレミアリーグのポーツマスからデンマークリーグのノーシャランに完全移籍したことが2日、分った。」
とありました。同じく電子版9月3日のスポーツニッポンにも、
「コペンハーゲン近郊のファラムをホームとするノーシャランは・・。」
とあります。また、川口選手本人のホームページにも、
「8月31日に正式にデンマークのクラブ『FCノーシャラン』に移籍することが決まりました。」
と書いてあります。
ところが、9月4日の同じく電子版朝日新聞(共同通信発の記事)ではこうなっています。
「サッカーのデンマークリーグノアシェランへ移籍したGK川口能活が4日、・・・」
ノーシェランに移籍したはずだった川口の移籍先のチーム名が、
「ノアシェラン」
になっているではありませんか!川口選手のホームページも、9月8日には、
「ノアシェラン」
になっています・・・。この数日間に、一体何が起こったのでしょうか?
Googleで検索してみました。(9月8日しらべ)
「ノーシャラン」=1340件
「ノアシェラン」= 93件

圧倒的に「ノーシャラン」の方が多い(15倍くらい)のですが、新しい記事は「ノアシェラン」が増えているようです。
朝日新聞は9月5日に、NHKも9月5日の午前0時7分には「ノアシェラン」になっていますし、読売新聞・スポーツ報知・スポーツニッポン・日刊スポーツ・日経新聞は、9月6日には「ノアシェラン」になっています(いずれも、ネット掲載分による)。
これを調べてから約一週間が経った9月17日に、もう一度Google検索してみました。
「ノーシャラン」= 1590件
「ノアシェラン」= 748件

やはり、急激に「ノアシェラン」が増えていますね。
「ノーシャラン」は、1340件→1590件(+250件、1,187倍)に対して、
「ノアシェラン」は、 93件→ 748件(+655件、8、0434倍)です。

なぜか、「ノアシェラン」に統一の方向ですね。英語かデンマーク語か、というようなことがあるのかもしれません。

2003/9/17

(追記)

10月11日、日本代表対ルーマニア代表の試合、川口能活選手が、久々の先発で出場しました。実況中継をしたフジテレビの青嶋達也アナウンサーは、川口の所属チームを
「ノーシャラン」
と言っていました。フジテレビは「ノーシャラン」で統一でしょうかね。

2003/10/11



◆ことばの話1403「わっか」

「平成ことば事情」の読者で滋賀県に御住まいのTさんからメールをいただきました。
「1個、2個」の「個」に当たるものの表記に「ケ」を使うのは、「箇」の「竹カンムリ」だと書いたものに対してその根拠を教えてくれ、という質問でした。それに対するお応えのメールをお送りしたところ、今度もまた「宿題」を出されました。

「テレビのアナウンサーで、『輪』のことを『わっか』という人がNHKなんかでもいるが、『わっか』は東京の方の方言なので、ちゃんと『輪』というようにして欲しい。」

とのことです。へえー、ご指摘を受けるまで気づきませんでしたが、「わっか」は方言なのですか。
自らを省みると「わっか」は、普通に使ってしまっている気がします。
手元の辞書では『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』には「俗語」として「見出しあり」で掲載されていますが、『新明解国語辞典』 『岩波国語辞典』には載っていません。『広辞苑』は見出しで載っていて、「俗に、輪(わ)」とありますが、これは逆でしょうね。「俗に。輪」ならわかりますが。どっちが「俗」でしょうか。
日本最大の国語辞典『日本国語大辞典』にも見出しで載っていて、その用例は、幸田露伴『幻談』(1938)や中島梓『にんげん動物園』(1981)から引いています。
そしてそのあとに「方言」というふうに書いてあります。Tさんがおっしゃるとおりですね。どの地区の方言かというと、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県となっています。東日本の方言のようです。
東京都は入っていないのですが、東京にも方言はあると思うのですがねぇ・・・。
アナウンス部で数人に聞いてみましたが、東京・神奈川・富山・北海道、兵庫出身の7人は「わっか、使いますね」。また、兵庫出身と神奈川県出身の男性アナウンサーと大分出身の女性アナウンサーは「耳にすることはあるし、意味も分るが、あまり使わない」とのことでした。
「わ」の後の「っか」は、「っこ」とかと同じような接尾語で、なんか「かわいらしさ」のイメージがありますね。「はしっこ」「はじっこ」など。その話をすると、北海道出身のSアナからは、
「『棒』のことを『ぼっこ』と言いますけど、それと似てますね。」
と教えてもらいました意見をもらいました。他にも「めっこつける」(目を付ける)、「こっこ」(動物の子どものこと)というのもあるそうです。
意味は、恐らく「わ」でも「わっか」でも、関西でも通じることでしょう。わっかるかな?わっかんねえだろうなあ!?

