◆ことばの話1335「すわ」

ハリウッド俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーさんが、カリフォルニア州知事選挙に出馬することを表明。8月8日の各新聞にその記事が載りました。以前、これに関してはどこかにちょっと書きましたが。スポーツ紙は見出しに、

「シュワ出馬」

という大見出しを掲げました。「シュワ」と「出馬」の間に小さな小さな文字で、

「ちゃん」

と書いてありましたが。これは、シュワルツェネッガーさんの愛称「シュワちゃん」の「シュワ」と「すわ、出馬」の「すわ」を掛けたダジャレですよね。
そういう話を報道のスタッフにしていると、K君が、

「『すわ出馬』の『すわ』って、なんで『すわ』って言うんですか?」

と聞いてきました。あのねー、なんでも知ってると思われても困るわけよ。
さっそく『広辞苑』を引いてみました。
「すわ」
(感)(1)突然声をかけて相手に気づかせるようなとき、発する声。そら。さあ。


・・・そんな声を、生まれてこの方、掛けたことない。会社の先輩の「諏訪さん」を呼ぶ時に「スワさん!」と呼びかけたことはありますが。用例も『更科日記』からと古いし。今は「すわ」なんて呼びかけは、誰もしないでしょう。なぜそれが一番最初の意味で載っているのかなあ。古いもの順、ということでしょうか。2番目は、

(2)突然の出来事に驚いたり、あらためて気づいたりした時、発する声。あっ。

だから、そんな声は発しないって。こちらの用例は『平家物語』
ということは、その頃の日本人は、「すわ!」という声を発していたのですね、きっと。例文で、

「すわ一大事」

というのもありました。これを「あっ」というのに置き換えると、

「あっ、一大事。」

ちょっと間が抜けます。「すわ」で例文を作れ、と言われて思いついたのは、

「すわ、鎌倉」

でした。でもよく考えると(よく考えないでも)それも言うなら、

「いざ、鎌倉」

でした。時代背景は近いものがありましたが。
まっ、「すわ」は、昔の掛け声だということがわかったので、ホッとしました。

2003/8/8


◆ことばの話1334「居食屋」

木曜と金曜の朝に担当している番組「あさイチ!」の中のコーナーに、「あさイチ!グルメクラブ」というものがあります。いろんな食べ物のお店を紹介するコーナーなのですが、8月1日に紹介する神戸のお店は、「居食屋・まご八」というお店でした。
「居食屋」と書いて「いしょくや」と読みます。この言葉に「おや?」と引っかかりました。「居酒屋」はよく知っていますが、「酒」ではなく「食」という字なのです。かすかな記憶をたどると、以前にちらっと聞いたことがあるような気もします。
Googleで検索したところ、「居食屋」は4190件も出てきました。かなり普及しているみたいですね。で、どこが「居食屋」という言葉の元祖なのか?
私が初めてこの言葉を耳にしたのは、たしか「和民」(わたみ)という飲食店チェーンの取材をしようかと思った時で(結局、取材はしなかったのですが)2、3年前の話です。そこでキーワードを「居食屋・和民」にして検索したところ、851件出てきました。ということは、ネット上で使われている「居食屋」という言葉の約5分の1=20%は「和民」関連であるということが分ります。ということは、「和民」が「居食屋」という言葉の発祥なのかもしれませんね。
でも、文字を解読しますと「居酒屋」は、

「居ながら酒を飲む、飲食店」


ですが、それと同じように解読すると「居食屋」は、

「居ながら食事をする飲食店」

となりますが、それって、単なる「飲食店」とどう違うの?ということになりませんか?
畳語のようにもおもえるのですが、イメージとしては、

「ふつうの居酒屋よりは、食事のメニューに力を入れている居酒屋」

という感じがするのですがね。そのあたり、どうなんでしょうかね。それと商標登録、してるのかなあ。

2003/8/8
(追記)
居酒屋の「白木屋」の前を通った時に、チラッと目に入ったのは、
「居楽屋」
という文字でした。今や「居酒屋」という表記では目を引かないので、「居食屋」になったり「居楽屋」になったりするんですかね。ちなみに読み方は、
「いらくや」
でいいのかな?
2005/2/17

