◆ことばの話1395「しんくても」

先日、5歳の長男の言葉で
「電話しんくても安いで」
というのがありました。テレビ番組で紹介された海外旅行、その旅行会社に「テレビで見たよ」と言って電話すると格安料金で旅行に行ける、というもの。もっとも、その旅行社の海外旅行は、割引のものではなくてもかなり安かったので、それをさして子どもが言ったのが、この言葉でした。意味は、
「電話しなくても安いよ」
ということですね。この
「しなくても」→「しんくても」
という否定の「ない」→「ん」への変化で同じように気になっている言葉は、
「行かなくて」→「行かんくて」
「行けなくて」→「行けんくて」
「できなくて」→「できんくて」

というものです。これと同じような変化ですね。これは極めて関西弁的な変化なのではないでしょうか。
私が「言わんくても」、そう思う?

2003/9/1


(追記)

おととい(1月18日)、大阪の淀屋橋の喫茶店で・・・カフェで、隣の席に座っていた70歳過ぎぐらいのご婦人が、
「おらんくて」
と言っているのが耳に入りました。「い(居)なくて」という意味です。普通は、
「お(居)らなくて」「お(居)らんで」
というところですが、「いない」の意味の大阪弁「おらん」に「くて」をつけて、「おらんくて」。若い人の言葉使いがうつったのか、それとも昔からそういう言い方が有ったのか。それはわかりませんが。
2005/1/20

(追記2)

2006年3月5日、テレビを見ていたら、大和川の清掃ボランティアの50代後半の男性がインタビューに答えて、
「昔よりはだいぶ、きれいくなった。」
と言っていました。「きれいくなった」。でも字幕スーパーは、
「きれいになった。」
「矯正」してありました。
2006/8/7


◆ことばの話1394「完パケ」

新人の小林杏奈アナウンサー。夜勤のニュースの「独り立ち」が出来るように、この土日は「連続夜勤」です。そして私が「先生」役で「付き添い」です。
午後8時を回った頃。8時54分のニュース、いわゆる「Aスポ」(大体、東京の日本テレビからのニュースをそのままネットで受けるのですが、時々差し替えたり、大阪からネットニュースを送ったりします)での「読み」があるかないかを、報道デスクに確認するための電話をしなくてはならないのです。
「ほら、Aスポあるかないか、確認して」
「わかりました!」
と、勇んで電話する小林アナ。受話器を置くと、
「Aスポ、完パケだそうです!」
そう答えた彼女、どうも報道のバイト君が言った言葉をそのまま繰り返しているように思えたので、意地悪な質問をしました。
「完パケって何?何の略?」
と聞いてやると、
「え?・・・"完全パケット"の略ですよね?」
と返す彼女。違うんだなあ。
「完全パケットぉ??これだからケータイ世代は・・・」
おじさん丸出しの対応をする私。
「完パケ」というのは、「完全パッケージ」の略なんですよ。
まあ、業界用語ですし、ご存知ない方も多いでしょうが、『読売テレビ放送用語ガイドライン』の中にある「知ってるつもりの放送業界用語集」によると、
「完パケ」=「完全パッケージの略で、ポスプロ、MA作業をして、そのままOAできるようにした状態。報道現場では、ネットニュースで、ローカル操作さを要しない場合に、『完パケ(ネット)』という言い方をすることがあります。『パケ』と省略する場合も。」
ということです。(この「知ってるつもりの放送業界用語集」は、インターネットの読売テレビのホームページでも公開されていますので、ぜひちょっと覗いてみて下さい)
小林アナウンサーに対しては、「ガイドライン」に載っているよとアドバイスした後、
「まだまだ、社員試用だねえ、10月まで。」
と言うと、
「社員試用の間にいろいろ失敗しておいて、よかったです。」
と返してきました。そりゃそうだ。

2003/9/7



◆ことばの話1393「凝り味」

古い言葉で言うところの「膏薬(こうやく)」のコマーシャルを見ていたら、その中で、
「こりあじ」
という言葉が出てきました。なんじゃ、「こりあじ」って。「凝り」の「味」?「味」は「あじ」ですか?「み」ではないの?「こりみ」とも読めるよね。
「凝り味」はGoogle検索で、たったの5件でした。
この言葉自体が、まだ全然定着していないようですね。
ストレス社会である現代、今後この「凝り味」という言葉がよく使われるようになる・・・かもしれませんが、今のところ、そんな気配はないですね。ハア、肩凝った・・・。