2003/9/16


◆ことばの話1402「ナンバ」

9月3日の日経新聞夕刊「からだのお話」というコラムで、世界陸上、男子200メートルで銅メダルを取った末続選手の走り方について書いてありました。末続選手の速さの秘密は、江戸時代の飛脚が用いた「ナンバ」と呼ばれた走法にあったというのです。「ナンバ」と言っても、大阪・ミナミの地名ではありません。
そのコラムによると、「ナンバ」とは、
「一日に何百キロも走った飛脚は、右足と右手、左足と左手を同時に出すようにして、うでをほとんど振らずに走った。右足と左手、左足と右手を呼応させる普通の走り方に比べ、腰や腹筋、背筋をほとんどひねらずに前に進む。飛球悪にとっては、体力を温存して長い距離を走り続ける省エネ走法だった。」
とあります。そして末続選手は、この「ナンバ」の走りを真似しているというわけではないのですが、「ナンバ」の走りを意識することで、レース終盤もフォームが乱れないのだそうです。この「ナンバ」の動きは相撲の「てっぽう」や「すり足」にも共通するものだとも言います。パワーを効率的に前への推進力に変えるには筋肉の「ひねり」や「ため」を使わないナンバの感覚が有効だったのだそうです。
そもそも私は、この記事を読むまで「ナンバ」というのは知らなかったのですが、こういうことでしょうか。
「ナンバ」というのは古くからの日本古来のやり方であって、その後、西欧の「科学的」な走法などが取り入れられたのだけれど、日本人にあった走り方というのは、実は既に昔に日本人が編み出していた。つまり、「温故知新」の中から末続選手のメダル獲得は生み出された、というわけでしょうか。「ナンバ」、覚えておきましょう。

2003/9/16


◆ことばの話1401「ダンが送られ」

テレビを見ていると、ときどきヘンな言い回しを耳にします。それは単なる「言い間違い」というレベルとは言えないようなものです。例えば。9月11日、ニューバードというTBS系列のCSで、女性アナウンサーが、野中広務・自民党元幹事長の事務所にライフルの弾が送られたことを伝えて、
「ライフルのダンが野中宅に送られました。」
と読んでいました。この場合に「弾」を「ダン」とは、どういう読み方をするねん!と思っていたら、なぜか2回目は「タマ」と読んでいました。なぜ「ダン」なんて読んだんだろうか?
そうかと思うと、9月2日のテレビ朝日「ニュースステーション」のスポーツコーナー、朝日放送から送っていたニュースで、
「マリーンズに着々と得点を許すと」
オリックス対千葉ロッテ戦の模様。これはねじれてますね。正しくは、
「マリーンズは、着々と得点を重ね」
もしくは、
「マリーンズに次々と(に)得点を許すと」
ではないでしょうか。「着々と」のあとに来るのは「得点を重ねる」ですから、主語は「マリーンズ」のはず。それを、オリックスを主語に考えて「着々と」なんかを使うから話が、ややこしくなるんです。こういった混交表現は、結構よく見られます。ええかっこしようとすると、間違えます。ご注意下さい。

2003/9/16

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