(追記2)
JR明石駅前に看板が出ていた「笑笑」という店(チェーン店のようですの看板にも、
「居楽屋」
と書かれていました。「居楽屋・笑笑」の前に付いていたキャッチフレーズは、
「新しいタイプの居酒屋」
でしたが、そこから少し離れた同じ駅前にあった「白木屋」もキャッチフレーズは、
「新しいタイプの居酒屋」
でした。(ここの白木屋は「居楽屋」とは書いてなかったですが。)
そのうちそこらじゅう、「新しいタイプの居酒屋」だらけになって、「古いタイプの居酒屋」や「伝統的なタイプの居酒屋」の方が受けるようになったりして。たぶんそういう宣伝文句はないでしょうから。「新しい」って言葉は何度も使うと、すぐの手垢が付くんですねえ・・・。
で、「居楽屋」ですが、さっき気づいたんですが、カタカナにすると、
「イラク屋」
と、なんだか物騒な感じになります。
2005/2/21

(追記3)
川崎市の西尾さんから情報が寄せられました。

『「新しいタイプの居酒屋」「居楽屋」は、「白木屋」「笑笑」「魚民」などを全国展開している「株式会社モンテローザ」の登録商標ですね。「楽食屋」「美食厨房」「至高の美食空間(出願中)」というのもあります。
「居食屋」のほうは「和民」で有名なワタミフードサービス株式会社の登録商標。居酒屋とファミリーレストランの中間に位置するのが「居食屋」なのだそうです。「和民」と「魚民」の商標をめぐる争いが和解に至ったという報道は記憶に新しいところですが、各社ともいろいろ知恵を絞っているようです。』

そうでしたか、登録商標!そんな表現にも商標の登録がされていたのですね。宣伝文句のようにも思いますが・・・。西尾さん、いつもありがとうございます。

2005/2/28



◆ことばの話1333「博多市2」

新人のKアナと話していたときのこと。学生時代にあまり旅行など出かけなかったという彼女に対して、Sアナが、

「東北新幹線の終点はどこか知ってる?」

と聞くと、

「青森県ですよね」
「そうだよ。青森のどこ?」
「うーんと・・・弘前?」
「あちゃー・・。八戸だよ。ほら去年の12月に『はやて』って新幹線がデビューして話題になったじゃない。」
「そうでした。」
「じゃあ、山陽新幹線の九州の終点は?」
「えー・・・・・鹿児島ですか?」
「んなわけ、ないだろお!」
「あっ、博多ですか?」
「そう、博多だよ。じゃあ、博多は何市にある?」
「博多はぁ・・・・・・・博多市?」
「あのねえ、博多市という『市』はないのよ!」
「じゃあ、福岡市?」
「そう。福岡市。それじゃあ、博多駅の一つ東京寄りの駅は?」
「下関?」
「下関は山口県。九州じゃないの。九州にある駅だよ」
「あ、オグラ駅!」
「そう言うと思った。それも言うならコクラ(小倉)だよ!!」


というような会話があって、楽しく過ごした(?)翌日のことです。
長崎の駿くん殺害事件から1か月経って、子供と大人の関係について考える人達が増えているという企画を、報道のH記者が特集にまとめて8月7日の「ニューススクランブル」で放送しました。そのナレーションを私が担当したのですが、その中で博多の「祇園山笠」が出てきました。その紹介のナレーションの中に、

「福岡県博多市。」

という一文が。最初気づかずに読んでしまって、実際に録音する段になって、ハッ!と気づき、慌てて訂正しました。
なーんだ、中堅バリバリで、数々の賞を取っているH記者でも「博多市」と書いてしまうのか、じゃあ新人のKアナが「博多市」といっても仕方がないな・・・ないことないな。それとこれとは別です。「平成ことば事情856博多市」で書いたように、