2003/8/31


◆ことばの話1392「世界一のアクセント」

「平成ことば事情1382」で書いた「五分前」のアクセントと同じような例を、また見つけました。「世界一」のアクセントです。
『NHK発音アクセント辞典』によると、「世界一」のアクセントは、
「せかいいち(LHLLL)」(Lは低く、Hは高く発音する)
という中高アクセントしか載っていませんが、私はこのほかに
「せかいいち(HLL・LH)」
というアクセントもあると考えます。この場合は、「世界」と「一」が意味の上での連結が弱く、ともすれば「で」という助詞が「世界」と「一」の間に入ってもいいかな、という感じです。
この二つは意味の上でどう違うのか?意味は同じですが、使い方は微妙に違うように思います。考えてみました。
最初の「せかいいち(LHLLL)」は、もう「世界」と「一」が完全にくっついていて、一つの言葉になっており、
「世界一のパパ」
「世界一のお菓子」
「世界一のおうち」

のような形容詞として働くのではないでしょうか。しかもこの場合の「世界一」という形容は、話し手の主観による「世界一」のことが多いように思われます。厳密に、そして客観的に世界一を決定するような要素はなく、「その人にとって」という限定条件が冠されるような気がします。
これに対して「せかいいち(HLL・LH)」の方は、「世界で一番」という、客観的な順位を表しているように感じます。具体的には、
「時速450キロで走る、世界一速い電車」
というような使い方です。その電車が、自分にとって世界で一番好きな電車であれば、
「時速450キロと世界一(HLL・LH)速いこの電車を、世界一(LHLLL)好きだ」
というような使い方ができるのではないでしょうか。
もう一つ。
「エベレストは、世界一高い山だ。」
この場合は、私は「HLL・LH」を使いたい。でも「LHLLL」も使えますし使いますよね。その場合の「せかいいち(LHLLL)」、既に「HLL・LH」が一般に広く認識されていることを前提として、純粋に「形容指的に」使われている気がします。
なかなか難しいのですが、そんな気がするということで・・・。

2003/9/6


◆ことばの話1391「美女軍団」

韓国のテグ市で行われていたユニバーシアード大会。注目は何といっても北朝鮮の女性応援団でした。いわゆる、
「美女軍団」
です。これに対して、
「『軍団』と呼ぶのはおかしいのではないか!?」
というような視聴者からの声も寄せられているようです。確かに「応援団」なのに、なんで「軍団」なのよ??
今朝(9月1日)産経新聞の名物コラム「産経抄」でも、子の件に付いて取り上げています。

また同じく今日(9月1日)の読売新聞夕刊のコラム「ことばのこばこ」で、梅花女子大学の米川明彦教授もさっそく取り上げています。それによると、
朝日、関西、読売の各テレビは相変わらず「美女軍団」とやっているものの、毎日放送は「美女応援団」。「軍団」がまともな「応援団」になっていたそうです。またNHKは「応援団の女性」と「美女」という評価語も「軍団」という不適当な語も使っていなかったそうです。米川先生は、
「『美女軍団』という命名はいかにもスポーツ新聞や男性週刊誌の発想である。ニュースの担当者はオヤジが多いのだろう。」
と書いてらっしゃいます。
一読、その通りだなあと思ったあと、「ちょっと待てよ」という気持ちが出てきました。
というのは、
「北朝鮮にとって彼女ら応援団は、いわゆる普通の応援団ではなく『「平和外交」という『武器』である。それは他の国の『応援団』とは一線を画するものであり、しかも単なる応援団ではなく、『えりすぐりの美女』という、その意味では『武器』といってもよい存在である」
と考えれば、「軍団」というのも「美女」というのも「意味のある名づけ方」ではないか?ということを思い付きました。
それに、たしかに「スポーツ紙的、男性週刊誌的発想」というのはうなずけますが、それは、
「編集者がオヤジだから」なのではなく、「それを買う消費者がオヤジだから」
なのではないでしょうか?この話は「水かけ論」になると思いますが。
それと、この「美女軍団」、対象がオヤジではなくオバハンの場合は、美男を集めた応援団なら、きっと
「イケメン軍団」
と呼ばれたことでしょう。要するに男女関係なく、こういう呼ばれ方をする一団というものはあるのですね。

2003/9/4


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