◆ことばの話1340「選手が故障」

月の人事異動で「ズームイン!!SUPER」からスポーツ部に異動になった同期のI君とエレベーターで一緒になりました。

「どう?元気でやってる?」
「うん、まあな・・・。」

エレベーターの降り際、急に立ち止まったI君、おもむろに、

「なあ、なんで野球選手は機械でもないのに、『故障』って言うん?」
「さあ?なんでやろなあ」
「また、調べといて!」
「うん、わかった。」


ということで調べることになりました。・・・それから1か月半。サボってました、すみません・・・。『日本国語大辞典』引いてみました。

「故障」
(1)物事が行われるのをさまたげるような事情。さしつかえ。さしさわり。障害。邪魔。(2)(故障する)さしつかえがあると申し立てること。拒否すること。また、その不服だとする考え。異議。
(3)気に入らないこと。いやだと思うこと。
(4)(故障する)機械、からだなどの一部に異常が起こって、機能がそこなわれること。働きが止まったり、狂ったりすること。こわれること。破損。事故。




あ、この4番目のヤツだ。でも機械も人間もともに使うと書いてあるぞ。用例を見てみましょう。

夏目漱石『それから』11(1909)「一度熟睡さへすれば、あとは身体に何の故障(コシャウ)も認める事が出来なかった。

これは人間の「故障」ですね。あとの用例の、寺田寅彦『蓄音機』(1922)は「歯車の故障」、中野好夫『ある隷属国の悲劇』(1955)は「飛行機の故障」でした。あと、5番目の意味は民事裁判関係の法律用語の「故障」でした。



さて、これだけの材料から考えましょう。I君が持った疑問は、

「なぜ、人間と機械を一緒くたにして『故障』という言葉を使うのか?」

ということですが、「人間と機械を一緒に」、と言うよりも、人間も一つつの機械とみなすことで、その「機能」にのみ着目した言葉の使い方が、

「ヒジの故障」「肩の故障」

となるのではないでしょうか。スポーツ選手はやはりその身体機能があって「なんぼ」ということですから、「故障」が使えるのかな。
でも夏目漱石も「身体に故障」と使っていますね。こちらは機能に着目したというよりは、
「都合が悪い」という意味合いで使われる「故障がある」が、そのまま使われている
のではないか?という気がします。
I君、今回はこんなところでどうでしょうか?

2003/8/12


(追記)

平成ことば事情759「傷んでいます」も合わせてお読み下さい。

2003/9/11



◆ことばの話1339「『ふ』は何で出来ている?」

アナウンス部の後輩と、蕎麦屋に昼ご飯を食べに行った時のこと。この蕎麦屋の「メカブそば」が、結構おいしいので、メカブの歯応えについて話していると、

「『生ふ』は何で出来ているか?」

という話になりました。

「『ふ』 は『ふ』という植物から出来てるんじゃないんですか?」
「やっぱりコメじゃないですかね。モチモチっとしてるし。コメの粉では?」
「なんか海草のようなものじゃないの?歯ごたえから言って。」
「あの歯応えは、どう考えても穀物だろ。ホラ漢字で書くと『麩』って『麦へん』だから麦だよ、小麦!」


と意見、百出・・・・ならぬ四出。さっそくSアナがケータイのiモードで、国語辞典のサイトを使って調べてくれました。結果は・・・小麦粉でした。

「小麦粉を水でこねて、でんぷんを取り去った食品。生麩。」
(『新明解国語辞典』)


ホラネ。私が言った通りだ。
でも、こんな事もちゃんと知らないなんて、「サンショウって魚ですよね?」と言ったシミケンを笑えないな。
反省して、昼食を終えたのでした。でも、一つ賢くなりましたね、皆さん!(注:皆さんというのは、アナウンス部の皆さんです。)

2003/8/14


◆ことばの話1338「試験電波発射中」

8月7日午前3時。いつものように「あさイチ!」出演のために起きて、テレビのスイッチを入れると・・・なんと各局とも「静止画」になっていて、番組をやっていないではありませんか!(衛星放送はやっていましたが。)
それで思い出しました。今週は、12月から本放送が始まる「地上デジタル放送」の試験のために、夜中の2時半ぐらいから朝の5時まで、地上波の放送は「お休み」だったのです。静止画の画面にもちゃんと、

