◆ことばの話1365「北海道アイスクリーム」

朝、出社途中に、駅の近くのコンビニの前に立っているのぼりに、
「北海道アイスクリーム」
という文字が書かれているのが目に入りました。それを見て、
「本当に原料は北海道のものなのかな。」
という意地の悪い「いぶかり」と同時に、
「もし、北海道産じゃなくても、なんにも書いていないアイスクリームと『北海道アイスクリ―ム』と書かれたものがあったら、十中八九『北海道』の方を選ぶな。」
と思いました。その時に「北海道」という言葉が持つ「魔力」というか、「イメージ力」について思いが至りました。
すなわち、「北海道」という名前が持つ情報、イメージは、その言葉の使い手で文化を共有する者にのみ有効だということです。
たとえば仮に韓国の「ウルサン」という街が、韓国では北海道と同じイメージを持たれていたとして、「ウルサン・アイスクリーム」という名を聞いたとしても、我々は、すぐさま「北海道アイスクリーム」に抱いたイメージを想起することはできません。「ウルサン」という言葉、土地に対する情報を持っていないから、イメージも湧かないからですね。同じように、架空の都市「カタナハマヤラ」(=今、適当に作った名前です)の名を冠したアイスクリームからも、我々は涼しさや酪農の素朴な印象を思い浮かべることはできません。つまり、そういう意味において「北海道アイスクリーム」というネーミングは、きわめてドメスティックなものである、と言えるのではないでしょうか。「北海道」に関する情報を持っている人にのみ、その効果を発揮するのですから、ターゲットは国内ということですね。
ただし、この大阪で販売されている「北海道アイスクリーム」は、北海道の業者からすれば、純粋にドメスティックとは感じていないかもしれません。「本州」は北海道の人から言うと、ある種「外国」のようなものかもしれません。
北海道で売られる夕張メロンにしても何にしても、そういった「おみやげ」的な特産品の多くは、産地からみると、「消費者の大半は常に外に存在する」ものなのです。もしそれが中、内に存在するのなら、貨幣はいらない、物々交換でよかったはずです。
などということを考えている間に、会社に着きました。

2003/8/24


◆ことばの話1364「ネームバリュー」

消費者金融大手のアコムの名前をかたって、審査に通らなかった人を対象に恐喝・詐欺を行っている業者(?)があるというニュースの原稿を読みました。アコムでも、被害は把握していて、告訴する方針だということです。
その特集のまとめに、
「アコムのネームバリューを利用して・・・」
という一文がありました。そのまま読んだのですが、この「ネームバリュー」、どのくらい通用するかな、とちょっと疑問。カタカナ語を減らそうという流れの中だからでしょうか。「ネームバリュー」を言い換えると「看板」「知名度」というところでしょうか。
Google検索では、1万5100件(8月21日)と、よく使われています。
その中にこんなページも見つけました。

あの女優はネームバリューだけはあるけど、演技はさっぱりだ。
That actress has got great name recognition, but she's a terrible performer.
「ネームバリュー」は和製英語ですから、ここではname recognition(知名度)を使っています。


ははあ、なるほど。「ネームバリュー」は和製英語なんですか。英語だとばっかり思っていました。
ということで、「ネームバリュー」という言葉にネームバリューはあるか?というお話でした。

2003/8/24


◆ことばの話1363「16歳少女を指名手配」

埼玉県熊谷市のアパートで男性の遺体が見つかり、同じアパートに住む女性3人が拉致、殺傷された事件で、16歳の少女が全国に指名手配されたという記事が、新聞に出ました。
それを見て疑問に思ったのは、
「未成年である16歳は、報道の場合は少年法の精神を尊重して匿名にするが、『匿名』の少女を『指名』手配というのは、矛盾していないか?」
という疑問でした。「少女A」では「指名」したことにはならないではありませんか。
少し考えると、この「指名手配」というのは、警察内部の通達で、警察官にだけ実名などを明かして、埼玉県警だけではなく全国の都道府県の警察に協力を要請した、ということなんでしょうけれど。
私たちが「指名手配」で思い浮かべるのは、交番の前の掲示板に顔写真入りのポスターが出て「この顔にピンときたら110番」というものですから、そのポスターに、
「埼玉の拉致事件に関連して行方を捜しています」
という文字の上(か下)に、「モザイクのかかった顔写真」「16歳・女」としか書かれていないポスターが出たところで、一般市民は逮捕に協力しようと思っても出来ないではないか、という疑問です。
もちろん、「指名手配」されている人は、ああやってポスターに張り出されている人だけではなくて、もっと大勢いるのでしょうけど。
そして、もしこの少女がもっと凶悪な犯人で、例えば5人殺した上に凶器のライフルを持ったまま、途中で銃を乱射してさらに何人か殺してまだ逃亡している、というようなケースだとしたら、そして既に実名などが分っている場合なら、「少年法の精神」よりも「市民の命の安全」の方が優先されて、「名前を公表しての指名手配」になることでしょうし、報道する側も実名を出すでしょう。
身柄を拘束するための「指名手配」ですが、その段階は、状況に応じて何種類かあるのだろうなあ、ということについて思いが至りました。
なお、8月24日の朝刊によりますと、この少女は23日夜、埼玉県熊谷市内の友人宅に潜伏しているところを捜査員に発見され、逮捕監禁容疑で逮捕されたということです。
親御さんもたまらんでしょうねえ・・・。