「博多市というのは、ない!!」

とここで改めて強調しておきましょう。
でも、市町村合併とかで「博多市」が出来たりして・・・。

2003/8/8


◆ことばの話1332「欠航、または欠航を決めています」

やってきました、台風10号。読売テレビでも特別番組を編成しています。NHKを見ていると、もうずっと台風情報で、ここぞとばかりに全国の局をつないで情報を伝えています。
それを見ていると、少し耳に引っかかる表現がありました。それがタイトルにも書いた、交通情報で出て来る

「欠航、または欠航を決めています。」

というフレーズ。最初にこれを耳にした時には、アナウンサーがトチって言い直したのかと思いました。なんとなく耳慣れないフレーズです。

「この『欠航、または欠航を決めています』ってのは、ヘンじゃないかい?」

とアナウンス部で聞くと、Nアナウンサーが

「『最高でも金、最低でも金』みたいですね。」

と柔ちゃんの名ゼリフを持ち出しました。

「うまい!!たしかになんかヘンで引っかかるという意味で、似てるかも!」

このフレーズは、一体何がおかしいのでしょうか?
NHKのアナウンサーが言いたいことは、

(1) 既に「欠航した」便がある。
(2) これから「欠航する」事を決めた、つまり「欠航する予定」だが、まだその時刻が来ていない便がある。


ということだと思うのです。だから、わかりやすく書くと、

「『欠航した便』または『欠航を決めた便』があります。」

となるわけです。ところが、この文章だと、

「『欠航』または『欠航』を決めています」

というふうに聞こえます。聞いている方としては、

「決めたのは『欠航』やろ!2回も言わんでも、わかるわい!」

となるわけです。
要するに、「または」という接続詞が結ぶ前後の言葉が、対等の条件で結ばれていないから、こういう誤解を招くような文章になっているものと思われます。声に出して読んでみれば、おそらく、すぐに気づくのでしょうが、原稿として書いてしまうと、意外と気づかないものなんですよね。「他山の石」として、「台風特番」に生かしたいと思います。

2003/8/8

(追記)

2004年は台風の当たり年か、よく上陸します。既に4つ!(8月6日現在)。先週末に日本に上陸した台風11号関連のニュースで、NHKのテレビを見ていると、
「欠航、または欠航することを決めています。」
となっていました。後半に「すること」をくっつけただけで、随分わかりやすくなっていますね!

2004/8/9


◆ことばの話1331「色眼鏡」

8月6日、広島の平和記念式典の帰りに、東大阪市の中小企業を視察した小泉潤一郎総理大臣。スキーや水泳のゴーグルなどのスポーツ用眼鏡をかけて言った一言を、8月7日の毎日新聞がこう報じています。

「色眼鏡で見ないでネ〜首相、東大阪の企業視察」

記事本文は、

「小泉首相は実際にオレンジ色のゴーグルをかけ、レーザーが見えなくなるのを体験、『色眼鏡で、見えなくなるんだな。構造改革が進んでいないという人は変な色眼鏡をかけているのでは』と改革路線に改めて自信をみせた。」

ということで写真まで載っていますが、この「色眼鏡」という言葉、つまり「サングラス」の古い言い方ですよね。(この場合はゴーグルでしたが)これって、"死語"じゃないのかなあ。
Googleで検索してみました。(8月7日調べ)

「色眼鏡」=1万3600件
「色メガネ」=1580件
「色めがね」= 721件


で、「色眼鏡・死語」で検索すると、277件引っかかりました。サングラスは「黒眼鏡」とも言いましたね。

「黒眼鏡」=4万3900件



あ、意外と使われているなあ!「色眼鏡で見る」で引いてみると、580件ありました。
現代において「色眼鏡」は、やはり「色眼鏡で見る」という成句においてのみ使われるような気がするのですが、でもそうとも言いきれないか、サングラスじゃない、ふつうの近視用メガネでレンズに色が付いたものもあるからなあ。紫とか。
そもそも「色眼鏡で見る」ということばが580件しかないのだから、こちらの方が"死語"なのかもしれませんねえ。この言葉自体を、私が「色眼鏡で見て」いるのかもしれませんが・・・。
尚、小泉総理は翌日、甲子園で高校野球の始球式で見事な「ストライクボール」を投げてご満悦でした。政局でもストライクボールをお願いしますよ。

2003/8/7

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