「地上デジタル放送設備テストのため午前5:00まで番組をお休みします。ご了承ください。」

と書かれていました。新聞のラ・テ欄にも、そう書いてありましたね。しかし夜中にテレビ放送(番組)をやっていないってのも新鮮ですね。昔、石油危機の時に「深夜放送」が中止されたことがありましたがあの時は、夜中の12時から放送がなかったんでしたっけ。まだ中学生だったので、実質的に関係なかったんですが。どうせその時間には、もう寝てたから。今は、それから考えると、夜更かしするようになりましたなあ。
で、その静止画になっているのを確認するように、チャンネルをガチャガチャ(本当はリモコンをピッピッ。でもこれも本当は、『ピッ』なんて音はしないのですが、そこは『擬態語』ということで。)していると、局によって静止画が違うんですよ。つい見入ってしまいました。

例えば、私が見た日の読売テレビ「タオル観葉植物とセーター・テニスボール・革の茶色のバッグ・コルクボードといった静物」で、毎日放送とKBS京都も同じでした。
そして「青空に映えるエッフェル塔」は、NHK総合と教育、朝日放送
また、「背景と同じブルーのセーターを着た、十数年前には『いた』と思われる髪型のお姉さんが、赤白黄のカーネーションを右手でつまんで持っている図」は、関西テレビとテレビ大阪。
そして、サンテレビは、最初は一枚の絵かと思っていたのですが、しばらく見ていると、絵が変わるのです。どういうふうに変わるかと言うと、
「関西テレビに出て来るお姉さん(上記)、『ようこそヌーメアへ』と書かれた地図、花壇、エッフェル塔、南仏のヨット・パーバー、関西テレビに出て来るお姉さんがコップ持っている絵、雪の中のカップル、エッフェル塔、欧州の帽子屋、読売テレビに出て来るのと同じ静物(上記)」
という具合。これが30秒ごとに変わるのですねえ。どういう順番か、チェックしていたら、あっという間に30分経ってしまい、会社への迎えのタクシーに乗る時間になっていました・・・。
(サンテレビ、8月12日の火曜日に見た時には、「ヨットハーバー」の絵のみでした。技術部の後輩H君に聞いたところ、事前の取り決めでは「静止画は1枚だけ」となっていたそうで、なぜサンテレビは30秒ごとに絵を変えたのかなあと首をひねっていました。)
昔は、こういった静止映像をよく使ったように思いますが、今は番組をやっていない時でも大抵は、

「お天気カメラの生の映像」

を写していることが多いのではないでしょうか。
静止画を見せているテレビは、「娯楽箱としてのテレビ」です。お芝居を見に行った時に、緞帳が下りているようなものです。それに対して、お天気カメラの生映像を映しているテレビは「情報箱としてのテレビ」。お芝居で言うと「幕」を使わずに暗転にして、薄ぼんやりとではありますが、舞台の上で作業をしているスタッフの姿が見える。舞台の裏側を、少し見せているわけです。「情報」は見えますが、その代わり、見る側・お客さんが、「それは必要な情報なのかどうか」を取捨選択しなくてはなりません。つまり、石油ショックの時と今では、テレビの持つ役割・性格、テレビに求められているものが、変わっているのです。

「夢」を見させるのが昔のテレビ、「現実」を見せるのが今のテレビ。
あなたはどちらがお好きですか?

2003/8/11




◆ことばの話1337「就学生」

8月8日の読売新聞などに、福岡の一家4人殺害事件に関連して、中国に帰国した就学生の知人を逮捕した、という記事が載っていました。この、

「就学生」

という言葉、耳慣れませんね。(8月14日の日経新聞も「就学生」を使っていました。)テレビでは「留学生」と言っているようです。Google検索で「就学生」を引いてみると、なんと7万8900件ありました。結構あるなぁ。
インターネットから「就学生とは」というのを切り取ってみると、



*「留学生」とは、日本の大学又はこれに準ずる機関、専修学校の専門課程、 高等専門学校において教育を受ける資格で在留している外国人をいいます。また、「就学生」とは、専修学校の高等課程若しくは一般課程、各種学校又はこれに準ずる教育機関等において教育を受ける資格で在留している外国人をいいます。
(静岡労働局のホームページ)

*就学生とは

大学や短大などで学ぶ「留学生」に対して、日本語学校など各種学校で学ぶ外国人学生のこと。入国管理法では在留期間に違いがあり、留学生は1年間と2年間、就学生は6ヶ月と1年間に分かれている。留学生総数(昨年5月現在)は約7万8千人で、このうち私費留学生は約6万8千人。就学生総数(昨年7月現在)は約3万3千人。
※昨年=平成13年(2001年):斉藤鉄夫衆議院議員のホームページより。