200/8/24

(追記)

近くの交番の前に張り出されている「指名手配」のポスターをよく見てみたら、
「重要指名手配」「特別手配」
という表現もありました。Google検索したところ(8月27日)、
「重要指名手配」= 5340件
「特別手配」= 3万3800件
「指名手配」= 7万5000件

でした。その中で見つけた「指名手配」と「特別手配」の違いに関する記述によると、「指名手配」とは、ある県警本部が他の県警本部に依頼して手配するもので、「特別手配」とは、警察庁が各県警本部に手配するものだそうです。
また、「重要指名手配」は、警察庁のホームページに「警察庁指定重要指名手配」とあり、それぞれの顔写真の下に「手配府県」として「福岡県警察手配」「熊本県警察」「沖縄県警察手配」「警視庁手配」などと書かれているところから見ると、「もともと各都道府県警察から『指名手配』されているものの、なかなかつかまらない容疑者に関して、管轄を警察庁に移して重点的に身柄を探すもの」で、もしかしたら、この段階になって初めて、ポスターなどを使って顔写真を張り出して、市民からの情報も集めるのではないか。「指名手配」はあくまで「警察内部」だけの話ではないか、という気がしてきました。
「特別手配」に関するサイトにも「警察庁指定特別手配」として「オウム真理教関係」の容疑者の顔写真が並んでいました。オウム関係に手配には「懸賞金」もかかっていました。

2003/8/27


◆ことばの話1362「ゆるゆるしたい」

お酒の月桂冠のコマーシャルで、
「ゆるゆるしたいとき」
という言葉が出てきました。この「ゆるゆる」というのは、「ゆったり」「ゆっくり」「リラックス」というようなイメージなんでしょうが、聞いたことがあるようなないような。
googole検索してみました(8月18日)。
「ゆるゆるしたい」=58件
「ゆるゆるする」= 47件
「ゆるゆる」= 3万1300件
「ゆるゆる・癒し」= 1070件


「ゆるゆるする」は意外と少なかったのですが、単独で「ゆるゆる」は想像以上に多いですね。
語感から言うと、「うるうる」とか「うるるん」「ウルルン」に通じるものがありますね「うるうる」に「Y」の子音を付けただけだもの。もしこの「ゆるゆる」「うるうる」に「性」があったら「女性形容詞(?)」に分類しちゃうね、私は。
それにしても「や」行には、癒しの項かがあるのではないでしょうか?
ゆっくり、ゆったり、ゆらゆら、ゆるい、ゆらぎ
など、何か、「やすらぎ」を感じる言葉が多くありませんか?音の響きにも落ち着きを感じますね。(こじつけかな?)あ、「やくざ」も「や行」か・・・。

ハア〜、私もゆるゆるしたいわあ。

2003/8/18


◆ことばの話1361「うなぎ丼」

「あさイチ!」で紹介している「あさイチ! グルメ」、先週紹介した食材は、「うなぎ」でした。当然、出て来るのは、「うな丼」や「うな重」ですが、会議で説明されたお店のは、
「うなぎ丼」
でした。以前、用語懇談会の席でNHKの委員の方から、
「『丼』という漢字の読み方は『どん』と『どんぶり』の両方があるけれど、例えばこういう場合は、どっちで読みますか?」
という質問の例として出されたのが、まさにこの「うなぎ丼」だったのを思い出しました。その時は、
「『A+丼』という時には、Aがその素材の名前をフルに伝えている時は、『どんぶり』、省略されている時は『どん』」
というNHKとしての結論を聞きました。それによれば、「うなぎ」と来れば「うなぎどんぶり」、「うな」なら「うなどん」、「天ぷら」ならば「天ぷらどんぶり」、「天」なら「天どん」ということですね。これは一つの目安です。ただ、その後そのNHKの人が、
「最近、牛丼チェーンの『中卯』が、『牛丼ぶり』というメニューを出したんですが、これだと『丼』という漢字は『どん』としか読めないように思われてしまうので、ちょっと困ったものなんですがねえ・・・」
と耳打ちしてくれたこともありました。その話を「あさイチ!」の会議でしたところ、
「なるほどー」
という声が上がりました。それで、
「そのお店では、どう言っていたの?」
と聞くと、
「いや、どちらとも言ってなかったですねえ。というの、うなぎの量が1匹のを『シングル』、2匹のを『ダブル』、1匹半のを『セミダブル』と言っていました。」
「???セミダブル?ベッドみたいやなあ。でもテレビで紹介する時には『うなどん』か『うなぎどんぶり』か言うんだから、『どっちにして下さい』とか、お店の人が言ってたんじゃないの?」
「いえ、どっちでも良いような感じでしたが・・・。そもそも『うなぎ丼』という名前なんですが、丼には入ってなくて、お重に入っているんです。だから本当なら『うな重』と言うべき所なんですけど、このお店では『うなぎ丼』なんです。」

はあ?そうなんですか。まあ、「うなどん」でも「うなぎどんぶり」でも、はたまた「うななぎどん」でも、要は、「うまけりゃいい」んですがね。

2003/8/24

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