というような記述がありました。これでわかりました。大学や大学院(短大もかな)に勉強しに来ている外国人は「留学生」と呼び、専門学校に勉強に来ている外国人は「就学生」と呼んでいるようですね。知らなかったなあ。『日本国語大辞典』にも「就学児童」は載っていますが、「就学生」は載っていません。「就学」を引いても、

(1) 教師について学問を修めること
(2) 教育を受けるために入学すること。学校に入って生徒となること。また、在学していること。


という記述しかなく、今回の「就学生」の意味での「就学」については触れていません。ところが!新しい言葉を素早く採用することで知られる『三省堂国語辞典』を引いてみると、「大学・短大以外の、日本語学校や専修学校などで学ぶ外国人学生」と、ちゃんと載っているではありませんか!『日本国語大辞典』も見習って下さいね。「柔よく剛を制す」ならぬ「小よく大を制す」ですね。「就学生」と「留学生」、今後は気をつけて区別するようにします。

2003/8/11


(追記)

と、書いてから『広辞苑』を引くと、これが載っているのですね。「就学」のところの2番目の意味に、

「出入国管理法に定める外国人の在留資格の一。日本の高等学校、専修学校の高等課程、各種学校などで教育を受けることが出きる。(例)「就学生」

おお、これじゃ!なんとちゃーんと、載ってるじゃないですか、『広辞苑』。『新明解国語辞典』 と『新潮現代国語辞典』には載っていませんでした。辞書って、ホントに一冊一冊、違うんだよね、何を載せているか、いないかなども。

2003/8/12


◆ことばの話1336「こころうち」

8月3日午後5時半のニュース。テレビ朝日を見ていたら、北朝鮮から帰ってきた蓮池さんたちに、子供たちから手紙が届いたことを受けての取材について、左分千恵(さぶり・ちえ)アナウンサーが顔出し部分でこんな言葉を使いました。

「その『こころうち』を語りました。」

それを聞いた私は、

「それも言うなら『しんちゅう』ではないか?」

と画面に突っ込みを入れました。漢字では「心中」。アクセントは頭高。でもこの漢字だと「しんじゅう」と読んでしまうかもしれないな。もし言い換えるなら、「の」を入れて、「心のうち(裡)」かな。「胸の内」も良いかもしれません。
インターネットで「こころうち」を検索してみました。Google(8月8日調べ)

「こころうち」=55件
「心中」=235万件
「心中・しんちゅう」=140件


ここまでは、すべてのページで検索しました。「心中」は、もしかしたら、中国語での該当ページも多いのではないかな、と思って、このあと日本語のページに限って検索してみました。

「心中」=21万1000件

やっぱり、激減しました。10分の1。それだけ「中国語の心中」が多かったのでしょう。でもまだ21万件ありますが。その他、キーワードを増やしたりして、こんなものも引きました。

「心中・しんちゅう」=140件
「心中・こころうち」=1件
「心裡」1300件


これは、「心裡留保」という法律用語が、いっぱい引っかかりました。「しんりりゅうほ」と読むのでしょうね。また、

「心内」=7500件

これは、「心内膜床欠損症」「心内宇宙」「心内」(=「心療内科」の略)といったものがありました。ついでにその略語の元となった「心療内科」も引いてみました。

「心療内科」=5万8700件

まあ、こんなところでしょう、件数は。その他、

「心のうち」=1万0900件
「心の内」=2万5300件


「こころうち」に「の」を入れたこの形が、ニュースの日本語としては適当かと思いますが。ついでに、こんなものも検索しました。

「内なる心」=748件

よしよしという感じですね。
この件について、日本文学専攻だったHアナは、
「うーん、僕は『こころうち』は認めますねえ。大和言葉としてのやわらかさがあって良いんじゃないですか。」
と話していました。そういう見方もありますが、問題はニュースで使うかどうか、ということですからね。そういう意味では「こころうち」は、やはり耳慣れない感じがすると思います。私のように、

「『しんちゅう(心中)』の読み間違いではないか?」

というような「下衆の勘繰り」を受けないためにも、もし「しんちゅう(心中)」と読むのがイヤなら、

「胸のうち」「心のうち」

と言い換えた方が良かったのではないですかねえ。
というのが、私の「胸の内」です。

2003/8/8

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